第26話 人魚の掌
ある程度距離は取っているけどあんなに近くていいのかな。あの距離では瞬く間にあのもはや壁ともいえるダムの放水に襲われるけど。
「ラウラ〜。話は聞いたから全力出してそのまま途切れちゃう限界まで出してみて!」
「わかりましたわ!」
僕とセバスチャンさんは少し距離をとって見学だ。
しかしいくらカミラさんとはいえ流石にまずいのではないか。一応救急箱を用意したほうがいいか。なんならアメデオさんをここまで引っ張り出す方が早いかもしれない。
「ではいきますわよ!」
ラウラさんの右手から放たれる超巨大な滝。
ってよく見なくても以前の全力よりも威力も大きさも増してないか!?
轟音と殺人的な水量がカミラさんを襲った——
かと思われたが。
水柱が当たるすんでのところでカミラさんが左手を挙げた。掌を上にしてまるであの水量全てを掬うように。
巨大な水柱はカミラさんの上空へと流れていき遥か彼方へと飛んでいった。
「はいその調子!ギリッギリまで耐えてみて!」
「す、すご。すごくないですか。なんですかあれ」
「流石は人魚ですね。」
「あー。人魚だから水の扱いがうまいんですね。ってカミラさん人魚なんですか!?」
「ええ。ご存知ありませんでしたか?」
「だって人魚って足とか普通じゃないですか!」
「そこら辺は自在に変えられるようですよ。気付かなかったのも無理はありません。ほとんど人の脚のまま生活されていますしね」
「し、知らなかったです」
童話とかでよく聞く人魚。見た目は人そのものだ。
自由に脚が変化するということはファロさんと同じ部類ということか。舞台でも脚が変わっているところは見たことがない。
想像通りの人魚なら脚が魚の尾鰭になると歩けないしな。地上なら人の姿がいいのかもしれない。そりゃ言われなきゃ気付かれないか。
というかみんな僕に隠していることが多すぎないか???
「人魚にとって水はそばにあって当たり前のもの。お嬢様の魔法など可愛いものなのかもしれないですね」
「それにしてもですけどね」
「それにしてもでございますね」
遥か彼方へと飛んでいく凄まじい水流をオーディエンスふたりで眺めていた。フレンがカミラさんを練習に誘ってくれたのはそういうことか。
「はいはいその調子ー。ほらじゃんじゃん出してー」
「はい!」
「うわ。また勢いが増した」
「昨日もあれでいて実は心のどこかでストッパーが働いていたのかもしれないですね。カミラ様相手なら心置きなく全力を出せると」
「僕では力不足でしたね」
ラウラさんがしばらく滝を出し続けたところでやっと僕に放ったぐらいの勢いになっていた。か弱い子供という外見で良かったと心から思った。
「そう落ち込まないでください。私とて逃げます故。大体あれを対処できる方など世界広しといえどそう多くはない。まずはお嬢様を徹底的に弱らせましょう」
「聞こえてますことよ!!」
それから約10分ほどが経過した。
巨大だった水柱が時間が経つにつれてその体積は減っていき遂に。
「……もう無理ですわ〜」
水柱が途切れた。
「お疲れカミラ。なかなか根性あったんじゃない」
「クタクタですわ〜」
水が切れたとはいえ最小でも直径2メートルはあった。やはりラウラさんの魔力量は人並み外れている。
「じゃ今度はプレンツが前に立ってみて。ラウラは息だけ整えてからね」
「わかりましたわ〜」
げんなりしているラウラさんだがまだどれほど力が残っているかわからない。カミラさんよりも少し距離を取った。
そしてカミラさんがラウラさんに向けてアドバイスを送った。
「イメージとしては冷静に。静かに。魔力がこれまでと違って満ちていないでしょ?でも出し切ることを今回は考えないで。雑巾を絞り切るんじゃなくて、そうね。ついうっかりおねしょしちゃって止まらない感じをイメージするの」
「なるほど!ってお下品ですわ!!」
息が整いつつあるラウラさんにアドバイスをするカミラ先生。
例えが絶妙に生々しいというか何というか……
あ、あんまり想像したくないな。
いや、えっと想像したくないにしておこう。
「お嬢様。ちょっと前まで得意だったではありませんか!きっとお嬢様なら……!」
「いつの話をしているんですの!!はっ倒しますわよ耄碌ジジイッ!!!!テメェ後で覚えてやがれってんですわよッ!!」
口が悪い!そんな言葉の言い回しあるか!お嬢様言葉を無理やり話そうとするからかえって下品さが際立つ。煽るセバスチャンさんもセバスチャンさんで悪いけれども。
「お、落ち着いてくださいラウラさん。心を荒立てると魔法にも出てしまいますよ!穏やかに!」
そうでなければその被害を負うのは僕だ。
おねしょするイメージを!とまでは言わないけど。自分の意思に関わらず垂れ流してしまうあの感覚か。うーん。やっぱりおねしょ以外に思いつかないな。
「ふむむむむ」
気を取り直したラウラさんが僕に向かって手を伸ばす。
かなり消耗しているようだけど僕も身構える。下半身に力を入れすぎないようにして重心を下にする。
カミラさんが力を削いでくれているとはいえどこまで魔力を温存しているかわからない。僕も右手を伸ばした。
「さぁ!いつでもいいですよ!」
カウボーイの決闘というのはこういう気持ちなのだろうか。抜きな!ってやつ。
なんとなくカッコいいぐらいに思っていたけどいざこうしてみると眉間に皺が寄り、手汗をかく。いや冷や汗か。
「むむむむ。……はっーーー!」
水がこちらに向かってくる!
しかも直径約20cmほどだ!
僕は難なく力を出してただの水にした。
僕の魔法は安定して出せていないけどあちらは同じ水の量、同じ勢いをキープしている。30秒ほどそうして途切れた。
「や、やった」
「私、やりましたわー!」
「「おおおお」」
ラウラさんの握り拳も雄叫びも上げた。
それに呼応するようにセバスチャンさんとカミラさんも驚いた。
「すごいですよ!安定していましたよ!」
「ええ。横から見ても綺麗だったわよ。真っ直ぐで液体とは思えない滑らかさだったわ」
「お見事ですお嬢様」
「えへへ〜。遂に私モノにしてしまいましたわ〜」
こんな短期間でここまで上達するとは思わなかった。全力を出し切ってから練習に臨む。本来なら最高のパフォーマンスが出せない状態だからコントロールもままならないところをラウラさんは乗り切った。すごいですラウラさん!
「よぉし!プレンツ!もう一回いきますわよ!」
「はい!もう一回やりましょう!」
「わたくしまだまだ伸びしろありますわ〜!」
もう一度右手の拳を振り上げたラウラさん。
瞬間その拳から解き放たれる先程見たラウラさんへの全力の水柱が真上に飛んでいった。
そして10秒ほどしないで僕らの元へ豪雨となって降り注いだ。
そうですね、ラウラさんとの練習で濡れないで済むとは思ってなかったですから、ええ。
ずぶ濡れになった後も同じ練習をしたがまたあの勢いの良い水柱が僕を襲った。
まぁ人はそんなにすぐ成長はできないものだ。
ラウラさん一緒に頑張りましょう。
「ごぼぼぼぼぼ」
「プレンツ〜!!」




