第十五話 私、昔会ったことがある?
「……知ってる」
凛ちゃんの言葉が、頭の中に残っていた。
「どうして……?」
私は思わず聞き返す。
「私のこと、どこで知ったの?」
「……昔」
「昔?」
私は首を傾げる。
「私たち、前に会ったことある?」
「あるよ」
「……え?」
そんな記憶はない。
私は凛ちゃんの顔をじっと見る。
やっぱり、見覚えがない。
「いつ?」
「小学生のころ」
「小学生……」
記憶を探してみる。
友達。
学校。
遊んだこと。
いろいろと思い出してみるけど。
「……ごめん。思い出せない」
「そうだと思った」
凛ちゃんは少し寂しそうに笑った。
「え?」
「湊は昔から、そうだったから」
「私が?」
「うん」
凛ちゃんが私を見る。
「自分のことより、周りのことばかり気にしてた」
「……そうかな?」
「そうだよ」
即答だった。
「だから、私のことも覚えてないと思ってた」
「……」
なんだか申し訳なくなる。
「ごめん」
「謝らなくていい」
凛ちゃんは首を横に振る。
「それより」
「うん?」
「今の湊を見て、ちょっと驚いた」
「……やっぱり?」
「うん」
凛ちゃんは私の髪を見る。
それから制服を見る。
「本当に女の子になったんだね」
「…………」
改めて言われると、やっぱり変な感じがする。
「私もまだ慣れてないけどね」
「そうは見えないけど」
「え?」
「すごく自然だから」
「……そう?」
「うん」
凛ちゃんは少し考える。
「むしろ、昔より自然かもしれない」
「昔より?」
「昔の湊は、もっと無理してたから」
「…………」
その言葉に、私は黙ってしまった。
昔の私。
男だったころの私。
私は自分では普通に過ごしていたつもりだった。
でも。
凛ちゃんから見ると、違ったのだろうか。
「……ねえ、凛ちゃん」
「何?」
「私が女の子になったことについて、何か知ってるの?」
「……少しだけ」
「少しだけ?」
「全部は知らない」
凛ちゃんはそう言ってから、私を見る。
「でも、湊が昔から普通じゃなかったことは知ってる」
「普通じゃなかった?」
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ、どういう意味?」
「……それはまだ言えない」
「えー……」
私は思わず頬を膨らませる。
「気になるんだけど」
「そのうち分かる」
「そのうちっていつ?」
「まだ秘密」
「また秘密……」
私はため息をつく。
すると。
「湊ちゃん?」
後ろから声がした。
「……!」
振り返る。
そこには莉奈ちゃんたち四人が立っていた。
「何話してるの?」
莉奈ちゃんが聞く。
「えっと……」
私は凛ちゃんを見る。
凛ちゃんは何も言わない。
「昔の話をしてた」
「昔?」
「うん」
莉奈ちゃんが少しだけ凛ちゃんを見る。
「湊ちゃんと知り合いだったの?」
「昔、少し」
「へえ……」
莉奈ちゃんの表情が少し変わった。
彩花ちゃんも興味津々で近づいてくる。
「じゃあ、湊ちゃんの昔を知ってるってこと?」
「……まあ」
「どんな子だったの?」
「ちょっと待って」
私は慌てて止める。
「私の昔の話はいいから!」
「えー、聞きたい!」
「だめ!」
思わず大きな声が出る。
四人が笑った。
「湊ちゃん、顔赤いよ?」
「もう……」
私は恥ずかしくなって顔を逸らす。
すると。
「……変わらないね」
凛ちゃんが小さく呟いた。
「え?」
「なんでもない」
凛ちゃんは鞄を持つ。
「今日は帰る」
「あ、うん」
「また明日」
凛ちゃんはそう言って、教室を出ていった。
「…………」
私はその背中を見つめる。
昔の私を知っている。
私が女の子になった理由も、何か知っている。
でも。
まだ教えてくれない。
「……気になる」
「湊ちゃん?」
「ん?」
莉奈ちゃんが私を見る。
「帰ろ?」
「あ、うん!」
私は四人と一緒に教室を出る。
いつもの五人。
いつもの帰り道。
でも。
今日からは。
もう一人。
私の知らない過去を知っている女の子がいる。
「…………」
私は少しだけ後ろを振り返る。
誰もいない廊下。
凛ちゃんの姿は、もう見えなかった。
――私はまだ知らない。
あの子が私の過去を知っている理由を。
そして。
私が女の子になったことと、凛ちゃんとの過去が。
どう繋がっているのかも。




