第16話 やりたいこと、学びたいこと
イビポランマランの首都であるリオを離れて次の公演地である都市パウロにやってきた。
大きな街のはずれにガルニエは転移したようだった。リオのように大都市のど真ん中にガルニエを置けるのは稀中の稀だろう。大きな街の後ろは草原が広がっている。サンリスタニアでも同じような光景だったな。
先ほどまでの街の賑わいがなくなり静かな風の音が聞こえる。気温は高いけど、風が抜けて少しだけ涼しく思えた。風の匂いもリオとは異なり草原の匂いして爽やかだ。
「はい。到着ー。キエリスお疲れ様」
「いえいえー」
「さて、いろいろ予定が変わってこの都市で一ヶ月ほど滞在することになりました。理由は特に聞いていないけど、まあそういうときもあるだろう。明日明後日はお休み。という名のガルニエのメンテとかだ。手伝える人は手伝って欲しい。キエリス、ルミオ。郵便とか行くからついてきてほしい。ミッケいるかい?」
「いるよ」
「買い出し行く?」
「行く」
「じゃついてきて。そうだな。1時間後ぐらいに出るから街まで行きたい人はここに集合すること。では解散」
* * * * * * *
リオでの公演が一旦終わった。ここパウロで公演を行ったのちにまたリオで公演を行う予定らしい。長かったようであっという間に首都での公演が終わってしまったな。
リオは大都市で賑やかだったけどパウロはどうなんだろうな。遠くに大きな町が見える。ここら辺は閑散としているというか牧草地帯で何もないけど町は結構大きいからそれなりに人口が多そうだ。大都市のど真ん中というのは見るのに飽きないけど、ここみたいにのどかな方が落ち着くな。
そんなことを吹き寄せる柔らかい風を感じながら玄関で立っているとニニギさんとマルクスさんの声が聞こえた。
ニニギ「ティラク、マルクスが今日は傷んだ劇場内の板を張り替えるそうだ。マルクスが良ければ我らも手伝わぬか?」
マルクス「ええ。大体張り替える場所の目星はつけました。お手伝いしてもらえるなら大歓迎です」
ティラク「もちろんです師匠。フレン、プレンツ!お前らもやるか!」
フレン「ああ!やるよ。プレンツもやるか?」
プレンツ「はい。もちろん」
マルクス「よし。じゃみんな下の工房に行こうか」
こうしてマルクスさん主導の元、ガルニエのプチ修繕が始まった。
地下にはアメデオさんの研究室兼医務室。倉庫、金庫室、工房などがある。マキシマ・ラピス社の人たちがガルニエに常駐していて大道具やガルニエ内の設備などを修復したり新しいものを取り入れたりしている。たまに舞台がお休みの日は手伝っているのだ。
「マルクスさん」
「どうしたプレンツ」
「目星つけたって言ってましたけど、マルクスさんが調査したんですか?」
「今回はそうだね。舞台に出てたりするからおざなりになっちゃったりもするけどね。俺のことただの食い意地張ってるやつだと思ってただろ」
「よく食べるな〜とは思ってましたが」
否定はしなかった。実際いつもお腹空かせているし。いつも美味しそうにご飯を食べているのをよく見る。
「団長はあんなバンバン簡単そうにやるけど、土の魔法ってめっちゃ魔力を使うんだ。俺だってこの団の中じゃそれなりに魔力はある方だけど、使う魔法の燃費が悪いから腹もすぐ減るんだ。ほんと、団長は涼しい顔して踏み込んでるだけにしか見えないからな。土の魔法ってあんまできる人もいないしこの苦労がわかる人ってなかなかいないんだよな」
「いわれてみればマルクスさんと団長以外は使ってないですね」
マルクスさんと団長と数人程度しか土を使った魔法って使う人見ないな。舞台では団長とマルクスさんがほとんどだ。難度もありそうだけどシンプルに必要魔力要求量が多いんだな。これは知らなかった。
「そういう意味ではプレンツの魔法だって誰にも理解されないよな。血の魔法あるあるだな。あれ?てか結局プレンツのって血の魔法なの?」
「そういえば血の魔法とは言われた事ないですね」
アメデオさん達はもはや魔法じゃないのでは、とまで言われているしな。結局僕の力がなんなのかはわからないな。
「案外自分のことってわからないものだよな。教会とか塔とか建物を見るのが好きなんだけどさ。前はこの橋かっこいいなーとか思ってたのにある日見たら微妙だなって思う時もある。一晩寝るだけで意見が変わっちゃったりすることって結構あるよな」
「あとお腹減ってる時とかですね」
「それは間違いなくあるな。腹減ってる時と満腹の時だと感想が全然違うな。やっぱ自分てのはわからん」
そんな話をしながら地下へと進んだ。後ではニニギさん、ティラクさん、フレンで落ちてくる葉の葉脈のみを残して葉っぱを切るコツを話していた。暇つぶしにする話のレベルが高すぎる。マルクスさんが工房の扉を開ける。一気に木材と塗料などの匂いが鼻を抜けた。僕はこの匂い結構好きだったりする。なんだか新築の丸太でできたコテージにきたみたいな匂いだ。
「キマキさん、マキマさん今日は助っ人いっぱいいますよ」
「おお、皆さんいつもすみません」
「問題ない。自分の家を直すのは当然だ」
「そう言ってもらうと助かります」
キマキさん、マキマさんはマキシマ社の社員さんだ。ジェマさんの所属しているフォレスティエ社のようにマキシマ・ラピス社からスポンサー料をもらっているらしく、ガルニエという巨大広告維持のため諸々の修繕などを行なっている。
2人ともタオルを額でぐるぐる巻きにしている。少し背が低い。といっても僕よりは高いけど、筋肉隆々の双子だ。どうやら身体強化の魔法を使っているようだ。衣食住を共にしているから違う会社の人とはいえとても仲良くしている。
容姿が少し人間のそれとは違う。もしかしたら亜人なのかもしれない。
キマキ「ニニギさんがいるならとっても助かる。線引いてあるからこれに沿って切ってもらいませんかね」
ニニギ「終わったぞ」
鞘を握ったと思ったら物騒な音がして木材が綺麗に切れていた。いつ見てもこの人の剣筋が視認できない。
マキマ「いつもすいませんね」
ニニギ「この程度飲み過ぎで腹を下している時でも容易い」
キマキ「さすがにそんな時は頼みませんって」
ニニギさんがいればノコギリいらずだな。多分木材以外もバシバシ切るだろうし、一家に一台ニニギさんだ。
仮にも、というか本物の神様を便利な何でも切り屋にしてるのはいつかバチが当たりそうだ。
ニニギ「して、これをどうすればいい?」
キマキ「あとはこの木材を修繕する箇所に持って行ってください。板がもう剥がれているのでわかりやすいはずです。終わったらそうですね。じゃこの塗料も同じ場所に持って行ってください。どこに持っていくかは書いておくんで」
透明な塗料と黄色、茶色の塗料。いくつか茶色の種類もあるようだ。
プレンツ「透明な塗料って色付くんですか?防腐剤みたいなものですか?」
キマキ「ええ。耐魔性木材ってのもあったりするんですが、それをこの規模の建物に使うのは金額面と希少性から難しいんで、木材は普通のものなんです。行く先々で調達してたりするんですぜ。運ぶのはキエリスさんがいるから大助かりです」
さすが転移の魔法だ。輸送において便利すぎる。
ドヤ顔で胸を張るキエリスさんが目に浮かぶ。
キマキ「耐魔性特性のない木材に耐性をつけさせるのがこの透明な塗料です。詳細は企業秘密ですがね。こいつを塗ってから他の塗料を塗ることで耐魔性を上げてるんです。本当は塗料の上にコーティングするように塗りたいんですけど、木材の上から塗らないとなかなか効力を発揮しないので」
結構手間がかかってるんだな。ベールさんがしゃぼん玉を張って守っているのは知ってたけどそもそもガルニエ自体が頑丈に作られてたんだな。
企業努力とベールさん、そして僕の力でガルニエは守られている。
僕、結構責任重大なのでは?
キマキ「透明の塗料、次に普通の塗料、あとは艶出しの塗料を塗って最後にコーティングを塗ったら完成です。このコーティングはほぼ気休めみたいなものなのですぐ禿げてしまいますけどね」
マキマ「俺らの頭みたいにな!」
「「がはははははははっ!!!!」」
急に笑いにくいジョークを入れてくるキマキさんマキマさん。苦笑いをしておいた。
マキマ「だから3日に1日はお休みを頂戴して塗り直してるんです。とは言ってもベールさんとプレンツくんのおかげでだいぶ減りましたがね」
フレン「褒められてるぞ」
プレンツ「い、いやあ。僕はそんなこと」
照れくさいな。僕の力がこうしてこの団に貢献できているととても嬉しい。目立たない裏方だけどここに存在価値があって頼りにされると気分はいいものだ。
マキマ「じゃまずは木材の方をお願いします。塗るのは結構コツがあるんです。ムラができやすいので俺らでやります」
ニニギ「わかった。よろしく頼む」
キマキ「あ、マルクスさん電気室に寄ってもらえねえかな」
マルクス「ああ。大丈夫だよ了解。」
マルクスさんと木材を持って劇場へと向かった。
木材が結構長いから壁などにぶつからないように慎重に。
「ガルニエは電気が通っているし、生活していて快適ですよね。停電とかトラブルも少ないですし」
「ああ。頑張って作ったからな。大変だったんだぜ」
「もしかしてマルクスさんも手伝ったんですか?」
ガルニエはマキシマ社が建造したとのことだったが、団員の中から手伝った人もいただろうか。
「ああ。というかこれを設計したのは俺なんだぜ」
「え!そうなんですか!?」
「ああ。知らなかったか?設計とは言ってもこれは大昔にあった世界で一番有名な劇場を真似たものなんだ。居住スペースとか劇場自体をうち専用に変えたけどね」
「設計ってすごいじゃないですか!全部マキシマ社が作っていたと思っていました」
手伝うどころの話ではなかった。設計ということはこの巨大な建物の図面を全部書いたってことだ。元のモデルがあったにせよ、相当大変だっただろう。
「元々この団に入ったのも世界中の建築物を見たくて入団したんだ。演技はまぁ今となっては本業みたいになってるけど。よし、一回下ろすぞ」
マルクスさんが2階客席にい入る扉を開けてストッパーを噛ませた。
建築の勉強のためか。夢があるのはかっこいいな。
剣の道や学問を極めようとしていたり舞台以外の夢があるのは僕にとっては輝かしいく見える。
夢か。
僕の夢ってなんだろう。
そもそもこんなことを考えられるようになったのはここに入ってからだ。
うーん。夢か。
「よし。持ち上げるぞ。いちにのさん!」
「よいっしょ。それにしても建物の勉強って難しそうですね。」
「ああ、耐震とかの耐久性。ガルニエは浮いてるから地震は関係ないけど、そもそもみんなの放つ魔法が強烈だからな。耐久度を上げると建物が重くなっちゃうし、全部のバランスをとるのがむずかしいよ。正解なんてないしな。よし。ここだ。下ろすぞ指挟むなよ。」
「「せーの」」
「よーしお疲れ。こういう大工仕事とかもそれなりにしてきたけど、キマキさん達のほうがずっと上手だよ。設計士はあくまで設計さ。でも土の魔法は使えるからな。自分で想像した図面でいろいろ試行錯誤できるのは俺にとっても合ってる魔法とも言える。よし、ペンキ運ぶ前に2階の電気室に行こうか。もう終わってるかもしれないけど」
舞台を出て長い廊下の先に金属でできた分厚そうな扉がある。電気設備室と書いてある。
マルクスさんが扉を開けると中には既に作業をしている人がいた。油に塗れた作業服、長い黒髪の髪は後ろで結い帽子をかぶっている。
ん?こんなひといたか?
設備系だからキマキさんが先回りして作業をしていると思っていたけど。
「どうですかリーホワさん」
「だいたい終わったわ」
ぴんと張った背筋が綺麗であの綺麗な黒髪の長髪、独特な流し目。
まさかのリーホワさんだった。
「ってリーホワさん何してるんですか!?」
「何って調子がよくなかったところを直していたのよ。あと交換できる部品はしてただけ」
「俺の出番はないかな」
「ええ。終わりよ」
いやいやいやいやちょっと待ってほしい。
「な、なんでリーホワさんがこんなことを。リーホワさんあなた皇族の人じゃなかったんですか!?」
だいぶ身分が上の人なのにこんな油に塗れてしまって。
「そうだけど皇族だったら機械弄りをしちゃいけないの?」
「い、いやそんなことはないですけど、全然想像がつかなかったのでびっくりしました」
「リーホワさんは機械とか電気機器の技術を学ぶためにこの団に入ったんだよ」
「そ、そうだったんですか。な、なんと。驚きました」
あの舞台で異色の雰囲気を放つ東洋美女が目の前では頬についた工業油を手で拭っている。
信じられない光景だ。ここ最近で一番びっくりした。
しかし美人というのはこんな油に塗れた作業着でも立ち居振る舞いから美人だな。これはリーホワさんだからだろうけど。
「電気関係はソフスさんも詳しいぞ。興味があったらいろいろ聞いてみるといいよ。きっとわかりやすく教えてくれるさ」
「私が教えてあげてもいいわよプレンツ」
ニヤリと笑いながらこちらを見るリーホワさん。
「お、お時間あるときに是非とも」
まだ目の前の光景が慣れない。リーホワさんが作業着を着ているなんて。
「あんまりジロジロ見ないでよ。それとも普段とは違うギャップが好きなの?」
「い、いえあまり見ないお姿でしたのでつい。」
「なによその言葉遣い。じゃ私上がるから。あ、鍵戻しておいて頂戴」
「うん。ありがとう。任された」
僕たちを置いて歩くリーホワさんは右手をあげてマルクスさんに応答した。
皇族系工学女子リーホワ。恐るべし。
「じゃ、塗料系を運ぼうか」
「そうですね」
塗料を運び終わり工作室に戻ったが誰もいなかった。作業をしていたキマキさんに話を聞くとニニギさんとティラクさんは外で稽古をすると言っていたらしい。マルクスさんはキマキさんの仕事を手伝うとのことだったので稽古を見に行った。お昼まではまだ時間もあるし。
特にやることも無くなってしまったしな。いや部屋の掃除をしたいところだが一旦見ないフリをした。
ガルニエの正面からは大きな街が見える。こちらにはいないということは裏の草原の方か。ガルニエをぐるっと周り裏にいく。草原の匂いがとても爽やかでいい。たまに地鳴りやものすごい音が聞こえてきた。もう始まっているみたいだ。
凄まじい速さでニニギさんに切り掛かるティラクさん。一切の遠慮も隙もない。対するニニギさんはただ立ったまま刀を振るう。地面が減り込むほどの剣戟でも涼しい顔をして一歩も動いていない。両者ともどうやら模擬刀を使っているようだ。剣技が速過ぎて目で追えていないから確証はないけど。
「———金輪流・流金鑠石」
ティラクさんが地面スレスレまで姿勢を低くしてニニギさんの目の前まで飛び込んだ。ニニギさんの下半身から顔にかけて突の乱れ打ちを放った。
「いいぞ。その調子だ」
乱れ打ちに対し同じく突で返すニニギさん。顔面を狙った突を突で返しそのままティラクさんの体ごと後方へ飛ばした。
剣と剣の突合いって、あの薄っぺらいもの同士を突合わせるだけでもとんでもないことなのに、そのまま突き飛ばすってそんなことできるんだ。吹っ飛ばされたティラクさんはバク転をして受け身を取る姿勢を作り足が地面についた刹那、また斬りかかった。今度は弧を描いてニニギさんに飛び掛かる。そして弧に沿うように体を回転させて右手に持った剣と共に高速回転していく。
「———金輪流・三輪清浄」
金輪流。
その名の通り、まるで黄金色に輝く輪を描くような剣捌きが特徴の流派らしい。光を反射した剣がそう見えるだけなんだろうけどとても綺麗だ。側から見るだけなら。
あの勢いのティラクさんに対してニニギさんはどう対処するのかと思ったら、簡単そうに振り払った。高く飛ばされるティラクさんは綺麗に受け身を取り、着地するとそのまま座り込んだ。
「はー結構いい感じだったんだけどなー!!!」
「ちゃんと重かったぞ。その調子だ」
どうやら一区切りらしい。
地面を見るとニニギさんを中心に地面には無数の斬撃の跡が残っていた。ニニギさんたちは僕の約30メートルほど前方にいる。これ以上近づくとあの斬撃のかまいたちで体が切れる。このフォレスティエ社の衣服すら簡単に切れてしまう風圧をあのふたりは出すのだ。怖すぎる。
ひとまず休憩のようなので近づいてみる。
「お疲れ様です。凄かったですね」
ティラクさんって確か師匠たちを全員倒したと言っていたからかなり剣の腕はいいのだろうが、ニニギさんが遥か上すぎて凄さがわからない。僕のボキャブラリーではとにかくすごい以外に表す言葉がない。
他の表現と言ったら怖いだけだ。神様だからなぁ。そりゃそうだろうけど圧倒的すぎる。
「ああ、プレンツご苦労」
「おう。そっちも運び終わったか」
「はい。相変わらずすごい稽古ですね」
「そうか?いつも通りだよ」
「ちゃんと上達しているぞ。その調子だ」
「本当ですか!?嬉しいけど手応えは全くないんですよねー!あはは!!」
ティラクさんの踏み込みや剣を振るう際に身体強化の魔法を駆使しているから地面にはすごいめり込んだ跡が残っていた。それを一歩も動かずに受け流し、吹き飛ばすニニギさん。
しかもこのひとずっと目を瞑ってるんだよな。一体どうなってるんだ。
「ティラクさんの金輪流ってすごい綺麗ですよね。こう円を描く感じが」
語彙力が残念なのは僕が武器の扱いに明るくないからだ。そういうことにしておこう。
「そうか?そう言ってくれると嬉しいな。綺麗ってことはそれだけ無駄がないってことだからな!」
「あんなに速い剣捌きでもブレているようには見えないですね」
「そりゃ鍛えてるからな。あとは素振りもちゃんとやってる。ま、ニニギ師匠からすればまだまだなんだろうけどな」
「もちろんまだ上はあるが、研ぎ澄まされてきている。素振りは基本の中の基本だ。やればやるほど無駄やブレがなくなり、キレが出てくる。素振りに終わりはない。」
「へぇー」
素振りって初歩の初歩ってイメージだけどどれだけ上手くなってもやる意味があるんだな。
料理でいう卵料理しかり、魔法でいう水魔法しかり。
「プレンツもやってみるか?」
「い、いや僕はいいですよ」
「遠慮するなよほら!真剣じゃない模擬刀だ。危なくないから大丈夫だ!!」
この二人の後だと恥ずかしいというか場違い感が否めないけど。
「肩幅ぐらいに足を開いて少し右足を出して、しっかり鞘を握って頭の上にー。そうそう。そして振り下ろす!」
「えい!」
振り下ろすだけで少し寄れるし剣を止める時もブレてしまう。
「そうだ。一振り一振り、目の前の西瓜を真っ二つにするイメージで振りかざすんだ。プレンツには少し大きい剣だからな。少し重いかもしれないが毎日4万回もやれば慣れてくるだろう」
「あはは。400回でも冗談に聞こえる回数ですよニニギさん」
「いざやってみるとあっという間だぜ!よし!じゃ俺たちはまだやるからプレンツはその調子で素振りをやっておくといい。師匠もう一本お願いします!!」
「ああ。昼飯もまだだしな。どれやろうか」
え?これほんとにここで永遠に素振りやることになってないか?
「あとは空中で踏ん張りが効くようになるとより幅が広がるぞ」
「空中で踏ん張るかー。ん〜。いろいろ試してみます!」
僕の不安を置き去りにして2人は異次元の話をしている。
綺麗な夕焼け見えたところで僕たちの稽古は終わった。
もちろんお昼ご飯はなかった。素振りは気がついたら数えるのを忘れていた。腕がプルプルと痙攣してもう何も持てない。
ときたま襲いかかる二人の剣圧で起こる土埃に何度も襲われ身体がドロドロになったが、体を洗う余裕もなくそのまま寝てしまった。




