第43話 ぼくに何ができる?何が残っている?
華やかな民族衣装に身を包んだ村の人達が棺桶の周りで並んでいた。
おばあちゃんも髪を下ろして、美しい模様のポンチョを羽織っていた。
村の人達や討伐隊の人達は歌や踊りを披露していた。
この土地では死は第二の生の始まりらしい。
だから悲しむことではないと。
また命が循環するのだからと。
大地の神パチャママ、冥界の主スパイへの祈りなどが終わり最期のお別れの時が来た。
棺桶が開けられた。
ティカが眠っていた。
いつもよりも動きにくそうな豪華な民族衣装を着ている。
あんな重そうな服、着ているところを見たことがない。
似合わな、いや似合ってはいるかな。
あとはひょっこり目を覚まして飛び跳ねながら両手を腰に付けて胸を張りながら起きてくれれば。
だけどいつまで経ってもティカは眠ったままだった。
顔の横に花や果物、ナッツなどを置かれても意も欠かさずに眠ったままだった。
あんなに夢で出てきていたから、本当は生きているんじゃないかと思った。
現実を、受け入れきれていなかった。
「…ティカ」
声をかけても返事はない。
「……ティカ。」
どんなに声をかけても。
「ねぇティカ。」
何度声をかけても。
「どうして、どうして……。」
棺桶に泣き崩れた。
誰かが背中をさすってくれた。
横から優しい声が聞こえた。
「ありがとう。ティカはプレンツくんに会えてとっても楽しそうだったよ。きっとプレンツくんに会ってからがティカにとっての人生が始まったんだと思うよ」
ティカのおばあちゃんはそう言いながら、ぼくの手に花を渡してくれた。
「きっとこれからもパチャママと一緒にプレンツくんもみんなも見守ってくれるから。」
花を棺桶に、ティカに置いた。
それから村の墓地に埋葬するのを手伝った。
もう、顔を見ることはない。
もう、声を聞くこともない。
もう、もう、もう——
葬儀が終わったあとティカのおばちゃんを探した。
「おばあちゃん。」
「あら。まだ帰らなくていいの?」
「少しお話をしたくて。」
「ええ。もちろん。それならお家に入りましょうか。」
竈門に火を入れたおばあちゃん。
クイがそこらを走っている。
ティカの実家。前はしなかった煙の匂いがする。
「さぁ、座って。今日は来てくれてありがとう。あなただって大変だったんでしょう?」
チチャをぼくに注ぎながらおばあちゃんは話した。
「いえ、もうこの通り元気になりました。」
「そう?まだあまり体調は良くないように見えるわ」
「そんなことないです。」
「無理しちゃだめよ。……あの子もね、昔から少し無理をする子だったの」
「ええ。そんな感じはします」
思い浮かぶ、人攫いを捕まえていた時の情景。人攫いを宿舎の部屋に放り投げる情景。
「あの子の母親はあの子の弟ができた時に、お産が少しかかってしまって、亡くなったの。まだあの子が二歳の時だったかな」
両親がいないとは聞いていたけど、そうか、出産で……。
「母親が亡くなって弟も産まれてすぐ亡くなってしまって。その後私の息子、ティカの父親はどこかへ行ったっきり帰ってこなくなってしまったの。私がそばにいたけど、あの子はふとした時に悲しそうな顔をしていたのを私は気づいていたの。そんな時に、あの岩の事件があって、首都の方へ向かうことになって。ここいらは同世代の子供はいないし、あの子は力があったから色んなことを任せてしまっていて、心苦しくてね」
竈門の火がバチバチと音をしながら薪が崩れた。
いつのまにかクイがぼくの周りや膝で寝ている。
「きっと人の多いところならお友達ができると思っていたの。そしたら急にあの子がステラッチェちゃんとキエリスちゃんを連れて来るんですもの。あの子はやっぱり外へ出すべきだと心から思ったわ。そして話すことはあなたのことや劇の話ばかり。願うことならティカもあなた劇の仲間に入れて欲しかったわ」
おばあちゃんは膝に乗ったクイを撫でながら、ティカの話を続けた。
まるで子供を撫でて眠る前の昔話をするように。
「最期の話も聞いたわ。ティカらしいと思ったわ。そしてきっと私の思いといっしょ。プレンツくん。あなたが生きていてよかった」
「そんな、こと……。ぼくが油断をしてしまって、不注意で、不甲斐なくて——」
「大変な状況だったのでしょう。アプから聞いたわ。あなたがいなければもっと被害が拡大していたと、ティカがあの洞窟から出せない事態になっていたかもって」
涙が止まらない。声も出ない。
そんなことない。ぼくが生きていてよかったわけがない。自分の孫が死んでぼくみたいなのが生きているなんて。そんなの、そんなの——
「ぼくは、お願いをしたくて来たんです。ぼくを、ここに、ここのお手伝いをさせて欲しいんです。ティカがいなくなってぼくが代わりを務まるとは思っていないです。だけど、ぼくはどうしてもぼくのことが許せない。どうしてもぼくが生き残ったのが悔しいんです。だからせめて、おばあちゃんとこの村に貢献したいんです」
昨日の夜から考えていた。
現実逃避しながらも、もし本当にティカが亡くなっていたら、ぼくに何の償いができるのか。
ぼくはお金も地位もないから差し出せるのはぼく自身しかないと思った。
「劇団は抜けます。そのつもりでここまで来ました」
「プレンツくん。」
「はい。」
おばあちゃんは首を横に振った。
「ティカは何のためにプレンツくんを助けたんだと思う?それはこの村で過ごしてもらうためなんてあの子が思うわけがないわ。あなたには自分の分まで世界を見て欲しかったのよ。自分の命を賭けてでもあなたを救いたかったの。きっとあの子だってそうしたいと思ったわ。けど、自分よりも相応しいと思った。あなたに生きて欲しいと思った。だから助けたのよ。」
「おばあちゃん……」
「あの子にはパチャママが、プレンツくんにはティカがついているわ。あの子も分も舞台の方を頑張って。」
おばあちゃんの家を出た。
本気だったけど、断られてしまった。
ぼくは大馬鹿者だ。
「済んだかい?」
「団長……」
「団を抜けるなんて啖呵切って何をするのかと思えば、私が言ったことわかっていなかったようだね。」
「すみません」
ぼくに罪はないと、あれほど言われたのにおばあちゃんにあんなことを話してしまった。
「いや、その、叱る気はないんだ。盗み聞きをしてしまって申し訳ないけど、おばあちゃんの言う通りだと思う。前にも言っただろう?この仕事はどんな経験も糧になるし活かせる仕事だ。」
「私達の舞台でこの経験を通して得たものをみんなに見せるんだ。きっとそうしていけばこんな想いをせずに済む人だって出てくると私は思う。止まってもいいけど思考は止めちゃだめだ。進むために、何をすればいいのか何が必要なのかを見定めないと。自分が犠牲になればいいなんて考えは思考放棄もいいところだ。さて、結局小言が多くなってしまったけど、改めて、少年の声を聞こうか。」
「ガルニエに帰ります。」
「うん。帰ろう。」
すっかり日は落ちそうで、空はほとんど黒に近い紫と地平線に沈む夕陽はオレンジとピンク色に溶けていた。
まるでステラッチェ団長の瞳のような空だった。




