第25話 教えて?カミラ先生!
僕の体があと0.1秒でも逃げることに専念するのが遅かったらどうなっていたのだろうか。
あれだけ離れていてもあの水の壁と僕の体までは1秒と少しだけの猶予しかなかった。実は昨日まで見ていたあの威力がMAXで、ずっと100を打ってましたというオチを心のどこかで期待していたけど、結果はあれはあれで手加減していてくれたという恐ろしい事実が真実だったらしい。
後ろの惨状を見る。ラウラさんの足元から地面が抉れていてその有様とその深さ、長さがただ事ではない何かがここで起こっていたのを証明していた。
こんなことができる人間を世に放っていいのか?
この人が戦場の兵士だったとして相手になるのは御免被る。誰なら相手になるんだ。
これが全力。
魔力量だけで言えばラウラさんは団の中でも高い方らしいけど、そう考えるとやはりうちの団の人達とんでもない人が多すぎる。こんな大技を打ってピンピンしてるんだもんな。洞窟での団長もすごかったけどニニギさんといい桁違いの実力だ。しかもあのときは洞窟の崩落を抑えてだいぶセーブしていたようだし、団長が同じことを全力でやったらどうなってしまうのか。
……小さい山ぐらいなら消し飛ばしそうだな。過去の僕、よく団長相手に対峙できたな。改めて相手にする人じゃない。
僕たち劇団だよね?
世界を滅ぼす闇の組織とかではないよね?
集まっている面子が国によっては要注意人物ばかりだ。いや国によってというかどの国でもだ。
僕が君主なら絶対招き入れたくない。
そういえば、有名な言い伝えがあったな。
早く寝ないと白い髪の女の子が街にやってきて街を消してしまうぞって。
「確かにもう朝食のお時間です。今日はここまでにしましょう」
「そうですわね。どうしましょう!この跡!」
「あとでマルクス様とエルフリーゼ様にお願いしましょうか」
「冴えてますわね!では食堂に戻りましょうか」
腰から下がびちょびちょだ。このまま食堂に行くわけにもいかないな。ガルニエの玄関口で、ある程度ズボンを絞って部屋に戻った。フレンはもういなかった。
「へっくしょい!」
体が冷えた。お腹が減ったけど、一回お風呂に入るか。このままだと風邪をひきそうだ。最近水浸しになりっぱなしだもんな。体が頑丈な方でよかった。
おや。この時間にお風呂に先客がいるとは。
とはいえ僕も長居をする気はない。シャワーをサクッと浴びてご飯を食べよう。朝から死線を潜ってきたからな。……なんで身内同士の練習で死線をを潜り抜けなければいけないんだ。とにかく心身ともに実はボロボロだ。
浴室のドアを開けたところで背の高い男二人と出会った。
フェルナンさんと、うわ、シャルルさんだ。
「おやプレンツくん。おはよう」
「おはようございますフェルナンさん」
「なんだ朝から随分とやつれているではないか」
「まあ朝からちょっといろいろありまして。」
「なんだ悪戯でもして怒られたか」
「してませんよ」
「もしかしてあの地鳴りと関係あったりすます?」
「よくお気付きで。」
「あれはお前だったか。凄まじい放屁だな。」
「違いますよ。何言ってるんですあんた」
偉そうな口調でボケをかましてくるこの馬鹿こそナレアさんが好きなあの馬鹿だ。フェルナンさん同様青い髪のふたりだが、シャルルさんの方が濃い青だ。どちらかというと紫よりの青と言った方が良いか。ふたりとも背が高いし程よい水の滴り具合がかっこいい。シャルルさんにかっこいいなんて思うのは少し癪だけど黙っていればなかなか男前だし演技も魔法の精度も殺陣も上手いから一応敬いの念を時折持って接している。
ちなみにこのナレアさんの話は男性陣の中では有名な話らしい。そりゃそうだ。僕なんてここに来た初日で気付いたもの。
「なんだ違うのか。いやなに。威勢の良い一発だったと感心していたのだ。目覚めには最悪だがな」
「だから違いますって。」
「もしかしてラウラさんのやつ?」
「流石フェルナンさんです。お察しの通りです。」
「私も噂を聞いて一緒に練習してみたんですけど、なかなかうまくいかなかったんですよね」
「普通は出力をいかに強くするかで悩むところを」
「皆さんもあの練習に付き合っていたんですね」
「私とヴィーナは皆さんとまた少し環境が違いましたし。シャルルさんもお手上げだったんですか?」
「俺は天才故、人にモノを教えるのは難しい。ま、あれはあれで天才だとは思うがな。」
「そこは同感です。」
「あんまり力にはなれないかもしれないけど、お手本なら見せてあげられるから、その時は呼んでください。ね?シャルルさん」
「ふん。子供に貸しを作って何になるかわからんが暇つぶしには良いか。」
「大歓迎らしいからいつでも呼んでくださいねプレンツくん」
「おい。余計なことを言うな。」
「邪魔しちゃったね。ゆっくり羽を休めるといいよ」
「はい。心強いです。ありがとうございます」
軽くシャワーを浴びてから食堂に向かった。
「おはよう!朝から大変だったみたいだな」
「おはようフレン。まぁそうだね」
今日はコンソメスープとサラミとチーズとパンだ。ヨーグルトもある。
朝はこんな感じで保存に強い食品が多い。あとは昨日の残りとかだ。今は音楽隊の人もガルニエにいるからご飯を作るのも大変だろうな。
チーズとサラミをパンに乗せてフレンに頼めば軽く炙ってくれる。とろとろに溶けたチーズとサラミから少し脂が浮いて見た目がとってもとってもいい。程よい塩気が朝の死線の疲れには効く。コンソメスープは葉物と根菜が沢山入っている。少しハーブの匂いがするな。
ご飯を食べながらあれやこれやと話していた。
「すげー音だったから始めてるなとは思ってたけど、さすがに派手すぎるな」
「死ぬかと思ったよ……」
「今は水の魔法なんだろ。あっちは」
「うん。知ってるかもしれないけど徐々に力を込めるより、先に全力から引き算していこうとなってね」
「それであの威力か」
あれだけの轟音だったからな。噂にもなるか。
グランさんのところの牛たちがびっくりしてなければいいけど。
「はぁ眠。」
「お、ナイスタイミング。カミラさん」
「ん。なぁに。」
「ちょっと話聞いてくださいよ」
「んー?」
フレンがまだちゃんと目が開いていないカミラさんを呼び止めた。もこもこのパジャマのまま目を擦りつつフレンの話を聞いていた。オレンジ色の長髪をお団子状にしている。猫背で歩いているけどこの人結構背高いんだよな。フレンよりちょっと背が低いくらいか。
「実はカクカクシカジカでして」
「あの地鳴りはそういうことだったのね」
フレンがどういう理由でカミラさんを呼び止めたのかわからないけどとりあえずフレンに乗っておこう。
「はい。そうなんですよ」
「カミラさん。あなたはとっても器用で水の魔法も綺麗だ」
「まーねー」
気怠げにパンを咥えながらフレンに相槌をするカミラさん。そういえばいつも綺麗なピアスをつけているけど朝はつけていないみたいだな。
「そこでラウラさんの手助けをしてあげて欲しいんです!やはり達人から教わるのが一番!」
「んー。ラウラのねえ。前に見てあげたときは徐々に上げていく方法で試してたわね。全力から落としていく方法ならあの規格外にはあってるかも。いいでしょう。お姫様に恩を売っておいて損はないしね。今度あの国にいくことがあれば何かしら貰えちゃうかもしれないし。ぐへへへへ」
ぐへへへってほんとにいう人いるんだな。
「ありがとうございます。舞台でもカミラさんの魔法はとっても綺麗だと思っていました。あれだけ上手く水を操れるんですからきっとラウラさんも何か得るはずです」
「はいはい。可愛い坊や二人にそこまで言われちゃ敵わないわ。で、いつからなの?」
「朝6時からです。」
「え。無理」
「「そこをなんとか!」」
* * * * * * *
翌朝6時。
「ねむ……。」
なんとか来てくれたカミラさん。
「おはようございますカミラさん。」
「ういっすー」
キャラが変わってる。
「まあ!今日はカミラさんも付き合ってくれるのですね!」
「ういっすー」
「おはようございます。カミラ様」
ラウラさんとセバスチャンさんは今日もこの朝早くから見なりはバッチリ整っている。
対するカミラさんはいつものもこもこの寝巻きのままだ。
そして目が開いてるのか開いていないのかわからない状態でカミラさんは提案した。
「そうねぇ。それじゃとりあえず私にその全力を打ってみてちょうだい。」
眠気眼でも絶対に飛び出してはならない言葉が出てきた。
「え!!!大丈夫なんですか!?」
「あんまり大きな声出さないで。朝なんて喋るのも億劫なのよ。」
どれだけ朝弱いんだ。あなたの生命の危機を心配して言ってるんだぞ!夜更かししていたのかな。この人は朝はいつもこんな感じだけど。
「いらない心配かもしれないですけど、カミラさんのことを思って言いますけど、そんなぽやぽやなままじゃ危ないですよ!あっという間に死にますよ!」
「プレンツはわたくしをなんだと思ってるんですの」
「まぁ大丈夫でしょう。でも一応先生なんだし、シャキッとしますか。」
何を根拠に大丈夫と言っているのかわからないまま、カミラさんは左手を胸ほどまで上げて人差し指をヒョイっと上に跳ねた。
すると頭上から水が滝の如く流れてカミラさんを包んだ。
2秒後、滝は止み、カミラさんはシャキッとした顔になった。
「じゃ始めましょうか」




