第38話 岩に刻め その2
必死に手を伸ばした。けど、届かなかった。
諦めかけた。けどティカちゃんは諦めなかった。自分の身を忘れて飛んでしまったように見えた。
プレンツに迫る岩からその身を投げ出しながらプレンツを押し出した。
ティカちゃんは腰から頭にかけて岩が直撃しながら遥か後方へ吹っ飛んだ。
方向転換するか、いや新しく出て来た岩の悪魔はまだ攻撃のモーションにある。駄目だ。先に奴を叩かなくては今度こそプレンツがやられる。
ティカちゃんに覆い被さった大きな岩が宙を舞いこちらへ、いや再び身体に戻ろうとしていた。
破片がティカちゃんに当たらないように杖を投げて岩を砕いた。
こうなったら洞窟の崩落も岩の悪魔の動きも全部止める勢いで氷を張ってやる。
ミッシェルの動きを思い出す。
———銀濤流 雲濤煙浪
粉々に砕け散った岩を水でキャッチし再び凍らせた。
「起きるんだプレンツ!まだ終わってない!」
混乱しているようだ。プレンツは動ける状態か!?
そんな心配とは裏腹に手を構えてプレンツは力を放った。そのモーションが見えた瞬間にプレンツを信じてティカちゃんのところへ飛んだ。
頼む。どうか、どうか。
ティカちゃんに近づいていくにつれて、私の左目はもうわかってしまっていた———
討伐隊の傷の手当てをしていたアメデオのところへティカちゃんを連れて行き、任せた。
まだ戦いは終わってない!これ以上被害を出さないためにも再び岩の悪魔の元へ戻った。
刹那、左前方から異様なオーラを感じた。
「また、守ることができないのか」
ニニギがそう呟いたように聞こえた。
ニニギの目が開いた。
「叢雲。なんだいたのか。」
先程まで持っていた模擬刀の形状が変わっていた。
直刀。柄が何かの鱗のようなもので覆われている。鍔には八つの鈴。そして鍔から柄の先端にかけて円を描くように太いしなる金属の紐のようなものが付いていた。その紐にも無数の鈴が付いている。
「夜」
ニニギが左から右へと刀を振った。
同時に禍々しい八つの頭を持った大蛇が岩の悪魔を喰らい尽くしていた。
あの大蛇はきっと私にしか見えていないだろう。
大蛇に喰われた岩の悪魔は丸々魔力を失っていった。いや、消し飛ばされた?
「夜は切ったものをこの世の縁と切り離す技。故にもう動けまいよ」
一切合切の力を失いただの岩となった岩の悪魔の二体はごろごろと音を立てながらその場で崩れていった。
あのまま私があの二体へ突っ込んでいたら、あの大蛇に巻き込まれていたら———
「済まない。団長殿。これで終わった」
ニニギの持っていた刀が元の模擬刀に戻っていた。あのオーラも消えた。
直視などしてはならない刀、見ただけで呪われる。
喉の奥に冷や汗が流れていくのを感じて冷静になった。
そうだ!まだ身の保証はできていない!
「プレンツ!!!大丈夫かい!?」
プレンツの元へと駆け寄った。
私の目で唯一容態が判断できないプレンツは実際に確認しないと無事かわからない!
ゆっくり横たわっていたプレンツの肩へ腕を回し上体を起こした。
するとゆっくり目を覚ました。
「あ、団長……。」
プレンツの目から涙が溢れていく。
「プレンツ。大丈夫かい?痛いかい?」
「ぼくは……大丈夫です……。団長…、ティカは……」
「………」
私の無言の答えに大きく目を見開くプレンツ。
いや、まだ決まったわけじゃない。今だってきっとアメデオがなんとかしているはず。
ガタガタと音がした。岩と岩が擦れる音だ。
プレンツが先程倒した岩の悪魔からだ!
まさかまだ動くのか!?
しかしもうプレンツにはほとんど力は無い!
もういい。
私が擂り潰して地中深くに固めてマントルへ流し込んでやる。
無意識に奥歯を噛み締め、眉間に皺を寄せ、頬を引き攣らせ、拳を握りしめていた。
舐めやがって。もう頭に来たぞ。
このステラーラが貴様らを終わらせる。
この星が破滅を迎えるその日まで貴様らを何百億年と拘束してやるぞ。
「許してくれ。ひとの子よ。」
「はっ——」
なんだ?頭の中に声が響いたぞ。
「許してくれ。我はもう目が醒めた。他の者はもう動けぬ。この様な狼藉は続けない。どうか、ひとの子よ。その怒りを鎮めて欲しい」
岩の悪魔から抱き抱えていたプレンツへ目線を下ろした。
プレンツは小刻みに震えながら過呼吸を起こしていた。
しまった、怒りで我を忘れようとしていた。
深呼吸をしながら目を閉じ微笑んだ。
「ごめんね。大丈夫だよ」
こくりこくりと、プレンツが頷いた。
ごめん。また怖がらせてしまったね。
「我らはヴィラコチャに作られし、出来損ないのひと」
また脳内に響く声。どうやら私以外にも聞こえているらしい。
これは岩の悪魔の声だ。
岩の悪魔は語り始めた。
これまでの経緯を。悲しいひとの物語を。




