第9話 チチャと夜に
ティカが持ってきたのは底が深い皿と細長い壺のようなものが二つ。お皿にはいろんな種類の乾燥した豆が入っていた。そして壺の方には……水とチチャ?
「チチャってなんですか?」
「チチャはとうもろこしで作ったお酒!この地域では結構有名なのよ?」
「ほぉ」
「へぇ〜!」
とうもろこしでお酒って作れるんだ。まだコーヒーも美味しく飲めないぐらいだから多分お酒も苦手だろうな。ちょっと気になるけど。
「お酒じゃないチチャも有名だよ!でも今はお酒の方しか無くて。プレンツにはまだ早いかもしれないけどフレンさんとニニギさんにはいいかなと!どうですか?」
とはいえそんなに強いお酒じゃないですけど。そう言いながら二つのコップにチチャを注ぐティカ。チチャは淡い琥珀のような色だった。確かにとうもろこしっぽい色だ。
「へぇーじゃティカちゃんいただきます!」
「ありがとう。頂く」
2人が口につけた。何やら水よりはどろっとした粘度があるような液体のようだ。
「うむ。これは所謂どぶろくだな。しかしとうもろこしの風味を仄かに感じる。甘いわけではない。まったりしていて酸味が少しあってなかなか趣のある味だな。我は好きだ」
「あんまりお酒って飲んだことなかったけどまぁこういうジュースもあるかー!って感じ!なんかちょっとシャワシャワしますね!」
「そうだな」
ニニギとフレンで味の伝わり具合が全然違う。
「味とか色はチチャを作るとうもろこしの色で変わるんですよ!それに家庭で作るチチャはその日その日で味が変わるんです」
「おそらく発酵が進むことによって酸味やアルコール度数が増えていく。だから味が変わるのだろう。腐敗に気をつければ糖があれば酵母がどんどんアルコールを作る」
「「「へぇ〜」」」
とは言ったものの全然わからない。発酵か。確かパンも発酵で作ってたような。ニニギさんはこういう方面も詳しいんだな。2人はわかっているのだろうか。
「うん!飲めば飲むほど癖になってきた!」
「ほんと!気に入ってくれて嬉しい!」
たぶん、わかってない。
「私もちょっとだけ」
そう言いながらティカもチチャを注いだ。ぼくにも水を注いでくれた。
そのまま飲むのかなと思ったけどコップに人差し指を入れて床に付けた。虫が入っていたのかな。
「ティカさんどうしたんですか?」
「これ?これはパチャママにもお裾分け。大地に感謝。大地あってこそ私たちがここに立っていて。とうもろこしが育つからチチャが作れた。それを飲んで生きてる。だからちょっとだけパチャママにもチチャをあげるの」
パチャママ。この国で行う公演の台本にも出てきていた。ここリマク国やアンデス地方に伝わる大地の神様。
「じゃ俺もやろうっと」
「我も」
2人もチチャに指を触れて地面に付けた。ぼくも水に触れて地面に付けた。その様子をみて微笑むティカ。
「ささ、今度はお豆も食べて!そうだ!3人が良ければ今日ここに泊まっていく?今はおやつ程度しか出せないけど夕飯食べていってよ!みんなもきっと歓迎してくれるから」
「どうしますか?」
「今日は元々休みだからな。では一晩お世話になろう」
「ほんと!じゃ美味しい料理期待しててくださいね!」
「お世話になりますティカちゃん。そういえばここってどういうところなの?結構広いけど」
おやつに気を取られていて忘れていた。確かにここは一体……?ティカの家ってわけではないし、教会のような建物。部屋がいっぱいあって人攫いを閉じ込めもする。そうだ、討伐がどうのとティカが行っていた。
「ここは討伐隊の拠点のひとつなの。私も参加することになったんだ」
「討伐ってさっき俺たちがやっつけた人攫いのこと?」
「ううん。あれはたまたま手伝っていただけ。私たちは岩の悪魔の討伐するために今仲間を集めてるの」
「「岩の悪魔?」」
ぼくとフレンが同時に呟いた。
「ティカ。あの人攫いだが——あれ?お客さんかい?」
「あ、帰ってきた」
ドアが開く音がした。民族衣装を身に纏った恰幅のいい男が現れた。
「アプ。紹介するね。こちらニニギさん、フレンさん。プレンツさん。あの人攫いを捕まえてくれた人達。そして3人にも紹介しますね。この人はアプアパサ。岩の悪魔の討伐隊の隊長なの」
「ああ、あなた達があいつを。はじめましてアプアパサといいます。警官から話は聞きました。勇気ある行動に感謝します」
「大したことはない。子供達が無事でよかった」
「この3人すっごく強いんだよ!」
「確かにそんな感じがするな」
ティカがまるで自分の家族を自慢するようにアプアパサさんに紹介した。アプアパサさんも体格がいい。ティカだって相当な魔法の使い手のように見えたから討伐隊の隊長ってことは相当強いのだろう。
「ここ最近人攫いが横行していまして。岩の悪魔の前に少し警察の助けをしていたのです。おそらくあいつが最後の犯人。これで本腰を入れて岩の悪魔討伐に動ける」




