第37話 火も煙も
「アメデオ!この子達も見てあげて!」
ハリネズミのみんなを連れて避難所まで飛んできた。外見では怪我も火傷もない様だけどあの熱風にさらされていたからな。鼻の中などの粘膜が焼けこげていたら大変だ。
「びしょびしょだな。どこか痛いところはないか?」
「いえ。特には」
ハリネズミの家族7名が顔を見合わせて確認をしている。
「少し腕がやけどをしたぐらいです」
「どれ。この程度なら冷やしておけば大丈夫だ。着替えが向こうにあるからまずは着替えて、火傷してしまった部分を濡れた布で冷やしておいてくれ。この分だと風邪の方が心配だ」
「はい!ありがとうございます」
ハリネズミ家族は奥にある大きな部屋へと進んでいった。軽いやけどで済んでよかった。
はぁ、と力の抜けた声が出た。これでやっと山の中の避難は終わったか。思っていたよりも時間がかかってしまった。間に合わなかった人はいないようだけど私たちが確認したのは集落内のみの範囲だ。集落から離れて避難中に火の手に襲われている人がいるかもしれない。もしそういう人がいたとしても私の目ではこの火と空が暗くなるほどの黒煙のせいで見つけるのは困難だ。火災規模が大きすぎてこの山中をくまなくってのは現実的じゃない。残念だけど積極的な人命救助はこれ以上は難しい。様子を見るに延焼は防いだっぽいからあとは今燃え盛っている炎をどうにかしなくっちゃな。
「そっちはどうだ?」
アメデオと水を飲みながら情報を共有した。
「とりあえず山中の避難誘導は終わったよ。見るに延焼対策も終わったみたいだ。そっちは?」
「大体終わった。重症患者はザーラにも手伝ってもらった」
「———。説明はしてあげてね」
「ああ。承知の上で行なっている。それに必要最低限だから回復後でも誤差の範囲だろう」
「そっか」
「む。団長様。避難はもう終わったのか」
噂をすれば動きやすそうな服を着たザーラだ。というかナース服か。ザーラの身長に合った服があったとは。
「とりあえずできる限りはしたよ。あとは消すだけかな」
「ふむ。大詰めか。アメデオ、先ほどの者も済んだぞ。予後も悪くはない。救急隊が様子を見ている。呼吸も穏やかになった。気をつけたつもりじゃがまだ体の深部で熱を持っているやもしれぬ故早う設備が整った場所へ移動した方がよいなぁ」
「——わかった。ザーラの出番はとりあえずここまでだ。ありがとう」
「構わぬ。ではシチューでも食べるかのぉ。最近はシチューが多いなぁ」
結構なことをしていたはずなのに動じないでシチューを食べにいっちゃった。さすがというかなんというか。
「炊き出しね。あっちはどうなの?」
あっちとは避難民達のことだ。こっちは任せっきりにしてしまったけど。
「ああ。腹が満たされたら大人しくなったようだ」
「アメデオも適当に休んでね」
「ああ。お前も食ってからいけ」
「私は大丈夫」
「アホ吐いてねえで食えって言ってんだ」
「わかったよ」
全く過保護なんだから。そうこうしていたらキエリスが目の前に飛んできていた。
「団長!シチュー持ってきましたよ!ミルキーで美味しいですよ!え?なんですか?また喧嘩?」
「いや。食べようか。あ」
どうせならあっちにも持っていこう。食べてないで気を張っているのは私たちだけではない。
「よし。キエリス。お鍋持って飛ぼうか」
「薮蛇ですな」
ミッケに言ってひと鍋分貰ってきた。それを持ってキエリスと街のハズレあたりまで来た。やはり街はだいぶ消火が終わっていた。火災の境界にシャボン玉が覆われていた。ベールか。そういえば存在すら忘れていたけどこっちの手伝いをしていたのか。
キエリスと私、そして現地で落ち合ったソフスで手分けをして飛びながら消火をしていた団員や現地消防隊を集めた。
知らない人たちが象の頭に埋め込まれて消火活動をしていた。誰?
アヴェラル「じゃ現状報告会といくか。まずは俺らアヴェラル、ニニギ、エルフリーデからだ。延焼の予防は済んだ。水の散布もやってくれたからひとまずこちらは完了」
ダガー「消防隊長ダガーです。街の住宅火災ですが鎮火状態であります。ペリーヌさんをはじめとした捜索の協力もあり逃げ遅れた方の救出は完了しました。ああ、すみません、ありがとうございます」
みんなにシチューを配りながらの報告会だ。腹が減ってはなんとやらとニニギもいつも言っていたしな。
ステラッチェ「ステラッチェ、ソフス、サニィの山の避難誘導班はひとまず全集落を回って完了」
カミラ「カミラ班よ。山火事だけど、ひとまず街に近い方の山は鎮火。左右に広がっている方を対応中。街の境界はベールがシャボン玉で覆ってくれたから助かったわ。延焼はもうないとなればあとは虱潰しね」
サニィ「みんな!!ここまで本当にありがとう!」
ステラッチェ「まだ終わってないよサニィ」
ダガー「その通りですサニィ様」
サニィ「すみません」
ダガー「では左右二手に分かれますか。とはいっても我々は山深い中での活動は近くに井戸でもないと消火は難しいので皆様が頼りになってしまいますが、こちらも手段は考えておきます」
ステラッチェ「構わないですよダガーさん。そうだ、街でやっていたラウラとファロのスプリンクラーをやろう。右手をファロ、反対をソフスに飛んでもらって残るみんなでふたり目掛けて水を出しまくってファロ達で拡散。撒くのがキツくなったら私とサニィで交代していく感じで」
サニィ「ラジャーです!」
パトリック「細かいところは象と私達で請け負おう」
ステラッチェ「オッケー。ところでその象の上にいる人たちはなんなの?」
なんか顔腫れてるけど。貪るようにシチュー食べてるけど。
ティラク「ああ!消火活動に尽力してくれている善良な市民ですよ!」
ステラッチェ「あっそう」
象の上の怯える犬達「「「「ひひっ!!!」」」」
なんであんなに私の目線でびびってるのこの人たち。ティラクにはあとで話があるとしてとりあえずこんなものか。
ニニギ「我やティラクなど水が出せぬ者はいかにしていれば?」
ニニギの疑問にダガーさんと顔を見合わせた。
避難も終わっている。もう木を切る必要もない。とはいえ万が一もあるか。うーん。
「「待機でお願いします」」
ニニギ「あいわかった」
* * * * * * *
改めて火災規模に驚いたけど、みんなの協力もあって2時間ほどで鎮火できた。久々にこんなに長く魔法を出しっぱなしにしたからさすがに疲れたな。後ろを見たらみんなグデグデだった。
キエリス「いやー皆さんお疲れ様でした!さ!手を繋いで〜早く早く!飛びますよ〜ほい!……あれ?むぅ!ふむふむなるほど。火事場の馬鹿力というやつですな」
ステラッチェ「もう限界は超えてたね」
ま、見た感じそうだとは思ってた。むしろよく保っているなと感心してたぐらいだ。
キエリス「はいということで」
ステラッチェ「歩って帰るよ〜」
「「「「「「えええええええええ」」」」」」」
私が力を貸せば多分飛べるんだろうけどすっからかんに私の力を流し込むのは心配だからなぁ。まだ鎮火ができていないような緊急事態ならまだしもとりあえず急ぎでないなら無理はさせない方がいいだろう。
とはいえ魔力は尽きても体力はあるみたいだ。歩く分には問題ないだろう。もう夕方か。暗くなる前に片付いてよかった。
ソフス「では」
ファロ「お先に失礼〜」
アヴェラル「おいファロ!俺も連れてってくれ!!!」
ファロ「俺ちんももうクタクタよ。悪いなアヴェラルの旦那」
サニィ「僕もみんなをもてなすために先にいってるねー!」
光り輝きながらサニィと軽々と私達を見下ろしながらソフス、ファロが飛んでいった。
私もこの流れに乗ろうかと思ったけどみんなが気の毒すぎて一緒に歩いて帰った。3時間?もっと歩いていたような気がする。帰ったら歓迎会だの言っていたサニィはいびきをかいて寝ていた。というかみんな寝ていた。
「えー。皆様大変お疲れ様でした。色々ありましたがとりあえず休みましょう。おやすみなさい」
ダガーさんの締めの言葉で今日の活動は終わった。当のダガーさんは他の消防隊の人たちと合流して話し合っていた。
まあいいや。あとは現地の人に任せよう。舞台も疲れるけどこういうのはまた違う疲れ方をするなー。机があったので座って水を飲んだとこまでは記憶があったけど、あとは泥のように寝てしまった。




