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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第一章 百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。

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第一話 俺、女になりました。

 俺の名前は湊。一人暮らしの高校一年生。


 どこにでもいる、ごく普通の男子高校生――と言いたいところだが、見た目だけは少し普通じゃない。


 男子にしては、少し中性的な顔立ちをしていた。


 目元は柔らかく、髪も短く切りそろえるより、少し長めのほうが似合うらしい。


 そのせいで昔から、たまに女子と間違えられることがあった。


 ……まあ、それ以外は本当に普通だ。


 普通に学校へ行って。


 普通に友達と話して。


 普通に毎日を過ごしている。


 そんな俺には、誰にも言えない趣味があった。


 いや、別に悪いことをしているわけじゃない。


 ただ――。


「……百合、最高」


 俺はベッドの上でスマホを眺めながら、静かに呟いた。


 女の子同士が仲良くしている。


 それだけでいい。


 一緒に帰ったり。


 放課後に遊んだり。


 くだらないことで笑い合ったり。


 そんな何気ない日常が、俺は好きだった。


 だからといって、自分がその輪の中に入りたいわけではない。


 俺はあくまで見る側。


 尊いものを、少し離れた場所から眺めていたい。


 それが俺のポリシーだった。


 ……とはいえ。


 俺の日常は、良くも悪くも普通だった。


 朝起きて、学校へ行く。


 授業を受けて、友達と話して、家に帰る。


 別に毎日がつまらないわけじゃない。


 友達とくだらない話をするのも楽しいし、学校だって嫌いじゃない。


 でも――。


「人生、もっとファンタジーだったらなぁ……」


 ふと、そんな言葉が口からこぼれた。


 魔法が使えたり。


 不思議な力に目覚めたり。


 ある日突然、世界が自分の知らないものに変わったり。


 そんな、物語の主人公みたいな出来事。


 現実には、そんなものが起こるはずもない。


「……まあ、そんなこと起きるわけないか」


 小さく笑って、スマホを置く。


「……さて、寝るか」


 明日も学校だ。


 俺は布団に潜り込み、目を閉じた。


 ――そして。


 次に目を覚ましたとき。


「……ん」


 なんだか妙に体が軽かった。


 まだ寝ぼけた頭のまま布団から出る。


 そして何気なく、部屋にある鏡を見た。


「…………」


 そこには、知らない女の子がいた。


「…………誰だこの美少女!?」


 鏡の中の少女も、同じように目を見開いていた。


「……いや、待て待て待て」


 俺はゆっくり鏡に近づく。


 黒髪。


 整った顔立ち。


 見慣れたはずの柔らかな目元。


 昨日までの俺とは、明らかに違う姿。


 ……いや。


 正確には、まったく別人というわけでもなかった。


 どこかに面影がある。


 昨日までの自分の特徴が、確かに残っている。


 けれど。


「…………俺?」


 恐る恐る、自分の頬に触れる。


 柔らかい。


「…………え?」


 頬をつねる。


「痛っ」


 夢じゃない。


 もう一度、鏡を見る。


 やっぱり女の子だ。


 しかも、どう見ても自分とは思えないほどの美少女。


「……いやいやいやいや」


 頭が追いつかない。


 昨日まで俺は、普通の男子高校生だった。


 見た目が少し中性的なだけの、ごく普通の男子高校生。


 それなのに今は――。


「……女の子になってる?」


 声まで違う。


 高くて、聞き慣れない声だった。


 俺はその場に座り込んだ。


「…………」


 しばらく考える。


 考える。


 ……考える。


「分かるわけないだろ」


 答えなんて出なかった。


 昨日まで普通に男子だった人間が、朝起きたら女の子になっていた。


 そんな現象、聞いたこともない。


 だから俺は、もっと現実的な問題について考えることにした。


「……学校」


 今日は平日。


 つまり、学校がある。


「いや、無理だろ」


 こんな状態で、どうやって学校に行けというんだ。


 スマホを見ると、通知が来ていた。


『今日も一緒に行こー』


『寝坊すんなよ』


『駅で待ってるからね』


 女子友達からのメッセージだった。


 俺には仲のいい女子友達が三人いる。


 明るくて騒がしい幼馴染の美咲。


 落ち着いていて面倒見のいい彩花。


 そして、マイペースで少し天然な結衣。


 三人とは昔からよく一緒にいる。


 ……ちなみに男子の友達も二人いる。


 いるにはいる。


 ただ、今はそんなことどうでもいい。


「……返信、どうする?」


 俺が突然女になったなんて言っても、信じてもらえるわけがない。


 悩んだ末、とりあえずスマホを置いた。


「……学校、休むか」


 そう呟いた瞬間。


 ピンポーン。


「…………」


 嫌な予感がした。


 もう一度。


 ピンポーン。


『おーい! 起きてるー?』


 聞き慣れた声が玄関から聞こえてくる。


 美咲だ。


「…………」


 俺は天井を見上げた。


「詰んだ」


 * * *


 結局、俺は恐る恐る玄関へ向かった。


 ドアを開ける。


「おはよー!」


 そこには、いつも通りの美咲が立っていた。


「……お、おはよう」


「……?」


 美咲が俺を見る。


 そして。


 固まった。


「…………誰?」


「ですよねー」


 いや、ですよねーじゃない。


「えっと……」


「待って待って。誰? めっちゃ可愛いんだけど」


「それより先に聞いてくれ」


「うん?」


「俺だ」


「…………」


 美咲は三秒ほど黙った。


「……誰?」


「だから俺!」


「いやいやいや」


 当然の反応だった。


 俺だって信じられない。


「……湊だよ」


「…………」


 美咲の表情が固まる。


「……え?」


「湊」


「いや、名前は知ってるけど」


「俺がその湊」


「…………」


 美咲は俺の顔をじっと見つめた。


「……本当に?」


「ああ」


「なんで?」


「俺が聞きたいよ」


 美咲はしばらく黙ったあと、困ったように笑った。


「……そっか」


「信じるのか?」


「いや、全然分からない」


「だよな」


「でも……」


 美咲はもう一度、俺の顔を見る。


「言われてみると、ちょっと湊っぽいかも」


「本当か?」


「うん。顔の雰囲気とか」


「それ褒めてる?」


「褒めてる褒めてる」


「適当だな」


 美咲は笑ったあと、ふと時計を確認した。


「あ」


「どうした?」


「学校」


「……あ」


 二人同時に気づいた。


「制服がない」


「そうだった」


 昨日まで俺が着ていた男子用の制服。


 当然、今の俺の体に合うはずがない。


「女子の制服なんて持ってないし」


「そりゃそうでしょ」


「だから今日は休む」


「ダメ」


「なんで!?」


 美咲は少し考え込んだあと、俺の姿をじっと見た。


「……私の貸す」


「え?」


「制服」


「いや、美咲の?」


「そう」


「サイズ合わないだろ」


「ちょっとくらいなら大丈夫でしょ」


「適当すぎない?」


 しかし美咲は、すでに家の鍵を取り出していた。


「一回、私の家行こ」


「いや、待て待て」


「時間ないよ!」


「いや、そもそも俺は学校に行くって――」


「行くよ」


「決定してる!?」


 そして俺は、半ば強引に美咲の家へ連れて行かれることになった。


 * * *


「……これ」


 美咲から差し出された制服を、俺はじっと見つめた。


 紺色のブレザー。


 白いシャツ。


 そして、学校指定のチェック柄のスカート。


「…………」


「どうしたの?」


「いや」


 昨日まで俺は、男子用の制服を着ていた。


 シャツにネクタイ。


 スラックス。


 それが当たり前だった。


 なのに今、俺の手には女子用の制服がある。


「……本当に着るのか、これ」


「学校行くんでしょ?」


「まだ決めてない」


「行くよ」


「また決定してる!?」


 美咲は笑いながら、制服を俺に押し付けた。


「ほら、早く」


「…………」


 俺は制服を見下ろす。


 そして、小さくため息をついた。


「……人生って、何が起きるか分からないな」


「何それ」


「なんでもない」


 こうして俺は、生まれて初めて。


 女子用の制服を着ることになった。


 * * *


「…………」


 鏡の前に立つ。


 そこには。


 どう見ても女子高生にしか見えない俺がいた。


「…………」


 紺色のブレザー。


 胸元のリボン。


 そして、チェック柄のスカート。


 昨日までの俺なら、絶対に着ることがなかった服。


「……似合ってるのが、一番腹立つ」


 もともと中性的な顔立ちだったせいなのか。


 制服を着ると、まるで最初から女子だったかのように見えてしまう。


「……いや、本当に腹立つな」


 なんでこんなに自然なんだ。


 昨日まで普通に男子だっただろ、俺。


「……湊?」


 後ろから美咲の声がした。


「ん?」


「…………」


「どうした?」


 美咲はしばらく黙ったまま、俺を見ていた。


「……めっちゃ可愛い」


「言うと思った」


「なんで分かったの?」


「さっきから、そういうことしか言ってないから」


「でも本当に似合ってる」


「褒められても嬉しくない」


「なんで?」


「色々複雑なんだよ」


 俺は鏡から目を逸らした。


「……行くのか?」


「行くよ」


「やっぱり?」


「当たり前」


 こうして俺は、美咲に引っ張られるように家を出た。


 * * *


 駅に着くと、見慣れた二人がいた。


「遅いよー」


 結衣が手を振る。


「ごめんごめん!」


 美咲が手を合わせる。


 そして俺は、少し離れた場所で立ち止まった。


「……?」


 彩花が俺を見る。


「美咲、その子誰?」


「あー……」


 美咲が俺を見る。


「……友達」


「雑すぎるだろ」


 思わずツッコむと、彩花が首を傾げた。


「じゃあ、誰なの?」


「それが……説明すると長いんだよね」


「長くても説明して」


 美咲は困ったような顔をした。


 そして、俺のほうを見る。


「……自分で言う?」


「俺が?」


「うん」


「…………」


 俺は小さく息を吐いた。


「……湊だよ」


「え?」


 彩花と結衣が同時に首を傾げる。


「俺の名前」


「いや、でも……え?」


 彩花は明らかに混乱していた。


「……どういうこと?」


「そのままの意味」


「分からない」


「俺も分からないよ」


「じゃあ、なんでそんな平然としてるの?」


「もう朝からずっと混乱してる」


 結衣がじっと俺の顔を見る。


「……湊?」


「ああ」


「……でも、女の子」


「そこが俺も一番困ってる」


 彩花が俺の顔をじっと見つめる。


「……ちょっと待って」


「ん?」


「言われてみると」


 彩花は少し首を傾げた。


「……目元とか、湊っぽい」


「本当?」


「うん。でも、それだけじゃ信じられない」


「まあ、そうだよな」


 すると結衣が、俺の前まで近づいてきた。


「……湊」


「ん?」


「本当に?」


「ああ」


「……声、違う」


「そこも困ってる」


 結衣はしばらく俺を見つめたあと、小さく頷いた。


「……でも、湊っぽい」


「結衣まで?」


 美咲が笑う。


「私も最初そう思った」


「でも、なんでこんなことに?」


 彩花が聞く。


「朝起きたら、こうなってた」


「…………」


「…………」


「…………」


 三人とも黙った。


「……本当に?」


 彩花がもう一度聞いた。


「本当に」


「……意味分からない」


「俺が一番思ってる」


 結衣は少し考える。


「でも」


「ん?」


「かわいい」


「…………」


 またそれか。


「すごくかわいい」


「結衣もそう思う?」


 美咲が笑う。


「うん」


「ほら!」


「ほら、じゃない」


 彩花まで俺を見る。


「……確かに」


「彩花まで!?」


「客観的な感想」


「いらない」


 俺は深いため息をついた。


 昨日まで俺は、女子同士が「可愛い」と言い合っている光景を、遠くから眺めていた。


 そして思っていた。


 ――尊い。


 と。


 しかし。


「……なんで俺が、その中にいるんだよ」


「何か言った?」


「なんでもない」


 俺はそっと顔を逸らした。


 すると、彩花が俺の手を取った。


「今日から一緒にいようよ」


「…………」


 ――近い。


 いや、近い近い。


 これはまずい。


 俺は百合を楽しみたいのであって、百合に巻き込まれたいわけではない。


 ……いや。


 でも。


 三人と並んで歩く。


 楽しそうに話す美咲。


 それを見て笑う彩花。


 そして、のんびりと二人の会話を聞いている結衣。


 昨日までなら、俺は少し離れた場所から見ていたかもしれない光景。


 それが今は。


 俺のすぐ隣にある。


「…………」


 ちょっとだけ。


 本当にちょっとだけなら。


 この生活も――。


「悪くないかも」


「何が?」


「いや、なんでもない」


 俺は小さく笑った。


 こうして俺の、意味の分からない高校生活が始まった。


 人生がもっとファンタジーだったら。


 そんなことを考えた翌日に、本当に人生が変わってしまうなんて。


 このときの俺は、まだ知らなかった。


 そして――。


 この出来事が、俺だけじゃなく。


 美咲たちの人生まで、大きく変えていくことになるなんて。


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