第15話 麗らかなる地平線よ その3
トカゲちゃんと別れてから海辺がきれいだというので見に来たら何かが波打ち際に打ち上げられていた。
全身傷だらけの初めて見る亜人だった。彼女を連れてサライに戻りアメデオに診てもらった。
しばらくすると傷もよくなり、話せるようになった。
この亜人こそがサッフィだ。
元気になっていくサッフィと話しているうちに彼女から絶え間なく何かが出ているのが見えた。
言葉にするのは難しいけど、波のような波動のようなもの。どうやら人間では聞き取れないエコー音のようなものだとわかった。
アメデオの見立てでは外見とその力の特徴からシャチの亜人なのではとのことだ。
愛嬌のある性格と愛くるしい見た目も相まって団員みんなともすぐに打ち解けた。すっかり元気になったところで家族の元へと帰るとサッフィが言うので海まで見送ったが彼女のエコー音を出しても反応がなかった。
事情を聞くと家族と海で暮らしていたところ逸れてしまったのだそうだ。普段サッフィはこのエコー音で家族と会話をしているようでエコーを出していればどんなに離れていても気づくはずだという。家族といっても親戚なども集まった20人ほどでこの大海原を自由に回遊していたと。もしかしたらものすごく遠方にいて聞こえてはいるけど向かっている途中なのかもしれない。
しばらくカミラとともに海中で家族を探したが見つからなかった。仕方がないので一度サライに戻った。
その様子を見る影があった。誘拐を先導している政治家の手下だった。政治家の狙いは劇団の手引きをしたサニィを排除すること。神は畏れられることで力が増していく。信仰心が得られなくなれば力が弱くなり消えてしまう。
そのため魔法劇団などという得体の知れない連中が亜人と手を組んでいるのを目撃できたのは好都合だった。そしてこれを利用し、サニィの信仰心をこの国から消してやろうと目論んだ。
亜人を共通の敵とし、亜人を倒すべき敵と定義し排除しようとしていたところ突如現れた神。
大統領達は神にも亜人にも頼らない、人間だけの国を築こうとしていたところを邪魔されていたのだ。
この地では多くの亜人がいたため亜人に対してそこまで偏見はなかった。が、わかりやすい敵を作ることで人間の団結力を高めようとしたのだ。
シャチの亜人は珍しいので悪役の筆頭として祭り上げようとした。が、そういう趣味を持っている権力者に売り飛ばすことになった。
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その日もボクは海岸へ行き、家族を呼んだ。
「みんな!ボクはここだよ!どのくらい離れているの!?返事をしてよ!お父さん!お母さん!」
少し沖まで出て呼びかけ続けた。しかしこの日も家族も返事も来ないままだった。
「まだ頭が痛い。みんなは陸は危ないって言ってたけどいい人たちがいたよ!怪我をして死にそうになってたボクを治してくれた!傷はまだ痛むけどもうみんなの元へ帰れるようになったんだ!」
海の中でアメデオに巻いてもらった頭の包帯を気にしながらもボクは叫んだ。
突如猛スピードでボクに近づいてくる何かの音がした。あれは漁船?
漁船はボクに目掛けて網を放った。ボクは魚じゃないと伝えようとしたところで身体中が痙攣した。意識が遠のきながら家族だった人たちから聞いていた電気を流されたのだとわかった。ボクは抵抗もできずに網に流された電気で気を失った。
霞む目の前の景色で酔いながら網に囚われなすがままに身を委ねていた。漁船のクレーンで吊られていた。網から解放され頭から漁船の床に叩きつけられた。強い衝撃で意識が遠のくなかで逸れてしまったときのことを思い出した。
自分がこの力を制御できないために仲間を危険に晒していると群れの仲間に言われた。
みんなボクを殺そうとしたけど、ボクの両親はボクの身代わりになった。なってしまった。
そして逃げ惑いながら急な海流に飲まれてしまい気を失ってこの海岸に辿り着いたんだ。
ボクに帰る場所はもうなかった。エコーが届かないんじゃない。無視されていたんだ。
他の家族はボクほど遠くまでエコーが届かないようだった。海中だけではなく空気中にもエコーが見えるとステラッチェは言っていた。人間などに見つかりやすくなるという見立ては正しかったみたいだ。
目を覚ますと檻の中にいた。手足は縛られていた。監獄だろうか。よく見ると他にも檻があり、亜人や人間の子供が閉じ込められていた。
「気が付いたか。お前は珍しいからな。大統領のお気に入りになれば飛ばされないで済むぞ。かわいく振舞えよ」
話が繋がった。ステラッチェたちが話していたのはこれだ。亜人を迫害しているように見せかけて好みの亜人などがいれば自分のコレクションにしていたんだ。
ボク達亜人を迫害して追い払いながら子供は捕まえていたんだ。亜人だけではなく人間目線でも怪しまれないように。
亜人と交流を持っていた人間はいたはず。そういう人間にテイのいい言い訳を作っていたんだ。
ここにいるのは大統領のお気に入り。気に入らなかったら近隣の国などに売っていたのだろう。命がある分にはいい。奴隷の価値のない者は臓器を売られていただろう。
早くここから逃げないと!
でもボクの力ではこの鉄格子は壊すのは難しい。第一、逃げたところでここがどこだかわからない。水中ならともかく陸では素早く動けない。それにここに監禁されている人数。ボクだけ助かるのも。
助かる、か。
ボクは助かっても帰る場所なんてない。誰もボクを待っていない。
声が届く相手がボクにはもう——。
一人で海を放浪としているぐらいなら死んだ方がいいかもしれない。寂しいのは嫌だ。
暗闇の中で手足を縛られた身で初めて絶望という意味が理解できた。家族がいなくて寂しかった。でもボクを寂しがってくれる人はもうこの世には———
「おかえり。そっか。今日もだめだったか。サッフィの声はきっと家族に届いているよ。君の力はとっても強いみたいだから。毎日この海岸で声を出していればきっと迎えに来てくれるよ。家族が迎えに来るまでここにはずっといてくれていいからさ」
走馬灯のようにボクの頭に今までの記憶が一瞬で流れた。そのひとシーンの中でステラッチェの言葉が駆け巡った。
ステラッチェはボクの声が視えると言っていた。もしかしたらボクの声が届くかもしれない。こんなところで変態の相手をするのは嫌だ。気を失ってからどのくらいの時間がたったんだろう。きっとボクがいないことをわかっているはず。
けど、仲間と会えたからいなくなっていたと判断していたら?
いや!
きっと心配しているはずだ!
ボクのありったけを声に乗せて、届け!届け!届け!!!
「ステラッチェ!!!!!!」
* * * * * * *
メイラジュ、ピーター、キエリス、そしてトカゲちゃんと大統領府こと中央議会に潜入した。
「トカゲちゃんって姐御……」
「おうおうおう!うちの姐御に歯向かうのかい!」
「うるさいよキエリス。幻術で姿が違うからって気を抜かないで」
「キエリス嬢安心しなさい。僕の幻術がばれることはない。好きなだけ騒ぐといい」
「ピーター余計なことを言わないで。それでトカゲちゃん。本当にこの中に誘拐された人たちがいるのかい?」
「……。ええ。悪魔の証明みたいなものですが、ここ以外にはもう考えられねえ。一番なさそうなところに証拠ってのはあるもんさ。そもそも、亜人と敵対している政府の議会なんだ。そういう可能性だってあるだろうよ」
人間も連れ去っているというのが気になるけど。それにサッフィが何の連絡もなく姿を消した。何かに巻き込まれていなければいいけど。家族が迎えにきていたならそれでいいけど、私やカミラに何も伝えずに消えてしまうような子ではないはずだ。カミラが海で見つけてくれればそれでいいけど。
そんなことを考えていると向こうから警備の姿が見えた。ひとりで見回りをしているようだ。この議会で働く姿に私たちは姿を変えているから大丈夫だろうけど。
「おい。見回りの兵士だ。ちょっとちょっかいかけるぞ」
トカゲちゃん結構好戦的なんだよな。私に向かって来るぐらいだからな。命知らずにも程がある。
トカゲちゃんが敬礼しながら警備兵に声を掛けた。
トカゲちゃん「ご苦労様です」
警備兵「ああ。お疲れ」
トカゲちゃん「最近はいろいろ物騒だから警備も大変だろ」
警備兵「まあな。さすがにこの中までは入ってくるネズミは今の今までいないようだがな」
トカゲちゃん「いつここを襲われるのかわからねえな」
警備兵「……全くだよ。見回りって言っても外は結界貼ってるし問題ないはずだがな」
トカゲちゃん「そういえばこの建物の中も厳重に結界貼られているところがあったよな」
警備兵「あーー噂じゃここ、古代のシェルター跡らしいからな。地下にも通じてるみたいだぜ。そこをやたら警備を厚くしてるんだ。地下なんてどうせ書類ぐらいしかおいてないだろうにな。贅沢品は見せびらかすのがこの国の伝統みたいなものなんだから」
それだ。随分簡単に情報が手に入った。というか違和感があるな。
ステラッチェ「それって私たちとかも見ることもできないの?」
警備兵「ああ。警備のシフトがそこじゃなきゃ目視もできないようになってるのさ。しかもそこのシフトになっても幻術がかかってるから建物内部もよくわからねえときた」
ステラッチェ「へぇ。随分話してくれるね」
警備兵「ねずみだろ?こんな夜中の警備のシフト組まれるのは嫌なんだ。誰もいない大統領府を大統領室よりも厳重に守ってるなんてみんな不信がってるんだ。多分禄でもねえぞ。大統領陛下は変態だと巷じゃ噂が絶えんからな。」
ステラッチェ「いいの?私たちをこのまま行かせて」
警備兵「夜中の結界を潜り抜けてきたお前たちを俺一人でどうこうなるとは思えん。大体な。この国の役人だろうがこんな夜中まで働いてる奴はいねえから存在自体が怪しいんだよ。残念ながらさっきも言ったが幻術がかかってるから案内はできん。建物の奥深くに行けば警備が厚くなるからわかりやすいと思うぞ」
ステラッチェ「そっか。真面目な警備兵さんありがとう」
警備兵「さっさと行け。やるからには失敗するなよ。俺の給料に関わる」
ステラッチェ「もちろんそのつもりだよ。そんな真面目な警備さんにちょっとしたお願いがあるんだけど」
警備兵「おいおい面倒事はごめんだ。俺はこの敷地を優雅に散歩して金がもらえればそれでいいんだ」
ステラッチェ「面倒かもしれないけど、お給料はきっと高くなると思うよ?」
* * * * * * *
建物の深部に行くにつれて警備が厚くなっていった。出会った警備兵には寝てもらって先に進むと妙な結界があった。これだ。
ステラッチェ「結界、あったね」
トカゲちゃん「姐さんどうします?結界って言ったらどうやるんだっけな。楔があったらそれを取って、それか、えーっと、ってうおわあああああッ!!!」
右足を上げて前蹴りで結界をぶち破った。
結界の条件は読んだけどペナルティらしいものはない。セオリー通り解除するなら埋め込まれている楔が3つあってそれを順番通りに取れば解除されるようだったけど、そんな時間はないからパワーで解決させてもらった。
「ヤンキー蹴りで結界を……」
「うちの姐御を舐めねぇで貰いたいねぇトカゲちゅあん?」
「なんのキャラだいキエリス……」
夜中の中央議会にスパイみたいに潜入してるのが楽しくてテンションが上がっているんだろう。変に気張られても困るけど。けど!
さっさと結界をぶち破って中に入ると幻術が掛けられていた。
「「ふぅーん」」
うちの幻術専門家2人を連れてきた甲斐があった。ま、私でもできるけど幻術はそんなに得意じゃないからふたりに任せよう。
ピーター「大したことはないな」
メイラジュ「ええ。寝ながらでもこの程度看破できるわ」
ピーター「この私でもうんk」
ステラッチェ「いいからさっさとやってよ」
隙を見せたらピーターはすぐ余計なことを言う。
幻術はメイラジュとピーターによって無効化してもらい扉がいくつも並んだ部屋についた。
多分一つだけしか深部までつながっていないだろう。小癪な真似を。しかしここからはなんの手掛かりもない。手分けして探すしかないか。
そう思ったときサッフィの声が視えた。私を呼んでる!
声が視えた扉を開けると地下へと続く階段になっていた。さらに進むと鉄格子でできた大きなエレベーターがあった。
それに乗り地下へと進んだ。そこで目にしたのは監獄のような部屋だった。
奥で誰かの声が聞こえた。
サッフィと大統領だ!
「こんなところで泣き叫ぼうが聞こえねぇよ!お前らは死ぬまで俺が愛してやる」
「うるさいぞ変態!お前なんかステラッチェにボコボコにしてもらうからな!」
「手足を縛られてもそれだけ元気だとはな。俺は生意気なのも好きだぞ。従順すぎてもつまらねえからな!」
おーおー。噂の大統領閣下じゃないか。
趣味が良いのか悪いのか。
「檻が見えた時点で薄々そうなんじゃないかと思ったけど、まったく」
「ッ!?お前ら!どうしてこんなところにッ!近づくな!このボタンを見ろ!これを押せばこの地下空間も崩れ落ちるぞ!そうなればお前らもここのガキ共もみんな死ぬぞッ!」
「そっか運命共同体か」
静かに近づき大統領を氷づけにした。顔以外。
サッフィの手錠と足枷を取り手に握った。もう片方の手で氷漬けになった大統領に触れながら。
「い、いい気になるなよ!ここの会話は大統領府の警備室に繋がっているッ!お前たちなどすぐ捉えて殺してやるぞッ!!!」
「結局ここで大統領は何をしていたの?」
「へっへへへへ。見てわからねえのか?俺は亜人も人間の子供も大好きだ」
「そんな大好きな亜人や子供をこんな檻に入れて何をしていたのさ」
「かわいがっていたに決まってんだろうが!好きなものには強く当たっちまうもんだからな!だが俺はどんな姿になっても綺麗だったものが崩れていく過程も好きなんだよ!おい警備室!何をしてやがる!さっさとこいつらを始末しに来い!」
ツーツーと通信が繋がる音がした。
「大統領。ご無事でなによりです。こちらには大統領の声がよく届いております」
「そんな報告はいいから早く助けに来んかいッ!!!」
「ええ。今、国中の防災有線を使って大統領の声を届けています。きっと今に大統領の元にみんなが駆け寄ってくるでしょう」
「早くしろ!さっさとこんな奴らを……え?」
それからいうまでもないかもしれないけど大統領は辞職。関係していた政治家やその他の団体等も解体。ザーラによって嘘偽りなく粛清対象をあぶりだすことに成功した。
辞職した人や団体がどうなったかだって?
それはこの国の司法に任せました。
政治の中枢がすっぽりと抜けてしまったから臨時対応としてサニィが国を導くことになった。大混乱を予想したけど、サニィが国中を駆け巡っていたおかげで人望があったのか大きな混乱はなかった。とはいえ政治家達の話題で国中持ちきりだった。
当初の台本は辞めて、この話を台本にして公演を行った。もちろん、詳細は変えて。具体的には私たちの活躍はリィナという女の子が頑張ることになり、サッフィ、つまり亜人を助けるという話になった。
連れ去られた子供は帰ってこなかった子もいた。行方は捜査中だけど望みは薄いという。
遺恨も残ったけど、人も亜人も助け合うことになった。議会の3割は亜人か人の割合を保つことという法律も制定するらしい。どうなるかはわからないけど、この国が正常に機能し始めてた誕生の年だ。これから成熟していけばいい。サライが旅立つ日。国を挙げてのサンバが披露された。過去に起こったことは取り消せない。変えられるのは今と未来だけ。過去は今となっては結果でしかない。
今まで積み上げた結果を、今と未来をどうするのかは新たな道を開拓し始めたイビポランマラン次第だ。




