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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第三章 私の知らない昔の私

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第二十一話 私、思い出せない

 次の日。


 私は朝から落ち着かなかった。


 昨日、帰り道ですれ違った人。


 あの人は誰だったんだろう。


 顔を見たのは一瞬だけ。


 それなのに。


 なぜか、ずっと頭に残っている。


「……うーん」


 私は机に頬杖をついた。


「どうしたの、湊ちゃん?」


「え?」


 隣から莉奈ちゃんが顔を覗き込んでくる。


「朝からずっと難しい顔してるよ?」


「そんな顔してた?」


「してた」


「……ちょっと考え事」


「また凛ちゃん関係?」


「うん」


 正直に答えると、莉奈ちゃんは少しだけ黙った。


「そっか」


「昨日ね」


「うん」


「帰り道で、知らない人と会ったんだけど……」


「知らない人?」


「うん」


 私は昨日のことを話した。


 すれ違ったこと。


 目が合ったこと。


 その瞬間、昔の記憶が一瞬だけ浮かんだこと。


 莉奈ちゃんは黙って聞いていた。


「……それで?」


「それだけ」


「顔は?」


「よく見えなかった」


「名前は?」


「知らない」


「そっか……」


 莉奈ちゃんが少し考える。


「でも、昔の記憶が出てきたんだよね?」


「うん」


「じゃあ、その人が何か関係してるのかもね」


「やっぱりそう思う?」


「うん」


 莉奈ちゃんは笑った。


「湊ちゃんの過去を知ってる人、まだいるみたいだし」


「……」


 その言葉に、私は黙り込む。


「どうしたの?」


「なんかさ」


「うん」


「昔の私のことを知ってる人が、どんどん出てくるじゃん?」


「そうだね」


「なのに、私だけ何も知らないんだよね」


「……」


 莉奈ちゃんの表情が少し変わった。


「湊ちゃん」


「ん?」


「焦らなくていいと思うよ」


「……」


「思い出せないなら、ゆっくりでいいじゃん」


「莉奈ちゃん……」


「だって」


 莉奈ちゃんは笑った。


「今の湊ちゃんだって、ちゃんと湊ちゃんだから」


 凛ちゃんと同じ言葉。


 私は少しだけ驚いた。


「……そっか」


「うん」


 私は笑った。


「ありがとう」


 ◇


 昼休み。


 いつもの五人でお弁当を食べていると。


「そういえば」


 彩花ちゃんが突然言った。


「昨日、湊ちゃん何かあった?」


「え?」


「帰り、一人だったでしょ?」


「ああ……」


 私は少し迷った。


「実は――」


 昨日のことを話す。


 すると。


「それって、もしかして転校生?」


 彩花ちゃんが言った。


「え?」


「ほら、最近この学校に転校してきた子とか」


「……」


「いや、違うか」


「たぶん違うと思う」


 私は首を横に振る。


「制服も同じだったけど、顔は見てないから」


「そっか」


 美咲ちゃんが静かに口を開いた。


「でも、湊の記憶が反応したなら、何か関係がある可能性はあるね」


「うん」


 結衣ちゃんも頷く。


「……気になる」


「だよね」


 私は苦笑した。


「私も気になる」


 そのとき。


「湊」


 凛ちゃんが口を開いた。


「昨日の人」


「うん」


「もしかしたら、私も知ってる人かもしれない」


「え?」


 四人が一斉に凛ちゃんを見る。


「本当に?」


「うん」


 凛ちゃんは少し考えてから言った。


「でも、まだ確信はない」


「誰なの?」


「それは……」


 凛ちゃんが言葉を止める。


「もう少し待って」


「またそれ?」


「ごめん」


「……うーん」


 私は頬を膨らませる。


「凛ちゃん、秘密多すぎない?」


「そうかも」


「もうちょっと教えてよ」


「じゃあ、一つだけ」


「何?」


 凛ちゃんは私を見る。


「その子は、湊とよく一緒にいた」


「……」


「私よりも」


「え?」


 思わず聞き返す。


「凛ちゃんより?」


「うん」


「じゃあ、かなり仲良かったの?」


「そうだと思う」


「……」


 私は少し考えた。


 そんな相手がいたなんて。


 どうして忘れてしまったんだろう。


 その疑問が、また頭に浮かぶ。


 ◇


 放課後。


 私は教室を出ようとした。


「湊ちゃん!」


 莉奈ちゃんが呼ぶ。


「一緒に帰ろ!」


「あ、うん」


 彩花ちゃんたちも合流する。


「私も!」


「じゃあ、みんなで帰ろう」


「うん」


 五人で廊下を歩く。


 いつもの光景。


 いつもの帰り道。


 だけど。


 今日は少しだけ違って見えた。


 昨日すれ違った人。


 その人も、このどこかにいるのかもしれない。


「……」


 私は廊下の先を見る。


 すると。


「……あ」


 階段のところに。


 昨日の人がいた。


 今度は、ちゃんと顔が見えた。


 同じ学校の制服。


 長い髪。


 そして――


「…………」


 目が合った。


 その人は、驚いたように目を見開く。


 そして。


「……湊?」


「……え?」


 その声を聞いた瞬間。


 頭の中に、ひとつの記憶が浮かんだ。


 小さな公園。


 三人で笑っている。


 そして。


「湊、またね!」


「うん! またね!」


 昔の私の声。


 私は思わず、その人の名前を口にしようとした。


「……あ、な……」


 でも。


 名前が出てこない。


 その人は私を見つめたまま。


 小さく笑った。


「やっぱり……湊なんだ」


「……!」


 その瞬間。


 私は確信した。


 この人は。


 私のことを知っている。


 昔の私を。


 そして。


 私が忘れてしまった何かを。


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