第42話 あの世のルール
ん〜。妙な感覚だな。いつも冴えに冴えてるはずの俺の思考がいまいちだ。
どこだここ?
辺りが白い石でできた壁で囲まれている。天井は見えない。めっちゃ高いのか?青白い光が降り注いでる。
俺はただ椅子に座ってる。これはただの木の椅子だ。
いやマジになんなんだこの部屋。
もしかして、俺、拉致られた!?
いやなんで俺を。つーかこの俺が?
あ、でも別に手枷がかかってるわけじゃないしな。
でもこの部屋扉がない!
どうやってこの部屋に入ったんだ?
つかどうやって出ればいいんだ?
壁を壊すか。それとも上に飛んでいってみるか。
ひとりでああだこうだと言いながらキョロキョロしていたらコツコツと音がした。ピンヒールでも履いてそうな響きの良い靴の音。
「はぁ。あんたねえ。なにやってるのよ」
「ええ!どこから!?てかめっちゃ美人!」
唐突に足音がしたと思ったらめっちゃイケてるお姉さんが!
背が高くて、このかすかな光すらも透き通りそうな白い肌。ミステリアスな雰囲気のドレス。ドレスに似合う深い紺色の髪の毛にお綺麗な顔。こんな美人がいたなんて!
「素敵なお姉さん。こんにちは。お召し物とってもお綺麗ですね。よかったらこんなところ出ちゃって一杯いかがですか?おおっと!自己紹介がまだでした。わたくし、イビポランマランの神こと中央議会顧問役のサニィと申します。お姉さんのお名前は?」
「スパイよ」
「ほほう。女スパイキャラですか。確かにお姉さんのミステリアスな雰囲気はスパイ感がビンビンきてます!う〜ん。そのジト目も美しい。綺麗な瞳だ。うん。とっても綺麗な瞳。目に花の模様があって。ん?スパイ?どのスパイ?もしかして」
「冥界のお姉さんのほうよ」
頭に冷や汗が出てくるのを感じた。同時に身体中を稲光が駆け巡ったような衝撃を受けた。
この衝撃はやっとの思いでバーに連れ込めた綺麗な人が後日ナニを持ち立ちションしていた姿を目撃して以来だ。
「は、はじめまして!サニィです!本日はお日柄もよく!」
「はぁ。あんたねなんでこっちに来ちゃうのよ」
「え、だって!いつだって死ぬ時は不本意なものだろう!?」
「あんたのは回避でしょうに」
「張り切り過ぎちゃったてへぺろ。というかここどこなの!?なんで俺ここにいるの!?スパイがいるからってまさか冥界なわけないでしょ!?まさかね!?」
「ここは正真正銘冥界よ。もういいわよそういうの。あんただからわざわざ会いに来たけどやっぱりやめておくべきだったかしら。あとあんな口説き文句で付いていく女、冥界にもいないわよ」
「冥界なのここ!?もっとドクロとかそこかしこに置いておいてよ!いかにも感全然ないんですけど!」
「あんた自分で死んだとか言ってたじゃない」
「そういえばそうじゃん。え?ガチ?」
「ガチよ」
「マジ?」
「マジ」
「マジの冥界?」
「そうよ」
「シンプルに趣味が悪い部屋とかではなく?」
「ではなく」
「借りたてのワンルームで引っ越しの荷物待ちというわけでもなく?」
「なくよ。ここはこういうものだからデザインにとやかく言わないでよ。ま、住めば都よ。こっちでナンパ術を鍛えるといいわ」
「が、ががが」
リマクの辺りに伝わる冥界の神、スパイ!
もちろん知ってる。ご近所さんだもの。年始にはあけおめ葉書を出してる。パチャママとかは返事がくるけどスパイは返ってきたことがなかったな。
いるのは知ってた。とってもシャイなお方とも聞いてたけどこんな感じだったとは!?
「いやーこんな機会滅多にないからね。色々積もる話があるけれど、とりあえず俺を元いた場所に戻してくれない?」
俺はこんな時に国を離れるわけにはいかない!政治がやっと正常に動き始めて治安も良くなってきた!まだまだ俺にはやることがあるんだ!
「無理よ何言ってるの。依怙贔屓しにきたんじゃないのよ」
「そ、そこをなんとか」
「だめよ」
「一杯奢るから」
「だめよ」
「……どうしても?」
「ええ。ここら一帯の管理者としてそんなことはさせないわ。諦めてここで過ごしなさい」
ま、マジか。折れる気がしねえぞ。本気で言ってんのか。
「じゃ、じゃあゲームで勝ったらさ!戻らせてよ」
「しつこいわねえ。ゲームはしてあげるけど別に帰らせてあげないわよ」
「帰らせてあげない、ってことは帰る方法はあるんだね」
「あら口が滑ったかしら」
ビンゴ!よかった。粘ってカマをかけた甲斐があった!
「スパイ様。頼む。君に実害がないようにするから教えてくれないか」
「いやよ。いずれにせよあなたには関係のないこと。そもそも帰ってどうしたいの?」
「やり残したことがいっぱいあるんだよ!」
「そう。それは残念だったわね」
* * * * * * *
そう。サニィが現世に帰る方法はある。
冥界にはいくつかルールがある。
冥界総則 一部抜粋
———冥界に自らの足で訪れた者が再びその足で出た場合、現世に戻ることを許す。
———冥界に肉体を持って訪れた者に連れられてた状態であれば現世に赴くことを許す。ただし、現世に留まることができるのは魂のみに制限する。
つまり、後者の場合だと依代となる肉体がなければただ彷徨うだけの存在になる。現世にいる者が定義するところの幽霊と呼ばれる存在になる。
サニィに可能性があるとすればこれね。砂漠の中から一粒の砂つぶを探すのと同じことだけど。
そしておそらく彼が望んでいる待遇であろう制限のない現世と冥界の行き来が可能になる総則。
———冥界の管理者になった場合は制限なく現世との行き来を許す。
今の管理者は私。もう何万年もね。
余程のことがない限り私以外が管理者になることはないわ。というかさせない。
だって私は冥界のお姉さんなんだから。
「サニィ。いいじゃないか。俺たちよくやったっつーの」
「そうだけどさ!まだまだ山はあるぜ?果てしない奴が」
サニィが1人で会話をし始めた。ああ、そういうこと。
「あなたが肉体の方のサニィね」
「うふぉい!!!ビジュアル神のねえちゃんに認知されちった!てかガチ神か。どうもどうも。そうなんすよ。たまに起きてサニィと話すんすよ〜」
「この冥界のお姉さん、多分まだ隠してることあると思うんだけど!」
「もちろん帰れるのなら嬉しいけどさ。こんな綺麗な人を困らせるのは俺の信条にはねえ。ナンパは諦めも肝心。いいじゃねえか。きっとステラッチェとサラたちがうまいことしてくれるよ。バックアップ取っといてよかったぜ」
サニィが1人で身振り手振りを変えながらサニィと身体の持ち主と話してる。奇妙な光景だこと。
それに。
「バックアップ?」
謎な単語が飛び出したけれど、物分かりのいい子が出てきてよかったわ。
ステラッチェ?
あのかわい子ちゃんと訳ありなのね。ふーん。ちょっと覗いてみようかしら。




