第5話 仕切り直しはグラスを掲げて
一回ぐらい話すだけならいいだろう。なに話せばいいのか聞いたらなんでもいいとのことだった。こういうのが一番困るんだよなぁ。
サニィと一緒にお祭りを回るかと聞かれたから断った。神様とご一緒なんてごめんだ。目立ちすぎるし変な噂が出たら困る。ではわたくしがとのことでサラさんと町の案内がてら一緒に回ることになった。サニィは泣いていた。素直に申し訳ないとは思うがわかってほしい。
門番の人に会釈をして外へ出る。
郵便局、銀行、複合施設、学校。以前来たときよりも栄えている印象だ。ブティックも以前は人間用のお店しかなかった気がするけど、今では亜人専門店も増えている。ここに来る途中も思ったけど、亜人専門店って種類が半端ではないな。
「あ、フォレスティエもあるじゃん」
「ええ。半年ほど前にできたんです」
「すごい賑わいだね」
「カーニバルもあって遠方から来ているお客様が多いのでしょう。このワンピース実はフォレスティエなんですよ」
「あらそうだったんですね。お似合いですよ」
「ありがとうございます。そういえばフォレスティエ社は劇団のスポンサーなんですよね」
「ええ。社長と縁がありまして。社員も常駐しているんですよ。衣装を作ってもらうために。もう知ってるかもしれないですがその社員にもここの存在を教えておかないと……」
と思ったらジェマがもうお店に入っていた。お客ではなく店員として応援に入っているようだ。あ、目が合った。これはまずい。
「あら団長。なんていいところに」
「せっかく休みにしたんだ。休めばいいのに。それにしてもすごい盛況だね」
小物などを中心にセールをしているみたいだ。安価でフォレスティエブランドを買えるから人が群がっている。確かに正規の値段と比べると破格の値段だ。
「やっぱりショーケースでいろんなものを見ていたりするといろいろ捗るわ。トレンドに流される気はないけど、参考にはなるわ」
「街ブラって結構気分転換になるよね~。じゃ頑張ってね」
「なにつれないこと言ってるのよ。ちょっとこっちに来て」
「ええ……。すぐ終わるかい?一応案内をしてもらっているんだけど」
「私に構わずゆっくりご試着なさってください。私も店内を見て回っていますので」
「大丈夫。十分で終わるわよ」
「ほんとかなぁ」
そして案の定、着せ替え人形3時間コースを決められた。いつの間にかサラさんも加わってジェマと一緒にああだこうだと言っていた。ファッションに興味がないことは決してないけど、プロの目線で吟味されると困るのだ。
一般の方が入ることがない、いわゆるお得意様部屋でのことだったからその分ゆっくり熟考していたようだ。
「団長様はスタイルいいですよね!」
「ありがとうございます。あんまり肉付きがよくないだけです」
「ちょっと痩せたわね。バストが小さくなってるわ」
「なん……だと……」
ただえさえ大きくないのに小さくなっただと……?
リマクの一件からあまり食欲がなかったからかな。大丈夫!今日はいっぱい食べたから!これからも食べる!
「せっかくイビポランマランにいらしたのですからどこかに緑のワンポイントを入れたいですね」
「杖じゃなくて日傘持てばいいんじゃないかしら」
「まあ!素敵ですよ団長様!」
「あはは。ありがとうサラさん」
「次はスーツよ。あんなんでも神様なんだからもう少しフォーマルな格好で会いに行きなさいな」
「すみません」
「気になさらないでください。でもそういう団長様も見てみたいです!」
「じゃ今度はこっち着てみてちょうだい」
「はい……。」
店を出るとすっかり夕焼けだ。サンバは一旦お休みしているらしい。人もまた増えてきたようにみえる。
ジェマと別れてまたサラさんと歩いていた。
「長々とお付き合いしてもらって申し訳ないです」
案内をしてもらっている上に私の服も吟味して貰うなんて。申し訳のないことをした。
それに疲れた。
他人の言いなりになって服を着るだけなのに。
でも他人だから楽しいのはちょっとわかる。
「とんでもないです!今度私もオーダーメイドで作ってもらえることになりました。オーダーメイドなんてただのお客は受けてもらえないんですよ?団長様のおかげです!」
そういってくれるならいっか。
しかし前よりも人気になっている気がするな。主戦場の欧州から離れて南米だよ?
有名になったなぁ。
「ジェマも久々に同業者、というか同僚と話せて楽しそうでした。他にも一流ブランド店が並んでいますし、血が騒いでるみたいですね」
「イビポランマランでは外資企業を頑張って誘致しているんです。最初はこんな田舎の国に、と見向きもされなかったですが、今はこの通り、少しずつ増えてきました。もう少しでガルニエが見えてきますね。一度戻られますか?」
「そうですね。書類などの荷物もありますので置いていこうと思います。いろいろ付き合ってもらってありがとうございました」
「とんでもないです。また何かあればお声がけくださいね」
ガルニエに戻り身軽になってから再び街に出た。
サンバ会場のほうがとても光り輝いている。音楽なども聞こえてくる。また再開したようだ。
夜ご飯何食べようかな。昼は屋台を食べたから今度はお店で食べようかな。さっき紹介してもらった複合施設でもいいな。
お、あれはリーホワとシンシンたちだ。
ステラッチェ「やあ」
ランラン、シンシン「「団長様!!」」
リーホワ「もしかしてずっと仕事していたの?」
ステラッチェ「いや。荷物を置きに行っただけだよ。これから夜ご飯でも食べようかなってね。三人はもう帰るの?」
リーホワ「ええ。あんまりこの子たちを夜更かしさせてもね」
そういいながらふたりの頭をなでるリーホワ。なでられている二人は満足そうな顔をしている。
ステラッチェ「三人でずっとお祭り見てたの?」
リーホワ「途中で他の人たちとも合流したわ。少し歩いた先のレストランでまだみんな食べているから団長も顔出しに行ったら?お料理もおいしかったわよ」
ステラッチェ「そうするよ。大騒ぎしていないだろうね」
リーホワ「大騒ぎしているのは私たちではないわ」
ステラッチェ「してる奴らもいるんだね……」
全く、入国早々節操がないんだから。
どうせニニギとかアヴェラルあたりだ。いい年した団員ほど酒に溺れるんだから。
リーホワ「あんなのは放っておいて団長も楽しんできなさいな」
ステラッチェ「それもそうだね。あんな奴ら後でどうとでもなる」
ランラン シンシン「「怖い~」」
リーホワ「そういうこと。じゃお先に戻るわね。おやすみなさい」
ランラン シンシン「「おやすみなさい!」」
ステラッチェ「うん。おやすみ」
それからリーホワに教えてもらったレストランへ向かいつつ、サンバを見に向かった。昼間よりも人が多くて全然近づけない。ガルニエのほうはサンバの末端だったからそこまで人は多くなかったみたいだ。昼間ある程度見たし、サンバはここまでにしてレストランに向かうか。
みんなおめかししたり、派手な服を着ていたりしているから昼間のように気づかれなかった。木を隠すのならなんとやらだ。
レストランっていってもいろんなお店があるからどれがどれだか。
お店をちょっと覗きながら歩いていると
「おーい!ステラッチェ団長~!」
「いた」
二階のベランダ部分からキエリスがひょっこり顔をだした。ここだったか。結構大きなレストランだ。
「一緒に食べましょうよ~!」
「探してたんだ!今行くよ」
「団長ちゃんお仕事終わったのかい」
「うわ。ミッケだ」
「うわってひどくない?」
お店に入り二階に上がった。全員ってわけじゃないけどうちの団員が結構いっぱいいた。
ステラッチェ「やあ。みんなもう始まってるみたいだね」
オレーナ「ステラッチェ団長様!!ささ、どうぞオレーナの隣にどうぞ!」
ステラッチェ「ありがとう。なんだいみんなでサンバ見てたのかい?」
ソフス「気が付いたら大人数になってました」
ソフスの顔が少し赤い。みんな飲んでるな。
大きなテーブル2列に料理とお酒を囲んでみんなが座っていた。
オレーナ「会いたかったです~」
ステラッチェ「毎日会ってるでしょ」
唇を尖らせて私の頬に迫るオレーナの顔面を抑える。
ミッシェル「団長着替えた?そんな服持ってたっけ?」
揚げ鶏を食べながらミッシェルが珍しそうな顔をした。かぶりついていつも通り美味しそうに食べているなぁ。
ステラッチェ「ああ、これね、さっきいろいろあってね」
いつもブラウスに黒のパンツばかりだったからスカートは確かに珍しいかもしれない。
ミッシェル「似合ってますよ!可愛いです!あ、何飲みます?」
ステラッチェ「そうだなぁ。じゃジントニックで」
カミラ「はいはーい。ジントニックとテキーラ!あとはそうだなー」
ステラッチェ「随分飛ばしてるみたいだね」
カミラ「そんなでもないってば~」
ステラッチェ「もうベロベロじゃん」
私の肩に腕を回すカミラ。顔をつけてきてピアスが私の頬に当たる。なかなかもう出来上がっている。
オレーナは私のお腹にうずくまる形で落ち着いたらしい。普通に邪魔だ。
オレーナ「すんすん」
ステラッチェ「おい。変なとこを嗅ぐんじゃないよ」
オレーナ「痛いです痛いです。髪の毛がいなくなる……」
全く。オレーナにはもう少し落ち着いてほしい。普段はまじめでいかにもいいところのお嬢さん感があるのに。実際両親が公務員だったんだっけな。
それにしてもここにいるメンバーのなかでも半分しか来ていないけど、うちの団も増えたものだ。
「団長~サニィのところ行ってたんですよね。どうでした?」
向かいのキエリスちゃんだ。
ステラッチェ「奥の方に塔みたいなのが立ってるでしょ?あれ学校なんだって」
キエリス「へぇー。大学?」
ステラッチェ「魔法学校らしいよ」
キエリス「あー魔学ね。あ、また先生やれって言われたんです?」
ステラッチェ「そうなんだよ。あ、オレーナ。君首席じゃん。オレーナがいろいろ教えるってのはどうかな」
オレーナ「いやぁ私は休学中ですし。もう戻る気もないですし。」
ステラッチェ「でも私よりも魔法をどうやって教えるかはわかるでしょ?」
オレーナ「きっとちゃんとした講義というよりはステラッチェ様のお話をしてもらいたいんだと思いますよ。だから勿論、いや是非とも私も伺いたいですけど、団長様の生の声を生徒さんたちに聞いてもらいたいんだと思います」
ステラッチェ「そういうのは舞台を見に来てもらえればいいんだけどなぁ」
キエリス「この国にいる間とかですか?でも他の都市も行きますよね」
ステラッチェ「いや一回だけだよ」
キエリス「な〜んだ。一回ぐらいならいいじゃないですか。みんなの背中を押してあげればいいんですよ」
オレーナ「そういうことです。というわけでその日は私もご同行します」
ステラッチェ「助かるよ。正直何話せばいいかわからないからね」
カミラ「団長、ジントニックきたよ。あ!乾杯の挨拶してよ!ほら!みんな注目~」
ステラッチェ「ええ。今更だよ。まあいいか」
椅子を引き、ジントニックを片手に立ち上がる。
「こほん、リマク公演。まずはお疲れ様。公演以外にもいろいろあったね。みんなの協力のおかげで乗り越えられたし、公演も無事に終えられた。本当にありがとう。ところ変わって、今日イビポランマランに入国をしました!」
みんな拍手してくれた。カッコつけてお辞儀をして応えた。騒いじゃったからほかのお客さんや店員さんもこちらを見ていた。どうやら私たちが誰かわかってるみたいだ。予定外のオーディエンスだったからちょっと恥ずかしい。
「前回来た時よりもずっとこの国は活気に溢れているのはみんなの目にも写っていると思う。私たちはこの活気に負けないような舞台を作らないと見向きをされなくなっちゃう。でもみんなの力を合わせればこの熱気、活気にも勝てるいい舞台が作れるはずだ。Flying Twinkle Caravanこの国での講演も張り切っていこう!乾杯!」
「乾杯!」
お店の中が拍手で包まれた。指笛や、やいややいやの声が上がりもう一度今度は皆さんに向けてお辞儀をした。




