第7話 いし
「えっとよろしくお願いします」
「ああ。これからよろしくね」
糸で縫われたようにも見える口と目。形だけはあるけど穴の空いていない鼻と耳。そんな顔でも表情が緩んだのがわかった。人間ならあるはずの顔の器官はない。口と目があろうはずの場所に亀裂が走っているだけ。だから本当に人間ならあるそれらの器官があるかはわからない。
脳内に響く声。威厳を感じさせる声ではあるけど、不思議と怖い印象はない声色だった。耳の穴が空いていないのに聞こえているんだな。
「ステラッチェも元気そうだね。相変わらず飛び回っているようだね」
「それなりに疲れてはいるよ。今も工事のああだこうだとかあって大変なんだ」
「君の性分では暇より忙しい方があっているんじゃないかい?」
「私だって休みたい時はあるよ。でもま、忙しくしてる方がかえって落ち着くかもね。何もないと心配になっちゃうかも」
「それだけ夢中になれるならいいじゃないか。そうそう、今度観に行くから見繕っておいてよ」
「ああ。わかったよ。用意しておくよ」
どんな話をするんだろうと思ったら、当たり障りの無い話だ。僕がここにいるからかもしれないけど。
最初こそちょっと怖いなと思ったけど、こうして話してみると、あちらは脳内に直接話してくるから会話と表現するのは変かもしれないけど、結構普通の会話だな。
改めて間近で見ると不思議な方だ。肌の質感も肌というよりは見た目通りの大理石の様なつるんとした白い肌。実は石でできた亜人です、といわれても驚かない。石人間や大理石人間みたいな。いるのかは知らないけど。
それに確かにすごい力を持っていると僕の全身が訴えている。神様に現れるという瞳の花模様は確認できないけど、力だけで神だと信じられる。
「プレンツくんはどこの国出身なんだい?」
「僕はアクィラ出身です。あ」
しまった。結構前にアクィラが秤の国に軍事侵攻して今も小競り合いをしてるんだった!適当にはぐらかしておいた方が良かったかもしれない!
「アクィラで出会ったのかい?」
「いえ。えっとサンリスタニアで」
「サンリスタニアは確か北アメリカのど真ん中だったよね」
「い、いろいろありまして」
話すと長くなるしさっさと別の話題に移りたい。
あ、そうだ!
「そ、そういえば僕、実はステラッチェ団長でもわからない魔法が使えまして!」
「ほう?」
「魔法を消す魔法なんですけど、何か知ってますか?」
「うーん。さぁ?」
「そ、そうですか」
両手の掌を上にしながら肩ほどまで上げる秤の神。ジェスチャーとかしてくれるタイプなんだな。秤の神でも僕の魔法はわからないか。あっさりと希望と話すネタがなくなってしまった。
「ステラッチェでもわからないの?」
「ええ。まあうん」
「ふーん。その魔法を使って裏方をやっているの?」
「はい。危なそうな魔法を消したりしてます」
「へぇすごいね」
「あははどうも」
この神様と話すと不思議とあがってしまう。見た目ほど怖い雰囲気ではないのはわかったけど変な汗が目の前にいると出てくる。なんだろうなこの噛み合わない感じは。
「そこらへんも舞台を見にくればきっとわかるはずだよ。忙しいのに時間とってもらってありがとう」
「構わないよ。また遊びにおいで」
どうやら本当に挨拶をしてお開きにするらしい。団長と扉へ向かう。足早に部屋を後にする団長。僕もついて行く。団長は何か積もる話でもるのかと思ったけど、僕の話が終わったらあっさりと身を引いた。なんというか、本当になんてことのない会話だけして終わってしまったな。お互いに忙しいから顔を合わせにきただけなのかもしれない。
聞いた感じでは団長は何度もこの国には来ているみたいだし今更積もる話もないのかもしれない。
「プレンツくん、ステラッチェを頼んだよ」
拍子抜けというか身構えていたほどのことは起きなかったから扉から出ていく団長を見て安心していた。そんなところで脳内に声が響いた。
団長は歩みを止める様子はない。どうやら僕にだけ聞こえるように言ったらしい。
軽く秤の神に会釈をして部屋を後にした。
* * * * * * *
「何か言われた?」
教会を出るとすぐにそう問いかけてきた団長。
「え、あ、いやー」
言葉に詰まる僕の様子を見て深いため息をつく団長。シルクハットを深く被り直した。
「あの話し方、ずるくない?嫌いなんだよね。口が塞がってるから仕方がないとはいえさ」
教会を睨みつけている団長。こわ。
「まあいいや私には聞かれたくないことなんだろうからね。まったく」
「そ、そんな変なことは言われてないですよ」
「変なこと言ってたら教会ごと粉微塵にしてやるし」
「あ、あはは」
冗談なんだろうけど団長が言うと冗談ではなくなる。実際にできる人が言っても笑えないんだぞ。
——なんだかいろんな人から団長のことを頼まれている気がする。僕なんかよりもずっとしっかりしているし力もあるのに。
変な脳の領域を使った気分だ。ぐっと疲れが滲み出てきた。変な緊張を勝手に受けていたからな。
教会の鐘が鳴り始めた。素敵な音色だ。同時に腹の虫も泣いている。こっちは不協和音だ。
「……。もうお昼か。よし。プレンツにいいお店を紹介しよう。ここは私たちのホームタウンだから任せて」
先ほどまでの表情とは一転、小悪魔っぽい笑みを浮かべながらウインクをする団長。
そう言われて連れられたのはとあるカフェだった。




