第二十三話 私、みんなとの約束
私、熱出てた。すみません。
「……それだけ?」
私はもう一度聞いた。
「また会おうっていう約束だけ?」
「……うん」
凛ちゃんはそう答えた。
でも。
やっぱり何か隠している気がする。
「凛ちゃん」
「何?」
「本当にそれだけ?」
「……」
凛ちゃんが黙る。
「やっぱり何かあるんだ」
「……ある」
「やっぱり!」
思わず声が大きくなった。
凛ちゃんは少し困ったように笑う。
「でも、今は言えない」
「なんで?」
「湊が思い出す前に私から話したら、昔の記憶に引っ張られるかもしれないから」
「……」
よく分からない。
でも。
凛ちゃんが真剣なのは分かった。
「じゃあ……」
私は少し考える。
「私が自分で思い出したら、教えてくれる?」
「うん」
「絶対?」
「絶対」
私は小指を立てた。
「じゃあ、約束ね」
「……」
凛ちゃんが少し驚いた顔をする。
「何?」
「いや」
凛ちゃんも小指を出した。
「昔も、こうやって約束したなって」
「……え?」
その瞬間。
頭の中に、また映像が浮かんだ。
夕方の公園。
小さな私。
凛ちゃん。
桜ちゃん。
三人で並んでいる。
『約束だよ』
『うん!』
『絶対また会おうね』
そして。
三人で小指を絡める。
「……あ」
私は思わず目を閉じた。
「湊?」
「今……」
「何か思い出した?」
「うん」
胸の奥が少しだけ熱くなる。
「三人で……約束してた」
「何を?」
「また会おうって」
「……」
凛ちゃんが静かに笑った。
「思い出したね」
「うん」
でも。
まだ全部じゃない。
何かが足りない。
あの日。
三人で何を話していたのか。
どうして、そんな約束をしたのか。
そして。
そのあと何があったのか。
そこだけが、どうしても思い出せない。
◇
「湊ちゃん!」
教室に戻ると、莉奈ちゃんがすぐに声をかけてきた。
「どこ行ってたの?」
「凛ちゃんと話してた」
「そっか」
莉奈ちゃんは私の顔を見る。
「……何かあった?」
「うん」
「思い出した?」
「少しだけ」
「ほんと?」
莉奈ちゃんが嬉しそうに笑う。
「よかったじゃん!」
「うん」
すると。
「何を思い出したの?」
彩花ちゃんが聞いてくる。
「昔の私と凛ちゃんと桜ちゃんのこと」
「三人で仲良かったんだ?」
「うん」
「へえー」
彩花ちゃんが興味津々になる。
「どんなことして遊んでたの?」
「それが……」
私は苦笑する。
「そこまではまだ思い出せないんだよね」
「そっか」
美咲ちゃんが頷く。
「無理に思い出そうとしないほうがいいかもね」
「私もそう思う」
結衣ちゃんも小さく頷いた。
「……でも」
私は四人を見る。
「ちょっと安心した」
「何が?」
「昔の私にも、ちゃんと友達がいたんだなって」
そう言うと。
莉奈ちゃんが少しだけ笑った。
「今もいるじゃん」
「……うん」
「私たちがいるよ」
彩花ちゃんも続ける。
「そうそう!」
「……ありがとう」
私は自然に笑っていた。
昔のことを思い出すのは、少し怖い。
でも。
今の私には、ここにいるみんながいる。
それだけで。
少しだけ前を向ける気がした。
◇
その日の帰り道。
私は莉奈ちゃんと二人で歩いていた。
「ねえ、湊ちゃん」
「ん?」
「昔のこと、思い出してるんだよね?」
「うん」
「怖くない?」
「……少しだけ」
「そっか」
莉奈ちゃんは歩く速度を私に合わせてくれる。
「でも、無理しないでね」
「うん」
「湊ちゃんは湊ちゃんだから」
「……またそれ?」
「だって、本当のことだもん」
私は笑った。
「凛ちゃんにも言われた」
「そっか」
莉奈ちゃんは少し黙る。
「じゃあ、私からも一つ」
「何?」
「昔の湊ちゃんを知らなくても」
莉奈ちゃんは私を見る。
「今の湊ちゃんのことなら、私はいっぱい知ってるよ」
「……」
その言葉に。
胸が少しだけ温かくなった。
「私も」
「ん?」
「莉奈ちゃんのこと、もっと知りたい」
「……!」
莉奈ちゃんが少し驚いた顔をする。
「じゃあ、いっぱい教えてあげる」
「うん」
私は笑った。
昔の私がどんな人だったのか。
どうして女の子になったのか。
まだ分からないことばかり。
でも。
今の私が歩いているこの道も。
きっと、いつか私の記憶になる。
そんな気がした。
そしてその夜。
眠る前に。
また一つだけ。
昔の記憶が浮かんだ。
『湊は、ずっと湊だよ』
「……誰の声?」
私は目を開けた。
今の声は。
凛ちゃんでも。
桜ちゃんでもない。
もっと別の誰か。
そして。
その言葉を聞いた瞬間。
なぜか、涙が一粒だけ頬を伝った。
「……なんで?」
私はその理由を。
まだ知らなかった。




