第13話 世話焼きの判断
「昨晩はありがとう!楽しかった!じゃまた会いましょう!」
朝日で眩しい中、ティカ達が手を振ってぼくたちを見送ってくれた。ティカは元気いっぱいだけど他の大人達は二日酔いがまだ残っているようだ。
昨晩は楽しい食事をした後、あのまま寝てしまった。大人達は酔い潰れて片付けをした後に雑魚寝をしていた。
昨日人攫いから頂いた馬とパン屋さんから借りた台車を付けてガルニエに帰るのだ。
手綱を取るのはニニギさん。
ニニギさんはかなり飲んでいたようだけど平常通りだった。フレンもいつも通りだ。
「楽しかったなー。料理も美味しかったし、チチャもジュースみたいで大好きになったよ」
「盛り上がってたね」
「ああ、しかし悪魔かー。岩ってなるとどう戦えばいいんだろうなー」
岩の悪魔、魔法の力で動いているならぼくの魔法ならなんとか役に立つだろう、と思いたい。
馬に引かれる台車の心地よい揺れと共にちょっとした作戦会議が始まる。
「そもそもステラッチェ団長が許可してくれるかだよな〜」
そういえばそうだった。完全に忘れていた。もうすっかりやる気になっていた。
「岩の悪魔がこのままだとこの都市にも被害が出るかもしれないし、団長なら許可してくれるんじゃない?」
「んー。微妙だな。俺らじゃ多分太刀打ちできないからニニギさんにお願いするしかないと思うぜ。ニニギさん説得できそうですか?」
「まだこの国に着いて間もない。団長は事務手続きで参っている頃だろう。それにこれから公演の練習も始まる。とはいえ岩の悪魔とやらの動向も気になる。できれば早急に手を打ちたい。ただの噂話ならそれでよし。本当に悪魔がいるのなら対処せねばならぬ」
ニニギさんが馬の手綱を取りクチャクティムイの街を駆ける。今日も日差しが痛いほどのいい天気だ。
「団長殿はあまりいい顔をしないだろう。優しい方だからな。団員が危険な目に遭うようなことはさせたくないと思う筈だ。だが、フレンのいう通り、いずれこの都市にも岩の悪魔に襲われる日が来るかもしれない。以前に調査隊が派遣されたが返り討ちにあっている。遭難でもしてしまって帰ってきていないのならまだしも、岩の悪魔にやられたのならそれなりに手強い。正直、プレンツとフランにも参加はしてほしくない。団長がどのような判断をするかはわからないが最悪の場合は我一人で討伐隊に入ろう」
「でも!ぼくが言い出したことなのに」
「そうだぜニニギさん!俺たちだって役に立てる筈だ!」
「こう言ってはなんだが、フレンの魔法は岩の悪魔がいるという洞窟内ではその技術を発揮できないだろう」
「……!?」
言い返せないフレン。いや言い返さないフレン。その通りかもしれない。
フレンは風と火の魔法が得意だ。洞窟内では火は使えないし、風も岩相手となるとそこまで有効ではないだろう。
「プレンツはもしかしたら効果があるかもしれぬ。しかしやはり岩の悪魔の実力が測れない。もし、本当にヴィラコチャによって造られたヒトなら心してかからねばならない」
「それでも……」
「プレンツ、フレン。そうは言ったがな。我とて二人が来てくれた方が嬉しい。例えば洞窟内には入らずに入り口で待機してくれるだけでも助かる。それもこれも団長次第だが、ひとまず相談してみよう」
こちらを向き微笑みながらニニギさんがそう言った。
ヴィラコチャの忘形見、とでもいうべきなのだろうか。確かに情報が全然ない。それを調査しに行った人達も帰ってきていない。そんななかでただのぼくら芸者達が首を突っ込むことではないのかもしれない。
だからって対処できる人がしなければこの国の人達はもっと多くの被害が出てしまうかもしれない。
討伐隊の、ティカの力になりたい。その気持ちをステラッチェ団長に伝えればきっと了承してくれるだろう。
* * * * * * *
「駄目だよ。そんな危ないこと」
ステラッチェ団長はノーと回答した。
「でも団長!さっきも言ったけどさ!このままだと岩の悪魔が公演中に現れるかもしれないんだぜ!」
「そうなったらそのときに考えるよ。もっともガルニエごと逃げればいいだけだよ」
ピシャリと却下されてしまった。確かにぼくらはそれでいいけどこの国の人は何にも解決されない。
「そうなったらこのリマクの人達が犠牲になってしまうじゃないですか!」
「プレンツ。そうかもしれないけどそれはこの国の人達が解決することでしょ。私達はこのリマクの国で公演をするだけだ。この国にだって軍隊はいるんだろうし、そういうところが動くべきでしょ」
正論を突きつけられてしまった。反論の余地がない。団長の言う通りだった。
「それにその公的機関が動いてない、っていうのがそもそもその岩の悪魔が胡散臭いと思わない?もしかしたらその討伐隊って人たちが子供を隠してる場所とかにしてて私達を何かに利用しようとしてるとかさ」
「そんなこと……」
ティカやアパさん達がぼくらを利用してる?
いやそんな人達ではない。特にティカはそんな人じゃない。ただ、この地の文化と人が好きで、パチャママに思いこがれてる少女だった。
「団長殿、我も疑ってはいる。だがおそらく岩の悪魔とやらは本当に実在していると我は考えている。討伐隊の者達も悪人ではないさ」
「勘?」
「勘だ」
「どっちのこと?」
「岩の悪魔のことだ。討伐隊の者達は善人だと言い切る」
はぁ〜。とため息をつくステラッチェ団長。
「ニニギが勘っていうならそれは十中八九当たってると思う」
「だったら!」
「なおのこと、そうなればそのヴィラコチャが作ったもの相手にニニギ達を向かわせるなんてできないよ。だけど」
軽く鼻で息を吐いて団長は続ける。
「その討伐隊って人達に会ってから考えるよ」
なんだかんだでステラッチェ団長もこの国のことを気にかけているのだ。それにサンリスタニア王国の火山のように救えないわけではない。きちっと対処ができれば被害はなくなる。
「ニニギ、その討伐隊の人達のところに案内して。あとキエリスを呼んできて。首都の中心の方でしょ?昨日マークしたからそこから行った方が早い」
「ありがとう団長殿」
「フレンとプレンツはひとまず舞台の練習をしていて。もし討伐隊に参加することになっても公演のプランは変える気はないよ」
「「はい!ありがとうございます!」」
フレンと見合ってから舞台へ走った。
「やったな!団長は情に弱いからきっと許可してくれると思ったぜ!」
「うん!良かった!公演に支障が出ないように頑張らないとね」
「そうだぜプレンツ!討伐隊を手伝っていたからなんて言い訳なんかできないからな!色んな国に行くたびに色々あるから団長だって世話焼きになってるんだ!」
そういう言われてしまうとステラッチェ団長の心を利用したみたいで心苦しいけど、それでもリマクの人達が無事で済むならそれで越したことはないだろう。
ニニギさん!あとは頼みます!
* * * * * * *
「ニニギ、どう思う?」
いきなり三人で何をいうかと思えば相変わらず厄介ごとを持ってきて。
サンリスタニア王国での公演の間にガルニエのマークを作るためにキエリスとリマクに飛んでいた。そのときに山岳地帯を通ったときに実はこの噂は耳にしていた。魔獣に襲われた村が幾つもある。家屋や橋、田畑を破壊する魔獣が現れたと。
もちろん、そんな話は世界中にある。家屋や田畑を壊すというのは人間や田畑の作物を食べるためだろう。
しかし『橋』を壊すというのは聞いたことがなかった。違和感を感じた。
知能の高い魔獣がいたとして人の作った構造物を壊すその理由は何?
橋を壊して集落を孤立させるため?
しかし力があるならそのまま集落を襲えばいい。魔獣というより人間の仕業に近いと考えていた。
人目がつかない農村の人間を拉致し、奴隷にするとか?人の意思などの悪意を感じる。
クチャクティムイ以外にもうひとつ栄えた都市が農村部にあったけど、そういう噂があったから物理的に距離を取ってクチャクティムイのみで公演を行うことにしていたのだ。
「状況は先程プレンツやフレンが言った以上の情報はない。最悪の可能性は、その岩の悪魔が本物でヴィラコチャが洗い流せなかった残党が今リマクの住民に牙を剥いている、というものだ」
「その説が高いって思うんでしょ?」
「まだわからぬ」
「そっか……」
ため息混じりの声が出た。
「もしそうなら我と団長、それかザーラ殿以外は歯が立たぬかもしれぬ」
「そのレベルかー。本当に厄介ごとを持ってきてくれたねニニギ」
「いつも迷惑をかけるな団長殿」
「いいって。もう慣れたよ。私達はこういう厄介ごとに巡り合う運命みたいだからね」
「はっはっは。確かにそうだな。今までも様々なことがあった。しかしな。プレンツの力は有効かもしれん。岩の悪魔とてその動力は魔力だろう。そうなればプレンツ以上に岩の悪魔に対応できる者はいない」
「それはちょっと思ってたよ。でも」
「我も団長殿と同じだ。プレンツはまだ子供だ。斯様な戦地には連れて行きたくない」
「そこまでわかってるならもう覚悟をするよ。私の力だって敵うかわからないし。とりあえずその討伐隊の人達に会いに行こう。多分、この国でその悪魔に敵うのは私達ぐらいしかいないってわかったからそう言ったんでしょ?」
「はっはっは。その通り。聡明な団長殿には敵わぬな」
力なく微笑んだ。いや、仕方がないやってやるしかないかもな、の笑みが溢れたのだ。
でも最悪の事態を考えると笑ってはいられないかな。
「岩の巨人だけならまだいい。そのあとにヴィラコチャがその事態を知って大津波、ウヌ・パチャカティを起こされたらそれこそこの国ごと流されちゃうのが一番最悪なシナリオだね」
「そこまでは考えていなかったな。団長殿、かなり信じているではないか」
「信じてるよ。それだけ信仰があるんだからパチャママっていう神様だっているんだろう。だから厄介だ。触らぬ神に祟りなしだっけ?」
「その通りだ。だから神が勘づく前に悪魔の方は退治しておかねばな」
少しニニギが楽しそうに見えた。
その腕っぷりが思う存分振るえるのが楽しみなのだろう。それに可愛い後輩に良いところを見せるのもやぶさかではないのだ。
仕方ない。私もその可愛い後輩に人肌脱ごう。




