第34話 鏡の忠告
ティカの村に行く前に水を飲みに食堂へ向かった。ザーラさんが部屋にポツンといた。
舞台の練習へ向かったものだと思ったけど。
机に何かを落としている?
何をしているんだろう。邪魔してはいけないから水を飲んだらさっさと出よう。
「プレンツ」
話しかけられてしまった。
ん?
ぼくなんで話しかけられてしまったと思ったんだ。
「これから行くのか?」
「ええ。はい。そろそろ向かうところです」
ザーラさんとはあまり、というか全然話したことがない。最初に挨拶程度しかしてないから話しかけられたのは少し驚いた。
「そうか」
先程からずっと机を見ている。一体何を見てるんだろう?
話しかけられたなら仕方がない。ザーラさんの方へ向かって歩いた。
あれは……いろんな色の石?大きさもバラバラだ。
「気をつけるんじゃぞ」
よくわからないけど、応援してくれているのか。
「はい。ありがとうございます。気をつけて行ってきます」
「何度やっても同じでのぉ。生きて帰れるとよいが」
「え?」
生きて帰れるだって?
このひと急に何を言い出すんだ。
「占いの結果がのぉ。あまり芳しくないのでな。おそらく血が流れるゆえ。気をつけよ」
「……占いというのはその石ですか?」
無造作に散らばっている石から目を離さずに淡々とザーラさんは話し続けた。
「ああ。石を落として転がった先の配置などで運命をみる占いでのぉ。プレンツのような人間には妾の力が通じるのかわからぬしなぁ」
ザーラさんが目線を机から離してぼくを見た。
ステラッチェ団長のように瞳に花模様がある。
ステラッチェ団長とは異なり両目に。
正直、このひととは目線が合うだけで震え上がりそうになる。悪いひとではないと思っているけど、なんというか住む世界が違うひとというか。
「このことは団長には話していなくてなぁ。ニニギには話しても良かったかもしれないが、いややはり話さない方がよい。アメデオも、やはり話さなくてよいだろう。かえって取り返しのつかない事態になるかもしれぬからなぁ。ヴィラコチャが来てしまったら逃げの一択しかなくなってしまうからなぁ」
「どうして、ぼくには話したんですか?」
その占いがどこまで当たるかは知らないけど、不安なことは団長には言っておくべきだろう。いや団長じゃなくてもニニギさんかアメデオさんのような人に。
「皆でやらねばならぬようだからだ」
「みんなで?」
ザーラさんを取り巻く空気が少し変わった。思わず息を飲んだ。
「侮るな。岩の悪魔とやらおそらく手強いぞ。団長様のみで挑めば死ぬと出た。あの団長様がじゃぞ?今回の鍵はニニギ。そしてお主じゃ。しかし鍵だけではうまくはいかない。他の仲間もいなければおそらくは叶わぬ」
団長がひとりで討伐に行けば死ぬ?あのステラッチェ団長が?鍵がぼくとニニギさん?
「ザーラさんが付いてきてくれたら、その結果は変わるんですか?」
「ふむ。残念ながら多少マシ程度にしかならぬだろう。そのヴィラコチャの忘形見、妾とは相性が悪いと見た。ま、ただの占いだがのぉ」
足をぷらぷらと揺らしながら、外見は可愛らしい女の子、というか幼女は話す。
「それに妾はヴィラコチャの対処をしなくてはならぬかもしれぬからなぁ。同行はしない方がよい。最悪の中の最悪を避けていくのが一番大切な処世術なんじゃぞ。その意味では団長様の采配はなかなか冴えている。プレンツ。お主はお主の役割に徹しよ。ニニギと共にな」
ザーラさんの口角が少しだけ上がったように見えた。
生きて帰れないなどと言われたからゾッとしてしまったけど、気を引き締めろ、無駄な力は入れないで仲間を信じろという激励の言葉を送ってくれたんだと感じた。このひとも近寄りがたい雰囲気ではあるけどやさしいひとだ。
やさしいひとだからこんな言葉を選んだんだ。
とはいえ、ザーラさんの占いを信じるなら状況はかなり良くはなさそうだ。
しかしやさしいからといってやさしい言葉のみでは濁さない。ステラッチェ団長がひとりで挑めば死ぬ、か。考えられないことだけど、もし本当にそうならば苛烈な戦いになりそうだ。
「はい!アドバイスありがとうございます」
「ああ」
軽く頷いて、コップ一杯の水を飲んでお辞儀をして扉を開いた。
気持ちの整理がつかないけどそんなのは後だ。今は目の前のことに対処するだけだ。
「あの半人前を、未熟者を頼むぞ」
扉が閉じると同時にそんな言葉が聞こえた。
後ろを振り向いた。けど、そのままガルニエの玄関まで走り抜けた。




