第十三話 私、やっぱり百合の中にいる?
昨日の帰り道。
私はずっと考えていた。
――百合。
私が昔から好きだったもの。
女の子同士が仲良くしていて。
一緒に笑って。
お互いを大切にしている。
そんな関係を見るのが好きだった。
そして今。
私は女の子になって。
女の子たちと一緒にいる。
「…………」
ベッドの上で、私は天井を見つめる。
「やっぱり、似てるよね……」
そう呟いてから、首を横に振った。
「いやいや」
友達と一緒にいるだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「考えすぎだよね」
私はそう言って、目を閉じた。
◇
次の日の朝。
「おはよー、湊ちゃん!」
「おはよ、莉奈ちゃん」
「今日も眠そうだね」
「昨日ちょっと考え事してて」
「何考えてたの?」
「……秘密」
「えー、教えてよ」
「だめ」
私は笑いながら席に座る。
今日は普通にしよう。
そう決めていた。
昨日みたいに、みんなとの距離をいちいち意識しない。
ただの友達。
それでいい。
「湊ちゃん」
「ん?」
「髪、またちょっと跳ねてる」
莉奈ちゃんが私の髪を直してくれる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「…………」
私は固まった。
……いきなりこれか。
「どうしたの?」
「なんでもない!」
私は慌てて前を向いた。
普通に。
普通にしよう。
◇
昼休み。
「湊ちゃん、こっち!」
彩花ちゃんが手招きする。
「はいはい」
私はいつもの席に座った。
すると。
「今日、湊ちゃんのお弁当のおかず何?」
「え?」
「見せて!」
「別にいいけど」
彩花ちゃんが私のお弁当を覗き込む。
「おいしそう!」
「そう?」
「うん!」
その横から結衣ちゃんも覗き込む。
「……卵焼き、おいしそう」
「食べる?」
「……いいの?」
「一個なら」
「ありがとう」
結衣ちゃんが嬉しそうに笑う。
それを見ていた美咲ちゃんが、
「湊は人に食べさせるの好きなの?」
「え?」
「昨日も彩花におかずをあげてたから」
「あれは……」
私は少し考える。
「普通じゃない?」
「そう?」
「うん」
私は頷いた。
すると莉奈ちゃんが笑う。
「湊ちゃんって、意外と優しいよね」
「意外って何?」
「ふふっ」
私は少しだけむっとする。
でも。
みんなが笑っているのを見ると、自然と私も笑ってしまう。
「……やっぱり楽しいな」
「何が?」
「こうやってみんなでいるの」
そう言うと。
四人が一瞬だけ黙った。
「……うん」
莉奈ちゃんが笑った。
「私も」
「私もだよ!」
彩花ちゃんがすぐに続く。
「……私も」
「私も……」
美咲ちゃんと結衣ちゃんも頷いた。
私は少し照れながら笑う。
「じゃあ、これからもみんなでお昼食べようね」
「もちろん!」
彩花ちゃんが元気よく答えた。
◇
放課後。
「湊ちゃん、今日一緒に帰ろ!」
莉奈ちゃんが言った。
「うん」
教室を出る。
すると。
「私も一緒!」
彩花ちゃんがやってきた。
「……私も」
美咲ちゃん。
「私も……」
結衣ちゃん。
「また五人だね」
私は笑った。
みんなで歩く。
いつもの帰り道。
いつもの五人。
――なのに。
今日は少し違った。
「湊ちゃん」
莉奈ちゃんが私の隣に並ぶ。
「ん?」
「今日、手冷たくない?」
「そうかな?」
「ちょっと貸して」
「え?」
莉奈ちゃんが私の手を取る。
「ほんとだ。冷たい」
「……莉奈ちゃんの手、あったかいね」
「じゃあ、温めてあげる」
「え?」
莉奈ちゃんが私の手を軽く握ったまま歩き始める。
「ちょ、ちょっと……」
「何?」
「いや……」
私は言葉に詰まる。
――手をつなぐ。
昔、私が好きだった百合にも。
こういう場面はあった。
女の子同士が手をつないで。
恥ずかしそうにしながら歩く。
私はそれを見て、
――いいなあ。
なんて思っていた。
でも。
今は。
「…………」
実際に自分がやっている。
「湊ちゃん?」
「な、何?」
「顔赤いよ?」
「……ちょっと暑いだけ」
「今日そんなに暑くないよ?」
「……もう」
私は顔を逸らした。
その様子を見ていた彩花ちゃんが笑う。
「湊ちゃん、かわいい!」
「彩花ちゃんまで……」
「だって本当にかわいいんだもん」
「…………」
私は何も言えなくなった。
そして。
少しだけ前を向く。
莉奈ちゃんの手はまだ私の手を握っている。
その感覚を意識してしまう。
胸の奥が、少しだけ落ち着かない。
でも。
嫌じゃない。
「…………」
私は自分の手を見る。
そして、ふと思った。
――私。
本当に、百合の中にいるのかもしれない。
「……莉奈ちゃん」
「ん?」
「もう少し、このままでいいよ」
「……うん!」
莉奈ちゃんが嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て。
私はまた少しだけ顔が熱くなった。




