第十八話 私、昔と変わらない
駅前のお店に向かって歩いていると。
「湊ちゃん、遅いよー!」
「ごめんごめん」
彩花ちゃんが手を振っている。
「凛ちゃんと何話してたの?」
「昔の話」
「また昔の話?」
「うん」
私は苦笑する。
「凛ちゃん、私の昔のことを色々知ってるみたい」
「へえ……」
彩花ちゃんが凛ちゃんを見る。
「じゃあ、湊ちゃんの秘密も知ってるの?」
「秘密?」
凛ちゃんが少し考える。
「あるかもね」
「えっ!?」
彩花ちゃんが食いつく。
「どんな秘密!?」
「それは言えない」
「なんで!?」
彩花ちゃんが不満そうにする。
みんなが笑った。
「凛ちゃんって、ほんと秘密多いね」
私が言うと。
「そうかな」
「そうだよ」
「じゃあ、いつか教える」
「いつかっていつ?」
「そのうち」
「またそれ……」
私はため息をついた。
◇
お店に着いてから。
みんなで商品を見て回る。
「湊ちゃん、これ可愛くない?」
「可愛いね」
「でしょ!」
彩花ちゃんが嬉しそうに笑う。
結衣ちゃんも隣で商品を見ている。
「……こっちも可愛い」
「ほんとだ」
「湊ちゃんはどっちが好き?」
「うーん……」
私は二つの商品を見比べる。
「こっちかな」
「じゃあ私も!」
「なんで?」
「湊ちゃんと同じのがいい!」
「……ふふ」
思わず笑ってしまう。
その様子を少し離れたところから見ていた凛ちゃんが。
「……昔と同じだ」
「え?」
私は振り返る。
「何が?」
「昔もそうだった」
「どういうこと?」
「友達が何か選んでると、自分も一緒になって選んでた」
「……私ってそんな感じだったんだ」
「うん」
私は少し考える。
「なんか……」
「何?」
「昔の私と今の私って、思ってたより似てるのかも」
「そうだよ」
凛ちゃんはすぐに答えた。
「だから、私は安心した」
「安心?」
「うん」
その言葉が少し気になった。
「どうして?」
「……湊が湊のままだったから」
「…………」
私は何も言えなかった。
すると。
「湊ちゃん!」
莉奈ちゃんが呼ぶ。
「こっち来て!」
「あ、うん!」
私はみんなのところへ向かう。
でも。
凛ちゃんの言葉が頭から離れなかった。
◇
帰り道。
「今日は楽しかったね!」
「うん」
彩花ちゃんが楽しそうに話している。
私はみんなの話を聞きながら歩く。
すると。
莉奈ちゃんが私の隣に並んだ。
「ねえ、湊ちゃん」
「ん?」
「凛ちゃんのこと、気になる?」
「……うん」
「そっか」
莉奈ちゃんは前を見る。
「昔の友達なんだもんね」
「うん」
「じゃあ、もっと話してみればいいと思う」
「……莉奈ちゃん?」
「何?」
「なんか今日、優しくない?」
「いつも優しいよ?」
「そうだっけ?」
「ひどい!」
莉奈ちゃんが頬を膨らませる。
私は笑ってしまう。
「ごめんごめん」
「もう」
莉奈ちゃんも笑った。
でも。
そのあと少しだけ黙って。
「……湊ちゃんが困ってたら、私が助けるから」
「え?」
「なんでもない!」
「いや、今の気になるんだけど」
「秘密!」
「莉奈ちゃんまで!?」
みんなが笑う。
私は少しだけ困りながらも。
なんだか嬉しかった。
◇
その日の夜。
私はベッドの上で、今日のことを思い出していた。
凛ちゃん。
莉奈ちゃん。
彩花ちゃん。
美咲ちゃん。
結衣ちゃん。
たくさんの人が、私のことを知っている。
でも。
私自身が知らない私がいる。
「……昔の私」
私は目を閉じる。
何かを思い出せそうな気がする。
小さな教室。
夕方の校庭。
誰かと一緒に笑っている。
「…………」
でも。
そこから先が思い出せない。
私は目を開ける。
「……何だったんだろう」
そのとき。
頭の中に、ほんの一瞬だけ。
誰かの声が浮かんだ。
『また会おうね』
「……え?」
私は起き上がる。
今の声。
誰?
凛ちゃん?
それとも――。
「…………」
胸が少しだけざわつく。
でも。
思い出せない。
私はもう一度、目を閉じる。
「……また会おう」
小さく呟く。
その言葉が。
なぜか、とても懐かしく感じた。




