第28話 うちに入ったからには
花を摘むのも心が痛むと言いそうなヴィーナさんが地割れを起こさせるほどの威力を出せるとは。
少し時間が経ってから考えたがやはり恐ろしすぎる。
そう考えるとラウラさんなんてただのダム湖放水。かわいいものだ。
ヴィーナさんは僕たちの頭上で貯めていた水量であの噴射を起こせるのだろう。怖すぎる。地面を割るどころかこの世に破壊できないものはきっとないだろう。あの技なんて言うんだろうか。ひとまずスプラッシュステップとでも呼ぼう。我ながら酷いネーミングセンスだが分かれば良いのだ。
「では今度はプレンツくんの番です!プレンツくんの正確さにはいつも惚れ惚れしています!あの調子で頑張ってくださいね!」
「はい!がんばります!」
思わず敬礼してしまった。
よーし、さっきまでビクビクしていたけどなんだか気分が上がってきたぞ!
綺麗な顔をした恐ろしい何かに見えてきたけどやっぱり天使だろう。意気揚々と死地へと向かう。
とはいえ!僕もラウラさんも成長途中で伸びしろがまだまだある。そう簡単にやられないぞ!
* * * * * * *
朝は特訓を行い、午後には公演を行う。公演だけでも結構疲れるから割としんどい。
あれからラウラさんの魔法を打ち消した。
最初こそラウラさんのコントロールがうまくいっていたが、威力にムラが出始めて何発か全力の水量を食らった。絶対的に足りないのが僕の力だ。
ラウラさんは一息に10分間くらいで半減していくけど魔法を出し続けられている。
対して僕は5秒でムラが出てくる。団長やヴィーナさん達曰く、やはり僕は魔法を出し続けることに慣れていないだけで魔力の量はそれなりにあるはずとのこと。
まずは安定して同じ出力で魔法を出し続けること。そして基本的な魔力量アップ。これが課題だ。
道のりはシンプルな一本道ではあるけど、なかなか険しい。こればかりはやり続けていくしか上達の道はない。
「大丈夫かプレンツ。頭がカクカクしてるぞ」
食堂で夕食を食べていた。意識せずに眠っていたところをフレンに気付かれた。
「ちょっと眠くてね。ごちそうさまでした。お風呂は朝入ったからもう寝るよ。おやすみ〜」
「あ、ああ。おやすみ」
「随分眠そうにしてたな。あの特訓か!ニニギ師匠との稽古中に見たぜ!頑張ってるみたいだな!」
「ああ」
「疲れがたたってるって感じでもないし見守っておこうぜ」
「ティラクの言う通りかもな。そうしよう」
* * * * * * *
翌朝10時。
ベッドになんとか向かったのは覚えているけど気を失ったように寝ていた。
今日は舞台はお休みだ。だからいっぱい特訓できるぞ。それになんだかとても頭がスッキリしている。気分もいい。ずいぶん太陽が高いな。
さてラウラさんのところに行くかな。
ん?今どうやって起きた?
目覚まし時計じゃないな。フレンもいない。目覚まし時計を見ると10時となっていた。
ん?10時?10時って何時だっけ。
「ってめっちゃ寝坊じゃん!」
大失態を叫んだところでドアが開いた。
「おはよう。ぐっすり眠れたようだな!」
「まずい寝坊いちゃったよ!ラウラさん達もう帰っちゃったかな!」
「落ち着けズボンを腕に通してどうするつもりだ」
「おっと」
「大丈夫だ。ラウラさん達には昨日のうちに言っておいてある」
「え。そうなの」
「おう。今日は休みだ。公演も特訓もなしだ」
「は〜よかった」
ついにやらかしてしまったと思ったがキャンセルされていたようだ。安堵も束の間ぐぅ〜と腹の虫も泣いた。安心したら腹まで減ってきた。朝ごはんを抜いてしまったな。
「なぁプレンツ。こっちに来てからまだ街の方に行ってないだろ?行ってみないか!?今日はお昼も夜も各自で取れってさ」
「そうだったんだ。確かにもう随分長くこっちにいるような気がするけど、まだ街に行ってなかったね」
「だろ。行こうぜ!この団にいる最大のメリットは観光がしやすいことだからな。行かなきゃ損だぞ」
着替えてガルニエを出て街へ向かった。リマクのように街からは少し遠いところにガルニエがあるのでちょっとしたお散歩だ。街並みが始まるまでは草原の中にある一本道を歩む。時折涼しい風が吹いてきて気持ちがいい。
「どうだ連日美人と手合わせできて」
「セバスさんもいるけどね」
「ああ、そうだったか」
「でもそこは全く嫌じゃないかな」
「ここにいると有名な女優とかモデルぐらいじゃないとなんていうか。わかるだろ!」
「言いたいことはわかる」
「ま、どんな女性でも花だからな。それは忘れてはならない」
「マティエンコさんも?」
「も、もちろん」
そんな話をしながら街へと続く道を歩いていく。すると前方に人影があった。
背が高くて黒い髪。右手にバックとスーツのジャケットを持っている。あれは多分。
「あれルミオさんかな」
「あれ本当だ。おーいルミオさーん」
声に反応したワイシャツの男性はこちらを向いて手を振り返してくれた。やはりルミオさんのようだ。あちらは歩みを止めたようだ。ちょっと小走りでルミオさんの元へ向かう。
「やあ。これから街に行くのかい?」
「はい。そうなんです」
「僕もなんだ。遊びにかい?」
「はい。まだ街には行ったことがなかったので」
「そうか。僕も郵便局へ向かうところなんだ。あんまり詳しいわけじゃないけど良かったら案内するよ」
こうしてルミオさんと街のことを聞きつつ歩くことになった。
「この街は前にいた首都よりも規模は小さいけど内陸部としてはイビポランマランの中で一番大きな街なんだ。人がいるところじゃないと公演をしても集まらないからね。首都よりは栄えてないけど、必要なものは揃うし食材はこっちの方が安い。リオの方は何かと騒がしかったし僕はこっちの方が好きかな」
この街のことを説明してもらいながら歩いていると街の入り口まであっという間に着いた。
並んでいる家屋は大体平屋で壁を白く塗っている家が多い。おそらくレンガを積み上げて作った家だろう。それにしても。
「こっちは亜人の方が多いですね。観客席を見ていても思ってましたが」
「体感2割ぐらいしかヒト族はいないんじゃないかな。あと首都の方では見ないタイプの亜人も多いかな」
「あっちは鳥とかトカゲっぽい人が多かったですね」
「ああ。いろんな種族の人がいるよね」
街を進み、右手に曲がると人が多くなってきた。
「この通りが一応メインストリートっぽいね。もっと右手に向かえば学校とか図書館があったよ。僕らはこの国の人じゃないから本を貸してくれるかはわからないけど、中で読んでる分には大丈夫だったよ」
「へ〜。田舎っぽいけどそういうのはあるんですね」
「建物が新しかったからきっとサニィが言って作ったんだろうね。あとはそうだな。このメインストリートを歩いていけばレストランもあるし雑貨屋、おみあげショップもあったよ」
そのままゆっくりメインストリートを歩いていくとどうやらルミオさんの目的地についたようだ。
「僕はここで用事があるけど大丈夫かい?」
「はい。色々教えてもらってありがとうございました」
「道がシンプルでわかりやすい街ですね。適当にぶらついてますよ」
「ああ。今日は他のみんなも街に出ている人が多いからきっと他にも会えるよ。そこで情報交換したらいいさ。治安はいい方だけどスリには気をつけるんだよ」
「はい。ルミオさんも頑張ってください」
右手を上げてルミオさんが応えるとそのまま郵便局へと入っていった。お休みもなくて大変だなぁ。
「ルミオさん休みの日も大変だね」
「事務って終わりがないらしいからなぁ」
契約書や支払い、届出など種類も用途も様々あると聞いた。きっと公演がなくなるその日まで逃れられない運命なのだろう。
心の中でルミオさん達を応援したところで腹の虫がぐぅ〜と鳴いた。
もうお昼の時間だから出店も出始めている。いつのまにか二人で何を食べるかと街を吟味していた。おや。特徴のある猫の亜人が目に映った。
「トゥエンさんこんにちは」
「んにゃ。おお。お前ら」
「トゥエンさんもこれからご飯ですか?」
「おう。一緒に食うか?」
「「はい!」」
前行ったところがまあまあうまかったとのことでレストランに入った。カウンターへ行き、メニューを選ぶ。どうやらケバブ屋さんらしい。
ランチメニューの中でケバブのサイズとトッピングを選ぶタイプだ。カウンターに立つと大きなネズミっぽい亜人さんが対応してくれた。
「Lサイズのフライフィッシュで。おみゃえらは?」
「んー。俺もLサイズのポテトで!」
「じゃ僕も同じく」
「はいお待ちくださいね」
「あのウエイターさんなんの亜人さんだろう」
「ねずみっぽかったな」
「あれはカピバラにゃ。齧歯類だからネズミってのはあってるにゃ」
「トゥエンさん詳しいですね」
目が細くて前歯が出ていた。体の先端は動物っぽい特徴が表れているようだった。この国に来てから初めて見るタイプの亜人さんが多い。
「そうかにゃ。でもあんま見ないタイプだにゃ」
「猫の亜人はどの国にも大体いますよね」
「あんまし気にしてみてないけどそう言われるとどこでも見る気がするにゃ。でも大体は耳とか尻尾だけの奴らじゃにゃい?俺か俺以外かぐらいにしか思ってないにゃ」
「どこぞの売れてるホストみたいなこと言いますね」
「みゃあ俺って人気があるからそういう道もあったかもにゃあ」
綺麗なカピパラのお姉さんが先程頼んだメニューを持ってきてくれた。お金は注文時にトゥエンさんが払ってくれた。店内でテーブルについて周りを見ると、それなりに賑わっているようだった。
「ごゆっくり〜」
先ほどの店員さんが器用に3人分の料理が乗ったプレートを運んできてくれた。
「むほほ!うまそうだにゃ」
「「いただきまーす」」
ピザを畳んだような生地にはスライスされたチキン、キャベツなどの野菜がぎっしりと入っていた。これはとてもじゃないがかぶりつけない大きさだ。
トゥエンさんはヨーグルトソースを。フレンはチリソースを。僕はヨーグルトソースとマスタードをたっぷりかけて食べた。うん、美味しい。山盛りの野菜でお肉が詰まった奥まで辿り着けないけど。
猫の亜人のトゥエンさんはこんな持ちづらいのをどうやって食べるのかなと思ったが、器用に両手で掴んで食べていた。
「ごっほごっほ!」
マスタードがむせた。セットについていたオレンジジュースを飲む。こちらも新鮮な感じがして美味しい。
「そこそこなんて言ってましたけど美味しいじゃないですか」
「うみゃいにゃ」
顔の周りがソースでびちゃびちゃになっていくトゥエンさん。
「奢ってもらっちゃってありがとうございます」
「構わないにゃ。お金は使えば使うほどまた戻ってくるものだからにゃ。そして金を食べ物に変えれば自ずと世の中全て腹の中に入ることになるにゃ」
「謎理論ですね!」
フレンが突っ込んだ。珍しい気がする。実際謎理論だ。なんとなく言いたいことはわかるけれども。
「トゥエンさんってフォークとかナイフ掴めるんですか?」
「掴めるけど切るだけなら爪で切っちゃうにゃ。こんな感じ」
ケバブをおいて可愛らしい白い毛皮のおててを下に振りかざすとケバブが真っ二つになった。よく見ると指の先が黒い点が並んでいる。鼻の黒い点といいいろんなところに点がある猫さんだ。
「たまに皿ごと切っちゃうからミッケに怒られるにゃ」
「へー器用ですね!」
「にゃ〜ね〜」
トゥエンさんは舞台に出ていても何か魔法を出したりしているわけではない。けど身のこなしはとても軽い。ということは。
「トゥエンさんは身体強化の魔法が使えるんですよね」
「ああ。魔法なのか微妙だがにゃ。どっちかというとこれは技術に近いからにゃ。色々できてもこき使われるしこのぐらいで丁度いいにゃ。使えれば便利なんだろうけど。俺はオーソドックスにゃ亜人だからにゃ」
食べている最中先程のカピバラのお姉さんがやってきた。
「すいません。さっき渡しそびれちゃったんですけど、今お店でお買い上げいただいた人にクジを配っていまして。よかったらどうぞ」
「へえ。何が当たるんですか?」
「ん〜内容はあんまり詳しくないですけど、果物とかが当たるらしいですよ。この街でやってるイベントだからあんまり知らなくて、一番いいのはかなり豪華って噂なんですよ」
このお店ではなくこの街のキャンペーンというやつか。豪華賞品に果物か。せっかくだから貰っておこう。
「ありがとうございますいただきます。どこで引けるんですか?」
「この通りをまっすぐ歩っていけば多分わかるかと。よかったら寄っていってくださいね」
「どうせ暇だし引きに行こうよ」
「そうだな!トゥエンさんも行きましょうよ」
「ふむ。お前らに付き合うとするにゃ」
トゥエンさんはケバブをすでに食べ終わりフィッシュフライと牛乳を飲みながらそう答えた。




