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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第一章 百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。

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第二話 女の子になった俺、学校へ行く。

 ――昨日まで、俺は普通の男子高校生だった。


 そして今。


「…………」


 俺は教室の自分の席に座っている。


 女子の制服を着て。


 長くなった髪を整えて。


 周囲から女子として見られながら。


「…………」


 無理。


 やっぱり無理だ。


「なんで俺、普通に教室にいるんだよ……」


「湊、朝からずっとそれ言ってるよ?」


 隣から美咲が呆れた顔で言う。


「だっておかしいだろ!」


「何が?」


「全部だよ!」


 俺は自分の姿を見る。


 昨日までスラックスだった。


 今日はスカート。


 昨日までネクタイだった。


 今日はリボン。


 昨日まで短かった髪も、今は肩にかかるくらいまで伸びている。


「俺、男子高校生だったんだぞ?」


「知ってる」


「なのに……」


「今は女子高生」


「その切り替えの早さ、どうなってんだよ!」


「だって見た目は完全に女の子だし」


「中身は俺だぞ!」


「それも知ってる」


「…………」


 なんだろう。


 美咲が一番順応してないか?


「まあまあ」


 向かいの席から彩花が会話に入ってくる。


「湊が困ってるなら、今日は私たちが色々教えるから」


「……本当に?」


「うん」


 結衣も頷く。


「学校のことなら任せて」


「お前ら……」


 少しだけ安心した。


「ありがとう」


「ただし」


 美咲が指を一本立てる。


「女子として生活してもらいます」


「…………」


「当然でしょ?」


「いや、まあ……」


 正論だった。


 今の俺がどう見えるかなんて、自分が一番分かっている。


「分かったよ……」


 そう言って、俺は机に突っ伏した。


 こうして。


 俺の「女子高校生としての学校生活」が始まった。


 ――と思った。


「湊」


「ん?」


「女子トイレ、行った?」


「…………」


 俺は固まった。


「あ、やっべぇ。どうしよ」


「普通に行けばいいじゃん」


「無茶言うな!」


「でも、男子トイレには入れないよ?」


「分かってるよ!」


 俺は頭を抱える。


 理屈では分かっている。


 今の俺は、どう見ても女子だ。


 だから女子トイレを使う。


 それだけの話だ。


 ただ。


「……精神的なハードルが高すぎる」


「大丈夫だって」


 美咲が笑う。


「私も一緒に行くから」


「いや、それは余計に緊張する!」


「なんで?」


「なんでって……!」


 美咲は本気で分からないらしい。


「じゃあ一人で行く?」


「…………」


「どうする?」


「…………一緒に来てくれ」


「はいはい」


「なんでそんなに慣れてるんだよ……」


「湊の面倒見るの、今日で何年目だと思ってるの?」


「そういう問題か?」


 結局、俺は美咲についてきてもらうことになった。


 * * *


「…………」


 女子トイレの前。


 俺は立ち止まっていた。


「湊?」


「…………」


「入らないの?」


「……今から入る」


「うん」


「…………」


 深呼吸。


 一歩。


 また一歩。


 そして。


 ガチャ。


「…………」


 普通だった。


 当たり前だけど。


 普通のトイレだった。


「…………」


 俺は少し拍子抜けした。


「どう?」


「……思ったより普通」


「でしょ?」


「でもなんかそわそわする」


「そのうち慣れるよ」


「そうかな……」


 そんなことを考えながら教室へ戻る。


 ――しかし。


 学校生活の問題は、トイレだけではなかった。


 * * *


「次、体育だよ」


 美咲の一言で。


 俺の動きが止まった。


「……体育?」


「うん」


「…………」


「どうしたの?」


「着替え」


「あ」


 美咲も気づいた。


「……更衣室」


「そう」


「…………」


 俺たちは無言になった。


「どうする?」


「知らん」


「女子更衣室しかないよ?」


「分かってる!」


「じゃあ行くしかないね」


「簡単に言うな!」


 俺は頭を抱えた。


 今日一日で、何回頭を抱えればいいんだ。


「大丈夫」


 彩花が言う。


「みんな普通に着替えてるだけだし」


「俺にとっては普通じゃないんだよ!」


「でも、今の湊は女子だから」


「その言葉、便利すぎない?」


「事実だからね」


「…………」


 反論できない。


 結局。


「……行くしかないか」


 俺は女子更衣室へ向かった。


 * * *


「…………」


 俺はできるだけロッカーだけを見ながら体育着に着替えた。


 そして鏡を見る。


「…………」


 昨日までなら、何も考えずに着替えていた。


 体育の授業なんて、ただの授業だった。


 なのに今日は違う。


 何をするにも、一つ一つ考えてしまう。


 服装も。


 周りからの視線も。


 自分の立場も。


「……俺、本当に女子になったんだな」


 ぽつりと呟く。


「湊、準備できた?」


「……できた」


「じゃあ行こ」


「おう」


「……あ」


「どうした?」


「今『おう』って言った」


「え?」


「女子っぽくない」


「そこまで気にするの!?」


 美咲が笑う。


「でも今は女子だしね?」


「美咲……!」


 * * *


 体育館へ向かう途中。


「湊」


「ん?」


「ちょっと歩くの早い」


「え?」


「ほら、こっち」


 美咲が俺の横に並ぶ。


「なんだよ」


「別に」


「?」


 そのまま体育館へ入る。


「じゃあ今日は軽く体力測定をするぞ」


 先生がそう言った瞬間。


「…………」


 嫌な予感がした。


「男女別で測定するから、女子はこっち」


「…………」


 俺は女子側へ並んだ。


 いつもなら、男子側。


 それが当たり前だった。


 なのに。


「湊、こっちだよ」


 美咲が手招きする。


「…………ああ」


 俺は女子側へ歩いた。


 たったそれだけ。


 たったそれだけなのに。


 胸の奥が、少しだけ変な感じがした。


 ――俺は、本当にこっちなんだ。


 昨日までなら、絶対に考えなかったことだった。


「どうしたの?」


 彩花が聞いてくる。


「いや……」


 俺は女子側に並ぶ自分を見る。


「……まだ違和感あるなって」


「そのうち慣れるよ」


「簡単に言うなよ」


 少しだけ受け入れてしまった自分が、もっと嫌だった。


 そして体力測定が始まった。


「次、反復横跳び!」


「はい!」


 女子側から元気な声が上がる。


「…………」


 俺も列に並ぶ。


 そして。


「湊、頑張って!」


「おう!」


「だから『おう』は女子っぽくないって!」


「そこはもういいだろ!」


 笑い声が上がる。


 俺も思わず笑った。


 気づけば。


 さっきまで感じていた緊張は、少しだけ薄れていた。


 * * *


 体育が終わり、教室へ戻る。


「……疲れた」


「お疲れ」


 美咲が水筒を渡してくる。


「ありがとう」


「どうだった?」


「何が?」


「女子側で体育するの」


「ああ……」


 俺は少し考える。


「……変な感じだった」


「うん」


「でも、思ったより普通だった」


「でしょ?」


「ただ――」


「ただ?」


「先生に『女子はこっち』って言われたときは、ちょっと変な感じだった」


「まあ、それはそうだよね」


 美咲が頷く。


「昨日まで男子だったんだから」


「そうなんだよ」


 俺は小さく息を吐く。


「俺の人生で、そんなこと言われる日が来るとは思わなかった」


「私も思わなかった」


 美咲が笑う。


「でも、ちゃんと女子として並んでたよ」


「……それが一番複雑なんだよ」


「ふふっ」


 * * *


 その後。


 教室へ戻る途中で、クラスメイトの女子が俺に声をかけてきた。


「ねえ、湊(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)」


「…………」


 俺は足を止めた。


「え?」


「どうしたの?」


「いや……」


 今、なんて言った?


「湊……ちゃん?」


「うん」


「…………」


 俺は固まった。


 今まで俺を「湊」と呼ぶ人はいても、「湊ちゃん」と呼ぶ人なんていなかった。


「どうしたの?」


 その子は不思議そうに首を傾げる。


「いや……なんでもない」


「そう? じゃあ、次の授業移動教室だよ」


「あ、ああ」


「じゃあまたあとでね、湊ちゃん」


「…………うん、あんがと」


 その子が去っていく。


「…………」


 俺はしばらく動けなかった。


「湊?」


 美咲が声をかけてくる。


「…………俺」


「うん?」


「普通に女子として認識されてる」


「今さら?」


「今さらだよ!」


 思わず声が大きくなる。


「昨日まで俺を男子だと思ってたやつらが、今日は俺を女子だと思って話しかけてくるんだぞ!?」


「まあ……そうだね」


「なんでそんな冷静なんだよ!」


「だって今の湊、本当に女の子にしか見えないし」


「…………」


 またその言葉。


 だけど。


 さっきとは少し違った。


 自分の姿を見て言われる「可愛い」ではなく。


 誰かが何の疑いもなく、俺を女子として扱った。


 それが。


 思った以上に、現実味を持って胸に残った。


「……俺、どうなっちゃうんだろうな」


 小さく呟く。


 美咲は少しだけ黙った。


「分からない」


「だよな」


「でも」


 美咲は俺の肩を軽く叩いた。


「一人じゃないから」


「…………」


「私たちがいるし」


 彩花も頷く。


「困ったことがあったら言ってね」


 結衣も続ける。


「できることなら手伝う」


「お前ら……」


 俺は少しだけ笑った。


「ありがとう」


 * * *


 そして昼休み。


「お昼どうする?」


 結衣が聞いてきた。


「いつも通りでいいだろ」


「じゃあ一緒に食べよ」


「おう」


 俺たちは四人で机を囲んだ。


 美咲。


 彩花。


 結衣。


 そして俺。


 昨日までと同じ。


 ……いや。


 同じじゃない。


「…………」


 俺が女子側に座っている。


 それだけが、どうしても不思議だった。


「湊」


「ん?」


「卵焼き食べる?」


 彩花が弁当のおかずを差し出してくる。


「いいの?」


「うん」


「じゃあもらう」


「はい」


「ありがとう」


 ぱく。


「……うまい」


「よかった」


 その隣では、美咲と結衣が楽しそうに話している。


「昨日のテレビ見た?」


「見た見た!」


「面白かったよね」


「うん」


「…………」


 俺はその光景を眺める。


 ――なんだこれ。


 俺がずっと好きだった光景そのものじゃないか。


 女子同士が楽しそうに話して。


 お弁当を食べて。


 くだらないことで笑って。


 昨日までなら。


 俺はその光景を少し離れた場所から眺めていた。


 俺はあくまで見る側。


 それが俺のポリシーだった。


 なのに。


「湊、それ食べないならちょうだい」


「え?」


 美咲が俺の弁当を覗き込む。


「いや、自分の食えよ」


「ちょっとくらいいいじゃん」


「仕方ないな……」


「やった」


「……なんだこれ」


「何が?」


「いや」


 俺は三人を見る。


 そして。


 ふと気づいた。


 今の俺は。


 その輪の中にいる。


「…………」


 なんだろう。


 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


「……楽しいかも」


「ん?」


「いや、なんでもない」


 俺は笑った。


 ――悪くない。


 * * *


 午後の授業。


 移動教室。


 休み時間。


 何度も名前を呼ばれた。


「湊ちゃん」


「湊、次移動だよ」


「一緒に行こ」


「今日の体育、大変だったね」


 そのたびに俺は戸惑った。


 でも。


 朝ほどではなくなっていた。


「湊、行くよ」


「おう」


「だから『おう』!」


「もういいだろ!」


 美咲が笑う。


 俺も笑った。


 いつの間にか。


 俺は少しずつ、この生活に慣れ始めていた。


 * * *


 そして放課後。


「終わったー!」


 美咲が机に突っ伏す。


「疲れた……」


「今日は色々あったからね」


 彩花が笑う。


「湊、今日どうだった?」


 俺は今日一日を思い返す。


 女子トイレ。


 女子更衣室。


 体育。


 女子側の授業。


 クラスメイトからの「湊ちゃん」。


 そして昼休み。


「んー……」


 俺は少し考えてから答えた。


「……疲れた」


「うん」


「めちゃくちゃ疲れた」


「うん」


「でも」


 俺は教室を見渡す。


 いつも見ていた景色。


 なのに、昨日とは少し違って見える。


「……思ったより普通だった」


「よかった」


 結衣が笑う。


「明日も学校だね」


「…………」


 俺は固まった。


「……明日も?」


「うん」


「当然でしょ」


「…………」


 そうだった。


 今日だけじゃない。


 俺はこれからも学校に通わなければならない。


「……まあ」


 俺は鞄を肩にかける。


「なんとかなるか」


「そのセリフ、朝も言ってたよ」


「気にするな」


「ふふっ」


 三人が笑う。


 俺も笑った。


 そして四人で教室を出る。


 ――昨日まで。


 俺は普通の男子高校生だった。


 でも今日。


 俺は女子として学校へ行った。


 まだ慣れない。


 分からないことも多い。


 困ることだって、これからきっと増えていく。


 だけど。


「……明日もよろしくな」


 俺がそう言うと。


「うん!」


「任せて」


「よろしく」


 三人が笑った。


 ――こうして。


 俺の奇妙な高校生活、その二日目が終わった。


 * * *


 学校からの帰り道。


 夕暮れの空を眺めながら、俺たちは駅から歩いていた。


「…………」


 俺は自分の手を見る。


 昨日までと同じようで。


 昨日までとは違う。


「……そういえば」


「何?」


 美咲が振り返る。


「俺って、これからどうなるんだ?」


「さあ?」


「さあって……」


 美咲は少し考える。


「でも」


「ん?」


「面白そうじゃん?」


「他人事すぎるだろ!」


 俺のツッコミが、夕暮れの道に響いた。


「ふふっ」


 美咲が笑う。


 彩花も。


 結衣も。


 つられて笑った。


 俺も、少しだけ笑う。


 ――このときの俺は、まだ知らなかった。


 この先。


 学校生活に慣れていくどころか。


 俺が「女子として過ごすこと」に、もっと大きな問題が待っていることを。


 そして。


 明日の朝。


 俺のもとに届く、一通のメッセージが。


 俺の高校生活を、また大きく変えることになるなんて――。

・

 このときの俺は、知る由もなかった。



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