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Stellacce Twinkle  作者: 橿原るり
第三幕 イビポランマラン編
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第23話 執事の教鞭

朝6時。ベットから出て顔を洗い歯磨きをして水……このあと文字通り気を失うほど飲むだろうからいらないか。


 着替えもどうせびしょびしょになるからこのままでいいだろう。

 僕はびしょ濡れになる運命にある。そう。ラウラさんとの特訓だ。かなり憂鬱ではあるけど、前みたいに自分の力不足を思い知るよりいい。それに僕の力が増えればもっとこの劇団に貢献できるようになるのは間違いない。


 ラウラさんの魔法もあの人がちゃんとコントロールできるようになれば舞台でできることの幅が増えるだろう。腰は重いけど頑張ろう。ガルニエの裏口から出てラウラさんと訓練した場所あたりまで向かう。途中でニニギさんとティラクさんが稽古をしているのが少し遠くで見えた。今日は掴まら……邪魔しないようにして歩いていった。

おや?

ラウラさん以外にも誰かいるみたいだ。


「おはようございます。ラウラさんセバスチャンさん」

「おはようございますプレンツ。いい朝ですわね」

「おはようございますプレンツ様」

「セバスチャンさんも来てくれたんですね」

「先日は少し手が空かなく、大変申し訳ございません」

「いえ。そんな。いつも掃除とかしてもらって助かっています」

「勿体無いお言葉を。」

「案外二度寝してただけかもしれませんわよ。」

「はははっ。まさかそんな」

「ほほほほ」


否定しない?

まさかほんとにそうなのか?

 セバスチャンさんはラウラさんのお付きで劇団に入っている人だ。とはいえラウラさんのお世話をしているところはあまり見ない。どちらかといえばガルニエ内の使用人のような立ち位置だ。一応ラウラさんは一国のお姫様らしいからな。誰ひとりとしてお姫様待遇している人はいないから忘れがちだけど。なんなら馬車の馬の役をさせるぐらいだからな。


「では早速始めましょうか。朝ごはんまでしか時間はありませんから」

「はい!よろしくお願いします!」

「まず私からラウラお嬢様にもう一度ご指南差し上げましょう。プレンツ様お付き合いいただけますか」

「はい。もちろん」


そう話したセバスチャンさんは少し遠くに立つ僕に目掛けて腕を伸ばし掌を僕に向けた。

 こんな早朝なのにザ・執事っぽい服をきちっと着ていてとても様になっている。ラウラさんもこの前と同じく動きやすい服を着ている。相変わらずすごい髪のロール具合だ。毎朝巻いているのだろうか。……牛の亜人のルミさんにびっくりしていたようだったけどラウラさん自身もなかなかだ。


 背がそこまで高くないし細身だから今着ているタイツのような服だと迫力がある。いつもふりふりドレスを着ているからよくわからなかった。

……何を朝から人の身体をジロジロ見て分析しているんだ僕は。


「ラウラお嬢様。お嬢様の体内に秘められている魔力の貯蔵量は並大抵の方よりも遥かに多い。しかし余りあるその魔力のせいで全身が鋼鉄の鎧を纏っているような状態。体を頑丈にする魔力、水を集める魔法、放射する魔法、空気の塵を高温に晒して火をつける魔法。どれも根源は同じお嬢様の魔力。身体に分散するか、他の何かに昇華するだけです」

「ええ。そうでしたわね。」

腰に両手を当ててセバスチャンさんの言葉を真剣に聞くラウラさん。


「有名な言葉でお嬢様にも何度申し上げたか数えきれないですが、水の魔法というのは全ての基礎です。魔法の鍛錬は得意不得意あれど水の魔法から始まり水の魔法に終わるといわれるほど奥深くそして初心者向きの魔法です。魔法の教科書などでは卵料理と同じともいわれています。ここの話はきっとオレーナさんやアンティエさんなどに聞くとより具体的な話が聞けるでしょう」


おお、水の魔法が卵料理というのはどこかで聴いたことがあるな。僕には関係がない話ではあるけど、魔法のあり方などを把握しておけば役立つことがあるかもしれない。ニヒルを気取ったセバスチャンさんだけど結構説明は丁寧だ。

 学術的な魔法の知識というのは軽く帝国で教わったけど、いい復習だ。多分ラウラさんに説明というよりは僕相手の説明をしてくれているのだろう。


「そうでしたわね!水は卵でしたわね!」

あれ、意外にそうでもない?

「さて。ここからが本題。ラウラお嬢様の場合の話をしましょう。まずは私が手本をお見せしましょう。プレンツ様。私が真っ直ぐ水の魔法を放ちます故、いつものように華麗に打ち消していただきたい」


ようやく実践か。ラウラさんの様子を見るに闇雲に試すよりも教科書通りまずはやることの言語化、そして完成形の具現化イメージを実際に見せてから訓練を開始するというわけだ。


「わかりました!どうぞ!」

「ではこれから10秒間。そうですね。直径10センチほどの水鉄砲を放ちます。では参ります」

セバスチャンさんまでの距離はだいたい30メートルほど。ラウラさんは注意深くセバスチャンさんの様子を観察していた


「じー。」


言葉にもしていた。


1(アン)2(ドゥ)3(トロワ)


カウントダウンとともに宣言通り真っ直ぐ直径10センチほどの水鉄砲が僕に向かって放たれた。

真っ直ぐ向かってきていてなかなか速度が速い。途中で地面に滴ることもなく僕に向かってくる。


 僕は右手を伸ばし、力を放った。僕から約10メートルの距離で僕の魔法とセバスチャンさんの魔法はぶつかり音を立てながら地面に水が落ちていった。


「おお!さすがですわ!」

ラウラさんの声を傍目に魔法を放ち続ける僕とセバスチャンさん。水鉄砲は少しも弛むことも強まることもないが僕のほうは3秒ほど経過したところからムラが出てきてしまった。打ち消される水との距離が僕から5、15メートル付近ぐらいまでのブレが出てしまった。


 きっかり10秒で水鉄砲の放射は終わった。ガルニエでの掃除の際に魔法を使っているのは見たことはあったけど、やはりコントロールという点では達人の域に達しているように感じた。ラウラさんのような魔法なら掃除が違う意味になる。


「蛇口を捻り滑らかに水が流れていくその境目を知るのがまずは良いでしょう。きつく締めすぎもせず、多すぎもしないほどの量。これが安定すればあとは強弱を覚えていくだけ。言葉では簡単に言い表すことができますが、実際に自分でやってみないことにはわからないでしょう。お嬢様は一応スイッチはあるにはありますがそのスイッチはONかOFFのみ。0か100かの選択肢では使えない場面ばかりになります。」


うん。おっしゃる通りです。その全力をぶつけられて何度気を失ったことか。


「さて。ここら辺の話は今までも散々してきましたが結局は身になりませんでした」

「そうでしたわね」

「私も匙を投げて、まぁ世の中そういうこともあるかと目を背けて誰しも触れないようになってきて安堵していたのですが、遂に団長様から檄を飛ばされてしまいましたのでもう一度取り組んでみましょう」

「ちょっと!私のことを勝手に諦めてたんですの!しかもあなたが!」

「それも含めてお嬢様の個性と飲み込むことにしたのでございます」

「丸く納めようとしないでくださいまし!」

「遂に団長様から突っ込まれてしまった。できることなら年齢を言い訳に忘れたことにしてしまおうかと、そんなことをメド様と間違えてトゥエン様のお腹に顔をうずめていた時です」

「間違える要素がありませんわ!」


いつのまにかお嬢様執事劇場が始まっていた。というかこの人一体何をやってるんだ。

 セバスチャンさんがトゥエンさんのお腹にかおを埋める様子を想像した。結構気持ちよさそうだな。トゥエンさんはウザそうな顔するだろうけど。


「まぁいいや。とりあえず寝るか!そう思ったときです」

「どこで寝る気だったんですの!というかやっぱり寝ていたんじゃない!」

「そうだ。色々規格外なお嬢様なんだからもしや教科書通りの教育法ではうまくいかないのでは?あえて逆からやってみたらどうだろうかと思ったのです」


セバスチャンさんの方へ歩いていっていた僕が質問をした。


「教科書の逆ですか?となると応用から始めると」

「いえ。お嬢様はダム湖の放出のような魔法しか使えません。より緻密で繊細な応用技を練習するのは難しいでしょう。この団の方々の魔法を見るといとも容易く繰り出しているように見えますが、実際はあの一つ一つの技、それぞれが普通の人であれば10年かけて覚える技ばかりです」

「となると教科書の逆とは何があたるんですか?」

「私は蛇口を捻って徐々に力を強めて安定して魔法を放てる力を探るように言いましたが、ラウラお嬢様の場合はその逆。100を出してから徐々に弱にしていこうというわけです」


団長の言っていたことと同じことにセバスチャンさんも辿り着いたようだ。文字通り、波乱の予感だ。

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