第6話 ミサ
朝9時。今日は団長と秤の神様が行なっているというミサへ行く日だ。
サライの前で立っていると団長がいつも持っているカバンと杖を持ってやってきた。
スーツにベージュのトレンチコートを着ている。黒いシルクハットにあの杖。だいぶ大人しめというかまるで取引先に挨拶でも行くかのようなフォーマルな服だ。そういえば本当に毛先も真っ白になっていた。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
団長と共に街を歩く。これまで2人で歩くってあんまりなかったな。大体誰かと一緒だったし。こういう時話題に困るな。
「今までずっと常夏みたいな国にいたからこっちはなかなか慣れないよね」
とか考えていたらあちらから話しかけてきた。
「最初にこの国に来た時はびっくりしました」
「寝る時とかあったかくして寝ないと風邪ひいちゃうから気をつけるんだよ。この国、というか欧州中で結構流行ってるみたいだからね」
「気をつけます。そういえばサライにもお風呂があって助かりました」
確かにこうも寒いと風邪をひくのも頷ける。冬ってなんとんなくずっと体調悪い感じがするしな。
「お風呂ね。元々はなかったんだけど増改築をしてつくったんだ。居住スペースとかもね。サライは元々この国にあった使われていない劇場だったんだ」
「へ〜そうだったんですか。じゃ買い取ってリフォームしたとか?」
「そうそう。サライはこの国の神様がくれたんだ。譲ってもらったが正しいかな。使ってないから欲しかったらいいよみたいな」
「なんか軽いですね」
「あのひとからすれば私たちなんて子供みたいなものだろうからね」
三本の塔が聳え立つ大きな建物が見えてきた。真ん中の塔だけ左右の塔よりも高い。真っ白で大きな教会だ。
時折聞こえる鐘の音もここのものかもしれない。綺麗な教会だなぁ。正面玄関の上部はステンドガラスでできたローズウインドウが飾ってある。昔からあのローズウインドウって人の目みたいだなと思っていた。
「ガルニエは確かマルクスさんが設計したとか」
「そうそう。ラピス社と一緒に一から作ってもらったんだ。それも手引きしてくれたのはこの国の神様なんだ。設計図なり協力してくれた国は他にもあるけどね」
「へぇ。なんだか皆さんが噂しているような感じの神様じゃないんですね」
「……みんな何をいってたのか知らないけど。今はお友達だからね。いろんな力を貸してもらってるんだ」
怖いだの話題に上がる時は浮かない顔をしていたけど、この団の立役者みたいな神様じゃないか。サライをくれたりして結構いい神様のように思えるけど。容姿がめちゃくちゃ怖いとか?
教会に近づくと人が行列を作って中に入っていった。
「今日はその秤の神様に会えるから皆さん集まっているんですか?」
「そうだね。所謂ミサだよ。1時間もしないで終わる。退屈かもしれないけど座っていれば終わるから」
「はぁ」
目の前に神様がいるのに随分乱暴な発言をするなぁ。団長は半分神様だからかもしれない。
人の列に並び少ししてから教会の中に入った。中ではパイプオルガンの美しい音色が響いていた。
教会内は木でできた長い椅子が中央の赤いカーペットを挟むように沢山並んでいた。所々床には名前が刻んである。無名の英霊たちを弔っているのだろう。礼拝に訪れた人たちもあの床を踏んでいない。教会の中にはあのように祈りの場の一面と死者への安らかな眠りの場としての役割がある。教会の規模にもよるけど、大きい教会では様々な役割があるものだ。
厳かな雰囲気で包まれる中、色鮮やかな光が視界に飛び込んでくる。後ろを振り返るとローズウインドウに差し込む光で床に綺麗な幾何学模様が写っていた。
「ステンドグラス綺麗ですね」
「元々アクィラにいたんだから見たことはあるか。そうだね。今日は天気もいいから綺麗に映っているね」
教会内も大理石でできているようだ。真っ白な岩で床も柱も天井も作られていた。装飾っぽい装飾は見当たらない。凝った作りはあのステンドグラスぐらいか。シンプルな内装が故にローズウインドウの光が目立つ。まるでこの光こそが主役のようだ。
目を凝らしてステンドグラスを見ると青、赤、黄色、赤、紫、オレンジ、紺色と様々な色のガラスが模様になっていた。
よく見ると人のようなものも見える。床に映る光はぼやけているけど逆にそれが綺麗だ。
パイプオルガンが響く中でこんな空間にいると本当に神様がいるのかもしれないと思ってしまう。実際いるみたいだけど。なんなら僕の隣にもいるけど。
教会内をキョロキョロと見渡して椅子に座り待っていると白のベールを纏った神父様が現れた。周りの人たちが立ち上がったから僕も立った。団長も立っている。帽子は取ったようだ。
それからすぐまた誰かが歩いてきた。神父様の様な服を着ている?髪の毛はなく、この教会の大理石のような白い肌。色という色はない。
それにあれは……おかしくないか?
目も口もない?
鼻と耳はあるけど穴がない。
目の部分は窪んでいるけど、目を閉じている。
ニニギさんのようにつぶっている訳ではない。目と口が糸で縫われている?
いや縫うというよりもひび割れて瞼のようにみえているだけにも見える。背の高さはフレンぐらいだろうか。外見からは男性なのか女性なのかもわからない。というか顔という顔に特徴がない。ひび割れた大理石がたまたま人の顔をしているような印象だ。
神父様のご挨拶が終わり席に着く僕たち。綺麗なパイプオルガンと共に神父様が話しているけど目の前にいる存在があまりに異様で頭に入ってこない。
あれが神?
目も口も縛られているような外見で、鼻も耳も機能しないようなあの人物像が?
沢山の人たちに出会ってきた。外見だけで判断するのは見当違いだと思っているけど。
ファロさんが怖いっていってたのはこういうことか。怖いという表現が正しいのだろうか。理解できないものを目にして、それから目が離せない。隣で座る団長を見ると、腕も足も組んで退屈そうに座っている。
なんだかほっとした。
結局神様は一言も発することはなく神父様の独壇場でミサは終わった。神父と神が立ち去り他の人も席を立った。団長は相変わらずの様子で座ったまま動こうとしない。ついに誰もいなくなってしまった。
団長が席を立った。結局見にきただけって感じかな。
「行こうか」
「はい」
団長の後を追い向かったのは入り口とは逆方向。先程神父様達が入って行った扉を開けた。
「え、あの」
「こっちで話そうだってさ」
「え?あ、ごめんなさい聞き逃してたみたいです」
「いや。私にしか聞こえてないよ」
団長にしか聞こえてない?
何かそういう魔法なのだろうか。長い廊下を通る。いくつも扉が並んでいる。突き当たりの扉を団長が開けた。
中に入ると神父様と秤の神が立っていた。大講堂をそのまま20人程度の規模の部屋にスモールダウンしたような部屋だった。
隣に立っていた神父様が会釈をして部屋を出て行った。残ったのは僕と団長と秤の神と言われる人物。
「会いにきてくれてありがとうふたりとも」
頭の中で突然声が響いた。落ち着いた低い声だった。声こそ上げなかったけど体がビクッとしてしまった。
「久しぶりだねステラッチェ。それと」
「こっちはプレンツ。最近入団したんだ」
「は、はじめましてプレンツといいます」
「はじめまして。君も舞台に?」
「いえ。裏方です」
「そうか。ああ、自己紹介がまだだったね。私はシュカラス。この国では秤の神と呼ばれている者だ」




