第36話 巻き上がる岩
「じゃキエリス。それに皆さん行ってきますね。」
「はい!気をつけて!」
キエリスさんと討伐隊の人を何人か残して洞窟内へ入った。
中は結構広い。団長も言っていたけど岩の悪魔はかなり大きいらしいから通り道も大きくないとならないのだろう。元からこの大きさなのか、奴らが通ったからこの大きさなのかはわからないけど。
討伐隊の仲間と団長が光球を出した。
舞台でも使っている魔法だ。
小さい光の球だけどかなり明るい。
足元どころかかなり奥深くまで照らしてくれている。
洞窟内は外気より少し涼しい気がする。時折、雫が滴り落ちている音が聞こえる。
静かな洞窟だ。とても悪魔なんて棲みついているようには感じられない。
ぼくたちは各々最低限の荷物を持って移動している。
団長いわく平坦な道が続くそうだ。崖とかを登ったりはせずにすみそうだ。
アメデオさんのリュックは一際大きい。
医療道具などを詰め込んでいるのだろう。
それなりに年を取っていそうだけど体力がある。
あれ、そういえば
「団長。」
「どうしたの?」
「杖持ってきたんですね」
「ああ。これね。」
舞台に立つ時に持っている杖。
真っ黒で真っ直ぐなシンプルなデザイン。手元だけが銀色の金属が埋め込まれている。
舞台に立つためのファッションだと思っていた。
足腰が弱いわけでもなさそうだし、足場の悪いところを歩くために持ってきたのかな。
「この前、ああ、プレンツはいなかったっけ。岩を砕くのに手足を使うのもいいけど、どうせなら杖でぶん殴ったほうが早いかなって」
「その杖もしかして特別な力があるんですか!?」
ティカが少し興奮気味に聞いた。
「うん。実はこの杖特殊でね」
え、そうなの。そんな話聞いたことがない。
しかしステラッチェ団長が持っているものなのだから何かすごい力が秘められているのかもしれない。例えば魔法を増幅させるような性質だったり、コントロールがしやすくなるとか。
そう考えると何か細工されていることの方が自然だ。他の団員の人もそういう特殊な道具を実は使っていたのかもしれない。
「この杖貰ったものなんだけどね。めちゃ丈夫なんだ」
「あぁ、そうですか」
舞台上の魔法は全てステラッチェ団長の実力だった。
そんな話をしつつ、この静かすぎる洞窟内を進む。道がでこぼこしているし迷路のように道が分かれている。しかしゆっくりと徐々に地下へと進んでいるようだった。
* * * * * * *
先にコウモリで調べておいたからわかっていたけど、この洞窟全くと言っていいほど生物がいない。
洞窟なんていうから魔獣や獣が棲みついているかもと考えていたけど蓋を開ければこの有様だ。
有毒ガスが出ているとか?アメデオが連れているひよこは生きているしその可能性は今のところはない。リマクは火山活動が活発な山もあると聞くけどこの辺りではその噂はない。
そういえば空気は澄んでいるように感じる。
実はこの違和感のなさこそが答えなのかもしれない。
しかし、コウモリ1匹すれ違わない洞窟なんてやはりおかしいと言わざるを得ない。
索敵については私も見張っているし、ニニギもいる。討伐隊の人達だって素人ではない。
何事もなく目的地まで進んでいく。
まるで招かれているようだ。
そして
「あの突き当たり。あそこのカーブの奥が私が違和感を感じた大きな空間だ」
「結構遠かったな」
アメデオは眉間に皺を寄せながらそう呟いた。
これはただ歩き疲れたという嘆きではない、何かあったら出口まで戻るのにかなり時間がかかる、という意味だ。
逆にいえば岩の悪魔をその距離の間は洞窟に閉じ込められるとも捉えられる。
「今のところ、動いている様子はない。我はまだ何も感じない」
「超音波がちょっと性質の違う岩か何かだと勘違いしてしまっただけかもしれない」
「しかし、団長殿が通った道はどの道も大きな通路だった。岩の悪魔がいる可能性は十分ある」
アプさんの言う通り、でかい図体をしているであろう岩の悪魔が通ることができる通路、という条件ならかなりまたは絞られる。私の違和感とその条件下を進んだからやはり可能性はあるだろう。
「私とニニギが先行します。他の人は少し後ろから付いて来てください。ニニギ」
「嗚呼」
ゆっくりと二人で進む。
光球を少しだけ先行させながら。
広い空間が目の前に現れた。
周りは大きな岩が積み重なっている。今までも洞窟内で見た光景だ。
「いた。」
私とニニギはそう呟いた。
私が地団駄を踏もうとしたその刹那。
ニニギは剣を抜き、目の前の岩に向かって一閃を放った。
目の前の岩石群が甲高い何かが切れる音と岩と岩がすれ落ちる轟音と共に土煙を上げた。
私はそのまま上げた右脚を地面に踏みつけて私とニニギの後方に土の壁を作った。
後ろの人達にこの土煙が被らないように。
「どうだいニニギ。」
「駄目だ。そしてやはりヴィラコチャの忘形見だろう」
「そっか。核はあった?」
「見ての通り、できうる限り千切りにしたが、核らしきものを切った感覚はない」
「この砂粒状よりも小さい核って可能性は?」
「だとしたら骨が折れるな」
先程私達を襲った土煙が逆流し、ニニギが切った岩石群に戻っていく。そして、元通りの岩石となった。切り刻む前の岩石に。
そして岩と岩がぶつかる嫌な音を放ちながらその岩達は高く高く、独りでに積み上がっていく。
そしてゆっくりと出来損ないの人の形に模した岩の大男が三体立ち上がった。




