第43話 クレープ
「僕はサニィとして生きるよ?もちろん」
私の問いかけに当たり前じゃんとでも言いたげな雰囲気でサニィは答えた。
「むしろ記憶を戻るまでの間に縛られてたり叩かれてたりされたのがめっちゃ怖かったし不安だったんだよ!だって知らない人たちに縛られて叩かれてたんだよ!何言ってるかわからなかったし!」
「それは本当にごめん」
初めてサニィが可哀想に見えた。揃いも揃って何をしていたんだという話でもある。しかしやり方がわからなかったから仕方がない。発明とひらめきはトライアンドエラーで生まれるもの。
恐れずに色々試して勝ち取ったサニィの記憶だ。
うん。本当にごめん。
だけどそこの記憶はあるのか。そりゃそうか。もう生き返ってるんだからな。ややこしい話だ。
「自分がサニィってやつとして生きていたってわかって今とっても安心してる。理由はどうあれぶっ叩かれてたけどそれでも頼りになる仲間が、自分を知ってくれてる人がいるってめっちゃ安心する!記憶喪失になったことないみんなにはわからないでしょうけどね!ふんっ!」
「ごめんってば」
なんで女児みたいに不貞腐れてるの。
「もうひとりの僕、まあどっちがもうひとりかって感じだけどひとりになっちゃったのは寂しいかな。でもレイモンドみたいな魂の友人がこの世界にはいる。僕はこれからもサニィとして生きていく!そうそう!記憶にはあるけど君たちの公演観たいな!あ、でも復興が先か」
もうひとりの、といっているのは脳死状態だった青年のことか。ひとつの器にふたつの魂。本来ならあり得ないけど神と化した精霊の力で今までは保っていた。でも実際はそんな歪なあり方は少し無理をしただけで綻びが生まれ一気呵成に崩れ去ってしまう。それをサニィの中にいたふたりはわかっていた。
この運命は変えられないし避けられない。けどサニィはその運命が訪れた後のために対応策を用意していた。あのわかりにくい手紙と共に。
回り道は多かったけれども、これでサニィは晴れてひとつの器にひとつの魂が宿った、というわけだ。
「チケットは取っておくから安心してよ」
「マジ!?嬉しいな!じゃ頼んだよ〜。あ、サラも行こうよ!」
「え、ええ。もちろん光栄です」
「よっし!目の前に色々やるべきことも見えてきたけど、理解しきれてないところもある。そっか。この国の神様か。ふふふ。僕がこの国の神ね」
不気味な笑みを浮かべている大丈夫かこいつ。
「サラ、心配かけちゃったね。確かに元々のサニィはどうやらあの世にいっちゃったけどさ。あの2人の意思は僕が受け継いだ。きっと力はそのうち元に戻るだろう。というわけで!ちょっと波に乗ってくるからアディオス!」
言うだけ言ってサーフボード持って出て行ってしまった。唖然とする一同。
「サラさん、追いかけなくていいんですか?」
「空の肉体に生前の記憶が入った状態。それはもはやサニィ様といえるでしょう。本人の言う通り、自分が何者かがわかってもらえればきっとまた歩み始めてくれるはずです。心機一転、ですね」
「サニィ自身も言っていたが、おそらく、プレンツの時のように少し時間が経てばあの調子だと魔力も元に戻るんじゃないか?本人もその自覚があるみたいだしな。サーフィンしに行けるほど元気なら明日にでも戻るだろうよ」
「アメデオさん、ありがとうございます。明日からまた働いてもらいます!」
「過労死しない程度でね」
「もちろんです!」
* * * * * * *
用も済んだので神殿を後にしてメインストリートを通りガルニエに帰った。
私とニニギ、ザーラ、アメデオとあまり見ない顔ぶれで歩く。見る人が見れば度肝を抜く面子だろう。
「大丈夫かな」
後ろをチラ見しながらボソッと私が呟くとニニギが答えてくれた。
「肉体に他の魂が宿った訳ではない。いや、魂が宿った訳ではないが、純粋無垢な魂がサニィとしての記憶を学習した状態。サニィは少し歌舞伎者ではあるが道を逸れることにはならんだろう」
とはいえそれはもはや魂か、そんなことをいうニニギ。カブキモノ?ニニギはたまに知らない言葉を使う。まあ要するにアレなやつだけどということだろう。
「右に同じくじゃのお」
頷くザーラ。無言のアメデオ。
「立場利用してナンパ三昧とかし始めそうじゃない?」
「それは今も変わらねえだろ」
やっとアメデオが口を開いた。
「そうだった。じゃあいっか」
「「うむ。」」
頷くニニギとザーラ。
「帰りになにか買って帰ろうか」
「甘味がいいのぉ。生クリームの量が尋常ではないやつがいい」
こういうときザーラは意外とノってくる。
「じゃクレープ屋さんに行こうか」
「「「うむ。」」」
* * * * * * *
舞台の調整をしていたところ、団長達が帰ってきた。サラさんがサニィ様が死んだといって騒いでいたからどうなることやらと残されたみんなと話していた。もしかすると今日の公演もなくなるかもしれない。
そうなれば僕の火消しの仕事も無くなる訳だけど、そんなことを喜んでいる場合ではない。一国の由々しき事態だからな。
それに公演リスケの方が大変なのだ。キエリスさんとルミオさんがとりあえず公演はするように準備を進めようと指示してくれたので準備していたところ。
「戻ったよ〜」
軽い感じで団長達が凄まじい量の生クリームが入ったクレープを大量に持ってきた。4人でも手に余るクレープが入った箱から甘い匂いが漂った。
大丈夫だったよ、とのことだ。
あの4人何しに行ってたんだ。
オケ隊の人とみんなでちょっとした小休憩。みんなで手を生クリームでベトベトにしながらクレープを食べた。
……平和だ。




