第二十四話 私、またしても謎の声
――昨日の夜。
眠る直前に聞こえた声。
『湊は、ずっと湊だよ』
あの声が、頭から離れなかった。
「……誰だったんだろう」
私はベッドの上で考える。
凛ちゃんでもない。
桜ちゃんでもない。
莉奈ちゃんでもない。
それなら。
誰?
「……分からない」
考えているうちに眠くなってきた。
私は布団をかぶる。
「明日、凛ちゃんに聞いてみよう」
そう呟いて。
目を閉じた。
◇
「おはよー、湊ちゃん!」
「おはよ、莉奈ちゃん」
次の日。
教室に入ると、いつものように莉奈ちゃんが迎えてくれた。
「今日ちょっと眠そうじゃない?」
「昨日、少し考え事してたから」
「また昔のこと?」
「うん」
「そっか」
莉奈ちゃんは私の顔をじっと見る。
「でも、無理しちゃだめだよ?」
「分かってる」
「ならよし!」
莉奈ちゃんが笑う。
その笑顔を見ていると。
昨日の夜の不安が少しだけ消えていった。
◇
昼休み。
いつもの五人でお弁当を食べていた。
「湊ちゃん、卵焼きいる?」
「また?」
「だって好きでしょ?」
「じゃあ、もらおうかな」
「はい!」
彩花ちゃんから卵焼きを受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
その様子を見ていた凛ちゃんが。
「昔も同じだった」
「え?」
「卵焼き」
「私、昔からそんなに好きだったの?」
「うん」
「……なんか恥ずかしい」
「なんで?」
「だって、何年経っても同じって」
みんなが笑う。
私もつられて笑った。
「でも」
美咲ちゃんが言う。
「そういうのって、ちょっと安心するんじゃない?」
「……」
私は美咲ちゃんを見る。
「どういうこと?」
「昔の自分と今の自分が、ちゃんとつながってるって分かるから」
「……あ」
確かに。
私は今まで。
昔の自分と今の自分が別人みたいに感じることがあった。
でも。
好きなものや。
笑うときの癖や。
こういう小さなことは。
昔から変わっていないのかもしれない。
「……そうかも」
私は卵焼きを一口食べた。
「やっぱりおいしい」
「でしょ!」
彩花ちゃんが嬉しそうに笑う。
◇
昼休みが終わる少し前。
凛ちゃんが私のところへ来た。
「湊」
「ん?」
「昨日の夜、何か思い出した?」
「……!」
私は驚いた。
「なんで分かったの?」
「顔に出てる」
「そんなに?」
「うん」
「……実は」
私は昨日聞いた声のことを話した。
「『湊は、ずっと湊だよ』っていう声が聞こえたの」
「……」
凛ちゃんの表情が変わった。
「凛ちゃん?」
「その声」
「うん」
「どんな声だった?」
「え?」
「男の人?」
「違う」
「女の人?」
「たぶん」
「年齢は?」
「分からないけど……」
私は目を閉じる。
「なんだか、すごく安心する声だった」
「……」
凛ちゃんが黙り込む。
「知ってるの?」
「……」
「凛ちゃん?」
「ううん」
凛ちゃんは首を横に振った。
「今はまだ」
「またそれ?」
「ごめん」
「……もう」
私は少しだけ頬を膨らませる。
すると凛ちゃんが。
「でも」
「ん?」
「その言葉は、たぶん大事だと思う」
「……」
「忘れないで」
そう言って、凛ちゃんは自分の席へ戻っていった。
◇
放課後。
今日は五人で一緒に帰ることになった。
「湊ちゃん、駅まで一緒に行こ!」
「うん」
みんなと歩きながら。
私は昨日のことを考えていた。
昔の記憶。
凛ちゃん。
桜ちゃん。
そして。
聞いたことのない声。
「……」
すると。
「湊ちゃん?」
「え?」
「どうしたの?」
莉奈ちゃんが私の顔を覗き込む。
「また考え事?」
「うん」
「昔のこと?」
「そう」
「そっか」
莉奈ちゃんは少し考えてから。
「じゃあ、今日は昔のこと考えるの禁止!」
「え?」
「今日は今のことだけ考えよう!」
「今のこと?」
「うん!」
莉奈ちゃんが笑う。
「例えば、今日どこで寄り道するかとか!」
「それは昔のことと関係ないね」
「でしょ?」
「ふふ」
思わず笑ってしまう。
「じゃあ、今日は何食べる?」
「やった!」
彩花ちゃんがすぐに反応する。
「何か食べるの!?」
「彩花は食べることばっかりだね」
「いいじゃん!」
みんなが笑う。
私はその光景を見ながら思った。
昔のことを考えるのも大切。
でも。
今ここにいるみんなと過ごす時間も。
同じくらい大切なのかもしれない。
◇
その日の夜。
私は机の上に置いた一枚の写真を見ていた。
昔の写真。
私と凛ちゃん。
そして桜ちゃん。
三人で笑っている。
「……私」
写真の中の自分を見る。
「このとき、何を考えてたんだろう」
写真を見つめていると。
また頭の中に、あの声が響いた。
『湊は、ずっと湊だよ』
「……」
そして。
今度は。
もう一つの声が重なった。
『だから、また会おうね』
「……!」
私は立ち上がった。
「……今の……」
思い出した。
あの日。
三人で約束した。
でも。
その約束の直後。
私は誰かに何かを言われていた。
その相手は――。
「……誰?」
そこだけが。
どうしても思い出せなかった。




