第45話 それでも時は流れていく
プレ講演中。音楽隊が合流してから台本を少し変えた。結末も少し変えた。
盛り込んだ内容は私たちが経験した岩の悪魔についてだ。
遥か昔、リマクは農耕や漁業そして鉱物資源などに恵まれ人々は静かに暮らしていた。そこに大きな角を持った血走った牛のような悪魔が襲ってきた。牛は現世と冥界の狭間である山に潜伏していてリマクの神達も彼らに手を出せなかった。そこで彼らを倒すべく勇敢な五人が立ち上がった。彼らは悪魔から差し出された刺客達を倒しながらそして森と風の精霊の加護も得て悪魔の根城にむかった。
そして戦いが始まる。洞窟内での戦闘の際に最も勇敢な女性が相打ちとなってしまった。脅威は去ったが失った物も大きい戦いだった。しかし、冥界を統治するリマクの神、スパイは亡くなった彼女を冥界の縛りから解放して、愛する人の元へと帰ることができましたとさ。めでたしめでたし。
ざっくりと書けばこんな話になった。
大津波やヴィラコチャの現界のシーンなどの冒頭部分はそのままに再び現れてしまった悪魔との戦いを追加したのだ。
人が、身近な人が死んでいるのにそれをも舞台にするのは何事かと思う人もいるかもしれないけど、私は私が表現したいことを舞台に取り入れる。嫌なら見なくて結構。
それでも、ぶつくさ言いながらも見にきてくれた人には全力で心を動かしたいとは思ってるよ、もちろん。
岩の悪魔の件を私たちは別に褒めてもらいたいわけではない。頑張ったね、倒してくれてありがとう、なんて言ってもらいたくて物語を変えたわけではない。
ただ、おとぎ話だと思ってくれてもいいから、間接的にでもこの国のために一生懸命だった人がいたのを伝えたかった。ただそれだけだ。
どんなことをしても失ってしまったものの中には帰ってくるものと帰ってこないものがある。それはこの先、魔法が、科学が発達したとしてもきっと変わらないだろう。私たちは私たちができることをするだけだ。
きっといい舞台になるだろう。
リマクの楽器の音色が綺麗なのは前の練習を見てわかった。
音楽隊にオーケストラピットに入ってもらって演奏をしてもらったけどとても綺麗だった。音楽隊は最初こそピットの上から見える魔法にびっくりしていたようだけど、三日もしたら慣れたようだった。
これはかなり早い方だ。きっとフェリックスがお祭りの練習も兼ねて色々仕込んでくれていたのだろう。
さて、ガルニエはとっても大きい。一般的な劇場よりも大きい。そしてそんな広い会場内ではいくら役者や音楽隊が頑張っても、隅々まで音が響きわたらせるのは少し難しい。そこで我らがサッフィの登場というわけだ。
シャチの亜人であるサッフィはその身体に少し特殊な力が宿っている。その力とは何か。彼女は身体から超音波を出せるのだ。私達のような人間では捕捉できない音色。サッフィはその超音波を使って会場内の音を大きくすることができる。この力はもともとサッフィなどのシャチの亜人の間で使っていたコミュニケーション能力だから、きっとシャチの亜人にはバレてしまう。
だけど世界中旅してきた私でもシャチの亜人はサッフィ以外に見たことがない。
プレではない公演ももう少しで始まるし、そのクオリティにも満足、そしてお祭りでリフレッシュもできてちょっとは元気になってきた。全く自分のことだというのに心というものはとても難儀でデリケートなものだ。でも自分が大切にしているものはきっと間違っていないって思ってる。少しは自分のことも信じてあげないと私が可哀想だからね。
公演が本格的に始まったそんな頃、お祭りで会ったあのひとのために個室を用意した日のことだ。




