第4話 白い息は夜風と共に
あれから再びの乾杯を交わしててっぺんを回る頃までお店でご飯を食べていた。
いつもこの人たちが集まると大騒ぎをしているイメージがあったから序盤の雰囲気は意外だった。けれど次第にヒートアップしていきフェリックスさんとパトリックさん、マティエンコさん以外は飲みつぶれていた。有名人の振る舞いだのパパラッチだの言っていた気がするけどな。最後はいつも通りの有様になった。お店の人も慣れているのか愛想を尽かされているのかわからないけど気にしていないようだった。
「お持ち帰りしておくからあんたたちはもう帰りなさい」
マティエンコさんをはじめとした3人に大の男達は預けた。
今日のお代はフェリックスさんがまとめて払ってくれたようだ。
なんと気前のいい。お礼を言うと『こういうのは回りものだから。後輩ができたらその人に返してあげればいいんだよ』と言ってくれた。外見も内面もイケメンだ。なんて懐の深い方なんだ。僕がお嫁にいくならこういう人のところに行きたい。
先程のしどろもどろしていたウエイターさんがフェリックスさんのサインを会計時にもらっていた。ウエイターさんは目を輝かせながら小躍りしていた。
僕がかっこいいと思うんだから女性もそう思うよな。花嫁への道はライバルが多そうだ。
変なことを考えているけどもちろん僕は飲んでいない。
フレンとふたりでサライに帰った。街灯も灯りがちらほら見える。雪のおかげで静かな街に僕たちだけの足音が響いていた。どこのお店も店じまいしているようだ。もう夜も深いけど眠くないのは時差ボケの影響だろう。この国では12時でもイビポランマランではまだ8時だ。
「フェリックスさんは女性ファンが本当に多いんだ。舞台に上がってなくても人気のある人はやはり人気があるものなんだ。欧州じゃ結構有名なんだぜ」
「その割になんというかあんまり女っ気がないね」
「相手はお客さんだしな。花より仕事なんだろ」
「花より仕事ねぇ」
オーケストラピットや楽器倉庫でフェリックスさんをよく見かける。いつも楽譜に向かってペン尻をこめかみに当て、ピアノやヴァイオリンなどを手に取り音を出していた。これがなかなか様になっているのだ。金髪碧眼の顔のいい三十路が楽器を手に取り真剣な眼差しで楽譜を睨む。僕が絵描きなら何度キャンパスを持ち出していただろうか。
確かに今は仕事が恋人なのだろう。
「団長よりも人気だったりするの?」
「さすがにそれはねえんじゃねえかな。団長も結構女性人気がある。あと子供たちからの人気がすげえ」
夜になると一段と冷え込む。息が白い煙になって寒空へと消えていく。
「女の人が女の人を好きになるってよくわからないけど、団長なら確かに好かれてそう。美人だし」
とは言ったものの、僕はどうしても初対面や初日のスパルタ魔法お披露目会などが脳裏にチラつくから割と怖い人という印象がある。優しい人ではあるけども。第一印象って大事だなぁ。
「俺もよくわからんところではあるけど、団長はカリスマそのものだからな。かっこいい女性って結構モテるみたいだぜ」
「確かに魅力満載のひとではあるね」
「こっちじゃ追っかけとかもいて苦労もあるみたいだけどな」
「それはそれで大変だね」
「団長はぴょーんと飛んで逃げちゃうだろうけどな」
「真っ白な髪の毛って意外に目立つしね。毛先だけ色ついてるのも」
「秤の国じゃ多分真っ白にすると思うぜ。今まで通りなら」
「そういえばイビポランマランでは黄色と緑だったね」
右側が緑で反対は黄色に毛先だけがグラデーションになっていた。サンリスタニアとリマクにいたときは赤だったな。
「あれも別にああしたいわけじゃないみたいだしな」
「どういうこと?」
「知らないのか?あれ別に毛先だけ変えようとしてないんだ。全部染め上げるつもりで魔法をかけてるけど何故か毛先しか染まらないんだってさ」
「なにそれ、どういうこと?」
「さあね。団長が無理なら無理なんだろ」
「他の人は変えれてるじゃん」
舞台の役次第でカラーリングを変えていて。団長は色素を手にとり髪を撫でると瞬く間に色を変えられるのだ。撫でたところだけ変わるから全体だろうが、スポットだろうがとても綺麗な仕上がりになる。団長はサラッとやるけどめちゃくちゃ高度な魔法らしい。実際団長以外でこの魔法を使っているのを見たことがない。
「ああ。団長だからな。そりゃ完璧よ。できないのは自分の髪だけ」
「なんだそりゃ」
変な話だ。他の人はできるってことは別に自分だってできそうだけど。別に害がありそうな魔法でもなさそうだし自分に魔法をかけるのが怖いってわけでもないだろう。
完全に染まらないならまだしも毛先だけか。やはり変な話だ。
「世の中団長でもわからないことってのはあるもんだ。俺らにとっちゃもっと謎だ。ああ。プレンツの魔法もだな。それこそ秤の神様にきいてみたらいいんじゃないか?」
「あー!なるほど!神様なら知ってるかもしれないね」
そういえばそうだ。うちの団の人ですら知らなくとも他の神様なら知っているかもしれないな。どうせなら神様ってのを見てみたいぐらいに思っていたけど話せるなら聞いてみたいな。
「せっかく行くんだから話すネタ作っておかないとな!」
「神様といえば前の国でも会ってたけどね」
「サニィは知らないだろ」
「まあ……聞くまでもないだろうね」
同じ神様、半神様でも扱いが酷く変わるものだ。真面目に見えるように生きていこう。別に悪い神様ではなかったけど。見てくれや身の振る舞いは大切だ。
「そういえば特訓再開したいんだけどさ。いいところないかな」
「んー。ガルニエもサライも結構街の外れにあるから少し歩けば空き地というかスペースはいっぱいあると思うぜ。もしかしたら雪の置き場になってるかもしれないけど俺が溶かせばいい」
「頼りになりますやーん。にいやーん」
「なんだお前まで飲んでたのか?」
「何日も休むって言っても暇だしね。たまに付き合ってよ」
「ああ。たまにというか全部付き合うぜ」
「おお!さすがフレン!でもたまには街にも遊びに行こう。ここのご飯も美味しい」
「ああ。この世の全てを胃袋に入れよう」
いつか聞いたトゥエンさんの迷言を放ちながら夜道を歩く。
僕たちは知らなかった。帰ってからまだ荷解きも何もしていなかったことに。
あれやこれやとしているうちにどんどん夜は深まり次の日起きたのはお昼だった。
まあこんな日があってもいいだろう。




