第25話 湯気に隠れし
「お昼はコーンスープとチキンのソテーだよ。ここのパンととうもろこしはとっても質がいいからおいしいものが簡単に作れるよ。夕飯にアクアパッツァを用意するからね」
ミッケさんがそういってくれた。ランラン?さん達には会えなかったけどきっと近いうちに会えるはず。
ミッケさんは穏やかな人だった。キッチンに漂う料理の香りがミッケさんの人柄が現れているように思えた。アクアパッツァも楽しみだけどお昼ご飯も楽しみ。
キッチンを後にしてキエリスさんと廊下を進む。
「こっちが女性部屋の入り口だよ。さぁ入って」
「部屋数多いですね。」
「演者以外にも演奏するオーケストラ隊の人達も一緒に移動することがあるから多めにあるんだ。それにこの劇場には演者の人以外も暮らしてるから。それでここが大浴場〜」
キエリスさんが扉を開けるとたちまち湯気が飛び込んできた。広い浴場。ここはタイルで作られている。
「わぁ!綺麗で大きいですね!」
浴槽に進んで手をお湯に入れてみた。暖かい。
横に湯口があって絶え間なくお湯が出ている。
「お湯ってどうやって作ってるんですか?」
「水の魔法を使える人が当番でガルニエの上にあるタンクに水を溜めてるんだ。あとは電気とかで温めてたはず。私は水も電気も使えないからあんまりよく知らなーい。ソフスとかリーホワに聞くと面白いかも!」
上から水を流しつつ、電気を使って温めているんだ。リマクは家と言ったら建物と家具がある程度だけど、ここはいろんな細工がしてありそう。
「この劇場色々仕掛けがあるんですね。」
「ガルニエはマキシム・ラピス社の最高傑作って言われてるからね〜。社員の人もガルニエにいるんだよ」
「へ、へぇ〜」
マキシムラピス社?会社の名前かな。実は有名なのかな。それとも私が田舎者なだけかな。そういえばこの建物の壁や柱にもポスターが貼ってあったような。
リマクの首都でいろんなことを学んだつもりだったけどまだ知らないことばかりだ。
「ほらここの劇場よく壊れちゃうから。修繕のためにね」
「壊れちゃうってあの魔法でですか?」
「うん。実はボロッボロなんだよ舞台は。だから3日おきに休んで集中修繕してまた舞台公演をやっての繰り返しなの。でもプレンツが来てから割とダメージが抑えられてきてる気がする」
前に見た大津波の魔法。あんなものが毎日劇場内で炸裂してたらボロボロになるのは納得。直しながら公演するのは大変そう。プレンツは他の人が言っていた通りすごいことをしてたんだなぁ。私よりも年下なのにこんなすごい人達の中ですごいなぁ。
「そういえば昨日はお風呂もシャワーも入ってなかったからドロドロだね。もう入っちゃう?」
「え?こんな午前中からですか?」
「ティカちゃん。固定観念があるね。一日の終わりに入るものじゃない。お風呂はいつ入ってもいいし、何度入ってもいいんだよ!」
決めポーズを取りながらお風呂に向かって指を差している。
「な、なるほど」
「じゃ入ろう。」
「え?で、でも私は後でもいいかな〜なんて」
「遠慮しないで。裸の付き合いをするのが仲良くなるのには一番いいってニニギが言ってたよ?ほらほら」
「いやちょっと待って、あ、ああ〜!」
* * * * * * *
あ、あんまり人に裸を見せたりはしたことがないから恥ずかしい…。それにキエリスさんの身体すごい…。
「ん〜?もしかして恥ずかしがってる〜?いいじゃ〜ん年頃の女の子同士なんだから。リマクってお風呂入る文化ってなかったり?」
そ、そういうことではなくて…。慎ましい自分の胸元を見ながら少し落ち込んだ。
「お風呂の文化はありますよ。ここからかなり遠いですけど、かつての皇帝が愛したという温泉も残ってます。この国に貼り巡っている道は交通のためもありますけど皇帝の温泉への道を整備したとも言われてるんです。大昔の話ですから本当かどうかわからないですけど」
「そうだったんだ。温泉のために国の道を整備するなんて温泉好きな人だったんだね。気持ちはわかるよ〜。私の故郷はあんまり湯船に浸かるって感じじゃなかったけどガルニエとかでお風呂はかなり好きになったんだ〜。前の国でも温泉が有名だったんだよ!」
「前はどこの国に行ってたんですか?」
「サンリスタニア王国だよ。ここから北にずーっと行ったところにある国。初めてだったけどいい国だったよ」
「サンリスタニア…聞いたことがあります。名前だけですけど。キエリスさんはどのくらい国を回ってるんですか?」
なんだかキエリスさんの顔色がそんなに良くない気がしたから質問を変えてみた。
「国の数?んーヨーロッパは大体行ったんじゃないかなぁ。あとはアジアとかアメリカ大陸の方も。この団は私が入ってからかなり遠くまで行けるようになったから世界中津々浦々とね。色々あったけど私はこの団に入ってよかったって心から思ってるんだ。やっぱ血の魔法が血の魔法だから旅行好きにはもってこいな魔法だよね〜」
湯船に浸かり両手を伸ばしながらキエリスさんはそう言った。
「リマクも綺麗な国だよね。海岸沿いなのに砂漠っぽいな〜と思ったら反対側は大っきい山が並んでて森がどんどん深くなって。昨日見た上からの景色は綺麗だったなぁ」
「そうですね。私もあんなに高くからこの国を見たことがなかったです」
私の使う飛行の魔法はあんなに高く登るまで長く飛び続けられない。それに上がったとしても降りられるまでの魔力が残っているかわからないから試したことがなかった。
「ティカちゃん」
「はい」
湯船に顎をつけて私を覗き込むキエリスさん。
「この団入っちゃえば?」
「ええ。そうですね。ってえええええ!!!」
「アンデス山脈も綺麗だったけど秤の国から見える景色も綺麗だったしピラミッドとかも見たことないでしょ?私たちと来ればもっといろんな所に行けるよ!どう?」
「ええ、でも私はおばあちゃんがいるから」
「じゃおばあちゃんも来ちゃえばいいし」
「そ、そっか。」
「ティカちゃんは団長と同行できるぐらいには魔法使えるんなら大丈夫だよ!私からも言ってあげるから!」
私がこのFlying Twinkle Caravanに入る!?私ここの人からすれば全然魔法なんて使えないのに。
故郷の村の暮らしも好きだったけどいつか首都の方に行ってみたかった。実際に行っていろんな刺激を貰った。人攫いなんて事も知っちゃったりしたけど、そういう悪い部分も含めて私の中の世界が広がったと感じていた。
世界がより鮮明に見えたような気がした。
そんな中で世界中を旅している劇団の人達と会った。どの人もリマクには居ないような目線を持っているように思えた。
私はずっと閉じた世界にいて、世界はもっと広くて、いろんな国にいろんな人達がいる。
当たり前の事だけどいざ目の当たりにするとなんて私は小さい存在なんだろう。
薄々自分の気持ちに芽生えていた感情を無視していた。けど、キエリスさんに言われてしまって頭の中で言語化されてしまった。
私ももっと世界を見てみたい。
そ、それに…
「それにほらプレンツもいるし」
「そ、それは関係ないですぅ!!!」




