第33話 岩と結界の入り口
「あなた達がその劇団の人達ね」
「はじめましてプレンツです」
「ニニギと申す。大勢で申し訳ない」
「おばあちゃん。アメデオという者だ。しばらく厄介になります。一応医者をやっているから何かあれば教えてくれ」
「あらありがとう。みんなよろしくね。ステラッチェちゃんとキエリスちゃんもまた会えて嬉しいわ」
「はい。またお会いできましたね」
「久しぶりですー!おばあちゃん今日もお肌ツヤツヤ!」
「まぁまぁ」
討伐隊をガルニエに呼び、ティカちゃんの村まで連れて行った。
岩の悪魔がどこの洞窟にいるかを探してもらうためだ。見当はついているようだから、ここは地元の人間に任せた。探している間、私、プレンツ、アメデオは高度順応のために討伐隊が帰ってくるまで村で滞在することにした。
ニニギは順応の心配はないとのことだから討伐隊と共に行動することになった。
洞窟を見つけたら、ティカちゃんを連れて入り口の辺りにマークを作る予定だ。
洞窟の調査は大体3日ほどだと見込んでいる。
ティカちゃんは村に残れば良いのにと思ったけど、本人の強い要望で行くことになった。
まだ岩の悪魔を倒しに行くわけじゃない。何処にいるかを特定する為だ。それにニニギもいるし。そりゃ地の利はティカちゃん以上にある人はいないかもしれないけど、なんだか随分張り切っているように見えた。
「前に来た時は魔力切れかなと思ったけど、単純に空気が薄いのもあったんだね〜」
「台地のようなところだから見かけはそこまで標高は高く見えないんだけどね。というか、自分で飛んできてたじゃないか」
「夢中だったからあんまり考えてなかったんです〜」
足を踏み込み、土で討伐隊が寝泊まりできるようにドーム状の家を作った。
女性陣はティカちゃんのお家に泊まらせてもらうとして、あと二つほど作れば十分だろう。どうせ何日かだけのためだし。
「まぁ!こんなのが作れるのね。すごいわ」
私の作ったドームの家を見てティカちゃんのおばあちゃんが褒めてくれた。
「そんなに本格的なものではないですけどね。この件が終わったらまっさらにしますので少しだけお邪魔になってしまいます」
「あら。壊しちゃうの?」
「残しておきます?」
「ええ。是非。あなた達がいなくなったら家畜の小屋にしようかしら。いえこんなに立派なら私が住もうかしら」
「そこまでいうならもう少し立派なのを作りますよ」
「助かるわありがとう」
「どれ。じゃ手を出して。脈から見ますよ」
「ごめんなさいねぇ。村の人達はお医者様なんてなかなかかかれないから。あと何人もいるけど」
「どうせ暇なジジイですので大丈夫ですよ。キエリス、ガルニエから消毒液持ってきてくれるか?あと鎮痛剤、抗生物質、包帯、あと」
「それ私が見てわかるやつほぼないんですけど!」
「帰ったらソフスかアルティオムに聞けばわかる。どっちかを連れてきてくれてもいい」
「それはありかも!でもな〜ナースキエリスちゃんならまだしも宅急便キエリスちゃんはなんかな〜」
「薬の見分けも付かない看護師が看護師を務まるわけないだろ」
「だって〜知らないものは知らないんだもん」
「いいから行ってこい。二人は暇ならでいい」
「わーかーりーまーしーたー。なんかめっちゃ重そうだな〜。っていうかあらかじめ準備しておいてよね〜。じゃ行ってきまーす」
「おう。頼む。(どうせなら村の住民をガルニエに連れてきちまった方が早いかもな。)」
「この畑ですね」
「ええ。結構広いでしょ。これから大変なんだからゆっくりしていってもいいのよ?」
「いえ。ティカだって今頑張ってるんです。ぼくも草むしりぐらいやります」
「そう。ありがとうプレンツ君。あなたはティカから聞いていた通りの男の子ね」
「ティカからなんて聞いてるんですか?」
「優しくて強い男の子だって」
こうして村のお手伝いをして数日を過ごした。
そして討伐隊が帰ってきた。
「みなさんお疲れ様。それで、どうでした?」
「ああ。いたよ。ほぼ確実に。洞窟の入り口は結界で守られていて見つけるのに難儀した」
アプさんが難しい顔をしながら報告をくれた。
「結界?」
「調査隊のものとみられる楔があった。調査が始まる時に張ったのか、失敗後に張ったのかはわからないがかなり強固な結界だった」
結界か。岩の悪魔をその洞窟内に閉じ込めるためのものかな。それとも、誰も入ることができないようにしたのか。
「解除したんですか?」
「我なら切り捨てることも可能だが、念のため団長にも見てもらおうと」
同行していたニニギ。ニニギが確認したほうがいいというならその通りなのだろう。うーん。その楔は調査隊が打ったものなのかな。
結界には張った者の意思が現れる。だから私にも見てほしいとニニギが言ったのだ。
「わかった。キエリス、ティカちゃん。結界のところまで飛ぶよ」
「はい!!」
「キエリスはともかく、ティカちゃんは連続でごめんね」
「キエリスちゃんだって宅急便で疲れてるんですけど〜」
「はいはいお疲れ」
重いものを運んだようだけど、キエリス体内の魔力はそんなに消耗していない。高度順応もできているようだし本人が言うほど問題はないだろう。
「はい!私は全然大丈夫です!」
対するティカちゃんはいい返事をしてくれた。
ティカちゃんの方も特に気になる様子はないみたいだ。
「ニニギとプレンツも一応来てもらおうかな。いいかい?」
「ああ。勿論だ」
「了解です」
まだ結界を見るだけだけど、早めに現状を把握しておいたほうがいいだろう。
洞窟があったのは深い森の果ての山の前だった。とはいっても洞窟が見えたわけじゃ無い。結界に覆われている所は他と同じく崖のように見えている。ただ、周辺の木々が何か大きなものでへし折られている。獣道、なんてよりももっと荒い道ができていた。岩の悪魔が通った跡に作られたものだろう。結構大きそうだ。
「これか」
結界。ただの空間に張ることもできるけど、基準、すなわち楔を元に張るとより強固な結界となる。また軸があることで条件付けが複雑にできる。
知恵の輪のように、決まった順序で解いて行くか、結界のキャパを上回る力でぶち破るかが解く方法。条件によっては結界の解除後に術師の意図しない方法で解くとペナルティがある場合がある。
今回のは……。
「ペナルティはないみたいだ。けど、なんだろうこの結界。あとから条件が追加されてる。しかも追加された方は読みづらい……。んん〜。」
元の結界、つまり条件追加が無い時点の結界は、まぁ複雑ではあるけど解ける。けど、追加分のは今まで見たことがない形態だ。
なんだこれ……えっと『闇を穿つ、母の対極』『深淵の花』って解釈すればいいのか?
『水面に浮かべ』『梟の眼光』
多分これは。
「月光。月光が無い夜のみこの結界は解除されるみたいだ」
「団長さんどうやってわかったんですか?」
「私の目はちょっと特殊でね。結界なら、なんていうんだろう、結界に刻まれてる記号みたいなのが見えるんだ。それを元にこの結界が何を拒んでいるのか、守っているのかを読むんだ」
「そんなことできたんですねステラッチェ団長(目が良いの次元を超えてないか?本当に何でも看破してしまうんだな……)」
「ニニギも似たようなものでしょ?」
「我は団長殿ほど鮮明には読めぬ。だが、我の解釈と一致している。十中八九、それであっているだろう」
「そっか。この結界の条件は『日中、月夜では洞窟内から結界外へ出られない』『洞窟外側から入るのは拒まない』だろう。今は昼間だから岩の悪魔は出られない」
「じゃ、新月の時が結界が解かれるってことか、えっと新月の周期は……」
「約29日と半日毎にこの結界は解かれる。だが、結界の特性ではおそらく、新月の日のみではなく、あくまで月の光が届かない夜なら解除されていたんだろう」
「岩の悪魔が村を襲っていた、という話も思い返せば、嵐の夜や暗い夜とかだったよね。逆算して考えれば推測できたね」
やれやれ。もう少し考えていれば辿り着きそうな答えだった。アメデオとかならこういう細かい話も言っておけば推理できたかもしれないな。数少ない状況証拠と合ってるかわからない証言でもあったから仕方がない。
「よし。解除はできそうだから一旦村に戻ろうか。キエリス、準備できたかい?」
「丁度マークができたところです!なんかおっかないしさっさと帰りましょう!さぁ!さぁ!」
洞窟内は見えない。私の左目を持ってしても中がどうなっているかはわからない。なんとなくだけど結界に条件を追加したのは人間ではない気がした。
森を抜けて通る風は少し湿っていて、冷たい風が私達を通り抜けて洞窟内へ流れて行く。
風に呼応するように山全体が耳では感知できない、揺れる音がした気がした。
キエリスの手を取る前にもう一度楔と洞窟を見た。
さて。鬼が出るか蛇が出るか。いや、邪かな。冷たい眼差しを洞窟に残しつつ手を取った。




