第37話 岩に刻め その1
ステラッチェ団長とニニギさんが少し前を歩く。
広そうな空間に二人が入った瞬間
「いた。」
そう二人が言うと凄まじい音と土煙がぼくたちを襲った。
そして目の前に土の壁が急に聳え立った。
轟音の中ふたりが何かを話している。
ぼくたちを襲った土煙が何故かまたふたりの方向へ吹き込んでいった。土壁が地面に戻り、ぼくたちはふたりの元へ走った。
ゴリゴリと岩が削れる音がする。土煙が徐々に引いていき、その全容が見えてきた。
無数の大中小の岩が積み重なり人間みたいな形になっていた。しかも三体。
それぞれ違うひとの形をしている。
歪なひとの形をしている。
「さっきニニギがこいつらを切り刻んだ!だけど残念ながら効いていない!砕き続けたら動かなくなるのか、核のようなものがあるのか、操っている何かがあるのかわからない!」
背中越しにぼくたちに状況を伝えるステラッチェ団長。初めて聞くステラッチェ団長の声色だ。冷静さがありつつも緊張感がある声でぼくたちに注意喚起する。
「何が有効なのか今のところは見当が付かぬ。もっと細かくしてやれば動かなくなるかもしれん。今度は腕の部分のみより切ってみよう」
「わかった。ニニギは左を、私は真ん中、残りの人たちは右の奴を頼む。それと、プランツ!」
「はい!」
「コイツらやはり魔力で動いている。君の力なら無効化できるかもしれない!私達でこの三体を引き付けておくから隙を見て君の力を当ててみて欲しい!」
やはり魔力で動いていたか。それも団長の左目がそう認識したのだろう。
そうと決まればぼくの力なら。
「アメデオ!君は右の奴の後方支援を頼む!」
「いい。俺はどちらかというと接近戦向きだ」
「じゃ上手いことやって!」
「わかっている。
アメデオさんがそう言うと少し後ろにリュックとひよこを置いた。そして姿勢を低くして足を開き、まるで拳法のような構えをとった。
少し、体勢が沈んだ。瞬間、いつの間にか岩の悪魔の足元にアメデオさんが立っていた。勢いそのままに手刀と蹴りを繰り出した。
後方に砕けた岩が吹き飛んでいく。
そしてバランスを崩した岩の悪魔は大きな音を立てながら倒れ込んだ。
「今だ!畳みかけろ!!そこら辺の岩よりは硬いがそこまでの強度はない!プレンツ!砕いたものからお前の力を当てていけ!」
身体強化魔法。それにアメデオさんのあの身のこなし。無駄のない熟練した技だ。
それもそうだけどこの人の身体に宿る魔力量、思っていたよりずっと強い!
あんなリュックを持ってかなり長く歩いていて大丈夫かなと思ったけどそんな心配は全然要らなかった。
掛け声と共に討伐隊の面々が岩の悪魔に畳み掛ける。
討伐隊の人たちの攻撃も効いている!
「プレンツ!何をしている!腰を抜かしたか!?」
「いえ!今行きます!」
砕けた脚が再び元あった脚の部分に戻っていく。そこにぼくの力をぶつけた。
ぼくの力に当てられた岩は揺れながら元の身体に戻ろうとしたがその揺れはゆっくりになっていきそのまま静止した。そして元には戻らず地面に転がった。
……よし!やはりぼくの力は有効だ!
でも数秒間ぼくの力を当て続けないと効果が出ない。
団の練習では放ちっぱなししかしたことがない。これが結構キツい。これを三体分か……。ぼくの力は保つだろうか。
いや!保たせる!必要最低限に留めればギリギリ保てる!その為にはやはりある程度砕かれた小さい岩になってから力を当てなければならない。
つまり最初からやることは変わらない!
ニニギさんと団長の采配は最初から変わっていないし間違っていない!
しかしニニギさんの初撃から団長の指示までのあの数アクションでここまで分析できるとは。
「おりゃッッ!!!」
討伐隊とアメデオさんがどんどん岩を砕いていく。しかし岩の悪魔も砕けた岩を再生させつつ動き始めた。
振りかぶりその大きな腕を叩きつける。
回転しながら突進してくる。
ニニギさんと団長はほぼ完璧に動きを止めていたけど、討伐隊の面々は時間が経つにつれて苦戦していった。
光を帯びながら何度も岩の悪魔に向かうティカ。岩は砕けていくが、ぼくの力がみんなの攻撃には到底間に合わない!
無効化した岩は岩となる。
しかし残った岩でまたひとの形を作っていく岩の悪魔。
少しずつ小さくなっていく。けど、あちらの攻撃の威力は変わらない!
ぶん
何か大きなものが高速で飛んでいく音がした。
壁際から凄まじい轟音を立てながら土煙が舞
い起こった。
なんだ?岩の悪魔とは距離が離れているのに。
土煙が岩の悪魔の方へ引いていく。
壁に何かめり込んでいる。あれは
「こいつ腕の一部を投げ飛ばしたぞッ!!」
ゆっくり岩が壁から引き剥がれまた腕に戻っていく。
「なっ……」
先程の岩がめり込んでいた壁に討伐隊の一人が大量の血を出しながら倒れていた。
「ラモンッ!!!!!」
アプさんが叫びながら壁へと向かおうとしている。しかしそんなことはお構いなしにまた岩の悪魔が身体の一部を回転しながら飛ばして来た。
「アプ!俺が行くからお前達は攻め続けろッ!」
飛んできた岩を拳で木っ端微塵にしながら諭すアメデオさん。
「くッ……お願いしますッ!タァアアアアッ!!!」
* * * * * * *
「団長殿、やはりコイツら核などない。我の切れる最小単位まで刻んだが動き続ける」
「こっちも雷や小規模な火とかも試したけど効いてない!!」
「しかし、やはり砕けば砕くほど再生速度が落ちている」
「うん。私の目でもそう視える。だけどこの持久戦、私たちはともかく討伐隊と何よりプレンツが保たない」
結構広いスペースとはいえ、力をセーブしないと洞窟内が崩落してしまう。アメデオも私より強い癖にかなり気を遣った戦い方をしている。肉弾戦だからどうしたってこちらの方が時間が経てば不利になる。
どん
鈍い、嫌な音がした。右の壁を見ると一人壁にのめり込んでいた。
アプさんが駆け寄る、その隙をまた岩が飛んできているがアメデオが防いだ。
あちらはかなり消耗し始めている。
やはりリスクを承知で二体同時に魔法を放つか。
ティカちゃんも戦い始めた時よりかなり力も見に纏う光の量も減ったように視える。
「ニニギ!できるだけコイツをガッチガチに固めておくから少しの間頼んだよ」
「嗚呼、任せろ。行け団長殿」
私の魔法でコイツらを倒すことは持久戦以外ない。しかし動きを止めるだけなら
杖を強く握りしめて振りかぶる。岩の悪魔に向かって。
「おりゃああああああ!!!!」
脚から腰、腕、胸、頭部全て叩き割った。後方に飛んでいった岩のかけら達はあらかじめ作った水の壁に受け止められそのまま冷やして固めた。
これをやると周りももちろん気温が下がるが少しの間だけだ。
右の岩の悪魔から目を離した隙にティカちゃんが岩を砕いた。すかさずプレンツが力を放つ。
先程岩を飛ばしてひび割れた壁が崩落した。
あれは。
「プレンツッ!!!!右斜前の壁だ!!!もう一体いる!!!!」」
間に合うか!?
全力で足元を蹴りプレンツのところまで飛んだ。
ああ、駄目だ。間に合わ———
* * * * * * *
団長がぼくの名前を叫んだ。
「右斜前の壁だ!!!!」
振り向くともう目の前には猛スピードで飛んできた大きな岩があった。
「生きて帰れると良いがのぉ」
ティカの村に来る前にザーラさんと話した会話が頭の中で思い浮かんだ。
『侮るな。血が流れるぞ』
ザーラさんの占い合っていたんだな。
当たってほしくない占いだった。
団長の声や目の前まで飛んできている岩の動きがスローモーションに見える。
走馬灯というものだろうか。まだ死んでいないのに、まだ致命傷にはなっていないのに。
帝国を抜けて、Flying Twinkle Caravanに入団して、やっとぼくの人生が始まったんだと思っていた。フレンなどの友だち、サンリスタニア王国の人達、リマクの人達、そして初めて好きになった女の子。
ぼくはやっと、歩み始めることができるようになったんだと思ったけど。
ぼくは目の前な好きな人すら守らずに死んでしまうのか。
死の直前というのは案外冷静になるんだな。
ごめん、団長、ニニギさん、アメデオさん、討伐隊のみんな、そしてティ——
「プレンツ!!!」
まばゆい光がぼくを包んだ。
その中からティカが見えた。
そしてティカはぼくを押し退けた。
ぼくは壁まで飛ばされてしまった。
その刹那また
どん
という音が後方で鳴った。
な、なんだ。今のは。
ぼくは生きているのか。先程の光と土煙のせいで目が開かない。
光?
さっきの光は一体、本物だったのか。
「起きるんだプレンツ!まだ終わってない!」
ステラッチェ団長の声で正気に戻った。
凄い勢いで二体の岩の悪魔を砕き、凍らせていく団長。あまりの魔法の範囲で周囲の壁に亀裂が走っていくのが見えた。
惚けている場合ではない!
全体が細切れになった岩の悪魔二体に向かってぼくは力を放った。
団長が二体を氷漬けにした後またぼくの後方へ飛んでいった。
「はぁ……はぁ……あ、あと二体……。」
一気に二体を片付けられたのはラッキーだ。だけど範囲が広すぎた。かなり力を消費してしまった。
なんでぼくはこんなに焦っているんだ。何から目を背けている?
こちらへ来る前に団長が凍らせていた岩の悪魔が徐々にその氷を剥がしつつあった。
あいつも細切れになっているうちに仕留めなくては。
走る。真っ直ぐ走れない。耳鳴りがする。クソ、力を一気に使い過ぎた。
氷が完全に砕けた音がした。駄目だ立っていられない。討伐隊の誰かがぼくに呼びかけているようだけど何を言っているかわからない。
直後、黒い一閃を見た。
いや見てはならない一閃を見た。
ニニギさんの瞳初めて見た。
ステラッチェ団長のような、ザーラさんのような真っ白な瞳に映る花模様。
そんなことを思いながら気を失ってしまった。




