第32話 知らない世界
それから舞台袖で舞台の練習を見学させてもらった。
舞台袖から見る景色は前に見た観客席からとは違った。何と言っても全てが近い!この劇団の人達の魔法が間近で放たれるその様たるやったら!
いつも観客席側や舞台袖にいるプレンツはいいなぁ。毎日特等席でこんな夢みたいな光景が見られるなんて。私なら今見ているのが夢なのか現実なのかわからなくなっちゃうな。
台詞付きの練習、魔法のみの練習、ある程度通しての練習。オレーナさんとキエリスさんが主導で進めている。キエリスさんも疲れを見せずにあっちに行ったりこっちに行ったり魔法でちょこちょこ移動しながら細かく指示している。あとよく見ると両袖脇に円がある。そこに立つと演者の人が簡単に下手、上手と行き来できるようにしている。舞台袖に色んな楽器を演奏している人もいる。確か本番ではオーケストラピット?という場所に音楽隊が入るんだろうけど今はいないから簡単な音の合わせをしているんだろう。光の球が上部に漂ったり舞台袖に来たりしていろんな色の光を出していた。
魔法劇団、細部が見えてくるといろんな工夫が見えてきて面白い!
きっとステラッチェ団長さんがいればもっと違う練習風景なのかもしれないなぁ。
それから休憩を挟みながら大体6時間ほど練習をして夕食を食べた。なかなか長時間だ。
ミッケさんが言っていたアクアパッツァ!お魚料理でこんな味付けがまだあったなんて。魚は近くの街で買っているらしいけど、私が作っても同じ味は出せないなぁ。臭みもないし、身もふっくら。あとで双子ちゃんに作り方を教えてもらおうかな。
そしてデザートにパンケーキも出てきました!そしてアイスクリームも!パンケーキにアイスクリームを乗せて、蜂蜜をかけて、チョコもかけちゃったりして!ミッケさん、双子ちゃん。私はこんなに甘いものに溺れる日が来るなんて思いもしませんでした。
団の人たちとも色んな話をした。舞台での魔法のことについて私の知らないことばかりでびっくり。わかってはいたけど私は何も知らないんだなぁ。
普通の人はそんな世界があることすらも知らないで一生を過ごすんだろう。私は運が良かった。一流の人たちに出会えて、受け入れてくれて。
山にある小さな村とも言い難い集落にいた私にとって、まるで夢のような空間。
こんな世界があったんだなぁ。
畑の開墾以外にも魔法って使えるんだなぁ。
悪い人をやっつける以外にも、種に水をあげる以外にも。
私はちょっとだけ魔法が使えたから村では役に立てた。幼い頃に両親がいなくなってしまって寂しかったけど、おばあちゃんからは死んじゃっても見守ってくれてると背中をさすってくれた。でも見守ってくれるなんて私はして欲しくなかった。ただ一緒にいて欲しかった。
泣くのは一日で辞めてそれからは家の手伝いを頑張った。編み物に畑に草むしりに掃除に料理。
周りの人達もそうだった。何をしてもお腹は減るし、埃は舞うし、雑草も生える。でもそんな頑張りをパチャママは見ていると思うことにした。死んでしまった両親はどうかわからないけど、きっと神様のパチャママなら見てくれていると何となく思った。
そんな日々が続いていたある日。アプさんが家に来た。噂に聞いていた遠い村での出来事がどうやら原因がわかったと。その原因を叩くために討伐隊のメンバーを首都で集めていると。この話を聞いてこれはパチャママからのメッセージなんじゃないかと思った。私にとってはきっかけなんてなんでも良かった。ただ、漠然と、この村で生涯を終えてしまうのかなと考えていたからそれを打ち破る理由が欲しかった。
アプさんは他の村へもメンバーを探しに行くというから私一人で馬を連れて首都に向かった。
一人でこんな遠出をするのは初めてだった。大変だったけど首都が見えた時は感動した。私は一人でもできるんだ。もう大人なんだって。
村が嫌というわけではない。ただ、私の知らない刺激を、世界を感じたかった。
首都では知らないことばかりで退屈しなかった。だけど人攫いなどの犯罪があることも知った。色んな人がいる場所は良い人もいれば悪い人もいるんだと学んだ。
自分がこうしている間も子供達が怖い思いをしているんじゃないかと考えて眠れない日もあった。実際に未だに行方不明の子供も沢山いる。
村では役に立ててた私の魔法はここではそこまで役に立てなかった。そんな中で出会ったのがプレンツ、フレンさん、ニニギさんだった。
パチャママはこの人達に会う為にこの機会をくれたんだと確信した。
私の運命を変えてくれた人達。
私に世界を教えてくれた人達。
ねぇ。パチャママ。私はね。




