第11話 白い眼光
宴会の切り口に選ぶ話ではなかったな。
そう言いながらアプさんはチチャを飲んだ。紫色のチチャだ。とうもろこしの色でチチャの色が変わるとティカが言っていたな。
神秘的な話やいわゆる伝説。
そんな話がこの地にもあり、今その伝説がこの地で再現されるとでもいうのか。あるいはヴィラコチャが作った第三のヒトこそがその岩の巨人でぼくたち人類は淘汰されるべき生き物だと。
しかし、アプさんの話ではヴィラコチャが作ったとされる第三のヒトは人類に友好的だったんじゃなかったのか。本当にヴィラコチャが作ったとされるヒトが岩の巨人なのか?それともそういう魔獣なのか。
魔獣は意図的に狩や身を守るのに魔法を使う獣のことだ。魔獣自体かなり珍しいけど帝国は魔獣を飼い慣らした部隊があった。
新種の魔獣?火が効かなかったともアプさんは言っていた。もし魔獣による被害なら鱗や体毛などが残っているだろう。しかし襲ったのは体が岩石や土でできた『何か』だ。そうなれば魔獣特有の痕跡はないだろう。じゃ彼等の使う魔法の痕跡はなかったのだろうか。
うーん。今のところこれ以上はわからなそうだ。ニニギさんは動物に詳しいからひょっとしたら心当たりがあるかもしれない。
ニニギさんへ視線を向けた。
「ふむ。そのようなことが。にわかには信じられないが実害が出ていてその調査隊というのも未だに帰還せずとなるとどうやら信憑性が高いと見える」
「ニニギさん、何かわかったりしませんか?」
顎に手をやり考え込むニニギさん。
「いや、何とも言えん。岩で出来た体の生命体のようなものといえばゴーレムのように、何かの意思で作られた生命体、機械やからくり人形のようなものが思い浮かぶ。今のところはゴーレムのような何かとしか言えんな」
ニニギさんでもわからないか。
「んー。でも何でそんなことするんだろうなー。だってその岩の悪魔、何のメリットがあるんだ?たとえばそれを操る奴とか作った奴がいたとして、それをそんな片田舎の小さな村を襲わせる理由がわからないなー。いや犠牲者も出てるからアレだけどさ」
フレンのいう通り人の意思でその岩の悪魔が作られたとしても、村を襲わせたりする理由がいまいちわからない。
帝国のようにただ武器を試したかっただけか?
そうだとしたら胸糞が悪い。
そうだ、帝国が絡んでる可能性だってゼロではない。そうなればぼくだってそれを止めなくてはならない義務があるはずだ。元アクイラ帝国の軍属だったぼくにだって。
「そう、この騒動はまだ不可解な部分が多い。だからそれを調べる為、脅威を排除する為に我々は集まった。その最中に人攫いの話を聞いて少し手伝っていたんだ。首都であるクチャクティムイでならより腕の立つ人物に出会えると思ったんだが、ここの住民はそんな片田舎の村が一つや二つ潰されることより、近所で起きている人攫いの方が臆病でな。勿論、その気持ちもわかるんだがな。自分の子供が攫われるなんて考えるのは誰だって嫌だからな」
それに腕の立つ人間はすでに調査隊の行方がわからないことを知っている。のらりくらりと躱されてしまったよ。
と、力無くチチャの入った容器を回しながらアパさんが話した。
クチャクティムイの人はこんな話を聞いても信じてくれなかったのか。聞けば近く大きな祭りがあるというし、それに人攫いの方が日常の脅威に直結する。でもだからって同じ国に住む人がそんな目に遭ってるのに信じないなんて。
「あの、ぼくもその討伐隊に参加させてもらえませんか?」
討伐隊の人達が驚いた声を出す。
「もしその岩の悪魔がゴーレムとか魔獣のような存在ならぼく役に立つと思うんです」
「しかしまだ君はティカよりも幼く見えるし、何より君には舞台があるんだろう?」
討伐隊の1人がそう言った。
「確かにそうですが、ぼくの穴は他の人でも埋められます(ごめんなさいベールさん)。それに公演は1ヶ月ほど先なのでそれまでに片付けて仕舞えば」
「いやそうだとしても」
「よく言ったプレンツ!俺もその討伐隊入るぜ!」
「フレンいいの?だってフレンは演者で……」
「まぁ魔法の修行ってことでいいだろ。台詞だってなんかわからんないけど俺覚えるの得意だし!」
「2人とも。落ち着くんだ」
ピシャリとニニギさんに水を刺された。文字通り頭を冷やせといった具合だった。
「舞台のことはステラッチェ団長が決めることだ。ここで決めるのはまずい。だが、もし許可されるのであれば我も協力しよう」
「本当ですか!?」
ニニギさんがいるなら百人力だ。いやこの人1人でも何とかしてしまうかもしれない。
けど、なんだか胸騒ぎがする。これはニニギさんが発しているオーラによるものなのか、それとも———
ニニギさん本当は何かに勘付いているんじゃないか?
「子供達だけをそのようなところに行かせるわけにはいかない。それにティカ殿だっている。我の力を貸そう」
一瞬目を開いたニニギさん。その瞳は真っ白だった。もしやとは思ってたけどこの人が目を瞑っているのは———
いやそこもだけど、微かに真っ白な瞳の中に花の模様のようなものが見えた気がした。
まるでステラッチェ団長の左目のような。




