第11話 臨時講演会
扉を開けて大講義室に入る。
教壇の背後には大きな黒板。黒板の正面には長机が教室の端まで並んでいた。
そしてぎゅうぎゅう詰めになった生徒達が拍手で迎えてくれた。舞台から客席を見るのとはまた違う迫力がある。
「改めまして、ステラッチェ団長と団員オレーナさんです!」
小さく手を振り拍手に応えた。思っていたよりもずっと多い観覧者数だ。
人間も亜人も入り混じっている。後ろの方には先生と思われる人達も立って見ていた。
この国の魔法学校。どんな感じかなと思ったけど、私の目は目ぼしいものを見つけなかった。粒だっていい感じの人はいるけど、それでもうちの団員の方がずっと優秀だろう。開校一年目の魔法学校なんてこんなものか。
おっと、こういう場に来ると品定めしてしまうのが私の悪い癖だ。
「もはや説明は不要かとは思いますが、私からご紹介させていただきます。Flying Twinkle Caravan魔法劇団は欧州の秤の国に拠点を置く魔法劇団です。魔法劇団と謳うのも納得の舞台で放たれる魔法の精度とクオリティ、そして劇と音楽が調和する唯一無二の劇を舞台で輝かせる劇団です。本拠地は秤の国ですが、ガルニエという巨大な劇場ごと世界中を旅しながら公演を行っている欧州では知らない人はいない、世界で最も有名な劇団です。そんな世界を駆ける魔法劇団の団長ステラッチェ様、その団員であるオレーナ様に本日はご来校いただきました。それでは早速ですがステラッチェ団長様、オレーナ様どうぞよろしくお願いいたします!」
ずいぶん褒められたものだ。嬉しい反面ちょっと照れ臭い。サラさんが持っていたマイクを手渡された。有線のマイクだ。こういうのも用意してたんだな。
さてここは著名人である自覚を持って背筋を伸ばして舞台に立っているが如く振る舞わなくては。
「ご紹介を預かりましたFlying Twinkle Caravan団長のステラッチェです。そして隣がオレーナです」
オレーナは会釈をしながら
「皆さんこんにちはオレーナです。本日はよろしくお願いいたします」
先程まで私の指を絡めてきてたオレーナはどこかに消えて、ウエストミンスター魔法学校首席の品のある優等生オレーナがそこにはいた。
見たか。これが演技力だ。私といるときはずっとこうしていただきたい。
……なんでちょっと遠い目してるの?
「おおおお」
男子の野太い音が教室に響いた。どこの国の男もちょろい。
「本日は皆さんの貴重な学びの時間から私たちの話を聞いてくださる時間を作っていただきありがとうございます。聞くところによるとまだ開校したばかりの学校だそうで、同じ魔法を極めんとする同士、皆さんとこうして会うことができて、私も嬉しく思っています。ご紹介にあった通り、欧州を中心に世界中の様々な国へ行き、公演を行っています。約三年ほど前にこのイビポランマランでも公演を行いました。こうして再び皆さんに歓迎を受けながら出迎えてくれたこと、心より感謝しております」
ずいぶん堅苦しい挨拶になっちゃったな。もっと砕けてもいいか。
オレーナは微笑んでいるだけだ。生徒の前ではこのキャラでいくらしい。
「こうして皆さんの生の声を聞くというのは舞台が終わってからや、ガルニエを移動するときなどわずかな時しかありませんので私たちにとっても貴重な体験です。役に立つかはわかりませんが皆さんの疑問であったりに応えていきたいと思います」
よし。質問コーナーに流れを持っていけたぞ。
「じゃもし私たちに質問がある方は手をあげてもらえますか?」
4、5人ぐらい答えたら引き上げてみんなの魔法を見せてもらって終わりかな。さてどんなものかな。
「はいはいはい!」
「はい!!」
「質問ありますありまーす!」
「私、気になります!」
え、そんなに質問ある?
教室の奥まで生徒達がずらっと挙手をしている。人も亜人も手を上げているから色んな大きさの手が並ぶ。奥の教師陣も挙げているな。さすがに生徒優先で選ぶけど。
「じゃそこのメガネの青年」
「はい!ありがとうございます!」
こういうときはまずは真面目そうでテンプレっぽいことを聞いてくれそうな青年を選んだ。頼んだぞメガネの青年。
「はい。えっと、世界中で旅をしていると思いますが、世界を渡り歩く上で一番大変なことってなんですか?」
オーソドックスな質問だ。青年グッジョブ。いつこの講義がアナウンスされたのかは知らないけど大抵はこのような無難な質問かな。
「そうですね。大変なのはやはり、その国の法律やルール、そして言語でしょうか。うちの団員は世界中から集まっているので大抵の言語はわかるのですが、それでも国によっては複数の公用語が話されている場合があります。国の手続きを行ってもこの言語が話せる人がいないなどそういう場面はかなりありますね。あと劇中の言葉も訪れる地域で一番通じる言葉で劇を行いますのでそこも覚えるのが大変だったりします。つまりは言語の壁ですね。若いうちから母国語以外にも勉強しておくと将来の幅が広がると思います」
「はい!ありがとうございます!」
実体験を元にした苦労話とアドバイスもねじ込んだ素晴らしいコメントだ。我ながら教師が向いていると思ってしまう。
ビジネス本でも出そうかな。
「では次の方」
おお、勢いは変わらずだ。みんな元気よく手をあげている。
「ではそこのモモンガ?の亜人の方」
「はい!これまで世界を旅して一番良かった国はどこですか?」
「んー。むずかしいですねえ。訪れる国それぞれに魅力があったのでかなりむずかしいですが、本拠地を置く秤の国ですかね。冬は寒いですが、モンブランなどの山脈の風景綺麗ですね。自然が豊かなところが結構お気に入りだったりします。オレーナは?どこかある?」
「どこも印象的でしたが、私は海中にあるとある国がとっても素敵でした」
確かに、ヴィーナのいた国は綺麗だったな。
「航路が確立しているこの時代ならいろんなところに行けますから、機会があればぜひいろんな国に行ってみてください。では次の方。そうですね、ではそこのかわいい三つ編みの女性」
「はい!ありがとうございます!えっと、私以前の舞台を見たことがあって、とってもすごい魔法だったんですけど、皆さんはどんな練習をしているんですか?」
「んー。ひとそれぞれですが、団員それぞれの得意な魔法というのがあるので、基本的には得意な人が教えていますね。私ももちろん教えますし、他の団員も指導を行って技を高めています」
「具体的にはどんな練習を?あとコツとかあれば教えていただきたいです」
コツかぁ。そういわれても、コツも何も私は見ただけでできるから練習っていう練習はあんまりしないんだよなぁ。パスしよう。
「オレーナはどうですか?」
「はい。魔法の基本は水魔法です。料理でいう卵料理が水の魔法です。魔法の高みを目指すなら水の魔法に始まり水の魔法に終わると魔法の世界では言われています。きっと魔法学校に入られた皆さんであればそれぞれの個性に合った魔法というのが確立してきているのではないでしょうか。得意な魔法はすぐ伸びていきますが、壁に当たるのも早いです。地道にいろんな魔法を練習していけばその壁も超えてまた次のステージへ上がることができるでしょう。なので今教わっているような魔法の基礎を完璧に無駄なく放てるようになることが一番重要です」
おお、素晴らしい。教科書にそのまま載ってもいいぐらいの名回答では?さすが首席。私がそばにいる時もずっとそうして欲しい。
では私も一つアドバイスをしておこう。
「魔力は使えば使うほど増えていくと言われていますから、日々の訓練というのは大切だと思います。あと、私からのアドバイスはとにかくイメトレです。闇雲に魔法を放って練習というのも決して悪くはないとは思いますが、自分のイメージをしっかり持った上でどう魔法で表現するかを考えると自分のやりたいことが実現できるようになっていくものです。イメトレの方法は色々あると思いますが、やりやすいのは魔法の発動から終わりまでの一連の流れをフローにして可視化してみたり、絵を描いてみたり、文章にしてみたり、とにかく見える形で練っていくのがおすすめです。なにも参考物を見ないで絵を描くのは難しいでしょう?魔法だってそうです。ま、一番いいのはできる人に見せてもらうことです」
できる人の技を何度も見て、真似るのが一番の上達方法だ。これは魔法に限らずどんなことにもいえるだろう。まずは目に焼き付けて頭と身体で覚えていく。時に闇雲に、時に試行錯誤をして、時に瞑想をして、と完成まで辿り着くまでの道筋をイメージして何が足らないのか分析しながら動くのが一番だと、私は思う。
人にはいうけど、私も転移の魔法の練習をしなくちゃなぁ。キエリスちゃんの教え方アバウトすぎるんだよなぁ。ああいう真似るも何もない系は難しい。
さて白熱する質疑応答だけど、ここからはダイジェストでお送りしよう。
「ステラッチェ団長はお若く見えますがおいくつなのですか?」
「乙女に年齢の話は御法度です。魔法学校では教わらないかもしれませんが世間一般の常識です」
「団は始めてからどのくらい経ったのですか?」
「大体十五年ほどです」
「お若く見えますが、ということは10歳ぐらいから劇団を作られたということですか?」
「はい。劇団は実は割と最近のお話で最初期は流れの大道芸人みたいなものでした。そこから魔法サーカス団を名乗るようになり今に至ります」
「劇って台本のセリフ覚えるの大変だと思うんですけどどうやって覚えているのですか?」
「声に出して読みまくります」
「フォレスティエ社から賄賂を貰って旅の資金にしているといった噂が立っていますが本当ですか?」
「フォレスティエ社とはスポンサー契約を結んでいます」
「シャンプーは何を使ってますか?」
「いいやつ使ってます」
「先日のサンバカーニバルで劇団員と思わしき団体が大騒ぎをしていたと噂が立っていますがそれは本当ですか?」
「認知しておりません。」
「その左目もしかして花模様ですか?もしかして神様だったりすんですか?」
「カラコンです」
「私も劇団に入りたいです!どうしたら入れますか?」
「そうですね。皆さんそろそろ講義室にいるのも飽きてきたところでしょう。外で皆さんお魔法を見てジャッジしますよ」
ということで外に出た。そろそろボロが出るところだった。
「団長様。疲れてませんか?」
小声でオレーナが心配してきた。
「普段と使わない脳の領域を使ってる感覚はある。講義というより記者会見みたいだ」
「記者会見方式にしたのは団長様です」
「そうだった。原稿用意して話してるのが良かったのかも」
ここにきて面倒がっていたものが一番楽な道だと判明したようだ。私のものぐさな性格が私に牙を剥いている。
だってー!私これでも色々大変なんだよ!手続きと舞台だけで手一杯なんだよ!
……とはいえこうして慕ってくれている人達の気持ちを無下にはできないからいいんだけどさ。
それに未来のお客様ともしかしたら仲間になる人達がいるかもしれないしね。種は撒いておいた方がいい。無理のない範囲で。
ぞろぞろと生徒達を引き連れて中庭まで歩いてきた。
「じゃさっきの人。あそこに立ってる石像に得意な魔法を放ってみてください」
「え?でもあれってサニィ様の石像では?」
「なら問題ないですね」
「わかりました」
女学生が右手を石像へ伸ばし左手を右肘あたりを押さえて肩幅程まで足を開いた。
「はー……はっ!」
放たれた水球は勢いよく飛んでいき石像をびしょびしょにした。見た感じから想像できたけどこんなものだろう。
「いい感じです!その調子で卒業まで技を鍛えましょう!」
「あの俺も見てもらいたいです!」
「どうぞ」
男の子が同じような構えをとった。
今度は火球。さっきの水球よりも小さい。勢いよく飛んでいって石像の水滴が蒸発した。
「うん!いい感じです!その調子で頑張りましょう!」
「私もみてもらいたいです!」
「はいどうぞ!」
地面に手をつけて土でできた石礫をサニィに激突させた。
「悪くないです!」
「あの!私も!」
「はいどうぞ」
ってめっちゃ並んでるし。
「よーしまとめてみてもみるからテンポ良くサニィに魔法を放ってください!では次の方!」
「はー!」
「はい次」
「どりゃ!」
「いいですよ!次!はい次!うんうん次!」
* * * * * * *
「皆さんいい感じでした。その調子で練習をして、また志願してみてください」
すっかり日が落ちている。随分時間がかかってしまった。
「あの」
お、あの三つ編みの女の子だ。
「どうしました?」
「最後にステラッチェ団長さんの魔法を見てみたいです!」
「あー」
みんなが私を見ている。そりゃそうか。これだけ試させておいてお前はどうなんだと思うのは仕方がない。当然の心理だ。開校してばかりのこの青々とした芝生を痛めてしまうのは申し訳ないけど、やるか。
地面を踏み込んで石像の後ろに何枚か分厚い土壁を作った。
その光景だけでみんなが声を上げて驚いている。
極力石像のみに当たるように的を絞って。
石像に向かい手を伸ばしなんてことはないただの水球を出して石像に当てた。勢いよく放たれた水球は剃刀のような鋭さで石像を吹き飛ばしながら粉々にして先程作った土壁を貫通していって最後の壁でなんとか止まった。
私が放ったのはみんなが見せてくれた技だ。水球の大きさはそこまで大きくもない。水で石像を吹き飛ばせる程の威力を付けただけ。
「このくらいできるようになったらまた声をかけてくださいね」
あれ、なんかみんな引いてない?
* * * * * * *
「本日はありがとうございました。生徒たちもいい刺激をもらったと思います」
「それは良かったです。大幅に時間が過ぎてしまって申し訳ないありませんでした」
「とんでもないです。やはりステラッチェ様には教師の才もあると思いますよ。第二回はいつにしましょうか」
「いやーもう結構です」
「そうですかそれは残念。オレーナさんもありがとうございました。魔法の練習方法、私も参考になりました」
「いえそんな。私も学校で習ったことを話したまでですので」
「とってもわかりやすかったですよ。あ、丁度来たみたいですね」
「え?」
サラさんが空を見上げる。
夕焼け空から光を帯びながらこちらに近づいていくる物体が見えた。
最後の最後にうるさいのが来たようだ。
「やあ!いやすっかり遅くなっちゃってもう帰ったかと思ったけどギリギリセーフってところかな?」
「もう終わったよ」
「え!そうなの?がっくし。いやー亀の亜人の村に行って話をしてたんだけどね。これが大変だったんだよ!」
「そう」
「めっちゃ興味なさそう!聞いてってば!」
* * * * * * *
ジャングルの奥深くにある亀の亜人の村。俺はその秘められた生活とみんなと仲良くなるために足を踏み入れた。
『必死の説得!!!!イビポランマランのジャングル奥地に亀の亜人が出た!!!!』
「それでね!最近は調子はどうですか!?」
「あ?」
「だから最近は調子はどうなのって!?」「あ!?声が小さくて全然聞こえないよ」
「長老!!!!最近!!!!変わったことはァ!!!ないですかァ!!!」
「全然聞こえないよ!!!!!」
「だァ!!!!かァ!!!!!らァ!!!!!」
「うるさいよ耳元でッ!!!!!!!!!大体あんた誰だいッ!!!!!!!」
* * * * * * *
「と言った具合で30分で終わるところがご覧の通り日が暮れ始めてしまったんだ」
「大変だったんだね。というか何しに行ってたの?」
「イビポランマランって西の方はジャングルだろう?まだ会ったことのない民族とかがいてね。色々回りながらこの国の人にならないか聞いて回ってるんだよ。あとは困ってることとかないかね。人目につかないところって悪い奴らがたむろしたりするからそういうのも見回りも兼ねてね」
「そんなことしてたんだ。ちゃんとしてるじゃん」
存在を認知すらされていなかったようだけど。
「もうこの広大なイビポランマランを文字通り駆け回ってるんだから大変なんだ。あーあ。授業見たかったなー。何やったの?」
項垂れながらそんなことをいうサニィ。
「質問コーナーとみんなの魔法を見てたんだ」
「へぇー!どうだった?」
「激励の言葉を送っておいたよ」
「君ほどの人に応援されればみんな頑張るだろうな〜。いやぁ今日はありがとうね。また心変わりしたらいつでも雇うからね!」
「それはどうも。転職先が見つかって良かったよ。じゃ私たちは帰るよ。」
「うん。またねー!あ!俺も公演見に行くからー!」
「お待ちしてるよ。楽しみに待っててね」
* * * * * * *
荒れた芝生にところどころ大きな岩が転がっている広場にサニィとサラは立っていた。
「ねえここにあった俺のめっちゃかっこいい石像あったじゃん?」
「いえ?なかったですよ」
「俺が同じポーズをして三日三晩不眠不休で掘ってもらった石像があったじゃん?」
「写真でよいものをわざわざ実物モデルで掘っていただいた石像ですか?ありませんよそんなもの」
「明らかに台座らしきものがここにあるよね。」
「工事の際の基礎か何かでしょう」
「なんかここら辺だけはげてたり芝生が荒れてるんだけど」
「生徒たちがサッカーでもしていたのでしょう?」
「嘘だ!こんなのファイヤーハリケーン!!でも相手のゴォォールにシュゥゥートォ!!!しない限りこんなことにならないよ!」
「ここは魔法の学校です。そのよくわからないシュートの技っぽい魔法だって打てる生徒はいるのです」
「俺の石像破壊されたってこと?」
「そのような石像は最初からなかったので存じ上げないです。」
「あ!俺の顔の右半分!俺の顔の右半分じゃないか!どうしてこんなことに!サラさん!」
「盛者必衰。サニィ様。この世はいつ壊れるかもしれぬバランスで成り立っています。しかしいつか壊れてしまうものだからこの世は美しいのです。いつかは消えてしまう。いつかは風となる運命。それが遅いか早いかの違いだけなのです」
「そっかそれもそうだね。じゃない!やっぱり壊れちゃったんじゃないか!校内でボール遊びは禁止にするぞー!」
* * * * * * *
夕焼けを背にしてオレーナと手をつないで空を駆けていた。
なんか一仕事したって感じで気分がいいな。たまには舞台以外のことをするのも気分転換になっていいな。
なんか雄叫びのような声が聞こえた気がした。
「何か聞こえなかった?」
「きっとステラッチェ様とオレーナの祝福の鐘の音です」
「じゃいいや。」
「いいんですね!」
「いやそっちはよくない」




