第35話 避難所での戦い
や、やることが、やることが多い!
避難所についたアメデオさんと僕ら。アメデオさんは街のお医者さんと合流してマルクスさんを呼んだ。
マルクスさんはしゃがんで地面に手をつけた。すると屋根のない正方形の建物をずらずらと並び始めた。
土の魔法。他の魔法よりも魔力の消費量が多いから操るのは大変だというけど、ものの数秒で出来上がってしまった。
屋根がないのは中が暗くなってしまうからだろう。部屋数分のランプなどをすぐ用意できるとも限らない。屋根が必要になったらそのとき後付けで作るのだろう。
その部屋に次々と運び込まれる怪我人達。みんな腕に何かを巻いている。緑赤黄色黒の色がついたテープだ。あと怪我の具合によって人の集まるところを分けているようだ。
「全員集合!」
アメデオさんが大きな声で招集した。いよいよ始まるようだ。一気に緊張感が出てきた。消火に向かった人達はもうすでに作業を始めている様だしこちらも仕事の時だ。
アメデオ「俺とアルティオムで現地スタッフと共にトリアージを行って重症なものから治療をしていく。マルクス。治療室はとりあえずこんなもんでいい。あと少し大きめの仕切りを作っておいて欲しい。手当が必要な者の待機場所にする。終わったら、ミッケたちと炊き出しを行う部屋を作っていって欲しい」
マルクス「わかった。やるよ」
アメデオ「他の者達は特に水が使える奴らは濡れ衣を怪我人達に渡していってくれ。やけどはとにかく冷やすことだ。やけどで毛が抜けていたり、髭がなくなっている奴らがいたら医療班にすぐ伝えてくれ。避難誘導が早かったおかげで見た感じは重症者は少ないと見ているが、見かけによらないからな。あと氷が使えるやつは部屋に氷の塊を置いておいてくれ。ミッケは何かあるか?」
ミッケ「今言った水と氷なりが出せる人たち以外は炊き出しを手伝ってほしい。双子ちゃん、リーホワ、フレン、プレンツ、トゥエン、マティエンコ、ジェマ、ナレア、あと音楽隊の来てくれた人達!」
アメデオ「呼ばれなかった者は俺らの手伝いを頼む。では解散」
* * * * * * *
ミッケ「有志の人たちが既に炊き出し準備をしているからそれに合流するよ。あとプレンツとフレンその牛乳とかも持ってきて」
「わかりました!」
台車に積まれた牛乳や野菜たち。フレンと顔を見合わせてタイミングをはかる。いつかラウラさんが1人で動かしていた台車。あのときよりもだいぶ盛りだくさんに食材が積んである。見るからに重そうだけどここまで持ってきてくれたラウラさんはもういない。
「いくぜプレンツ!」
「ああ。いこう。せーの!」
おっっも!!!絶対重量オーバーでしょ!底が抜けるんじゃないか!?ラウラさん前は牛乳何本載せてたんだっけ!?
マティエンコ「ほら頑張ってフレンちゃんプレンツちゃん」
プレンツ「はいいいいい」
歯を噛み締めながら返事をした。地面に足がのめり込んでいく。フレンもそれなりに魔力量があるからいけると思ったけど全然車輪が動かない。トゥエンチャンズブロックが恋しい。
マティエンコ「私たちは先に行ってセッティングなりしておくから踏ん張るのよ!」」
そういうとマティエンコさん達が行ってしまった。顔まで2人で真っ赤にして踏み込み続けているとようやく動き始めた。
「大丈夫だプレンツ。進んではいるぞ!」
「ふんぐぐぐぐ。ぐッ〜」
あれちょっと軽くなったぞ。おお、動き始めてしまえば意外に進むな!いやちょっと軽くなりすぎじゃないか?
後方で何やら息遣いの荒い声が聞こえる。後ろを見るとゴリラの亜人さんが台車を後ろから押してくれていた。
ゴリラの亜人「さっきお姉ちゃん?達に言われたんだ!助けるぜ二人とも!!?おい!手の空いてる奴らは力を貸せ!」
「おお、軽い!皆さんありがとう!ガンガン行きますよ!」
後ろにはゴリラに猿になんだろうアルマジロ?の亜人さんがついてくれたおかげでなんとか目的地まで持って来れた。全員息が上がっている。
ミッケ「早かったね!この調子で残りも頼むよ!」
プレンツ「あとどのぐらいあるんですか?」
ミッケ「三往復分ぐらい?ファイト!!!」
そういうミッケさんは既に包丁を持ち凄まじい勢いで野菜の皮を剥いていた。あれを見てしまうと弱音は吐けない。
ゴリラの亜人「……しかたねえやるぞ!お前ら!」
「「「おー!」」」
ゴリラの亜人さんが喝を入れる。もうこの人がリーダーだ。
なんとか三往復分を終えると調理班は鬼の形相で料理をしていた。音楽隊の人達もほとんどこちらに来てくれた。あれほど優雅で繊細な音を奏でていた人達が今では洗い物に、なんだあれは椅子を作ってる?そうか避難場所といってもただ野っ原だっただけな場所で休めるところがない。見回してみるとどこを見ても慌ただしく動いている。
フレンはいつの間にか消えていたと思ったら臨時で作った竈門の列に火を付けていた。あれだけ体力使った後に魔法を放ちながら走り回っている。
「プレンツくん!マルクスくん呼んできて!あと竈門を5つ作って欲しい!」
「わ、わかりました!」
リーホワさんやマティエンコさんが野菜の皮剥きをして、具材をトゥエンさんが凄まじい勢いで切っていっている。ミッケさん達料理人はどでかい鍋を振るっていた。
あんなにあった食材がいつの間にかその半数が鍋へと吸い込まれていく。
すっかり見惚れてしまった。マルクスさんを探しに行かねば。あっちで壁が立っていく。あれだ!
プレンツ「マルクスさん!ミッケさんが竈門を作って欲しいそうです!」
マルクス「わかった!今行く!そうそう!この部屋に入った人に水を運んでいってほしい!頼めるかい!」
プレンツ「わかりました!水はどこにありますか!?」
マルクス「アメデオさん達がいる建物の方に水桶があるからそこから持ってきてくれ!それかそこらへんにいるうちのメンバーに頼んでもいい!」
プレンツ「了解です!」
水を汲みにきたところでアメデオさんにすれ違った。アメデオさんめっちゃくちゃ忙しそうだ。
アメデオ「プレンツ!それが終わったらでいいから各部屋に水を持ってきてくれ!」
プレンツ「わかりました!」
水を汲んで清潔な布も持っていった。
部屋で怪我を負った人達に水の入った樽を二つと空の樽を置く。なかなか重い。
プレンツ「火傷の後は服の上からでいいのでこれで冷やしてください。汚れた水は空の樽に絞ってくださいね」
「ごめんねありがとう」
犬の亜人さんだ。少し火傷があるみたいだ。毛が焼けこげて皮膚が出てしまっている。赤くなっていて痛々しい。
「こちらに来てから私のおじいちゃんとはぐれてしまってね。もし見かけたらここにいるって伝えてくれるかい?」
「特徴はありますか?」
怪我をした犬の亜人「ブルドックのおじいちゃんよ」
「ブルドックの?」
「私たちよりもしわっしわのおじいちゃんなの」
「——わっかりました!見たら伝えます!」
アメデオさんのもとへ戻り部屋に水を分けていく。
アメデオ「プレンツすまない。シャルルとかがいたらまた各部屋に氷を置いて欲しいと伝えてくれ。もしかしたら木材なりを切っているかもしれんからその辺りを探してくれ。あと隣にもうひとつ大部屋が欲しい。マルクスにこの後に作ってくれと頼んでくれるか?」
プレンツ「わかりました!」
炊き出しに行く道中シャルルさんを見た。
シャルル「おお。プレンツ忙しないな。一旦落ち着け」
プレンツ「しゃ、シャルルさん。はぁはぁ。アメデオさんが氷をまた各部屋において欲しいと」
シャルル「わかった向かおう。気張りすぎだぞお前。それとこの武人が家族と離れてしまったと言うのだ。」
プレンツ「顔がしわくちゃだー!」
シャルル「急に悪口」
ブルドックのお爺さんを案内して炊き出し場所に戻る。いつのまにか随分設備が整ってきている。部屋数もその部屋の内部もだいぶ凝ってきてた。マルクスさん大活躍だな。
「マルクスさん!アメデオさんが建物の後ろに大きな部屋を作って欲しいとのことです!」
「お、おーけーおーけー」
マルクスさんが元気がなくなってきた!
「もうひと踏ん張りです!頑張りましょう!」
「あ、ああ……」
マルクスさんの腹の虫が叫んでいる。土の魔法は魔力の消費が大きいからだ。あともう一踏ん張りとは言ったけど終わる気がしない。咄嗟に出た嘘だったけどこの嘘を咎める人は今はいないだろう。
ふらふらになりながらアメデオさんのところへ向かうマルクスさんを見送って炊き出し班へと合流した。頑張れマルクスさん!ご飯は多分あと少しです!
ミッケ「よし。とりあえず3つはできたかな。プレンツくん!シチューができたから皆さんをゆっくり一列になるように伝えてきてくれるかい?量は十分にあるから!」
プレンツ「わかりました!」
ミッケ「フレンも行ってきてくれるかい?」
フレン「了解っす!」
フレン「よお。やつれた顔してるな!」
プレンツ「フレンもじゃん」
フレン「薪割りやら薪運びやら火付から走り回ってたよ」
プレンツ「僕も同じようなもんさ」
フレン「とはいえここまで来たら落ち着いたようなもんだろ」
プレンツ「あんまりそういうことは終わるまで言わない方がいいよ」
フレン「大丈夫だって」
向こうでシャルルさんとキマキさんが机と椅子を作っていた。まだまだ全然足りていないけど順調そうだ。ニニギさん程ではないけどシャルルさんも剣捌きにキレがある。あれでいて実力は確かなのだ。あれでいて。
フレン「皆さーん!避難お疲れ様ですー!シチューを用意したのでよかったら食べてくださーい!お金は不要です!たくさんあるので焦らないで——」
一気に大勢の人たちがこちらに走ってきた。
「お、落ち着いて!いっぱい!いっぱいあるから!ちょ!ストーーーーーーップ!!!!!」
迫り来る人たちをなんとか宥めつつやっとシチューを配り始めたのだった。




