第14話 リマクの守護者たち
キエリスと合流してから首都の中心部に向かった。ニニギに案内をしてもらいながら討伐隊の棲家に着いた。思ったより立派な建物だ。
「キエリスはどうする?一緒に話聞く?」
「そのよくわかんない悪魔みたいな話?そういう怖いのやだなぁ。でも副団長として!聞かせていただきましょう」
「皆良い人だ。キエリスが思うような怖い人はいない。それにプレンツほどの子供もいる」
「え!そうなの!?根性あるなぁ」
「とりあえず入ろうか」
ドアをノックした。しばらくして半裸の民族衣装を纏った男が出てきた。
「あれ?ニニギさん、今朝出て行ったんじゃ。この方々は?」
「はじめまして。昨晩はうちの団員がお世話になったようで。Flying Twinkle Caravan団長のステラッチェといいます。こっちはキエリスです」
「おお、あなたがあのステラッチェさんですか。お会いできて光栄です。アプアパサといいます。どうされたのですか?」
「急に押しかけて申し訳ございません。ニニギ達から話を聞きました。お時間があればあの話もう少し詳しく教えて頂きたいのです」
「……そうですか。わかりました。どうぞ中へ」
広い部屋に案内された。食べ物のいい匂いが少しする。ここが昨晩の宴会場だったのかな。
「ティカ!いるか?お客さんだ。ニニギさんとその団長達だ」
奥の扉から女の子が出てきた。先程話していたプランツぐらいの子供とはこの子か。女の子だったとは。それに綺麗な顔立ちをしている。愛想の良さそうで明るい女の子に見えた。
「わぁ!じゃあなたがステラッチェ団長なんですね!」
「ええ。プレンツとかから聞いてましたか?」
「はい!色んな話を聞きました。すっごい人だって褒めていました」
「あはは。何を話したのやら」
「ティカ。飲み物を持ってきてくれるかい」
「はい!少々お待ちくださいね!」
ティカと呼ばれた女の子が裏に走っていった。
プレンツよりは大きいけどまだまだ子供だ。
「———あの子も討伐に?」
「ええ。まだ子供ですが力はとても強いですよ。ティカの住む村は悪魔の被害から近いので彼女から参加したいと言われまして」
「そうですか」
調査隊とやらが結成されてそれが失敗。そしてまた寄せ集めた戦力だと聞いたけど。私達が危惧している事態になっているならまた失敗に終わるだろう。まだ年端もいかない子を参加させるのは忍びない。
「他の討伐隊の方は?」
「他の者は外に出ています。昨晩ニニギさん達が人攫いの最後の一人を捕まえてくれたのでその対応をしています」
「そうでしたか」
「お待たせしました。ささ!お酒じゃないチチャです」
ティカちゃんがチチャというものを注いでくれた。
「チチャ?」
「何これ?」
「とうもろこしで作ったどぶろくのようなものだ。」
「どぶろくってなに?」
きょとんとしながら顔を傾けるキエリス。
「どぶろくとはな——」
「要するにとうもろこしジュースなんじゃないかな。いただきます」
ニニギの解説が始まったらキリがない。チチャか。噂には聞いてたけど飲んだことなかったな。
「本当にとうもろこしジュースだ!優しい甘さで美味しいですね!この紫色からは考えられない優しい味」
紫のとうもろこしを使ったジュースということか。とうもろこしならではの風味があり、まったりした味わいだ。キエリスも気に入ったみたいだ。
「気に入ってもらえたようで良かったです。あの……私も話に混ぜてもらってもいいですか?」
「もちろん。討伐隊の一員なんだから是非」
「同席できて嬉しいです!」
全く、本当に何を話していたのやら。
「ニニギ達があなた方のお手伝いをしたいと聞きまして。正直、うちの団員をそんな危険なことをさせたくはないのです」
「……そうですよね。あなた方はこの国には公演をしにいらっしゃった」
「はい。とはいえうちの団員から参加を申し出たと聞きました。私としては団員の意見を尊重してあげたい」
「ということはニニギさん達は改めて我々の力になってくれると?」
「一応そう考えています」
「ありがとうございます!とても心強いです」
「ただ、討伐隊の力とはどのようなものか私も見てみたいのです。それに実力を見たいのはあなた方も同じでは?人攫いの一人を捉えた程度しか私達を知らないのでしょう?今いない方は仕方ないのでお二人だけでも、いかがでしょう?」
アプさんとティカちゃんがお互いに見つめ合った。
「もちろんです。Flying Twinkleの方々ほどではないでしょうが、お見せしましょう。」
* * * * * * *
アプさんとティカちゃんを連れてガルニエに飛んだ。
「ここがFlying Twinkle Caravanの会場ですね!とっても大きい!」
「転移の魔法にも驚いたが、これはすごいな……」
「ええ。私達はガルニエと呼んでいます。この建物ごと世界各地に飛んで公演をしているのです」
「ステラッチェ団長さん、さらっと言いますけどスケールが大きいですね」
アプさんとティカちゃんが目をてんにして驚いている。久々に見るリアクションだ。
「えへへ。まぁねぇ〜」
キエリスが得意気だ。実際、私もキエリスの家族以外で転移の魔法を使える人を見たことがない。もっとも、血の魔法のほとんどはそんな感じだけど。
「もう少しここから離れたところにしましょうか。ガルニエに被害が出るのは避けたい」
ガルニエからまた少し飛んで荒野に来た。
舞台では練習しているから魔法を使えるスペースがないからだ。
「ではアプさんから見せてください。そうですね。じゃこの岩に向かってお願いします」
「わかりました」
アプさんがゆっくりと構える。10メートル程の岩に対してどうするか。
ま、見た感じ想像がつくんだけど。
「てりゃッッ!!!」
叫ぶと同時に正拳突きをした。放たれた拳によって岩が大きなひび割れを起こした。やはり身体強化だ。シンプルな魔法だけど、シンプルであればあるほど実戦では使い勝手がいい。もちろん日常生活にも。
「その他は?」
「あとは火の魔法と磁気の魔法が少々。火の魔法は洞窟では使うことはないでしょう」
洞窟内で大きな火を使うと酸欠を起こしてしまう。そこら辺はさすがにわかっているか。では実質身体強化だけか。本人の身体を見るに磁気の方は戦闘向けではないだろう。とはいえ、そこら辺の魔法を使う兵隊よりは強い。討伐隊のリーダーという肩書きに似合う実力だろう。
「じゃ次はティカちゃん。お願いできるかい?同じくこの岩に攻撃してみて」
「はい!見ていてください!」
そういうとティカちゃんが高く飛び上がった。そのまま光に包まれながら空に弧を描く。そして急降下してそのまま岩に激突した。
思ったよりも大胆なことをしてくれた。
先程アプさんが割っていた岩を完全に砕いてしまった。
私は飛んだり空中に浮く時は風を作る時が多いけど、ティカちゃんの場合は魔力をそのまま推進力にしているようだ。黄色と水色の光を放ちながら速度を上げて突進という流れだ。
つまり身体強化と魔力推進力による飛行の合わせ技だ。
結構魔力を使う芸当だけどよく使いこなしている。土煙が引いてきたところからひょこっとティカちゃんが出てきた。
「どうでしたか?」
「うん!すごいね。でも疲れてない?痛いところとかは?」
「このくらいへっちゃらです!」
胸を張っているけど、おそらくそんなに乱発できる技ではないだろう。
「他の団員の人はどのような魔法を使うんです?」
「主に私が使った身体強化が多いです。水の魔法を使う者もいますが、岩の悪魔にどれほど役に立つか」
普通の魔法の使い手ならそんなものか。完全に足手纏いになるんじゃないかと思ったけどそこまで弱くはなさそうだ。
それに身体強化でよかった。岩の悪魔は大きいらしいから洞窟内はそれなりに広いだろう。
身軽に動けて実力を発揮できた方がいいからね。
「次はこっちの番か。何かリクエストありますか?」
「では、あの岩でお願いします」
指差されたのは20メートルほどある岩。
「あいわかった」
ニニギがそう言った瞬間。指差された岩に切れ目が無数に走りそのまま崩壊した。
「「え?」」
驚いている様子のアプさんとティカちゃん。
そして崩れた岩の中から人型の物が立っていた。
ティカちゃんの石像だ。
完成度高いなおい。
「い、いまのは何をしたんですか?」
「岩を切るだけではつまらぬからな。ティカ殿を作ってみたのだ。似ていなかったか?」
ティカちゃんの三つ編みや民族衣装まで事細かく再現されている。晴れていた空がぽつりぽつりと雨粒が溢れてきた。
「じ、じゃあの岩は?」
「うむ。」
今度は10メートル程の岩を切った。『うむ』と言い終わると同時に土煙をあげて崩壊していく岩。
今度はアプさんの石像が現れた。
完成度高いなおい。
「じゃあれは!?」
「ふむ。」
「次こっち!」
「どれ。」
「今度はこれ!」
「ほれ。」
アプさんに指差された岩を次々と石像に切っていくニニギ。今度はアルパカや大きなネズミ?を作った。どれも見事なクオリティだ。空いた口が塞がらないアプさん。
「ニニギさん、今までどんな修行したんですか!?」
ティカちゃんがすっかりニニギの虜だ。無理もない。私だってニニギ以上の剣の使い手は知らない。
「修行か。いうならば生きること全てが修行だった」
「な、なるほど!?」
「ティカちゃん真に受けないで。わかろうともしないで。ニニギはだいぶ特殊な訓練を積んでるから」
常人があの域に達するのは不可能だ。ニニギだからこその剣技。あれを参考にしてはならない。
「ニニギさん、いやニニギ様!あらためて、我が討伐隊に参加していただけないでしょうか!」
「我は最初からそのつもりだ。共に岩の悪魔と戦おう」
「ありがとう!ニニギさん!」
「ティカ殿も先程の魔法は凄かったぞ。共に頑張ろう」
あっはっはっは。笑うニニギ。
二人の実力はわかった。他の討伐隊も大体同じぐらいと見積もっていいだろう。
しかし相手は最悪ヴィラコチャの作った第三のヒト。討伐隊も弱くはないが正直うちの団員達の方がずっと強い。
ニニギが言っていた通りならニニギ、ザーラ、そして私、プレンツしか戦力にならないかもしれない。とはいえ、この土地のことは彼らの方が知っている。地の利がある人の方が動きやすいところがあるだろう。
「アプさん、ティカちゃんあなた方の実力はわかりました。『自分の身は守れる程度はある』と思います。こちらでも参加するメンバーを考えさせてください」
「!?では正式に力を貸してくださると!?」
「はい。少なくともニニギと私はお力添えします」
「おお!まさかあなた様も参加していただけるとは!?ありがとうございますステラッチェ団長様!」
いつの間にか様がついてる。
「あの、できれば、その、ステラッチェ団長さんの魔法も見てみたいなぁ、なんて」
ああ、そっか。私はただ指図してただけになっちゃった。
どうしようかな。あらかたそこら辺の岩は全部石像になっちゃったし、あれを壊すのはなんかもったいない。
あっちにおっきな岩があるな。あれでいいか。ニニギみたいな超絶技巧はできないからただ割るだけになるけど。
「じゃあっちの岩を討伐隊のみんなが使う身体強化で割りますね」
ここから水か何かで割ってもいいけど、せっかくだからみんなと同じ条件で。
そうだ。どうせならティカちゃんと同じく、風じゃなくて魔力そのものを推進力にして岩まで行こう。
* * * * * * *
私、ティカは昨日今日だけで色んなことを目撃しました。
ニニギさんの石像作りはもはや何をしたのかすら見えませんでした。ただ腰に巻いた剣を握っていたようにしか見えなかった。
そしてステラッチェ団長さんの魔法。
デコピンの仕草をしながら私達の元から岩へ飛んで行きました。私より遥かに光り輝きながらあっという間に岩の元まで飛んで行き、大岩の後方にとても大きな土の壁を作りました。
ただ立っているだけでそんなものを作るだけでも驚きでしたがそこからでした。ステラッチェ団長が手を伸ばしてどうやらデコピンをしたのです。すると岩は凄まじい勢いで粉々になりながら土壁に突き刺さっていきました。そして時間差で訪れる轟音と衝撃波。
また眩い光を放ちながらステラッチェ団長さんがこちらへ飛んできました。
「まぁこんな感じですね」
そう言いました。
岩の悪魔の討伐。私達の出る幕はあるのでしょうか。




