第15話 リマクのお客様
せっかくだからガルニエにお二人を招待した。
「さ、どうぞ。我がFlying Twinkle Caravanの本拠地、ガルニエにようこそ。アプさん、ティカちゃん」
「お邪魔します」
二人はさっきから軽い放心状態だ。
先程までのことを気にしているのだろう。そりゃ二人よりは派手だったかもしれないけど、そこまで驚くことはないだろう。
今は各々の舞台上で見せる魔法の特訓をしている。まだ通しの練習はしていない。
だから今の練習を見てもあんまり面白くないかもしれないけど、いま見せるものといったらこんなものだから仕方がない。
正面玄関から入ってお客さんが通るルートで会場に向かう。みんな何やってるかわからないから三階に行こうかな。
三階席へ通じるドアを開けた。
「ここが舞台ですか。私の知る舞台とは全く違いますね」
「あまり馴染みないですか?」
「こんな大きな会場見たことないです!」
仕切りのカーテンを開ける。さてみんな何やってるかな。
ああ、大波のところか。
舞台上には大きな波が立ち、三階席にまで波が襲ってきた。
「ちょっちょっと待って!」
「うわあああああああああ」
ティカちゃんとアプさんは喜んでくれているみたいだ。
ひと波揉まれて水が引いていく。特殊なコーティングと糸で作った会場内の椅子のクッションやカーテンは水が染みることはない。本物の水ももちろんあるけどメイラジュなどの幻術陣の合わせ技だから実はそこまで水量はない。お客さんはこの会場に入る時にベールのしゃぼん玉を潜る。その時に水をはじめとした魔法由来のものは弾くようにしている。とはいえ、本当に水を被ったかのような感覚を覚えさせるために完全には弾いていない。一分後には乾いてしまう程度の濡れ具合。うん。いい感じだ。
会場の天井は今は雷雲になっている。これも幻術陣の魔法によるもの。公演が始まったら舞台にいるという感覚を徹底的に消していくのがうちのやり方だ。会場内の通路や壁、天井などを幻術などの魔法で見せないようにしてしまう。さながら、舞台上の延長を会場内目一杯に広げる。たまに、パニックになっちゃう人が出ちゃうけど。
実は一階席と三階席とでは舞台の景色が全然違う。三階からみると一階席は大時化の中だ。
だが、一階席では舞台上しか水はない。どの階にいても臨場感を出すために。これが結構大変なのだ。幻術はあくまで本物を誇張、拡張するもの。やろうと思えば幻術で全部見せれるけど疲れちゃうからね。2時間ほどある公演をぶっ続けでこのクオリティの幻術を張るのは負担が多すぎる。それに本物の魔法を見てもらいたいしね。
あれ?アプさんとティカちゃんどこに行っちゃった?
あ、倒れ込んでた。
「大丈夫ですか?」
「こ、腰が抜けてしまいまして……」
「な、なんであんな大波を被ったのに濡れてないの……?」
「さぁなんででしょうね〜」
ニニギと顔を合わせて笑う。
将来のお客さんに種明かししちゃまずい。
「実はひと公演通しての練習はまだで今はこんな感じで魔法そのものの練習中なんです」
二人に手を貸して立ち上がらせた。たまに手練れの魔法使いなんかがうちの公演を観るとこんなものかと落胆する人もいるらしいけど、この人達は楽しんでくれてそうだ。
どんなものにも万人に好かれるものなんてないからあまり意識はしないでうちの団らしさを全力で貫き通す。その結果が今のそこそこな知名度と名声というわけだ。
「こんな魔法を使える人がいるなんて……」
しばらく魔法の練習を見た。新しくやる技はまだ荒い気がする。幻術もまだぼやっとしてる部分があるかな。あとは何度も通し練をやって、オケ隊との合わせをして統一感を出していく。
まだまだ山場はこれからだ。
「どうでしたか?うちの団は」
「私はこの国ではそれなりに実力がある方だとは思っていたのですが世界には足元にも及ばない方達が沢山いるのだと痛感しました」
「そんなことはないです。うちの舞台で使われる魔法は見かけこそ派手ですけど、威力はそこまでないのです」
「しかしその気になれば威力を伴う魔法だって出せるのでしょう」
「そうですね」
「それに同じ大技を何回も放っていた。ということはかなり手加減していてあの迫力なのでしょう?」
「おっしゃる通りです。本気を出したら会場が壊れてしまいますし、お客様も怪我をしてしまうので。我々はいわば手加減のプロなのです」
「手加減のプロ、ですか……」
アプさんとティカちゃんが顔を見合わせた。
「よければ大したものは出さないですが、お茶でもいかがですか?」
「お心遣いありがとうございます。しかし我々はお暇させていただきます。」
「そうですか?」
「私達まだまだ頑張らないと!ね!アプ!」
「ああ!」
あ、そういうこと?できればこの後のプランとかを話し合いたかったけど。というかまだこっちも決め切っていなかったことがあったか。ここは一旦解散としよう。
「わかりました。では出口まで送りましょう」
「あれ?ティカ。それにアプさんも」
「プレンツ!」
横の扉から出てきたプレンツに駆け寄るティカちゃん。
「どうしたの?まさかガルニエに来ているなんて」
「今日ステラッチェ団長さんに私達の力を見てもらったんだ!それに団長さんとニニギさんの魔法も見たんだ!プレンツのいう通り本当にすごかった!」
ティカちゃんとプレンツずいぶんと仲が良い。
「昨日会っただけだよね」
「ああ、そうだ」
「討伐隊はみんなおじさんばかりだから歳の近いプレンツのような子と話せて嬉しいんだろう」
「子供は仲良くなるのが早いものだ」
「仲良くねぇ……」
なんだそういうことかプレンツ。全く、そういうことなら早く言って欲しかった。




