第31話 教えて?フェルナン先生!フレン先生!
翌朝。
今日は宣言通りフレン、そしてカミラさんでもヴィーナさんでもなくフェルナンさんが来てくれた。
「特訓!いいですね!事情はフレンさんから聞きました!お付き合いしますとも!」
「よろしくお願いしますフェルナンさん」
「お願いいたしますわ!」
フェルナンさんもヴィーナさんと同じ水龍族。そして同じく水の魔法の達人だ。朝から紳士が着るような服をビシッと決めている。カミラさんとセバスさんもいつも通りの格好だ。僕は短パンにシャツとかなりラフな格好だけどどうせびしょびしょのドロドロになるからこれが一番合理的なのだ。
「とりあえずラウラさんの全力を受け止めればいいんですよね!」
フェルナンさんが意気揚々と両拳を胸の前で握る。そこもヴィーナさんから聞いていたか。ヴィーナさんができていたからきっとフェルナンさんも同じことができるのだろう。ノリもいいし親切だし実力もすごいし頼り甲斐のあるお兄さんだ。
水色の髪の毛と長い鱗が特徴のフェルナンさんは一見爽やかでクールな雰囲気があるが話し始めると割と情熱派なのだ。
「そうなんですけど、ちょっと試してみたいことがありまして。フェルナンさんプレンツに大きめの水球を出してみてくれませんか?」
「プレンツ君に僕がですか?」
「はい!お願いできますか」
「ええもちろん!」
フレンに言われるがまま距離をとった。何が目的だろうか。
「では行きますよ!準備はいいですかプレンツくん!」
なんだかよくわからないけどラウラさんのようにコントロールできないフェルナンドさんではない。とりあえずフレンの言う通りやってみよう。
「はい!お願いします!」
「では!はい!」
伸ばした右手から1mほどの水球を放ったフェルナンさん。遅くもなく早すぎることもない速度だ。
ラウラさんの魔法を見慣れていたから止まってすら見える。知らぬ間に動体視力の能力が上がっていた。
こちらも手を伸ばし魔法を放つ。水球はただの水と化して地面に音を立てながら落ちていった。うん。まぁいつも通りの劇場での火消しと同じって感じだ。
「ありがとう!じゃ今度はフェルナンさんは今のをもう一度。プレンツはさっきの水球の大きさの半分だけをど真ん中に当ててみてくれないか?」
「半分の大きさで真ん中のみ?』
「ああ!」
となると水球の中心だけを消すことになるけど。とりあえず言われた通りやってみるか。
「では。はい!」
先程と同じシュチエーション。フレンの思惑通りやればただの水になるのは中心部のみ。
真ん中のみを的にして、あれの半分だけを目掛けて……。えい!
僕の魔法は水球のど真ん中に当たった。すると僕の力が当たった中心部と当てていない下部を巻き込みながら地面へ流れ落ちた。地面へと落ちなかった上部はそのままぼくの方へと飛んできたが左へジャンプして避けた。
「俺が何を言いたいかわかるか?」
「……真ん中に当てた魔法だけで下の方も落ちた?」
「そう!正確には真ん中のみがただの水となって地面へと落ちる。だけどその落ちる水によって下部のまだ魔法が干渉している水も落ちていったんだ」
確かにそんな感じだったな。僕まで届いたのは真ん中と下部が無い状態の水球だったもの。下半分が食べられたドーナッツのような形状のみだ。
「もうわかったか?つまり!見える範囲全てにお前の魔法を当てなくても魔法は力を奪えるということだ」
「そういうことですか。舞台やここでの練習では今まで全ての面に対してプレンツ様は魔法を放っていました。が、水魔法の場合では威力とスピードに依存しますが大体半分ほど、上部半分のみを当てれば威力は殺せるだろうということですね」
僕らの様子を見学していたセバスチャンさんが腕を組みながらまとめてくれた。
「セバスチャンさん説明ありがとうぞざいます!そういうことです。舞台ではお客さんを守るために危ないのは全部当てにいってたのはもちろん正解だ。ガルニエが壊れたりお客さんが怪我しちゃうのはまずい!だから舞台上は今のままで全然OK!」
「「ふむふむ」」
僕とラウラさんが頷く。
「だけど今みたいにとりあえずプレンツ自身とか何かから守る時は魔法が届かなくなればいいだけだから無駄に力を使わずに温存できるってわけだ」
「なるほどね。でも僕の特訓は魔力量アップも兼ねてるから全力でやってた方がいいんじゃないの?」
「もちろん全力で練習し続けられるのであればそれに越したことはない。けどなプレンツ。団長はかなり現実離れしたことをいってるのに気がつかないか?」
「まあ……無理があるとは思ってたよ」
「いいか?団長は多分わざとだ。ラウラさんの訓練も兼ねてプレンツもレベルアップなんてどう考えたってプレンツの分が悪すぎる。もう思い知っているだろうけど化け物だろ?」
「うん。化け物」
「誰が化け物ですの?」
「コントロールができてないラウラさんの魔法を10秒上手くいくかいかないかのお前の魔法で何とかできるわけないだろ?」
「うん。おっしゃる通り」
悔しいけれど現実問題その通りだ。
「そりゃいつかはできるようになるだろうけど、そんな気の長い話を団長はしたわけじゃないと思う」
「つまり団長が言いたかったのは頭を使えってこと?」
「そういうことだ。プレンツはさっき全力でやることに意味があると言ったけど、間違いではない。けど、人間いつも準備万全かといったらそんなことはない。食いすぎて腹が痛くなる時もあれば風邪をひいたりもする。そういうときも馬鹿正直に全力でやるか?プレンツは真面目だからそうかもしれないけど、必要最低限でサボりたくなるだろ?これは悪いことじゃない。持久戦が必要なときに全力5分でへばるやつとサボって省エネで動いて1時間持つならサボってた方がいい時だってある。そしてプレンツに求められてるのはどちらかというと持久戦だ」
なるほど、考えてみれば突発的な魔法には十分反応ができているし、舞台の火消しも瞬発力が求められていた。そしてこっちは既にそれなりならこなせている。
「フレンはよく見ていますね!今は水の魔法ですからプレンツの魔法が当たればその部分のみが地面に落ちていく。そして当たる場所によってはプレンツくんの魔法を当てていない場所も同じ結果となる。しかし他の魔法では結果は変わってきます。魔法の性質を見極めながらどれだけ魔法を放つかを今度は考えてやってみましょう!」
ぽん、と拳を手のひらに落としながらフェルナンさんがまとめた。
「なんだかわからないですけど、とりあえず全部叩き込んでやった方が早いのではなくって?」
「それは脳筋ゴリラお嬢様にしかできない芸当でございます」
「おい。誰が脳筋ゴリラですこと!?」
ラウラさんのあの威力では上部半分を消したところできっと下部の水流は止められないだろう。でも、それだけの魔力でいくらか威力を殺せたら命の危険はなくなるだろう。
「プレンツはコントロールはもう既にバッチリなんだから今度は目と頭を鍛えていこうぜってことで。フェルナンさん!ラウラさんの全力に付き合ってください!」
* * * * * * *
「はあ。はあ。出し切りましたわ〜」
例によってラウラさんの全力水噴射を上空に溜め込んだフェルナンさん。
そしてその様子を見ていて恐ろしいことに気がついてしまった。
「……以前よりも全力の放出時間が長くなってませんか?」
「んあ?全力を出すって慣れていなかったから体がちょっとずつ慣れてきているのかもしれませんわ〜……」
お、恐ろしい。まだまだ伸びしろがあるということか。コントロールの伸びしろはあると思っていたけど、絞り出し切る方への伸びしろまであったとは。
ポテンシャルの塊みたいな人だ。まだまだ秘めたパワーがこの人に。やはり化け物だ。
「あははははは!プレンツあんなの絶対無理だぞ!マジで死んじゃうって!」
フェルナンさんがヴィーナさんが開けた亀裂に上空で貯めた水を流し込んでいく。
「団長もなかなか無理難題をいいますね」
「あのひと、自分ができることはみんなもできると思ってるから。そのいつかっていつの話って感じですよ」
同じようなことをナレアさんも言っていたな。
「じゃ息も整いましたし行きますわよプレンツ!」
息が整うのも早くなっている。ほんとすごいなこの人。
ラウラさんが僕に水魔法を放つ。
最初こそ10mほどの直径だったが時折5mほどになる。ラウラさんもこれでいてコントロールが上手くなってきている。これでいて。
まずは様子を見るため上部半分のみに魔法を当てた。意外にも下部の勢いはかなり減ったがまた流されてしまった。
やはり水量とスピードがとんでもない。本当に抑えようとしているのかと思ってしまうほどに。
ラウラさんのことだから全力で抑えようとしてるんだろうけど、全力を出した後に控えめにやって10mの水鉄砲が出せるんだから。実は底なし魔力なのではないか。でもこのぐらいなら流されるだけだ。命の危険はない。今度はもう少し当てる面積を増やしてみよう。
こうして特訓をする日々がまた始まった。最初こそ僕も?もラウラさんもめぼしい結果はなかった。が、日を追うごとにラウラさんはコントロールができる時間が増えていき、僕はその威力の殺し方を身体に刻み始めていた。
* * * * * * *
時は流れてこの街を離れる日が来た。またガルニエは首都へと戻る。あちらでは練習スペースがここのようにないため本格的な練習は今日までだ。
僕というよりもラウラさんの全力が出せるか否かだ。お互いまだまだではあるけどそれなりに成長してきていた。
その日の朝。この街での最後の特訓だ。ラウラさん達の他にフレンとフェルナンさんも来てくれた。またラウラさんの水鉄砲が乱れた。僕は魔法を放つも勢いを殺しきれなかった。また水流に飲み込まれて流される!
と思ったがその場で耐えることができた。
あれ?
あまり身体も濡れていないような気がする。水に流されまいと全身に力を入れた。
僕はそのとき何かしただろうか?
「大丈夫かプレンツ!?」
すかさず駆け寄ってくるフレン。
「あ、ああ。大丈夫大丈夫」
「今回は踏ん張りが聞いてたみたいだな!筋トレの成果ありって感じだな!」
筋トレ、筋肉がついてきたから耐えられたのだろうか。
「うん。なんとか水の勢いに勝ったよ」
「ごめんなさいプレンツ〜!怪我がなくて何よりですわ〜!」
「大丈夫ですよラウラさん。この通りピンピンしてます」
まぁ、無事だったからいいか。さっきの感覚、これまでも何度かあった気がするけど———
* * * * * * *
水流に吹き飛ばされることなくその場で耐えたプレンツの様子を観察していた紳士。その奇妙さをセバスチャンは感じていた。
先程のプレンツ様のご様子。これまで拝見してきた中で比較すると違和感がある。プレンツ様の持つ力は魔法を消すもの。
しかし先程のは全くの別物だったのでは?
先程のは魔法を消すと表すよりも———
* * * * * * *
「今日はここまでにしよう。この街とも今日でさよならだからな」
「そうですわね。もう一ヶ月も経ってしまったんですのね」
「あっという間ですね。そういえばグランさん達がお見送りに来てくれるって言ってました」
「あらあら。もう会えないのは寂しいですわね」
「早く着替えて準備しようぜ」
「うん!」
「ですわね!」




