第十二話 私、ちょっと意識しすぎ?
――昨日から。
どうも、調子がおかしい。
「おはよー、湊ちゃん!」
「お、おはよ……莉奈ちゃん」
「……?」
莉奈ちゃんが首を傾げる。
「どうしたの?」
「え?」
「なんか、いつもと違わない?」
「そ、そう?」
「うん」
莉奈ちゃんが私の顔をじっと見る。
「……もしかして寝不足?」
「違うよ!」
私は慌てて否定した。
違う。
寝不足じゃない。
昨日から、ちょっとだけ。
みんなのことを意識してしまっているだけだ。
――百合。
昨日までなら、何も考えずにみんなと一緒にいられた。
でも。
「私が好きだったものと似ている」と気づいてしまったせいで。
今まで普通だったことが、少しだけ特別に見えてしまう。
「湊ちゃん?」
「な、何?」
「顔赤いよ?」
「暑いだけ!」
「今日そんな暑くないけど」
「……気のせい!」
私は慌てて自分の席に座った。
そして、顔を伏せる。
……まずい。
これじゃあ意識しすぎてる。
◇
休み時間。
「湊ちゃん」
「ん?」
美咲ちゃんが私の机の横に来た。
「次の授業、移動教室だから」
「あ、そうだった」
「一緒に行く?」
「うん」
私は立ち上がる。
いつものこと。
ただ、それだけなのに。
――一緒に行く。
その言葉を、妙に意識してしまった。
「……」
「湊?」
「え?」
「行かないの?」
「行く行く!」
私は慌てて美咲ちゃんの隣に並んだ。
廊下を歩いていると。
「湊ちゃん!」
後ろから声がする。
振り返ると、彩花ちゃんと結衣ちゃんが走ってきた。
「私たちも一緒に行く!」
「うん」
気づけば、四人で歩いていた。
いつもの光景。
なのに。
「…………」
私は少しだけ考えてしまう。
これって。
私が昔好きだった百合漫画にも、こんな場面があったような……。
「湊ちゃん?」
「え?」
「さっきからぼーっとしてるよ?」
彩花ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「な、なんでもない!」
「ほんと?」
「ほんと!」
私は視線を逸らす。
……意識しすぎだ。
◇
放課後。
「湊ちゃん、一緒に帰ろ!」
莉奈ちゃんが言った。
「うん」
いつものように返事をする。
教室を出ると、彩花ちゃんが私の隣に並んだ。
「今日は駅まで一緒ね!」
「うん」
その反対側には美咲ちゃん。
少し後ろには結衣ちゃん。
四人に囲まれて歩く。
「…………」
私は歩きながら考えていた。
前の私は。
こういう光景を見る側だった。
漫画やアニメで。
女の子同士が仲良くしているところを見て。
「いいなあ」
なんて思っていた。
でも。
今の私は。
「……私も、その中にいるんだよね」
「うん」
莉奈ちゃんが答えた。
「……また聞こえてた?」
「聞こえたよ」
「そっか……」
私は苦笑する。
すると、莉奈ちゃんが私の顔を覗き込んだ。
「何か気になる?」
「え?」
「昨日からずっと考えてるでしょ」
「…………」
やっぱり。
莉奈ちゃんには隠せない。
「ちょっとだけ」
「何を?」
「……百合のこと」
「百合?」
「うん」
私は少し迷ってから答えた。
「昨日、みんなと一緒にいて思ったんだけど」
「うん」
「私が昔好きだった百合って、こういう感じなのかなって」
莉奈ちゃんは少し黙った。
「……そうかもね」
「やっぱり?」
「うん」
莉奈ちゃんが笑う。
「でも」
「?」
「湊ちゃんが楽しそうなら、それでいいんじゃない?」
「……」
私はその言葉を聞いて、少しだけ笑った。
「そうだね」
確かに。
難しく考える必要なんてない。
私は今。
みんなと一緒にいる。
それが楽しい。
それで十分なのかもしれない。
――そう思った。
けれど。
「湊ちゃん」
「ん?」
莉奈ちゃんが私の袖を軽くつまんだ。
「今日、私の隣で帰らない?」
「……え?」
「だめ?」
「いや……」
私は少しだけ迷って。
「いいよ」
そう答えた。
「ほんと?」
「うん」
莉奈ちゃんが嬉しそうに笑う。
私はその笑顔を見ながら歩く。
そして。
また少しだけ考えてしまった。
――こういうのも。
私が好きだった「百合」の一場面なのかな。
「…………」
私は自分の頬を軽く触った。
なんだか。
今日はやけに恥ずかしい。
「湊ちゃん、顔赤いよ?」
「……暑いだけ」
「ふふっ」
「笑わないでよ……」
私はそう言いながら。
莉奈ちゃんの隣を歩き続けた。




