第27話 ぼくから見る団長
舞台の練習をしていたら途中でステラッチェ団長がやってきた。
もっとも、ぼくは魔法の火消しをしているだけだけど。まあ、これも練習にはなるか。
昨日は副団長とティカとかなり遠くまで行くと聞いていたからもしかしたら数日は帰ってこないかもと言っていたけど、思っていたよりずっと早い帰宅だ。
ぼくは観客席の方から火消しをしていた。
背後からどこからともなくステラッチェ団長がやってきたのだ。
「やぁ」
「うわあ!!驚かさないでくださいよ。死ぬほどびっくりしました」
「いいオーバーリアクションだね。舞台に立つ者は身振り手振りが大きい方がいい。その分遠くからでも見えやすいからね」
いいオーバーリアクションって、意味あるのかそれ……。というかこの反応は素だ。いると思っていない人が急に背後から現れたら誰だってびっくりするだろう。ましてやその相手がステラッチェ団長なら尚更だ。
とはいえ、確かにちょっとオーバーリアクションだったような気がする。みんなの演技を見ていた影響かな。
「いいかいプレンツ。舞台はね。どんな気持ちもどんな経験も全てが活かせる唯一の仕事だと私は思ってるんだ」
「そうなんですか」
「うん。だから今君がびっくりしたと思った時の感情や仕草はよく覚えておいてね。人は、自分は驚いたとき、こんな反応になるだーっていうのが演技に活かせるからね」
「なるほど。それで気配を殺して背後から話しかけたわけですね」
この人とんでもない魔力量なのにどうやって気配消せたんだ。空気が揺らぎもしなかったぞ。
「実は10分ぐらい前からずっと後ろにいたんだけどなかなか気づいてくれなくて」
……ぼくが鈍ったのかな。
「後ろから君の仕事っぷりを見る機会ってなかなかないからね。感心していたんだ」
「はぁ。ありがとうございます」
むしろぼくの力が全然この人には遠く及ばないことがわかって落ち込む。
元より敵う相手ではないけど。
「ほら雷」
「う、うわあ!!!」
慌ててぼくの力を出した。危ない危ない……。
今は舞台の床や椅子など設備にしかベールさんのしゃぼん玉が覆われていないから魔法が当たったらそれなりに痛い……と思う。
みんなプロとはいえ防御なしで当たればそれなりの怪我はしそうだ。
幸いまだ当たったことはない。ゼロ労災を目指そう。
「リーホワは相変わらずキレッキレだね。あ、そうそう。今日ティカちゃんがここに泊まるよ」
「へぇそうなんですか。え!そうなんですか!?」
「そうそう、そういう古典的なノリツッコミも舞台では武器になるよ」
め、めんどくさいなこの人……。
古典的って言うな!素だ!素!
「あ、ほらまた」
「うお!ちょっ……!?」
なんとかギリギリ間に合った。雷の魔法は音が聞こえた瞬間にはもう目の前まで雷が来るから咄嗟の判断が大事だ。
演者の仕草を見ていればどのタイミングで来るかわかるから身構えられるけど、こうして話しながらだと難易度が格段と上がる。もういい。舞台から目を離さないでこの人と話そう。目指せゼロ労災。
「今は多分キエリスが中を案内している頃だよ。終わったら食堂でご飯を食べているはずだ。こっちが終わったら挨拶してあげてね」
昨日の朝、3人が旅立つ前にティカと話せた。
帰ってきてもそのままティカが住んでる討伐隊の宿舎に行くものだと思っていたけど。
「ってうおっとォ!!!」
い、今のはマジで危なかった…。っていうか!
「今のわざとですか!?」
「腑抜けた顔しているからよー」
舞台に立っているリーホワさんの声が会場に響く。
ぐぬぬ。リーホワさんめ…。
ちょっと顔がかなり美人でスタイルも良くて声も適度に威厳があるからって……褒め言葉しか出てこないな。
皇族だかなんだか知らないけどたまにこうしてぼくのことをいじるのだ。ぼくだけではない、他の人にも満遍なく。
「仲良いね」
「良くはありません」
「そう?結構打ち解けてると思うよ」
「ああしていじめられているだけです」
「あっはは。リーホワと直接話すなんてね。彼女の国の人からすればとんでもないことなんだよ」
「なんですかそれ」
「そんな冗談でもリーホワと話せるなんて絶対にできないってことだよ。ま、本人は結構おしゃべりだから今はかなり楽しそうに見えるよ」
* * * * * * *
ぼくはキノコが少し苦手だ。
それを何故かリーホワさんが知って、ぼくがキノコを避けてお皿に料理を盛ろうとすると横から入れてくるのだ。
挙げ句の果てに
「ほら、プレンツ。あーん」
絶対にキノコを食べさせてくるのだ。
「い、いやぼくは……」
「んー?ほらあーん?」
「んんっ……ん〜。んー……」
「うふふ、まったく世話の焼ける子供だわ。なんでも食べないと大きくならないわよ」
* * * * * * *
一部始終を見ていたフレンには『あんな美人にあーんして貰うなんて良かったな!』とのことだが、そんな嬉しくない『あーん』があってたまるか!
アヴェラルさんが言っていた。あの人は根っからの女王様で女王様だと。ちなみに前者の女王様とは本物の女王様の意味で、後者はドS、つまり夜の女王様だと、知るか!
そんな調子でたまにあの人からはいじられているのだ。まぁ。あんまり悪い気はしないけど。
美人って徳だなと、やられているぼくでも客観視してしまう。
もしリーホワさんの祖国の人に『あーん』されたなんて知られたらぼく極刑かもな。どうか行くことがありませんように。
「ステラッチェいたのか」
観客席と扉を隔てるカーテンの向こうからルミオさんが現れた。
「ああ、思いの外早く終わってね」
「そうか。それは良かった。ちょっと来てくれないか?」
「……書類関係?」
「お察しのいいことで」
「はぁ……わかったよ。じゃプレンツその調子でガルニエを守ってね。舞台の方もこのままオレーナに任せるよ。やれやれ……」
行ってしまった。劇団というのは舞台に立つだけじゃなくて色々あるんだなと側から見てて思う。
国を跨いでの公演だからというのが大きいんだろうけど。
当たり前だけど国によって決まり事やルールが全然違う。今回はサンリスタニアの噴火の件があったからかなり簡易で最低限だけしか申請をしていないと言っていた。本来は前の国にいる間に終わらせておくものを後回しにしていたと。最たるものがこの国に着いてたらまだ公演を行っていないことだ。それだけ急ピッチでサンリスタニアは駆け巡ったということだろう。
だから今は追加申請などをやっているのだと。
あれでいてぼくの知らない苦労が団長にはあるんだろうな。そんな中で討伐隊のことも引き受けているから大変そうだ。討伐隊に関してはぼくたちが持ってきたことだけど……。
できるだけ、ステラッチェ団長の負担がいかないようにしなくてはな。




