第48話 過ぎゆく花の便りを手に取って
あれから1ヶ月ほどが経った。
今日の夜の公演を最後にリマクを離れる。
夜になる前に最後にティカちゃんにお別れをいうために、再び村へと戻った。サンリスタニア王国での噴火の影響を危惧して、いつでもリマクに飛べるようにしていたから、前倒しは想定していたけど、期間を伸ばすことはできなかった。大体2ヶ月ほどの滞在となった割にはあまり公演もできなかった。けどこの後のスケジュールは決まっている。
リマクは初めて訪れた国だ。評判も上々。今度訪れることになったらもっと滞在したいと思う国だった。
物騒な事件はあるようだけど、それでもまた来たいと思う。
「お久しぶりです。おばあちゃん」
「ステラッチェちゃん、キエリスちゃん、フレンくん、ニニギさん、アメデオさん、そしてプレンツくん。みんなよく来たねえ」
「実は明日この国を離れることになりました。次の国はそんなに遠くないですけど、お別れを言いに来ました」
「そうだったの。わざわざありがとうね」
「いえとてもお世話になってしまいましたから我々も離れるのは寂しいです」
「そうねえ。よかったらティカにも挨拶してあげてね」
「はいもちろん、そのつもりです」
* * * * * * *
白い石でできた墓標。
そのそばには花や豆などが捧げられていた。
ぼくたちは用意していた花をティカに捧げた。
ぼくはもう決めていた。もうティカを想ってなかないと。きっとティカは自分のことで泣いてもらいたくはないと想ったからだ。
他のみんなも静かに花を捧げた。
「また会いにくるよ。きっと今度会うときはもっと大きくなって頼れる男になってね。だからどうか安らかに。あっちでも君らしくいてね」
うまく言葉が出てこない。言いたいことはたくさんあるのに。でもきっと心の声は伝わっているはずだ。みんなの挨拶が終わった後、大きな風が吹いた。まるですぐそばをティカがあの光り輝く魔法で飛んでいったかのような風だ。
きっとこの風もぼくたちに挨拶しに来てくれたんだと感じた。
捧げた花の匂いだろうか、花束を集めてたような匂いを纏った涼しいけれど、どこか暖かい風だった。
そして最後の日の公演を終えてリマクを離れるときがきた。
見送りにはリマクの大勢の人たちが来てくれた。サンリスタニア王国と同様に会いに来てくれた人たちと最後の話をしていた。
* * * * * * *
「ステラッチェ団長殿」
「アプさん腕の調子はどうですか」
「なかなかうまくいかないものです。これは神の僕からの怪我です。この体に刻んでおきます。そうそう舞台見に行きましたよ。大変感動しました。魔法の迫力もさることながらこんなに美しい話になるとは」
「ありがとうございます。こっちが本職ですからね」
「そうでしたね。そうだ私はこの腕がよくなるとは限らないので、これからは国を中からよくしようと思いまして、今度この首都から出馬することになりました」
「え、そうなんですか」
「これでも顔は広いんです。最も政治家は実力と頭もよくなくちゃいけないですが、今後あのような事があったら今度は我々の国だけで解決できるようにしたいのです。そして犠牲も出さないように」
「我々も運よくこの国にいるとは限らないですしね」
「ええ。なので今度またリマクを訪れる時があったら、私にも一報ください。きっとこの首都の長ぐらいにはなっておきますから」
「なかなか自信ありますね」
「こういうのは言い張るところから始めないと何も成せないですからな。団長殿。この度は本当にお世話になりました。くどいかもしれませんがあなた方がいたからこその最小限の犠牲者だったと思っています。これからの旅路も、どうかお元気で」
「ありがとうございます。次に会ったときはまたチチャでも一緒に飲みましょう」
アプさんと別れの握手をした。過ぎたことは変えられない。嘆いていても笑っていても生きている限り人生はずっと続く。どうせ続くのなら楽しく、自分のやりたいことをしていくのがきっといいだろう。
「そろそろみんな行こうか!リマクの皆さん、約2ヶ月間大変お世話になりました。この国で体験したこと、この国の自然と皆さんの想いは決して忘れません。またこの国に来るときはまた歓迎してくれることを切に願います。そしてそれに似合う舞台をするべく私たちも頑張りますので、これからもFlying Twinkle Caravanをよろしくお願いします!」
集まってくれた人の拍手がガルニエを包む。
スパイ、もとい冥界のお姉さんからもらったティカちゃんのピアスをつけた耳を気にしながら私は続ける。
「ベール」
ガルニエがしゃぼん玉で覆われていく。じゃあね、ティカちゃん、また会いにいくね。
「キエリス。」
キエリスの手を繋ぐ。さようならリマク、さようなら。
拍手や人々の声援の声が消えた。
転移した先は深い霧の中だった。
転移先が霧が出ているのか……?
少しずつ晴れてきた。遠くに大きなものが見える。かすかに見えるそれは大きな山に見えた。
辺りは建物もない。
草原のようだ。
いや違う、綺麗な色とりどりの花が咲いている花畑のような場所だ。
おかしい。転移先はこんな場所ではない。
どんどん霧が晴れていき、その全容が見えてきた。
どうやら人が立っている。
それも二人。
背が高いひとと、頭二つほど小さいひと。
あれは、私はどちらも見た事がある。
あれは———
ん?私の、いや、ティカちゃんのピアスが強く光っている!
* * * * * * *
「ティカ……」
ぼくたちの目の前にティカと綺麗で背の高い女性が手を繋いで立っていた。
幻術?いやメイラジュさん達も困惑しているようだ。
どうしちゃったんだぼくたちは。
ティカは今にも泣き出しそうになりそうな顔になりながらも周りの花のように満開の笑顔を浮かべてぼくたちに大きく手を振った。
あの笑顔と仕草は本物のティカだ。
まさかそんな。
ぼくは決めていたのに。
もう君のことで泣かないと、決めていたのに。
そして思い出した。
どうして今まで思い出せなかったんだろう。
あんなに鮮明にあのときの君の顔を覚えているのに。
ティカがあのとき、最期にぼくに言った言葉。
「大好きだよ」
ティカはそう言いながらまた大きく手を振った。
「ティカちゃん、パチャママに会えたんだね」
涙ぐみながらステラッチェ団長がそう呟いた。
「きっとプレンツにそう伝えるために会いにきてくれたんだ」
団長の左耳が光り輝いている。いやあれはピアスだ。ピアスが赤く光っている。
「さぁ。君のためにふたりも神様が手伝ってくれたんだ。返事をしてあげて」
君にはいつも驚かされてばかりだ。
初めて会った時も。
人を縛り上げる時も。
縛り上げた人を投げる時も。
ぼくに肩を寄せてきた時も。
結構お転婆な君にいつもぼくの心は持っていかれていた。
君の浮かべる花のような笑顔がぼくは。
「ぼくも好きだ!また会いに来るよ!また!君の……君の笑顔が見れて」
言葉が浮かばない。
溢れる感情が、震える心が思考を惑わせる。
大きな涙が頬を伝っていく。
声を裏返しながらそれでも最後に君に。
「君のことは忘れない!僕はきっと君に会うためにここまで来たんだ。運命ってものがあるならきっと僕にとってそれは君だ!でも——ありがとう。ティカ。……ありがとう。さようなら」
無様で、汚い顔を曝け出した。
でも最後の一瞬まで君を見ていたかった。
ティカは最後まで微笑んでいてくれた。
いや、少しだけ泣いていたのかもしれないけど、視界がぼやけてよく見えなかった。
再び霧が濃くなってきた。
遠くに見えた山々は、花畑は霞のように消えていった。
再びガルニエは深い霧に包まれた。
ありがとう、そしてさようなら。
また、会える日まで。
再び、霧が晴れてきた。
強い日差しが僕達を襲ってくる。
どんどんと足音が、賑やかな音楽が僕達を襲う。
涙を拭い、鼻水を啜った。
……ちょっとうるさいな!!!
今にも踊り始めなきゃならなそうなダンスミュージックを聴ける気分ではないんだけど!!!
なんだ!?このサンバみたいな喧しい音楽は!?
もう一度涙を拭って周りを見た。
人が、亜人が、ド派手で露出の多い衣装を身に纏いながら、お尻を振るわせながら踊っている。
周りは街だ。建物の間にはカラフルなテープが貼られて、紙吹雪が吹き荒れている。
空いた口が塞がらない。
腫れた目を見開きながらただ無心で周りを見ていた。
なんなんだこれは。
リマクで見たあのお祭りの踊りとはまるで違うパワーを感じた。
よく晴れた青空から何かが飛んでくる。
光だ。この光景は前にも見た。
でもあのときとはまるで違う。光の大きさが、速度が、あの謎のジグザグな軌道は前に見たものとはまるで違う。
そして僕達の前に凄まじい速度で大きな光が飛んできた。
そしてその光の中から———
チャラ男が現れた。
何故か虹色に反射するサングラス。
短パン、裸にボタンを閉めないままアロハシャツを着た身体に大きな赤い太陽のタトゥーが彫られている。こんがり日に焼けた肌。金色の趣味の悪い鎖のようなネックレスを身につけている。
毛先がピンクで緑色の髪の毛をかき上げながら、まるでさっきまでサーフィンしてました、イェイ!とでも言い始めそうな、そんな若い男が現れた。
「Yeah!!!!Flying Twinkle Caravanのみんな!」
「相変わらずだねサニィ。元気で何よりだよ」
「ステルルルルルラッチェ〜!!久々久々ァ!おっ!見たことない顔もあるね!みんなようこそ俺の国、イビポランマランへ!今回も魂からブチ上がる劇を頼むぜ?」
僕達の涙と笑顔のお別れの余韻を全てぶち壊したこのチャラ男がステラッチェ団長を覗き込みサングラスが鼻にかかったとき、ピンク色のその瞳には花模様が見えた。
……なんなんだこの国は。




