第8話 リマクの小さなガイド
怯えた馬を宥めパン屋のおじさんに台車を借りて馬につなげた。ティカという女の子が馬に乗りぼくら3人と過剰に縛られた人攫いを連れて街を進んだ。
人攫いは目も口も縛られている。子供達は街の警察が保護した。人攫いも警察に引き渡すのかと思ったがぼくらと共に連れていくらしい。
台車で進むにはキツイ速度で走り抜けた。お尻が痛いけどリマクの町を眺めるいい機会だった。首都の中心に向かっているようで人や家が進むに連れて密集していくようだった。
街の人は走りゆくぼくたちを見ていた。いやぼくたちではなく縛り上げられた人攫いの方だ。
裸で縛り上げられているのはこの国でもかなり非常事態だという常識は同じようだ。
「そういえばまだ名前を言っていなかったわ。私ティカっていうの」
手綱を取りながら台車乗ったぼくたちを見ながら名乗った。
「ニニギだ」
「フレンだ!よろしくな。ティカちゃん!」
「プレンツです。はじめましてよろしく」
「あなた達遠目で見ていたけどとっても腕が立つのね!」
「そんなことはない。ティカ殿も見事な技を持っているではないか」
ニニギさんのいうティカの技。光に包まれながら飛んでいた。さながら流星のように。
「ううん。私はこれしかできないから。でも馬車をあんなにバラバラにして、子供達を縛った縄ももしかしてそのときに切ったってこと?」
「ああ、苦しそうな子供の声が聞こえた故に」
剣に手を掛けただけで馬車は粉々になり子供達がこちらに飛んできた。そのときに子供達は縛られていなかった。
子供達には足、手、口、目に縛り跡があったぼくにはニニギさんの太刀筋が見えなかった。斬撃に魔法を乗せて切ったなどだろうか。凄まじい剣技だ。
舞台上でニニギさんの殺陣を何度も見ているけどとても綺麗な太刀筋で惚れ惚れしてしまう。
稽古という名の試合を団員同士でたまにやっているけど、ニニギさんは別格だった。他の団員では歯が立たない。
いや、刃が立たないだろうか。
しかしいくら剣技の達人だからといってあれは常軌を逸した技だ。まさに神業と言っていいだろう。
「私もこの国の剣の達人は知ってるけどあなたほどの人は見たことがないわ。それにフレンさんの風も」
「お!空からよく見えたねティカちゃん!」
「目だけはいいのよ私!あなた達多分私が今まで会ってきた中でも一、二の実力なんじゃないかしら」
「そんなに褒められると照れちゃうなぁ」
「あなたも相当な強かったりするの?」
ぼくの方を見ながらそう言われた。
ぼくはあの場面ではなんの役にも立たなかった。魔法を消す魔法か。もう少し派手な魔法が使えれば良かったのに。
「プレンツはすごいぜ!俺にはできないことができるんだ!」
「そうとも。プレンツは我らを守ってくれている」
「へぇ!貴方は守備特化型なのね!」
守備特化型、か。確かに魔法は基本攻撃に利用されるものだ。そして魔法を迎撃するのもまた攻撃の魔法。
魔法を消す魔法は守る魔法になるのか。
「そうかもしれない。あの場では何にも役に立たなかったけど」
「そんなことはない。2人がいたから我も心置きなく刃を振るえた。舞台上ではあのようなことはできないのでな。ベール殿の泡ごとガルニエを切ってしまう」
「それはまずいですね!やっぱりニニギさんあれでもかなり手加減してますからね〜」
……ニニギさんが本気を出していたらいつぞやのベールさんに言ったガルニエの使い捨てになるな。
「舞台?あなた達ってアンデス山脈で修行してた師匠とその弟子とかじゃないの?」
「全然違います」
ぼくたちって周りからどんな風に見えてるんだ。でもそういわれると、ずっと目を閉じて達観した風なニニギさんと、元気な弟子1号、そしてちょっぴり寡黙な弟子2号みたいに見られるのか?
……自認が少し気色悪かったかもしれない。
「我々は芸者だ。先程見せた我々の技も全ては舞台で披露する為に研鑽しているものだ」
「あなた達が舞台役者って……。もっといい仕事があるんじゃない?」
「そんなことないぜ。人を笑顔にする俺達の魔法と技こそ、1番の天職だと思ってるぜ」
「あなた達みたいなのがもっといるの!?」
「そりゃ劇団っていうぐらいだからそれなりには人数いるぜ」
「あなた達みたいなのがもっとたくさん……?」
わかりやすく絶句している。
ティカだってかなり魔法を使える方だと思うけど。最初に見るうちの団員の技がニニギさんなのがハードルを上げすぎている気がする。
いや、最初に見たのがステラッチェ団長だったらもっとハードルは上がっていただろう。あの事件程度、ただの足踏みで万事解決していただろう。なんならパン屋でパンを齧ってコーヒーでも飲みながらでも。
この場にいないのに想像だけで引くぐらいの活躍を想像させるうちの団長。頼もしいというか、なんというか。
「あなた達ってもしかしてFlying Twinkle Caravan!?」
「なんだ知ってたんだ。そうだぜ!」
「噂では聞いてたわ。魔法を使う人達の中では知らない人はいないもの。1人でも国を転覆させられるほどの人達が舞台に立つことを選んだって」
「あっはははは!ティカちゃんは面白いこと言うなぁ!」
そんな噂が立っていたとは。国を転覆させるってさすがにそんなこと……。
うーん。ニニギさんといい、団長といい思い当たる人が何人か思い浮かぶ。
「ま、あり得るかもな!」
フレンも同感だったようだ。
「噂話なんて大きく言われるものだからそんなの嘘だと思っていたけど、あなた達の力を見たらあながち間違いじゃない気がするわ。それにしても、あなた達の舞台とっても興味が湧いてきたわ!きっとすごいんでしょうね!」
「そりゃもちろん!きっと気に入ってくれると思うぜ!」
徐々に馬が減速していく。目的地が近いのだろうか。
前方に大きな建物が見えてきた。全体が石で作られ、壁に石像が埋め込まれている。教会のようにも見えた。
「ええ!討伐が終わったらきっと見に行くわ!結構時間かかっちゃった!ごめんなさい!さぁ着いたわよ!」
馬を止めて縛り上げた人攫いを台車から降ろして引きずりながらドアを開けるティカ。
人を引きずりながらできる笑顔ではない。
立派なドアを開けて建物に入った。中には部屋がいくつもある。教会に見えるのは外観だけで建物の中は宿舎のように見えた。
ティカがそこらの部屋を開けて人攫いを放り投げて施錠した。こちらを振り返り笑顔を見せるティカ。人を放り投げながらできる笑顔ではない。ここは宿舎ではなく牢獄か何かなのか。
廊下を抜けると広い部屋に着いた。
家具などが何もない。床に赤い民族模様が入った絨毯に、座布団がいくつか置いてあった。
「椅子とかなくてごめんなさい!飲み物持ってきますから待ってて!」
そういってティカは何処かに行ってしまった。
先程討伐が終わったらと言っていたような気がするが。その討伐対象とはさっきの人攫いのことだろうか?あの人攫い以外にも仲間がいるのか。
「お待たせ!」
はや!
「お豆のおつまみとチチャとお水しか無かったけど、食べて食べて!」




