第21話 一石二鳥の特訓
大体30メートル程離れてラウラさんと向き合っている。ステラッチェ団長はラウラさんの近くに立っていた。ある程度距離をとってというので大体5mほど離れていたが団長からもっと奥に!とのことだったのでより離れてみた。この距離では確かに組み手はできない。一体何をするんだろう。
「じゃいってみよう!ラウラ!ゆっくり!ちょっとずつ蛇口を捻るように!」
「はい!」
ラウラさんが僕に向かって右手を伸ばし左手で右腕を押さえている。
え、本当に何をする気だ……?
「プレンツ!いつも通りに頼むよ!」
「え、あ、はい!」
多分僕に向けてラウラさんは何かしらの魔法を放つから僕の力で打ち消せ、ということなのだろう。
ラウラさん魔法使えるのか?
舞台上で魔法を使っているのを見たことがないし、先日の会話で確か身体強化も使えないと言っていたな。
「ぐぐぐぐ……」
「そうそうその調子だよ」
なんだかラウラさん苦しそうだ。やっぱりできないんじゃないか?
コントロールと言っていたけど簡単な魔法を使えるよう練習に付き合うということか。
お!なんか出てきたみたいだ!
でも……。
「そうそう!その調子!」
どうやら水がチョロチョロ出ているみたいだ。できてよかったけどここまで届くことはないな。
そっか、僕を立たせたのは目標にする為だ。やはり目標があった方が目に見えてやりたいことが明確になる。目標は人間である必要はないけど、僕をびちょびちょにする勢いというのが大事だからな。よし、そういうことなら。
「ラウラさーん!僕はここでーす!頑張ってくださーい!」
「ふぐぐぐぐ……!」
「いいよラウラ!ゆっくり!ゆっくり勢いをつけていこう!焦っちゃだめだよ!」
「はい!頑張りますわ!」
人によって得意な魔法というのがある。ミッシェルさんは身体強化のすごい使い手だけど、他の魔法は一切使えないと言っていた。
オーソドックスなのは水の魔法らしく、ある程度の魔力がある人は大体使えるらしい。
ただ水の魔法よりも火の魔法の方が得意だったり、なんなら一つの魔法属性しか使えないという人もいるようだ。
グランさんのお家に向かう最中、ラウラさんは身体強化でもなくただ単に身体に秘めた魔力がすごいとかなんとか言ってたな。ミッシェルさんは身体の外以外に魔力は出せないけど所謂身体強化魔法、体内の魔力分布の操作ができる。ラウラさんの場合は本当にただ魔力量が高い人だと思っていたが実はアウトプットもできたらしい。しかしその秘めたる巨大な魔力を使いこなせていないようだ。
何にでも人によって向き不向きがあるものだ。不向きでも3メートルほど水鉄砲が出せれば上出来だろう。
「少しずつ水柱を太くしていこうか。」
「はい!わかりましたわ!」
団長の声に応えるラウラさん。いいぞ!その調子で僕まで届くように応援します!
* * * * * *
わたくし、わたくし!
結構いい感じにコントロールができてきましたわ!
皆様には封印されていましたが案外できるものですわね!
ほらこうして蝶々も応援してくださっている。おほほ。くすぐったいですわ。ま、まずいですわ。くしゃみが……
「へっ……へっ……へっくちょん!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
* * * * * * *
ちょっと瞬きしていた。
これ別に僕がここにいなくても看板か何かがあればいいんじゃないかななんて考えて手を腰に当ててちょっと遠くを見ていたりしていた。
あのふたりスタイルいいなーとか。やっぱガルニエでかいなーとか考えていた矢先。
矢先。まさしく敵を穿つ流星の如き水鉄砲が僕に向かって牙を剥いた。水鉄砲、なんて可愛いものではない。大きな滝が地面を抉りながら僕へと襲いかかる。
何が起こったのか理解できなかった。本能が僕の両腕を凶悪な滝に向かい伸ばし僕の魔法を放った。
が、時すでに遅し。いや十分に時間があっても結果は変わらなかっただろう。
僕は強烈な水流に身体を持っていかれて、サイか何かに突進されたように流れ飛ばされた。
団長の『うおおお!!!』なんて声が一瞬聞こえた。あの人驚くことあるんだな。すぐ水に飲み込まれたから本当に一瞬だけだったけど。
目が覚めた。どうやら僕は気を失っていたらしい。
「プレンツ大丈夫かい?」
「申し訳ございません!わたくしまたやってしまいましたわ!お許しください……」
「ゴホッ、ご、おほ……い、今のは……なにが」
鼻の奥が痛い。というか顔面、全身が痛い。大津波か何かに襲われたような気がしたけど夢じゃなかったのか。
「ラウラは身体にすごい魔力を秘めてるんだけど、この通り1か100しかレバーがなくてね。とてもじゃないけど舞台では使えないから」
「最初こそ皆様練習に付き合ってくれていたのですが今ではまったくでして……広いスペースがないと練習はできないですし困っていたんですの!」
「……そういうことでしたか。」
身体中が痛い。燦々と輝く太陽に照らされているけど身体中びしょびしょで寒くなってくる。見下ろすふたりに手を引かれながら立ち上がる。鼻から息を出すと水がドバッと出てきた。
「目が覚める魔法だったでしょ?」
「気を失う魔法でしたけど」
「ごめんなさい!今度こそ!コントロールしてみせますわ!」
え、嘘でしょ?
「ま、まだやるんですか?」
「え?ああ。みんなには舞台練習は午後からにしてもらったから大丈夫だよ」
そういうことではないんですけど!
「さぁ!もう一度!プレンツ!頑張りますわよ!」
「練習方法は色々考えつくけど、例えば逆の発想で最初に出力マックスで出してから徐々に弱めるとか。まあ今回は抑えめからやってみようか」
「おお!さすがステラッチェ団長様ですわ!ではもう一回頑張ってみましょう!」
悪魔二人の謎の会話の意味が理解できない。まずあれが飛んでくるところがスタート?何かの冗談なのではないか。
「ラウラが魔法をコントロールできるようになるし、プレンツも魔力量が増える。まさに一石二鳥だね。ふたりともこの調子で頑張るんだよ。じゃ私は残りの事務作業があるからこの辺で」
「お任せくださいまし〜」
な、なんのどの調子で頑張ると……?
今さっきまで気を失って倒れてたんだけど??
というか団長どこにいくんですか!?
置いていかないで!!
「さぁ!プレンツ!もう一回!ですわ!!!」
頑張って身体を起こした。まだ鼻に違和感があったから鼻息を『ふん!』としたら水が出てきた。
「あはは。」
力なく笑った。フレンがついてこなかった理由がわかった。
こ、こんな時に来てくれないなんて!!
るんるんでぬかるんだ草原だった一帯を歩くラウラさん。この構図前にも見たな。
この後の練習では少しの間だけはコントロールができていたが何かの拍子でまたあの滝が僕に襲いかかってきた。
お昼になり服を着替えてご飯を食べて舞台の稽古をした。舞台がなかったのに力がすっからかんだった。ラウラさんはいつも通りに演技していた。すごいなあの人。やはりこの劇団やばい人しかいない。
そして時間を見つけてはラウラさんとの魔法の練習が始まったのだった。




