第二十話 私、ついに出会う!?
――昨日。
凛ちゃんから聞いた話が、ずっと頭から離れなかった。
私と凛ちゃんと。
もう一人の友達。
三人で遊んでいた記憶。
そして。
「また会おうね」
その言葉。
「……誰なんだろう」
私はベッドの上で呟いた。
昔のことなのに。
どうして私は、何も覚えていないんだろう。
そもそも。
私は何を忘れているんだろう。
「……分からない」
考えても答えは出てこない。
私は諦めて、布団に潜り込んだ。
◇
「おはよー、湊ちゃん!」
「おはよ、莉奈ちゃん」
次の日。
教室に入ると、いつものように莉奈ちゃんが声をかけてきた。
「なんか眠そう?」
「え?」
「昨日ちゃんと寝た?」
「……たぶん」
「たぶんって何よ」
莉奈ちゃんが笑う。
「ちょっと考え事してただけ」
「また?」
「うん」
「凛ちゃんのこと?」
「……」
図星だった。
「やっぱり」
「なんで分かるの?」
「湊ちゃん、分かりやすいから」
「そんなことないよ」
「あるよ」
莉奈ちゃんは楽しそうに笑った。
「でも、無理に聞かないから」
「……ありがとう」
その言葉に、少しだけ安心する。
すると。
「おはよう」
後ろから声がした。
「あ、凛ちゃん」
「おはよう、湊」
「おはよ」
凛ちゃんは私の隣を通り過ぎる。
そのとき。
「……思い出した?」
「え?」
「昨日のこと」
「まだ……」
「そう」
凛ちゃんはそれだけ言って、自分の席へ向かった。
その様子を。
莉奈ちゃんがじっと見ていた。
「……」
「莉奈ちゃん?」
「ううん」
莉奈ちゃんは笑った。
「なんでもないよ」
でも。
その笑顔が、少しだけ気になった。
◇
昼休み。
いつもの五人でお弁当を食べていた。
「湊ちゃん、これ食べる?」
彩花ちゃんが卵焼きを差し出してくる。
「また卵焼き?」
「好きでしょ?」
「まあ……好きだけど」
「じゃあ、はい!」
「ありがとう」
受け取ろうとしたとき。
「……相変わらずだね」
凛ちゃんが呟いた。
「何が?」
「昔も、よくこうやって食べ物をもらってた」
「え?」
「覚えてない?」
「……うん」
凛ちゃんは少し考えるように黙った。
「そっか」
「昔の私は、どんな感じだったの?」
「今とそんなに変わらないよ」
「ほんと?」
「うん」
凛ちゃんは私を見る。
「ただ……」
「ただ?」
「昔の湊は、もう少し男の子っぽくしようとしてた」
「……」
私は箸を止めた。
「男の子っぽく?」
「そう」
「どういうこと?」
「言葉遣いとか。仕草とか」
凛ちゃんは淡々と話す。
「本当は今みたいな感じだったのに、無理して男の子らしくしてた」
「……」
私は自分の手を見る。
「じゃあ、昔から……?」
「うん」
「女の子っぽかったの?」
「そういう言い方は少し違うかも」
凛ちゃんは首を横に振った。
「ただ、湊は湊だったよ」
「……」
その言葉を聞くと。
なぜか少しだけ安心した。
「そっか」
私は小さく笑った。
「なんか……変な感じ」
「何が?」
「今の私と、昔の私がつながってるみたいで」
「つながってるよ」
凛ちゃんは即答した。
「ずっと」
「……」
私は何も言えなかった。
◇
放課後。
みんなが帰る準備をしている中。
私は凛ちゃんに声をかけた。
「凛ちゃん」
「何?」
「昨日の話なんだけど」
「うん」
「もう一人の友達って……」
凛ちゃんがこちらを見る。
「誰なの?」
「……まだ言えない」
「どうして?」
「その人に会えば、湊が思い出すかもしれないから」
「……」
「だから」
凛ちゃんは少しだけ目を伏せた。
「先に教えないほうがいいと思う」
「そっか……」
私は少し残念だった。
でも。
「じゃあ、その人は今どこにいるの?」
「この町にいる」
「え?」
思わず聞き返した。
「この町に?」
「うん」
「じゃあ……」
私は教室を見回した。
「学校にいるの?」
「それは分からない」
「そっか」
凛ちゃんは鞄を持ち上げる。
「でも、近いうちに会うと思う」
「なんで?」
「そういう気がするから」
「……凛ちゃんって、たまに意味深なこと言うよね」
「そう?」
「うん」
凛ちゃんは少しだけ笑った。
「じゃあ、ひとつだけ教える」
「何?」
「その子は、湊のことをよく知ってる」
「……」
「今の湊を見ても、きっと分かると思う」
「私だって?」
「うん」
凛ちゃんは頷いた。
「今の姿でも」
その言葉を聞いた瞬間。
なぜか胸がざわついた。
◇
帰り道。
今日はみんなと別れて、一人で歩いていた。
「……昔の私を知ってる人」
そんな人が、この町にいる。
しかも。
私が女の子になった今の姿を見ても、私だと分かるかもしれない。
「……誰なんだろう」
私は空を見上げた。
そのとき。
「……あれ?」
前から歩いてくる人影が見えた。
同じ制服。
でも。
顔はよく見えない。
すれ違う直前。
その人が、ふとこちらを見る。
「…………」
目が合った。
その瞬間。
頭の奥が、ズキッとした。
「……っ」
思わず立ち止まる。
今。
何かを思い出しかけた。
小さな公園。
夕方。
私と凛ちゃん。
そして――もう一人。
『また会おうね』
「……誰……?」
振り返る。
でも。
その人はもう、角を曲がって見えなくなっていた。
私はしばらく、その場から動けなかった。
「……今の人」
知らないはずなのに。
なぜか。
初めて会った気がしなかった。




