第2話 サンバを横切って
「行っちゃった」
遥か遠くの空へと飛んでいくサニィに小さく手を振って見送るキエリス。
全く入国早々随分ご挨拶な幕開けだったな。
「じゃあみんな」
周りがうるさすぎて全然声が届かない。
「みんな!!今日はお休み!せっかくだからお祭りを楽しんでおいで!本格的な練習は明日から!私はなんだかわからないけどお呼ばれされたから申請書類を持ってサニィのところに行ってくる!フェリックス!今回は前一緒にやった音楽隊とだから大丈夫だとは思うけどよろしく頼むよ!できれば今日も会っておいてほしい」
「あっちでやってるみたいなんで見てきますよ!じゃ!」
行っちゃった。気が早いぞフェリックス。団長の話は最後まで聞いて欲しい。
「他は解散。お昼と夜ご飯は各自で取るように。」
それにしてもなんだこの熱気とうるささは。中心街でラッキーと思ったけど、こんなことになるとは。中心部すぎるのも困ったものだ。はあ、さっきまでのあの気持ちは何処に行っちゃったんだ。まあいいか無理やり切り替えができて。
「団長!」
「なんだいキエリス副団長君」
「怒ってます?」
「いや、ちょっとうるさすぎるから声が大きくなってしまったんだ。それでどうしたの?」
「私も行きましょうか?」
「あーいいよ。すぐそこだから。キエリスもせっかくだからお祭りを見ておて、劇に生かすアイデアがあるかもしれないからね」
「そういうならわかりました」
「じゃ解散!羽目を外し過ぎないようにね!」
一旦ガルニエ内に戻り、事務室に向かった。今の所の申請書類を用意しカバンに詰め込みこんだ。服も着替えるか。地味なやつに。気づかれてもしょうがない。髪の色はあとで変えるか。しかし頼み事か。面倒なことじゃなければいいけど。
「団長ちょっと待った!」
「アンティエまだあった?」
事務室に飛び込んできたアンティエ。
「大アリよ。このファイルとこれも。」
「おおこんなに」
「また揃ったら渡すわね。気をつけてね。すごい騒ぎだから。」
「みたいだね。歓迎されてるんだけど、ほんとにサプライズだったよ」
「ま、あの神様っぽいけどね」
アンティエ・クランツ。
もともと国の役人だったけど、うちに入ってくれたとても規律に厳しい女性。その真面目すぎる性格からなのか旦那に浮気をされて離婚、職場でも二十歳半ばでかなりの風格があったようで鉄の女と言われていたらしい。離婚してやさぐれて顔色が怖くなってたのかもしれない。
彼女は魔法を行使するために雇われた所謂国家魔法使いのエリートだ。ま、辞めちゃったけど。
今では舞台も出つつルミオの事務の手伝いなどもしてくれている。私からすればとても面倒見のいいお姉さんだ。この団が始まってからずっと。
「アンティエは行かないの?」
「行くに決まってるでしょ。この街のお酒が私を待っているわ。」
ちなみに酒豪だ。いつから酒豪なのかは離婚してからなのか、それとも元々なのかはわからない。聞くと露骨に機嫌が悪くなるから気をつけよう。
「あーほどほどにね」
「当たり前よ。」
そう言って程々で済んでるところをこの15年ほど見てない気がする。
初めて会った時が二十半ばであれから15年ぐらい経ってるってことは……おっと、レディに年齢の話は御法度だ。危ない危ない。
しかし美人で真面目で欠点なんかひとつもないのにね。
え?ないよね欠点。
「じゃ団長。よろしくお願いいたします。」
「あー。はい。承りました。」
あれは飲むぞ。誰かついていって欲しい。頼む誰か。私ではない誰か!
ガルニエを出ると、いやはやとても外が賑やかだ。屋台も並んでいて魚介の焼いた匂いや、ケバブなどの軽食の匂いが鼻腔をくすぐる。いい匂いだぁ。
転移してくる前は全然こんな気持ちじゃなかったけど場の空気というのは恐ろしい。
トルティーヤを出店で買って、サンバの様子を横目に神殿へと向かった。大きくてド派手な色の山車と共に人も亜人も踊り狂っている。
うん、ピリ辛のチリソースとチキンとアボカド、玉ねぎ、刻みキャベツ、あとはヨーグルトのソースかな。食べ始まると止まらないとてもヤンチャな味だ。
すぐ食べ終わってしまった。横の屋台はイカ焼きか。イカが私に食べてくれと言わんばかりの香とあの白くなった目で訴えてくる。仕方がないから食べてやろう。おお、得体の知れない蛍光色の飲み物だ。どれどれ……
そんなこんなで食べ歩きをしながら神殿へ向かった。
タコの入った小麦粉で練ったもので丸く焼いた謎屋台めしを食べていた時。
「あれステラッチェ団長じゃない!?」
三人組の顔にペイントを施したお姉さん達に気付かれてしまった。
「あ、ほんとだ!」
「そうだよあれステラッチェ団長だよ!」
「サインください!」
まずい、どんどん人が寄ってくる。
しかしこういうときは私は対処方法を決めている。
とっておきのやつをお見舞いするぞ。
「はーい!じゃ皆さん手を上げて〜!最初はグー!!!」
「「「「じゃんけんポイ!!!!!」」」」
「私はグーを出しました!パーの人おめでとう!負けた人あいこの人はまた次回!」
即興じゃんけん大会!勝った人のみにサインを風のように書いていく。
—— 銀濤流 銀河倒写
なんてね。
ちなみに子供には結果問わずサインは書くことにしている。私は夢売る商人だからね。
私のサインで笑顔が作れるならいくらでも……と言いたいところだけどそこは多少の一期一会ってことで。
これ以上騒ぎになるのはまずい。さっさと神殿へ行こう。
街の中心にある神殿。元々は政治の中心だった建物に増築した縦にも横にも長い建物。石で作られた歴史のありそうな建物と謎のエンブレムっぽい建物が合体しているのでどちらが先に建てられたのか一目見ればわかる。
謎のエンブレムと言っただけで趣味が悪いとは言っていない。好みの形ではないのは確かなんだけど。まぁサニィっぽい。
今でも中央議会か何かで使っているようだ。
さっさとメインストリートを外れて建物の屋上の蹴って風を掴みサクッと到着。
腹ごしらえが済んだところだったから若干の胃の不快感が出た。少しヤンチャが過ぎた。
門番の人に事情を伝えると中まで案内してくれた。今日はお休みのようだけど神殿内ではチラホラ人を見かけた。神殿とはいってもこのように中では政治活動や私のように入国手続きも兼ねた事務室が並ぶ。見た目こそ立派で派手ではあるが中は意外とただの会社のようだ。
どんな国でも、どんな仕事だろうとこういう地味な事務作業の上で世界は成り立っているのだ。
真面目な警備員さんにご挨拶した後、とある事務室に通された。トカゲの亜人さんが難しい顔をしながらデスクに座っていた。そんな彼に書類を渡すと追加の書類を渡された。街はお祭りムードだというのになかなか大変そうだ。
もしかしたら国の役人はお祭りの警備とかに駆り出されてるのかもしれないな。
休みの日やお祭りの日など遊ぶ人がいれば働く人がいるものだ。もちろんお金も動くからWin-Winなのだ。それをいったら私達もそうだけど。
「ステラッチェ団長様」
トカゲの亜人さんと申請書について話していると呼びかけられた。ブラウンの髪を一つに束ねて、髪と同じ色の瞳のサラさんだ。落ち着いた緑色のワンピースを着ている。
トカゲの亜人さんはサラさんと私に会釈をしてデスクに戻った。気を遣ってくれたんだろう。
「久しぶりですね、サラさん。とは言ってもあれは2週間前ぐらいですか」
「そうですね。改めてイビポランマランへようこそお越しくださいました」
キエリスと少し前ガルニエの転移のマークを作りにひと足先に来ていたのだ。そのときに以前もお世話になったサラさんに場所を教えてもらったのだ。
「いえ、再び受け入れてもらって光栄です。またよろしくお願いします。サラさん」
サラさんは笑顔で答えた。




