第20話 下拵え
食堂でプレンツとフレン、そしてザーラが話しているのを見かけた。あの2人はともかくザーラの組み合わせは珍しい。
プレンツの左耳に光るものが見えた。
「あ、付けてみたんだ。似合ってるね」
「はい。流れで付けてみました」
「さっきザーラさんに開けてもらったんですよ」
「良い手際じゃろ?」
「そういうこと。流石だね」
「ふん、大いに褒めるが良い」
ザーラはあれでいて気を遣ってくれてるのだ。最悪の事態に備えてザーラは討伐隊には入れなかった。
ヴィラコチャは現れなかったし、大津波も起こらなかった。
結果論で言えばザーラが付いて来れば犠牲は少なく済んだかもしれない。ものぐさではあるけど、ひと押しされても首を横に振るザーラ様ではない。
もしも、きっと、だったら。
終わった後ならなんとでも言える。そんなことは全員わかってるから結果を受け入れるしかない。どんな結果になったとしても、受け入れられない現実だったとしても時はそのまま流れてしまう。
だから誰が悪いわけではない。
それでもザーラはあれでいて結構わかりやすくそわそわしていた。気付いてるのは私とメイラジュぐらいだったと思うけど。
プレンツを面白半分で揶揄ってピアスの穴を空けたのかもしれないけど、ちょっとした罪滅ぼしだったんじゃないかななんて思った。ま、私の勘繰りすぎかもしれないけど。
それでも結構プレンツの目が良くなってきた。
そろそろプレンツを舞台に立たせてもいいかもしれないな。
「ラウラ!ちょっといいかい?」
奥でご飯を食べていたラウラを呼んだ。
「どうされましたの?」
「食事中にごめんね。プレンツ、ラウラ。明日の朝、ガルニエの裏の開けた場所に来て欲しい」
「はい。いいですけど」
「どうしてですの?」
「しばらく目を背けてたけど……プレンツという適任も現れたことだし、それにプレンツ自身の成長のためにもね」
「はっ!そういうことですわね!わたくしも自主練はしているんですけどなかなか難しくて」
「え、ふたりは何を話されているんですか?練習?」
「頑張れよプレンツ!俺は遠ーーーくから見守ってるぜ!」
「え?なに?どういうこと?」
「頼みますわよプレンツ。私も腕がなりますわ!」
「本当になんですか!?やだ!怖い!」
「じゃそういうことで。もう今日は事務仕事ばっかで嫌になっちゃったよ。あーお腹空いた。私もシチュー食べよー」
「団長僕は何をされるんですか!ちょっと!なんでみんな勿体ぶってるんだ!!!」
* * * * * * *
翌朝。
朝食を食べてトボトボとガルニエの裏に行った。誰もいない。みんな何やらニヤニヤして誰も何も教えてくれなかった。なんなんだ一体。
ん?なんか聞こえる。耳をすませてみる。
周りを見渡すと随分遠くに人影があった。団長とラウラさんがいるみたいだ。遠いなぁ。
とはいえあの2人を待たせるわけにはいかないので小走りで向かった。近づいてみるとジャケットを羽織っていないよくみる格好の団長といつものふりふりなドレスではなく動きやすそうなジェマさんの作業着っぽい服を着たラウラさんが2人で話していた。
少し前までシチューを舌鼓してたというのに、今は嫌な予感で寒気がする。
「やぁおはようプレンツ」
「おはようございます」
「おはようございます。いい朝ですわね!」
「ええ。そうですね。……それで何をするんですか?こんなところまで来て。」
だだっ広い牧場の草原のど真ん中。辺りに障害物はほぼない。遠くに牛達が見えた。
「プレンツ。君の力はとっても精度が高い」
「はぁ。ありがとうございます。」
「確かにミスしてるところを見たことがありませんわね」
「魔法を消してるだけなのでミスってもそこまで目立たないですからね」
今までミスというミスはしたことはない……はず。観客は席から動かないから僕の魔法を観客席には当たらない角度で放ってしゃぼん玉で防げなさそうな魔法を消す、それが僕の仕事だ。
「しかし前の一件で君の苦手なことがわかった。」
「僕の苦手なことですか?」
苦手か。正直これしかできなかったから苦手も何もあんまり自覚がなかった。
「そう。ずばり!君は魔法を放ちっぱなしにするのが苦手だ。」
「あーーー。そう……かもしれないです。」
そう指摘されると確かにそうだ。あの時も思ったけど、出しっぱなしにするというのはこれまでやったことがなかった。大抵の場合は僕の力が魔法に当たれば消えるからだ。
「アメデオは魔法じゃないかもとは言ってたけど、そもそも魔法ってなんなのかわからないし、君の力もだいぶ特殊な魔法ってだけかもしれない、はたまた本当に魔法を消す何かしらの力なのかもしれない。とにかくわからないけど、もし魔法に似た力なら君が魔法を使えば使うほど君の身体に蓄えられる力は増えていくはずだ」
「相変わらず団長様でも魔法って断言できないんですのね。変な力だこと」
ラウラさんが肩を上下しながらそんなことを言った。ここにいればいるほど団長の目の凄さ、万能さがいろんな場面で判明するけど僕の力に関してはこの通りだ。
「そうなんだよね〜。ま、魔法かそうじゃないかはアメデオが気にすればいいよ。正直私にとっては些細なことだ」
些細なことだったらしい。
僕は結構気にしているんですけど!
この人案外適当というか、なんというか思考放棄気味なことをたまにいうんだよな。きっと激務に追われているから余計なことや答えが出ないことは考えないようにしてるんじゃないかなと分析をしている。優しい人だけどドライさも兼ね揃えている不思議な人だ。
「とにかく君の力は魔法として考えます。で、前置きが長くなったけど、君にはもっと力をつけて欲しい。どうやら魔法出しっぱなしだと結構ムラがあるように見えたからね」
「見えないのになんでムラがあるってわかったんですの?」
「空気に漂う魔素の消え方が詰まったポンプみたいだったんだ。もっと滑らかに出し続けられるといいだろう。ということで一石二鳥の訓練をしよう」
魔法のムラか。ムラがなければきっと無駄なく消費も最小限で魔法を放てるようになる。そうすればきっとよりガルニエを守れるようになるだろう。で、結局何をするんだ。一石二鳥とか言ってたけど。
「わかりました。無駄がなくなればよりやりたいことがもっとできるようになるかもしれませんね」
「そういうこと。一発一発の魔法はいい精度だろうからね。で、改めてこちら、ラウラさんです。」
「あ、どうもプレンツです。」
「ラウラですわ。」
今更すぎる自己紹介。
金髪の縦ロールの髪をかき上げるラウラさん。ちょっといい匂いがした。
「プレンツ。君にはラウラの魔法のコントロールの練習相手になってもらう」
ラウラさんの魔法のコントロール?
ラウラさんって魔法使えないんじゃなかったっけ?
練習ってまさか……あの馬鹿力!?
「——それって組み手とかのことですか……?そういうのはミッシェルさんとかがいいんじゃないかなーなんて」
あの怪力を僕の力で止めろと!?
無理だ。まだ素振りを何万としていた方がいい。
「組み手じゃなくてね。まぁ実際に見た方が早いか。じゃラウラ、プレンツ、ある程度距離を取って向かい合って」
な、何をされるんだ僕……。
嫌な予感しかしないんだけど……。




