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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第四章 私、昔は――

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第二十九話 忘れたくなかった私、

 ――あの日から、少しずつ。


 私は、自分を変えようとしていた。


「湊、最近ちょっと変わった?」


 公園のベンチに座りながら、凛がそう言った。


「そう?」


「うん。前より男の子っぽくなった」


 私は自分の髪を触る。


 少し前まで肩にかかるくらいだった髪は、短く切っていた。


 話し方も変えた。


 笑い方も。


 歩き方も。


 できるだけ、男の子らしく。


「だって……」


「だって?」


「……女の子みたいって言われたから」


 そう答えると、凛は少し黙った。


「それが嫌だったの?」


「嫌っていうか……」


 私は言葉を探した。


「男の子なのに女の子みたいって言われるの、なんか変かなって」


「変じゃないよ」


「でも……」


「湊は湊じゃん」


 凛は、当たり前のように言った。


「髪が長くても、短くても。喋り方がどうでも。湊は湊だよ」


「……そうかな」


「そうだよ」


 凛は笑った。


「だから、無理しなくていいと思う」


「無理なんてしてないよ」


 私は少し強めに言った。


 凛は何も言わなかった。


 ただ、私の顔をじっと見ていた。


「……なに?」


「ううん」


「絶対なんか思ってるでしょ」


「ちょっとだけ」


「言ってよ」


「湊が、自分のことを隠そうとしてるみたいに見えた」


「……」


 胸が、少しだけ痛くなった。


「隠してなんかない」


「そっか」


「うん」


「じゃあ、それでいいよ」


 凛はそれ以上何も言わなかった。


 その優しさが、少しだけ苦しかった。


     ◇


 家に帰った私は、自分の部屋に入った。


 机の上には、あの日書いた手紙が置いてある。


『忘れても大丈夫』


『いつか思い出すから』


『また会おうね』


 そして最後に。


『湊』


 私はその文字をじっと見つめた。


「……私は、私だから」


 以前、自分で書き足した言葉。


 だけど。


 本当にそうなのだろうか。


 私は今、自分がどうなりたいのか分からなかった。


 男の子らしくなりたい。


 そう思っているはずなのに。


 凛と話していると、昔の自分のほうが自然だった気がする。


 女の子同士が仲良くしているのを見るのが好きだった。


 凛と桜が楽しそうに話しているのを見るのも好きだった。


 それを眺めている時間が、私は好きだった。


「……なんでだろう」


 私は手紙をそっと閉じた。


 そして、引き出しの奥へしまった。


     ◇


 数日後。


 凛と公園で遊んでいると、郵便受けから一枚の手紙を受け取った。


 桜からだった。


『湊、凛へ』


 私は嬉しくなった。


「桜からだ!」


「本当?」


 二人で並んで手紙を読む。


 そこには、新しい学校でのこと。


 友達ができたこと。


 最近見つけた面白い場所のこと。


 そして最後に。


『また三人で遊びたいね』


 そう書かれていた。


「……うん」


 私は小さく笑った。


「また会えるよね」


「うん」


 凛も頷く。


「絶対会えるよ」


「約束だからね」


「うん。約束」


 私たちは顔を見合わせた。


 そして、二人で笑った。


     ◇


 それからしばらくして。


 私は少しずつ、昔の自分を変えていった。


 髪を短くして。


 言葉遣いを変えて。


 服装も、できるだけ男の子らしいものを選んだ。


 周りからは、


「男の子っぽくなったね」


 と言われるようになった。


 そのたびに、私は少し安心した。


 ――これでいい。


 これが、普通なんだ。


 そう思うようになった。


 でも。


 凛だけは、何も言わなかった。


 ただ時々、私を見る。


 まるで。


 何かを知っているように。


     ◇


 ある日の帰り道。


「湊」


「ん?」


「もしさ」


 凛が立ち止まった。


「いつか、今の自分が嫌になったらどうする?」


「え?」


「男の子らしくしてる自分が嫌になったら」


「……そんなことないよ」


「そっか」


「うん」


 私は笑った。


「だって、これが私だから」


 凛は少しだけ寂しそうに笑った。


「……そっか」


「なに?」


「ううん。なんでもない」


 夕方の道を、二人で歩く。


 そのときの私は。


 自分が忘れてしまうものがあるなんて、考えてもいなかった。


     ◇


 そして――。


 現在。


「……」


 私は目を開けた。


 ベッドの上だった。


 夢を見ていた。


 昔の夢。


 凛と。


 桜と。


 そして――昔の私。


「……私」


 胸の奥に、何かが引っかかっている。


 夢の中で、私は何度も言っていた。


 ――これが私だから。


 でも。


「……本当に?」


 私は自分の手を見る。


 今の私は女の子。


 昨日までなら、それを不思議に思っていた。


 だけど。


 最近は。


 この姿でいることに、少しずつ慣れてきていた。


「昔の私も……私なんだよね」


 そう呟いた瞬間。


 頭の中に、知らない記憶が一瞬だけ浮かんだ。


 誰かの声。


『湊は、ずっと湊だよ』


「……!」


 私は思わず起き上がった。


 今までより、はっきり聞こえた。


 あの声。


 あの言葉。


「……誰?」


 答えは返ってこない。


 だけど。


 私は初めて思った。


 もしかしたら。


 私が忘れているのは――。


 ただの出来事じゃない。


 **誰かとの、大切な記憶なのかもしれない。**


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