第5話 街を通る風はまだ冷たいけど
フレンの言っていた通り、サライはガルニエよりは小さいけどお風呂などガルニエにあったような設備は整っていた。
全体的に小さいけどそこまで不便でもない。フレンと一緒にサクッとシャワーを浴びた。今日は街へ散策へ向かおうという話になった。
すると廊下で団長とルミオさんにすれ違った。ちょうどよかった秤の神様のことを話してみよう。
「お疲れ様です。団長ちょっとお話があるんですけど」
「どうしたの?」
「この国初めて来たんですけど、聞くところによるとこの国の神様って会えるみたいじゃないですか。ちょっと見てみたいなと思いまして」
「あー。はい。そういうことね」
ルミオさんが思い出したように口開いた。
「確か明後日じゃなかったっけ?」
「あーそうかもね。挨拶しておいてもまぁいいか。フレンも来るの?」
「いや遠慮しておきます!お二人でごゆるりと」
「そう。じゃ明後日9時にサライの前に集まろうか」
「わかりました。ありがとうございます」
団長とルミオさんが契約云々の話をしながら立ち去っていった。大変そうだな。というかフレンもくるものだと思ったのに断るのか。
「なんで遠慮したの?」
「前も見たことあるしな。俺は部屋の片付けでもしてるから団長と行ってこいって」
「もしかしてなんか隠してる?」
「別にそういうことじゃないけど、どっちかっていうと団長の邪魔すんのもなと思ってさ。俺は用事ないし。いやプレンツはいいんだ。別に楽しくはないと思うけどまぁ見てこいよ」
フレンにしては歯切れの悪い物言いだな。飲み会の時もみんなからはそんなに悪い神様ではないと言っていたし。別に団長と仲が悪いとも言っていないしな。そこらへん含めて会ってみればわかるか。
* * * * * * *
2人の足音が後方で聞こえなくなったあたりでルミオが変な気を回してきた。
「僕も行こうか?」
「いやいいって」
「浮かない顔してたから」
「顔に出てた?」
「案外わかりやすいとおもうけど」
「それはルミオが勘ぐってるだけだよ。別に仲直りというかもうお友達だからね」
「あの神様と対峙するのに緊張しない方が変だよ」
「別にお話しする分には。もう長い付き合いだし今更そんな気にするようなことはない。けど」
「けど?」
「プレンツに余計なこと言われそうで嫌だ」
「じゃ断ればよかったのに」
「断ったってやろうと思えば伝えられるんだからそれならまだ私の目の届く範囲でやられた方がいい」
「それはそうかもね。《《口を開けさせる》》わけにはいかないしね」
「そんなくだらないことでするわけないでしょ」
「冗談だよ。あんまりしかめっつらしてると顔が戻らなくなるよ」
「うるさいなー放っておいてよ」
* * * * * * *
街に日用品を買いに行った。物価が高い……。けど品質は今まで訪れていた国よりも高くて種類も豊富だ。値段相応というやつだろう。……やっぱり高いけど。
昨日のレストランのメニューといいこの街はドイツ語を話す人が多いな。僕が満足に話せるのはイタリア語と英語、日常会話程度ならスペイン語。あとは挨拶に毛が生えた程度のポルトガル語、ドイツ語、フランス語といった感じだ。
ポルトガル語はイビポランマランにいた時、勉強しながら日常を送っていた。結局あんまり話せなかったけど。
この団の拠点が秤の国だからなぁ。ドイツ語は頑張って勉強しておこう。
言語学習は帝国にいたときに叩き込まれていた。この年で3つも話せれば十分だろうと慢心していたけど、やっぱり覚えていた方がこの先を考えるといいだろう。
いやそりゃそうなんだけどね!
僕は確かにちょっと物静かな性格だけど、単純に言葉の壁もあるから大人しくしていたときがあるのだ。
僕は話せば意外と愉快なやつなのだ。
うん。勉強しよう。
「フレンはドイツ語は?」
「あー。ま!普通だな」
「意外に結構いろんな言語いけるよね」
「意外に結構ってお前な。この団にいると勝手に覚えるもんだ。っていってもアジア方面とかは全然だけどな。滅多に行かないしいいだろう。うん」
「ドイツ語って話すときに息してるの?なんか怖くない?怒ってるみたいに見えない?」
「スペイン語の方が同じトーンで話し続けてる感じするけどな。馴染みのない言語なんてみんな同じように聞こえるだろ」
「そう言われるとそうかも」
「秤の国も地方によっちゃドイツ語以外も話されてるぜ。南の方はイタリア語だし、西ならフランスだな。でもほとんどドイツ語だけどな。ドイツ語は覚えておいた方がいいぞ」
「そうするよ……」
母国語と言語体系が似てはいるけどやっぱり他の言語を知っているからこそ混乱してしまう時がある。言語学者からすれば似てねえ!と言われるのかもしれないけど僕はそんな気がしている。語れるほど詳しくないけど。
「ドイツ語が母国のやつはうちはいっぱいいるから先生には困らないぜ。フェリックスさんに、ロンメルさん、エルフリーデさんに、あ!アンティエさんも!」
「みんな話せてすごいねえ」
「遠い目しちゃって。これからもドイツ語圏には何回も行くだろうし損はないぜ。あ、あとフランス語もな」
「フランス語かー。なんとか言語統一ってできやしないもんなの?」
「そうやって過去から今に至るまで民族統一を謳って血生臭いことしてきたのが今の世界だ」
「世界が広すぎる」
「いい悩みじゃねえか」
街を散策しながらドイツ語のお勉強もしつつ、取るには遅い昼食を食べた。物価が高いな!
サンドウィッチと飲み物でこれほどするのか。むしろ今までの国が安すぎたから感覚が鈍った。アクィラよりも心なしか高めな気がする。
僕はそんなにお金を使うような趣味もないから余裕ではあるけど。帰りに銀行に寄っておこう。
お財布を気にして仕事をしてやり繰りをしてと主婦になった気分だ。片付けと料理ができない主婦。お嫁さんには貰ってもらえないかもしれない。
夕方には特訓をするつもりだったけど、時差ボケで昼まで寝て街を歩いてご飯を食べてショッピングをしていたらもう日が落ちていた。
明日は秤の神様を見に行くから特訓は明後日からかな。
夜ご飯を買ってサライの広場兼食堂で食べた。案外同じことをしている人が多くて買い出したものを持ち寄ってみんなで食べていた。たまにはこういうのも合宿みたいで楽しいものだ。
毎日合宿みたいなものではあるけどね。




