第17話 突撃!グラン酪農!
腹の虫が体を震わせびっくりして早朝に起きてしまった。腕を中心に背中や腹筋までもが筋肉痛だ。なんか身体中じゃりじゃりするし。起きるにはまだ早い時間だけど、二度寝しようにも身体が汗と泥でべとべして気持ちが悪い。体を洗ってこよう。
寝ているフレンを起こさないように着替えをもってお風呂に向かった。外はまだ薄暗い。
脱衣所で服を脱ぎ浴室へ入る。朝はアヴェラルさんやフェルナンさんがたまにいるけど今日はいないみたいだ。掃除の時以外は暖かいお湯が出るのでとてもありがたい。この劇団に入るまではそこまでお風呂は好きではなかった。今となってはなくなったら困る存在だ。
シャワーを浴びたら思わず声が出た。疲れと泥が溶けて流れていく。ただの素振りで僕はこのありさまだ。あの二人はずっと飛んだり跳ねたりして稽古をしていたけど、よく持つな。超人と同じ尺度で考え動くととてもじゃないが身が持たない。ほどほどに付き合っていこう。
ただの一振り(僕には鞘を握っているようにしか見えてないから一振りではない可能性もあるけど)で大岩を砂に変えてしまうひとと、いや神様だけど、とにかくそんなこの世の頂点に立つ方と同じステージに立ってはだめだ。
いつか噂されていたっけな。ひとりでも軍や国相手にできるほどの人がこの劇団にはごろごろいると。ニニギさんには全く歯が立っていなかったティラクさんだって一般の兵士やそこら辺の部隊よりはずっと強いだろう。そしてニニギさんなら果たしてどこまでの軍事規模なら対等になるのか。
あの人たちがあんな感じでよかった。飲んだくれて女装している姿を見ていた方がこの世界にとっては平和だ。
また腹の虫が泣いている。湯舟にも浸かりたかったけどもう腹ペコで倒れて溺れるかもしれない。もう出よう。
身体を拭いて服を着た。一度部屋に戻ろうかと思ったけど汚れた服はここに置いておいて直接食堂へ行こう。もうそろそろ限界だ。そりゃそうだ。昨日の朝ご飯から何も食べていたいんだもの。
とぼとぼ食堂へ向かい歩いているとミッケさんが大きな鍋を置いた台車を運んでいるのが見えた。
「おはようございます。ミッケさん」
「ああ、おはよう。随分早いね」
「目が覚めてしまって」
ちょうど準備中だったか。さっさと準備を終わらせて食べてしまおう。
「これで最後ですか?」
「いやまだあるよ」
「僕何か手伝いますよ」
「ほんと?じゃこれこのまま食堂に持っていってくれるかい?」
「はい!わかりました!」
「できたらいつものところに置いておいてほしい。無理ならその場で置いておいて。それが終わったらその台車もキッチンに持ってきて欲しい」
「了解です!」
「元気がいいな」
言われた通りキッチンへ運び、少し低めのテーブルになんとかこの大きな寸胴鍋を置いた。今はオケ隊の人たちもガルニエに宿泊しているからいつもよりも量は多めなのだ。再び台車を引きながら食堂を出てキッチンへ向かう途中にミッケさんとすれ違った。大きなバケットに山盛りのパンが入っていた。
「お、来たね。これで最後だ」
バケットを台車に置いたミッケさん。
「やっとご飯を食べられる……」
「?」
そのまま僕が台車を引いてキッチンへ向かった。
「今日って何か予定ある?」
「今日ですか?」
今日も舞台は休みだから特にこれといった予定はない。強いて言えば散らかり始めた部屋の掃除をしたいところではあったがそんなものはいつでもできる。
「特にないですよ」
「ガルニエの裏の牧場に行くんだけど付き合う?」
「牧場ですか?」
そういえば遠くで牛っぽい大きな動物がいた気がする。そもそもここって牧草地帯っぽいし。
「昨日街に買い出し行ってたんだけど、話を聞いてたら牧場で牛乳とかチーズとか買えば町へ行くより近いし安いっていうからさ」
「いいですね。一緒に行きますよ」
「そう?買えたらいっぱい買っておきたいから人手が多いと助かる。キエリスちゃんがいれば別にいいんだけど、捕まるかわからないし」
ガルニエが移動した数日は団長もキエリスさんも出ずっぱりだからなかなか捕まらない。だから声をかけたのか。大荷物なら人手が多いに越したことはない。最後に信じられるのはマンパワーだ。
溢れんばかりのパンが入ったバケットを置いたらミッケさんはまたキッチンへと向かった。
「お先にどうぞ、ゆっくり食べてて。そうだな、9時ぐらいに門の前で待ち合わせにしようか」
というわけで丸一日ぶりの食事にありつけた。コンソメスープとパン、ソーセージとチーズが今日の献立だった。まさしく朝ご飯にふさわしい献立だ。言い換えればテンプレともいえるけど、ミッケさんの作るスープはどれもおいしい。ソースやスープといった味付けのクオリティがとても高い。
暖かいスープが胃に腸に染みわたっていくのを感じながら舌鼓していると続々と他の団員も集まってきた。
「おはよー今日は早いな」
あくびをしながらフレンが僕の隣にやってきた。
「昨日は先に寝ちゃったからね」
「そういえば修繕手伝ってから見かけなかったな。何やってたんだ?」
「ちょっと素振りをね。そうそうフレン今日は時間ある?」
「ん?あるけど」
「ミッケさんがここから近くの牧場へ行って牛乳とか買うから手伝ってほしいっていうから行くことにしたんだ。フレンはどう?」
「へー。いいな!行こうかな」
「9時ごろに門のあたりに集合だってさ」
「そっかじゃあ飯食って準備するか。取ってくるわ」
「僕はもう食べたから部屋に戻ってるよ。あと当番昨日の分やってなくて」
「おっけー。じゃ門のところでな」
ガルニエ内の当番はいろいろある。
お風呂掃除やトイレ掃除、屋上掃除、と大体が掃除だ。あと郵便物の仕分けとかもあるけど僕はやっていない。掃除といっても自分の部屋以外はラウラさんのお付きのセバスチャンさんがあらかた綺麗にしてくれているからそんなに時間がかかるものではないけど。
水の魔法が使える人は屋上にある貯水タンクに水を入れたり使える魔法によって当番が分かれてるものもある。掃除のときも水魔法が使える人は小手先で水を操って行っている。うらやましい。
ないものねだりをしても仕方がない、今日は屋上の掃除をする。
屋上には鶏小屋とハーブ園がある。あとは物干し竿など。結構高いからときどき強い風が吹く。ガルニエはベールさんのシャボン玉で包まれているから余程強くなければ風は吹かないようにはなってるらしいけど空気の循環も大事だからと完全にシャットしているわけではないと言っていた。
なかなか高度なテクニックだ。鶏たちに睨まれたり、無視されたりしながら掃除をして食べ残った穀物や葉物を置いて水を取り替える。あとは屋上の床を箒で掃いてハーブに水をやって終了だ。我ながら手際がいい掃除だった。
「あ、メド」
ガルニエに住み着く小熊のような黒猫。歩くと弛みきったお腹が右へ左へぼよんぼよんと揺れている。ひなたぼっこでもしにきたのかな。
後ろから見ているとハーブ園へ向かった。
猫ってハーブのにおい好きなのかな。カモミールにローズマリー、あとは僕が知らないハーブがたくさん植えてある。
そばを通るだけでいい匂いがする。ここで洗濯物を干すとほんのりハーブが香ってとても心安らぐのだ。きっと猫もそうなのだろう。
……いや違う。
毛を逆立てて真正面を見て気張っているメド。どうやらハーブ園には香りを楽しみにきたわけではないようだ。見たくなかったハーブ園の真実。すっきりしたような顔をするメドは建物内へと通じるドアへと近づき僕を見る。早く開けろと。
メドは取っ手めがけてジャンプをして取っ手を下に下ろしつつ、自重でドアを開ける優れ技を持っているのだが人間がいると開けさせるのだ。口ほどに目が言うとはメドのことだ。
「みゃーーー」
眼だけではなく口でも言った。
「はいはい。わかりましたよ」
開けた瞬間振り向きもせずに階段を下りていくメド。猫は自由気ままだ。
あれ今何時だ?
メドのセンシティブなところを見ている場合ではないのでは?
何か持っていくものあるかなと思ったが、特にないし、ちょうど汚れてもいい服を着ていた。このままでいいか。屋上から飛び降りてそのまま玄関口へ直接向かった。しまったもうみんな集まっていた。滑空の腕がだいぶ上がったからガルニエぐらいの大きさなら恐怖心もなくなった。人間は慣れと適応の動物だ。
「お、来た来た」
「すいません遅くなりました」
「掃除かい?」
「はい昨日すっぽかしてしまったので」
集まったメンバーはフレンとミッケさんそしてラウラさんだった。
「揃いましたわね。では行きましょう」
立派で大きな台車も置いてある。台車というかこれ馬が引くやつでは?
「キエリスさんはだめでしたか」
「うん。今日も団長ちゃんとご同行だってさ。時間あれば来るかもって言ってたよ」
「そういうことですの。仕方ありませんわね」
「ということでラウラさんよろしくお願いします!」
「ええ。もちろん。って!あなたたち台車乗って私が引くんですの!?わたくし!これでも王女ですのよ!」
フレンとミッケさんがすっと台車に乗ったから流れに乗ってみた。
「だめだったか」
「全く、あなたたちは歩きなさい」
そういうと台車を引きながら
「さ。行きますわよ。」
と言って本来なら馬に繋ぐであろう取っ手を持った。
ラウラさんが引くのは変わりないんだ。
突っ込んだりボケたり忙しい人だ。
男共は手ぶらで歩き、ラウラさんは大きな台車を引いて歩く。ラウラさんフリフリのドレスを着ているのにやってることは一番大変そうだ。これ周りから見たらどんな集団なんだ。本人は涼しい顔をして台車を引いている。これだけ大きいとコントロールが大変そうだけど。
「ラウラさん力持ちなんですね」
「ふふん。偉大で美しい姿からは想像できなくて?」
「え?まあ。外見からは想像つかないですね」
ラウラさんは他の団員の大火力魔法を舞台上で浴びてもピンピンしているぐらいとても頑丈な人だ。力持ちでもあったのは知らなかった。
外見は縦ロールで如何にも高貴そうで手入れが面倒そうな髪型をしている。背はキエリスさんぐらいか。このままでも舞台でお姫様を演じられるビジュアルをしているがどうやら本当に本物のお姫様らしいのだ。そしてそんなお姫様に肉体労働を強いて誰も疑問に思っていないこの状況。
「力だけならラウラさんうちの団でもトップじゃないか?」
「お~ほほほ!!フレン褒めても何も出ません事よ〜」
お~ほほほってほんとにいう人いるんだな。
「身体強化って魔法ですか?」
「私は違うらしいですわ」
「え、そうなんですか?」
難なくこんあ巨大な台車を引いているけど。
「身体強化って名前だけだと如何にも体を強くするみたいな魔法に聞こえるけど、実際は体中に均等に分布してる魔力を好きなところに集められることなんだ。ま、結果的に強化しているわけだけど」
「ってことはラウラさんのその力はなんなんですか?」
「シンプルに体内の魔力貯蔵量が半端ないだけ」
ふふん、と右手で髪をなびかせるラウラさん。褒められて嬉しそうだ。
「舞台を見ていて、てっきり攻撃を軽減するような特殊な魔法を使ってるものかと。魔法に耐える何かコツってあるんですか?」
身体強化はその名の通りミッシェルさんやティラクさんのように攻撃にも使えるし、防御にも万能な技術だと聞いたことがある。
ラウラさんが魔法を使っているのを見たことがなかったから何か特殊な魔法を使っているのかなと思っていたのだ。
目に見えない魔法の防御といえば最初に思いつくのが、身体強化ぐらいだった。というかこれ以外思い当たらない。
しかし本人は身体強化なんて使えないというから一体どうやって魔法に耐えているのだろうか。
「特にないですわ。そのまま全身で受け止めてるだけですわ」
「そ、そうなんですね。」
今まで聞いた中で一番化け物じみた話だ。
なんなんだこのお姫様。
あの大火力を種も仕掛けもなく受け止めていたとは。さすがにみんな手加減はしているんだろうけど。
「モーー」
時折僕たちを見た牛たちが挨拶をしてくる。
「やっぱり乳牛だね。結構な頭数がいるみたいだ」
「近くで見るとやっぱり大きいですね」
白黒模様と全身茶色と二種類の牛がいるみたいだ。
牛舎とおそらく管理しているであろう家族が住んでいる家がだいぶ近くなってきた。
思っていたよりもずっと大きい牛舎だ。作業をしている人がいる。
ミッケさんが手を振るとあちらも手を振り返してこちらに近づいてきた。
立派な角がこめかみあたりから生えている。おそらく牛の亜人さんだ。
「やあ」
「こんにちは。ここの牧場の人ですか?」
「ああ。そうだよ」
挨拶をした亜人さんは体がとても大きかった。パツパツになったオーバーオールを着ている。
「私たちあそこの建物の人間でして、牛乳などを街に買い行ったらここを紹介されまして、ここで買うことってできます?」
「ああ。もちろん。あれなんだっけ確か劇場なんだっけ」
「はい。Flying Twinkle Caravanという劇団でして」
「そうそう!サニィから聞いたよ。ちょっと土地を貸してくれって言うからさ。あれだろ。リオのほうではかなり有名なんだろ。俺は疎くてな」
「ええ。ここでも公演をすることになりまして、ぜひ見に来てください」
「そういや家内がチケットもらったって言ってたっけ。まあとにかく家まで行こう。」
* * * * * * *
「妙な連中が歩いてるなとは思ってたがそういうことか。だってこんな嬢ちゃんが馬みたいなことしてよ、しかもかわいらしい格好してよ」
「わたくしはどんなときであろうと可憐でエレガントでしょ?」
「え?ああ。そうだな。」
僕たちは慣れているけどお嬢様ムーブに困惑している。付き合わせてごめんなさい。
「俺はグランだ。見ての通り酪農やってるんだ」
「紹介遅れました。ミッケといいます」
「フレンです!」
「初めましてプレンツです」
「ラウラですわ」
「おう。よろしくな。みんなその劇団の人間ってことなのか?」
「私は専属のコックでして他の三人は劇団員ですよ」
「へ~。子供もいるんだな」
「僕は舞台には立たない裏方なので。」
「ふーん。それで皆さんの分の食材集めってわけか」
「はい。今は大所帯でして。ちなみに何が買えます?」
「牛乳とチーズとあと一応ヨーグルトもあるぜ。あ、あとそんなに量はないがとっておきもある」
「とっておき?」
「ま、実際食べたり飲んだりしてから判断してくれ」
そんな会話をしている間にグランさんの家に着いた。白い壁に屋根がオレンジ色のきれいな家だった。
「どうぞ。そこのテーブルで待っててください」
そういうとそのままドアから外へ出てしまった。
「まあ!見てくださいまし!赤ちゃんですわ〜」
小さなベットに寝ている赤ちゃんを見て興奮するラウラさん。
「あんまり大きな声を出したら目が覚めちゃうよ」
「あら失敬」
角はまだない。こうしてみるとほとんど人間の赤ちゃんと変わりがない。グランさんも角と尻尾が生えているだけだった。いろんな人がいるんだろうけど、グランさんの一家は比較的人間に近い種族なんだな。
「へえ。かわいいな〜」
顔がとろけるフレン。ほのかに赤ちゃんの周りはミルクのにおいがして癒される。
「こんにちわ~夫から聞きました~」
ドアが開くと同時にゆるふわボイスが聞こえた。グランさんの奥さんだろうか。
な、なん……だと……。
目の前に現れた牛の亜人。目に入った瞬間度肝抜いた。
そんな馬鹿な、ありえないっ!!
オバーオールを着ている奥さん。こめかみには角が生えていて尻尾が生えている。そんなのが目に入らないぐらいの。
「おっぱいデッカイですわね!!!」
まるで胸に樽を二つぶら下げているかのような巨大な胸。
もはや畏怖の念すら抱かせる大きさだ。断っておくがやましい気持ちは一切ない。魚市場でクジラが丸々一匹陳列されていたら誰だって目を引くのと同じことだ。
そしてやはりあれはどうなっているのか、あのはちきれんばかりのオーバーオールの下はどうなってくるのか興味が湧いてくる。
もちろんこれもやましい気持ちはない。無理があるだろと思われるかもしれないが、これは純粋な興味だけなのだ。
「確かに人よりは大きいかもです~。あ、試飲ですよね。持ってきますね~」
右へ左へと樽を揺らしながら出て行ってしまった。
「すごかったな。」
「すごい。」
「すごかったですわ。」
「すごいですね。」
四人で語彙力がどこかに行ってしまった。表現者を生業とする僕らにとって恥ずべきことだ。
なぜか全員で遠い目をしている。なんで?
「お待たせしました~。どれも今日絞れたてで新鮮ですよ~」
そういいながら奥さんはお盆に牛乳が入った瓶二本とチーズ、ヨーグルトを持ってきた。
「ありがとうございます。急な押しかけにもかかわらず」
「いえいえ。お客さんから買い付けに来てくれることなんてあまりないからうれしいです~。私ルミって言います。よろしくお願いしますね~」
「ルミさん初めまして。ミッケです」
心なしかイケボのミッケさん。
「フレンです」
フレンもカッコつけてる。
「プレンツです」
流れに乗り僕もカッコつけた。
「ラウラですわ」
ジト目で僕らを見下すラウラさん。そんな目で見ないでほしい。世の中の男性なら誰だってこうなるのだから。
「みなさんよろしくお願いします~。はいどうぞ~」
コップに僕らの分の牛乳を注ぎ配るルミさん。
いちいち揺れるあれをついつい追ってしまう。
「はいどうぞ~」
「ありがとうございます」
うん。美味しい。何というか味が濃い。場の雰囲気の影響があるかもしれないけど、とにかくおいしい。
「とっても美味しいです。」
「ほんとですか~。よかったです~!」
「う~ん。まさしくミルキーですわねえ」
「美味しいですね!」
「ええ。とっても」
「一気に飲んでくれてうれしいです~。じゃ次はお口直しでチーズもどうぞ」
表面は白いけど切ったら金色に輝く断面。独特のチーズの匂いが香ってきた。薄くスライスされたチーズを口に運ぶ。
「ほんのり塩気があっておいしいですね」
「香りもとってもお上品でいいチーズですわね」
「パンに乗せて焼いてもすっごく美味しいですよ」
「ミッケさん買いますよね」
「うん。とっても美味しいです」
ドアが開く音がした。
グランさんだ。
「お、早速食べてるな。どうですか?」
「とっても美味しいです」
「すっごく美味しいです」
「そうかそうか」
「今度はヨーグルトもどうぞ~」
小さな器にドロッとしたヨーグルトが流れていく。
「いただきます」
木でできたスプーンでヨーグルトを掬い口に運んだ。まったりしている中で酸味が舌を刺激する。鼻腔に抜ける匂いは爽やかだ。
「こちらは酸味が効いてますわね」
「いい酸味ですね。」
「こういうヨーグルトはジャム入れて食べてもおいしいんだよな」
「そうなんです~。ジャムとかはちみつも会いますよ。水気をきってスープに入れても結構おいしいです~」
「用意してもらってありがとうございます。この三つとも買わせていただきます」
「あ、まだあるんですよ?」
そうルミさんが言うと先ほど注いだ牛乳の便とは違う瓶でグラスに注いでいく。
見た目は同じだけど牛乳ではないのだろうか。粘度なども特に普通だったけど。
「こちらは先程の牛乳と違うんですか?」
「ああ。これがとっておきだ」
「とっておき?」
「まあ飲んでみてくれよ。」
腕を組み誇らしげなグランさんの声に四人で顔を見合わす。
注がれた牛乳に鼻を近づけて嗅いでみた。牛乳のような匂いがするけど。恐る恐る飲んでみた。
……確かに先程の牛乳とは若干味が違う気がする。香りはさっき飲んだ牛乳ほどではないのか?味はうーん。特段変わってるというほど変わりはないけど本能的に美味しいと感じる。あ、ちょっとだけ血の匂いがするかも。味はするけど濃厚というわけではない。今までで感じたことのない飲みごたえのある飲み物だ。
「どうですか?」
「なんだろう。いろんな牛乳を飲んできましたけど、不思議な味がしますね。牛乳よりもより水に近いのかな」
「確かにいつも飲むような牛乳ではないな」
「わたくしどこかで飲んだことがあるような気が、うーん。でも美味しいに変わりないですわね」
「そうですね。僕はこっちのほうがなんというか身体が欲してる味がする気がします」
各人思い思いの感想だったが、概ね好評だった。
「そうかそうか。」
やはり誇らしげなグランさん。
「これ実は今朝、私が絞ったものなんです~」
「?新鮮さで味が変わるということですの?」
聞いたことがある。熟成というやつだ。搾りたてだとフレッシュな味わいだが時間を置くことで味がまとまってくると。先ほど飲んだ牛乳は少し置いた熟成したもの。そして今飲んだのは今朝方採った牛乳だったというわけか。同じ牛乳でもこうも味が変わるとはなぁ。
「いえ~最初に飲んでもらったのは牛さんので今飲んでもらったのは私のものなんです~」
なん……だと……?
「それってつまり」
「ルミさんの母乳ってことですか」
「そういうことです~」
「これが」
「もうすごい出ちゃって赤ちゃんにあげる分だけじゃ溢れちゃうので毎日朝昼晩と絞ってるんです~」
「詳しいのは知らんが結構栄養もあるみたいだからさ。それに縁起物としても売れる国があるっていうからちょうど皆さんに飲んでもらってどうかジャッジしてもらいたくてな。その様子だと問題なさそうだな」
「思い出したわ!わたくしも小さい頃牛の亜人のミルクを飲むと健康に育つと言われて飲んだことがありましたわ!そういえばこんな味でしたわね」
ラウラさんが叫ぶ。さすがいいとこの出のお姫様だ。
「へ~そういうのあるんだな。実際に子供が生まれてくる頃とそれから一年ぐらいしか乳は出ないだろうからな。安定して供給するのは難しいけど、こうしてあるうちは売っておくか」
これは決してやましい気持ちはない。だから声を高々に胸を張って言える。
「ルミさんのミルクとっても美味しいです」
「なんでちょっと声のトーンが低めなんですの」
こうして大量の牛乳とチーズとヨーグルト、そしてとっておきのミルクを台車満載にしてガルニエに戻ることになった。2人が僕らに手を振る。
「ありがとうな~またよろしく頼むぜ~」
グランさんの声に手を振り返す僕ら。ガタガタと音を立てながら台車を引くラウラさん。
「いや~しかしいい買い物をした」
「安いって言ってましたわね」
「仲介会社がいないからお買い得だよ。うちは人もたくさんいるから大助かりだ」
「それは良かったですわ」
「なあプレンツ」
「どうしたの?」
「牛の亜人を団員にしてさ。舞台に立ってもらえばきっと見る人が増えると思わないか?」
「ガルニエをストリップ劇場にする気ですの?」
すっかりお昼の時間だ。これからしばらくは牛乳を使った料理が多く並ぶことだろう。とっても楽しみだ。
「プレンツも何をニヤついてるんですの」




