第35話 雨の操り人形
洞窟入り口にキエリス、そして討伐隊の数人、いざという時のための救命のための道具をいくつか残し、村に作ったドーム状の家を作っておいた。
いよいよ、討伐隊と私、ニニギ、アメデオ、プレンツと共に岩の悪魔討伐に挑む。
「じゃ解くね」
「はい。頼みます」
目を閉じて結界の核である楔に手を伸ばす。知恵の輪のような回路を解く。
目を開けると楔はボロボロに砕けていった。
そして、目の前には洞窟へと続く大きな穴が空いていた。
「見事だ団長殿」
「うん。ありがとう」
「そんなものの数秒で解くなんて」
「いえいえ」
数秒か。私には数時間ぐらい経ったと感じたけど。
「早速行きますか、と言いたいところですがその前に私にもうひとつやらせていただきたいことがあります」
「それはもちろん」
アプさんも相変わらず冷静だ。
さて。ここからは出し惜しみはしないよ。
「雨の操り人形」
* * * * * * *
手を翻して水を集めている。
ステラッチェ団長はパトリックさんがよく使う魔法を使った。
『雨の操り人形』
水の魔法のひとつ。魔法で操る水を生き物のような形にする。これを使える人はうちの団の人でもごく僅かだ。
いや、形取るだけでいいのならもっと多くの人ができるだろう。しかしあのようにまるで本物そっくりに動く水を操るのはかなり難易度が高いのだそうだ。
精度の高い『雨の操り人形』はその生き物の性質や特徴を持たせることができるとパトリックさんが言っていた。
もちろんそれ相応の魔力量が必要だと。
ステラッチェ団長は『雨の操り人形』でコウモリを作った。
目を瞑って集中しているようだ。
「うん。悪くない」
ステラッチェ団長の手の周りを飛んでいたコウモリは洞窟内へ飛んでいった。
「雨の操り人形、水の魔法でコウモリを作りました。この人形を使って洞窟内を索敵、そして内部を把握します」
「コウモリですか?もしやその作ったコウモリは!?」
「はい。超音波で光の届かない場所でも中を把握できます。事前におおよその位置を把握してから動きましょう」
「そ、そんなことができるんですか!?あれはコウモリの形をしているだけではないのですか!?」
「ほえ〜〜」
アプさんもティカもいいリアクションをしている。
後方腕組みキエリスさんは得意げだ。
「見たか!うちの団長を!」
と言わんとばかりに。
「ふっふっふ」
あ、声に出した。
「それで中はどうだ?」
しばらくしてアメデオさんが口を開いた。
「うん。割と入り組んでるね。けど、周りの薙ぎ倒されている木や獣道の大きさから考えると岩の悪魔はやはり噂通りかなり大きいだろう。そんなデカブツが倒れる道という条件が加わればかなり絞られる」
拳を顔の前で握りしめている。
良く目を凝らして見ると何やら蜘蛛の糸のようなものが団長の拳から洞窟内に伸びている。この糸でコウモリを操り内部を把握しているようだ。
「——大きな空間がある。周りは土や岩の壁だけど、何個かの塊は壁とかの反響具合が違うな。きっとこれだろう。」
依然、目を瞑り顔の前に拳を握りしめている。
「そうか。ニニギ、どうだ?」
「団長ほど視えているわけではない。近づいてみなければなんとも言えん。が、団長を信じよう」
「そうだな。わかった。ステラッチェ。他に違和感はなかったか?」
「ない」
「そうか」
アメデオさんが先導して状況を分析している。あまり見ない光景だ。
それにしても凄まじい索敵能力だ。ものの十数分で目的地と経路がわかってしまうなんて。
こんな人が一人で挑めば死ぬとは思えない。
ザーラさんは団長のことを見くびってなどいないだろう。それでもなお、占いのお告げをぼくに言ったということはその可能性は十分にあるということだ。
握りしめていた拳を解き、振り払うような仕草をした。
「じゃあ今度こそ行こうか」
ぼくたちはステラッチェ団長の言葉に静かに頷いた。




